運動した方が健康に良いということは誰もが知っています。ですが、日常的に運動を習慣化できている人は多くありません。一念発起してジムに入会したものの、いつの間にか通わなくなってしまったり、筋トレやランニングを始めてみたものの、効果を実感できなくてやめてしまったり……。挫折してしまった経験を、誰しも一度はしたことがあるのではないでしょうか。
そんな中、注目を集めているのが、お笑い芸人の野田クリスタルさんがプロデュースする「クリスタルジム」です。クリスタルジムの最大の特徴は芸人がトレーナーを務めていること。笑いを交えたレッスンにより、前向きな気持ちで運動を続けられるようになったという人が増え、ジムのパーソナルトレーニングは、常に予約でいっぱいという状況になっています。
今回は野田さんと、同ジムでトレーナーを務めるスカイサーキットの松本勇馬さんにインタビューし、運動を継続するモチベーションを探ります。聞き手はエクササイズスタジオ「FUNRISE」を運営するパーソナルトレーナーの永窪健太さんです。
目次
芸人がトレーナーだから「楽しいトレーニング」にこだわる
永窪健太(以下、永窪):野田さんがクリスタルジムを立ち上げられたのは2021年7月なので、もう開設して4年になりますね。
野田クリスタル(以下、野田):そうですね。もともとは僕自身が使うために作ったジムだったんですが、ありがたいことに今はもう常に予約でいっぱいです。僕が行っても追い出されるから、結局別のジムに行くこともありますよ。
永窪:オーナーなのに追い出される(笑)。それだけクリスタルジムが盛り上がっているという証拠ですね。
野田:開業して4年で状況はかなり様変わりしたと思います。最初に立ち上げたときは吉本の「マッチョ部(※筋トレ好きの部活動)」6人だけで回していたのに、この前、焼肉会をやったら35人までマッチョが増えていましたからね。別に「マッチョになれ」と言ったことはないんですが、勝手に増殖していくんです(笑)。
永窪:ジムのお客さんはどんな方が多いですか?
松本勇馬(以下、松本):平均年齢は40代半ばくらいです。普通のフィットネスジムと違って、芸人を目的に来る人も結構いらっしゃるので、比較的若いお客さんが多いと思います。
永窪:なるほど。ライブを見に行くような感覚のお客さんもいるのかもしれませんね。
松本:はい。やっぱり僕らは芸人なんで、絶対に面白いことをやりますから!
野田:保証はしてないですよ……?
松本:いやいやいや! そこはもう、面白くなかったら返金対応ですよ! 体が変わらなくても責任は持ちませんけど、笑えなかったら返金します!
永窪:そんなジム、他にないですね(笑)。
松本:でも、芸人トレーナーは皆、それくらい「楽しい」にはこだわっています。最後は必ず楽しい気持ちで終えられるように。
永窪:ジムにはパーソナルトレーニングだけでなく、スタジオレッスンもあるんですよね。
松本:はい。1対1のパーソナルトレーニングと違い、スタジオには10人くらい入れます。ヒップアップやシェイプアップのエクササイズ、ヨガ……。
野田:本当にいろいろやっている。この前ジムに立ち寄ったら全員寝てた日もあった(笑)。あれはどういうこと?
松本:あれは、寝てたんじゃなくて「瞑想(めいそう)」です! 僕が夜景好きで「夜景検定」の資格も持っているので、スタジオを真っ暗にしてプラネタリウムみたいな雰囲気にして。ただ、暗くし過ぎてお客さんから僕の姿が全然見えないという状況が発生してしまったりもしましたが。
野田:この前なんて「型抜き」をやってましたからね。みんな下を向いて必死でやっていて、芸人トレーナーを見ていないという。他にも、お昼寝教室や編み物教室もありますよ。
永窪:それだけ聞くと、クリスタルジムって「カルチャーセンターなの?」って思われそうですが(笑)、芸人仲間もたくさん利用されているとお聞きしました。
野田:普通のジムより安心して通えるんでしょうね。芸能人がジムに通おうとする場合、ネットで調べて行くことってないんです。個人情報のこともあるし、信頼できるか分からないですから。
クリスタルジムなら他のお客さんとも会わなくていいし、教える側の芸人としても先輩と仲良くなれたりするし、良いことだらけなんです。そういえば、(平成ノブシコブシの)吉村さんがずっと通ってくれているんだよね?
