認知症になった親の介護、費用はどれぐらいかかる? 施設利用料や、見落としがちな後見人報酬の実態を専門家に聞いた


親がもし認知症になったら……。生活がどう変わるか、自分や家族はどう対応するか想像してみたことはあっても、実際に「親が認知症になったら、どれくらいのお金がかかるか」について具体的に検討したことがある方は少ないのではないでしょうか。

家族が認知症になった場合、一般的な介護よりも費用がかかったり、後見人への報酬が必要になったりするケースも少なくありません。

今回は 「高齢者とお金」の問題に詳しいファイナンシャルプランナーの畠中雅子さんに、医療費や介護費など「親が認知症になった場合にかかるお金」の全体像についてお話を伺いました。

畠中雅子さん
畠中雅子さん

マネーライターを経て、ファイナンシャルプランナーに。現在は執筆を中心に活動し、新聞、雑誌、Webメディアなどに多数の連載を持つ。セミナー講師、講演なども行っており、高齢者施設への住み替え資金アドバイスを行う「高齢期のお金を考える会」など、さまざまなテーマでお金の相談に応じている。著書・監修書は「70歳からの人生を豊かにする お金の新常識」(高橋書店)ほか、70冊を超える。

一般的な介護費用の平均額は月8万3000円

──親が認知症になるなどして介護が必要になったとき、一般的にはどれくらいの費用がかかるのでしょうか?

畠中雅子さん(以下、畠中):生命保険文化センターが2021年度に行った調査*1によれば、月々にかかる介護費用は平均8万3000円。さらに、住宅改造や介護用ベッドの購入費など、一時的にかかる費用の合計は平均74万円となっています。

<図1>介護に要した費用(月々の費用)
<図1>介護に要した費用(月々の費用)
出典 (公財)生命保険文化センター「生命保険に関する全国実態調査」/2021(令和3)年度をもとに作成
<図2>介護に要した費用(一時的な費用の合計)
<図2>介護に要した費用(一時的な費用の合計)
出典 (公財)生命保険文化センター「生命保険に関する全国実態調査」/2021(令和3)年度をもとに作成

畠中:介護を行っている場所別で見ると、在宅での介護の場合は月に4万8000円、介護施設を利用した場合は月に12万2000円が平均額です。

さらに、介護度*2が上がっていくにつれて全体的にかかる費用も上がっていく傾向があります。2019年のニッセイ基礎研究所の調査*3でも同様の傾向が見られます。

ただ、介護をされている方にお話を伺うと、データよりも負担が大きいと感じている方が多いのが実情です。私はご家族の高齢者施設への住み替え相談を受けています。そうした相談者の方は、施設での介護の場合だと、私的な費用も含めて月に25~30万円ほどかかっているケースが多いです。

──具体的には、どのような費用が発生するのでしょうか。

畠中:主に医療費、介護サービス費、施設利用料、住宅リフォーム費などですね。

医療費の金額はもちろんその方の持病に左右されるのでケースバイケースですが、医療保険と介護保険における自己負担額が高額になってしまう場合に利用できる「高額医療・高額介護合算療養費制度*4」を用いた場合の限度額を支払っている方が多いと思います。

ただ、健康保険の対象にならない治療費や医療関係サービスはこの制度の対象にならないため、上乗せで払う費用も発生しうることは知っておいていただきたいです。

介護保険制度の助成金などには意外な落とし穴も

──費用に関して、特に注意しておくべきポイントはありますか?

畠中:住宅リフォーム費については要注意ですね。介護保険制度を利用することで補助を受けられるのですが、「どうせ補助金が出るから」と介護の状態が確定する前に住宅リフォームをしてしまう方もいらっしゃるんです。

でも、無計画にリフォームしたことによって家の中の動線がかえって悪くなってしまったり、リフォームしたものの在宅介護が難しくなって結局は施設に入居することになったり……といったケースは意外と多いんですよ。リフォームは、在宅介護を最期まで続けるかどうかをしっかりと判断した上で行わないと、無駄なお金になってしまいがちです。

──介護に関する補助制度なども知っておく必要がありますよね?

畠中:はい。例えば、施設利用料でいうと「公的施設である特別養護老人ホーム(特養)は、民間企業が運営している介護付有料老人ホームより安い」というイメージをお持ちの方がほとんどだと思うのですが、実は2021年8月に「介護保険負担限度額認定*5」の認定要件である資産額が見直されました。

それ以前は単身者の場合は1000万円、夫婦の場合は2000万円まで資産額があっても助成(補足給付)が受けられたのですが、2021年の見直しで資産額の上限が大きく引き下げられています。

その結果、特養を選んでも軽減措置(補足給付)が受けられず、地域や介護保険の自己負担割合によっては特養よりも介護付ホームに入居する方が安い(自己負担が少ない)という逆転現象も起き始めているので、両方の選択肢を検討していただいた方がいいと思います。

──なるほど。「リフォーム費は助成金が使えるから安心」「特養は入居費が安い」といった思い込みは禁物ですね……。

畠中:そうですね。介護にかかる費用は皆さん本当に必要になるときまでなかなか調べないですし、いざ必要になったときには体が弱っていたり、ほかにやることがたくさんあったりして満足に調べられない、というジレンマに陥りがちなんです。

先ほど説明した特養の資産認定のように、ここ数年で変更になった制度などもありますから、自分が持っている古い常識やイメージを一度壊してもらわないと、「介護とお金」にきちんと向かい合えないのではないかと思います。

親が認知症になった場合にかかるプラスアルファの出費

──先ほどお聞きした一般的な介護費用のほかに、親が認知症になった場合、通常の介護とは異なる費用は発生しますか?

畠中:認知症の症状の一つとして「徘徊」がよく知られていますが、認知症の親が徘徊をして遠くに行ってしまった場合、タクシーを使って探したり、近所の人に協力して車を出してもらったりといったことも考えられるので、タクシー代やお礼の菓子折り代などが必要になるケースもあります。

また、相談者の方からよく聞く話なのですが、認知症になるとこれまで習慣的に買っていた日用品などを大量に買いだめしてしまう人がいるんです。ある認知症の方は、牛乳や豚肉が常に30個ずつ家にないと不安になってしまうらしく、周囲がどれだけ止めても毎日スーパーに買いに行ってしまうとか。そういった、本来は買う必要のなかった費用も毎日続けば月に2~3万円にはなると思うので、なかなか痛い出費ですよね。

──どちらも意外で、かなりの費用になりますね……。

畠中:ほかにも認知症特有のケースでいうと、喫煙者の方の場合、介護施設への入居を断られてしまうこともあるんです。実際に私の知人の家族が、「認知症の方は喫煙所ではない場所でたばこを吸って火事を出してしまう可能性がある」という理由で、喫煙者ということが分かるまではほぼ決まっていた施設への入居が残念ながらキャンセルになったことがありました。