松本:そうですね。毎回、夜に会っている気がします。
野田:「ヒルナンデス!」で一緒なんですよ。それで僕、文句を言われるんです。「クリスタルジム、効果ないじゃないか!」って。でも吉村さんは単に食い過ぎなんだよな~。
永窪:(笑)。
会話を通じて仲が深まり、ジムが「コミュニティ」になる
永窪:芸人さんの健康意識が高まっているのは意外な感じもします。
松本:ここ4、5年で芸人の健康意識ってめちゃくちゃ変わりましたね。コロナをきっかけにお酒やたばこをやめる人も増えました。僕らも30代、40代に突入しているので、楽屋での話が「売れるにはどうするか」じゃなくて、「あそこの病院いいよね」といった話題にシフトしています(笑)。
健康とトレーニングに目覚めた結果、お客さんとして来ていた芸人が勉強してトレーナーになったパターンもあるんですよ。
永窪:それはすごい! ラテンの音楽とダンスを融合した「ズンバ」のレッスンが楽しくてお客さんが講師側になった話は聞いたことがありますが、ジムのトレーナーになったというのはなかなか聞かないですね。
松本:やっぱり「楽しい」が継続のキーワードだと思います。
永窪:そうですね。そもそも会話しながら運動すること自体が面白いんだと思います。
それに、「今日も一緒に頑張りましょう」とか、「前回よりできていますね」とか、自分がやったことに対してフィードバックがもらえることがパーソナルトレーニングの醍醐味(だいごみ)です。クリスタルジムはそこに「笑い」が上乗せされるわけですから。
松本:楽しく続けられるのが一番効果的なトレーニングになりますよね。無理に頑張ろうと気負うのではなく、気付いたら1年続いていた、というのが理想だと思います。
「筋トレするために行く」じゃなくて、「野田さんのファンだから行く」「会話が楽しみだから行く」など、理由は何でもいい。次もまた行ってみようと思えることが大事なんです。
だから、僕らとしても通い始めた最初の1、2カ月でどれだけ楽しませられるかをすごく意識しています。
野田:クリスタルジムに通っているお客さんはほとんどが継続できていて、会員数が減ることがありません。これは、トレーナーである芸人のパワーが大きいですよね。
人は放置されると飽きてしまうし、飽きたら来なくなってしまうと思います。だから、クリスタルジムでは飽きないようにいろいろなイベントも行っています。今だとスタッフとのダイエット勝負企画とか。
永窪:仲が深まることでコミュニティが生まれると、より継続につながるでしょうね。
松本:コミュニティは確実にできていますね。僕らよりお客さんの方が他の芸人のことに詳しくなって「◯◯さん、賞レースのエントリーを忘れてたみたいですよ」みたいに教えてくれる(笑)。
野田:芸人のトレーナーにとっても、お客さんにとっても、ジムがすごく良い場所になっていると感じます。
永窪:私もフルマラソンの大会やボディーメイクコンテストに出場していた時期、お客さんから「永窪さんが頑張ってるから、私も頑張ろうと思った」と言ってもらえました。実際に同じ大会に挑戦する人もいて、「一緒に頑張る」というのは本当に強いモチベーションになると実感しています。
トレーニングを続けるカギは「数字」と「知識」
永窪:私はスポーツクラブに就職したのがきっかけで運動を始めました。当時は今よりかなり太っていましたね。会社でパーソナルトレーナーの資格を取ることになり、筋トレの楽しさに目覚めました。
※パーソナルトレーナーの永窪健太さんのインタビュー記事はこちらです
👉ハードなトレーニングも笑顔で指南!!パーソナルトレーナー永窪健太さんが支持されるワケ - lala a live(ララアライブ)│フォーネスライフ
永窪:野田さん、松本さんが運動を始めたきっかけやトレーニングを続けるモチベーションは何だったんですか?
野田:運動のきっかけは、「バスケでダンクを決めたい」と思ったことで、そこからスクワットにハマって、パワーリフティングに興味が出て、筋トレにたどり着きました。
トレーニング継続のモチベーションは「数字」でしたね。ジムに通い始めた頃、トレーナーが「僕はデッドリフト(床に置いたバーベルを持ち上げる筋トレ)で175キロ上げられます」と言っていて。そのときに「175キロ」という数字が強く印象に残ったんです。
そこから頑張って、半年で180キロ上げられるようになりました。60キロからのスタートだったので、半年で120キロ伸ばしたわけです。
永窪:それはすごいですね。半年で120キロも伸びるなんて、数字の力って本当に大きいんですね。
野田:普通は100キロでやめると思うんですよ。でも、その数字がずっと頭の中にあったから、180キロまで頑張れたんだと思います。ボウリングのスコアを伸ばしているのと同じで、数字が伸びると充実感があって全くつらくないんですよ。
松本:僕は学生時代は運動をしていなくて、25歳くらいから急にやろうと思い立ったんです。どうせ始めるならと、上半身の写真を撮って、1年後にまた写真を撮ったら……全然変わっていなかった!
永窪:(笑)。
松本:YouTubeを参考にしたとはいえ、自己流だったのでうまくいかなかったんですよね。それで専門的に勉強を始めて、そこからはすごく楽しくなりました。知識を得て、自分の体が変わっていくプロセスに夢中になったんです。
永窪:お二人ともきっかけがユニークですね。私もトレーニングをするうちに体作りの考え方を知って、自分自身の体と向き合うようになりました。やっぱり、正しい知識を得るのは大事ですね。
「一般人のダイエット」と「アスリートの減量」を混同しないで
永窪:運動することは健康維持にもつながります。健康面から見た運動の重要性についてどう思われますか?
野田:もちろん運動は大事ですけど、やり過ぎるとそれはそれで不健康ですからね。ボディビルダーを批判するわけじゃないですけど、ボディメイクをやりきろうとすると普通の人にとっては無理も出てきます。
あと、世の中には「健康のための運動」と、「徹底的なボディメイクのためのトレーニング」の情報が混在している。これは問題だなと思います。普通のダイエットをしたい人が、極端なトレーニングを参考にしてしまう。ジムに通って、ラーメンを控えるだけで十分なのに、知らないサプリとか買ってしまって……。
松本:本当に「一般人のダイエット」と「アスリートの減量」は違うんです。減量は「あと何日で何キロ落とさないといけない」という明確な目標に向けて体重を落とす行為なので、最終的には水分を抜いたりする。
でも、ダイエットは目標を達成して終わるのではなく、日々ずっと続けていくものです。極端なダイエットはトレーナーとして絶対に止めますが、体の反応を知るという意味では、1度だけ「軽い減量」を体験してみるのもアリだと思います。
野田:そうですね。見取り図の盛山も減量してガリガリになったけど、そうやって1回減量をやってみると、体のギアが変わるんですよね。
松本:実際に減量を体験すると、その楽しさも大変さも分かりますからね。意外な自分に出会える可能性もあります。「私、お酒をやめられるんだ」とか「散歩なら毎日続けられるんだ」とか。自分に合った方法が分かるんです。
永窪:確かに、1回でも痩せた自分に会えたら、また太ってもダイエットがやりやすくなる面はありますね。仕上がった自分を一度見ているわけですから。
野田:日常の景色も変わりますね。コンビニや居酒屋で、「食べていいもの」と「控えた方がいいもの」の違いがはっきり見えてくる。あらためて「知識が大事」ということに気付けるんです。
松本:お総菜の「栄養成分表示*1」を見るのが楽しくなりますよね。
野田:あれ、パッケージの裏に書かないでほしいよね。確認するのが大変だから。
松本:見るのがクセになって、友達からもらったお土産のお菓子とかもつい裏返して確認して変な空気になったり(笑)。
永窪:私も知識がないまま「ごはんなし、鶏胸、ブロッコリー、ミニトマト1個、チーズ」みたいな食事を3カ月続けてガリガリになりました。人と比べたときに健康的な痩せ方じゃないと分かって、そこから食の知識も身に付けて今に至ります。
高齢者こそジムへ! 年を取っても筋肉だけは落ちない
永窪:誰にとっても、無理なく続けられる運動習慣が大切ですが、特に高齢者も運動を続けていくことが重要です。お二人は高齢者がどう運動と向き合っていけばいいと思われますか?
松本:僕は「中高老年期運動指導士*2」という資格を持っているのですが、高齢者へのアプローチは若い世代とは全く違います。筋肉を作ることも大事ですが、どちらかというと「筋肉を動かすスイッチを入れる」という神経系の運動がメインになるんです。
野田:瞬発力のような能力は年齢とともに劣化しやすいのですが、筋肉は高齢になっても落ちにくいと感じています。60歳を超えている先輩芸人でも、マッチョな人がいますから。
激しいスポーツは年を取ると難しくなるかもしれませんが、ジムに通っての筋トレはできると思います。しかも、ジムのマシンって安全面なんかも本当に考え抜かれているので、どんなスポーツよりも安心して運動できるんですよ。高齢者の方こそジムがおすすめですね。
永窪:確かに高齢のボディビルダーの方もいらっしゃるし、かっこいいですよね。野田さんがおっしゃるように、年齢を重ねても筋肉だけは、たるまずに張るんです。
それに、筋肉をつけることで認知症のリスク低下にもつながります。僕のジムも平均年齢は56歳くらいで、高齢の方がたくさん通われています。若い方はもちろん、高齢の方もぜひ運動を続けて、自然と健康になっていただきたいです。
松本:僕自身、トレーナーとして高齢者の方と触れ合うのはすごく楽しいんですよ。人生の先輩ならではのお話もいろいろ伺えますし、学びが多いです。
野田:僕らがトレーニングを教えて、お客さんからは人生を教えてもらえる。まさに「Win-Win」の関係ですよね。
取材・構成:山田井ユウキ
撮影:関口佳代
編集:はてな編集部
芸人がトレーナーを務めるというユニークなコンセプトで人気のクリスタルジム。その根幹にあるのは、「運動は楽しいから続けられる」という明確な考え方でした。
また、お話でも出たとおり、筋肉は高齢になっても落ちにくいため、健康寿命を伸ばすためにも重要な要素と言えます。
もちろん、健康に生きていくには筋肉だけでなく、自分自身の健康状態を知ることも大切です。
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*1:参考:消費者庁「栄養成分表示について」
*2:参考:日本スポーツクラブ協会「中高老年期運動指導士」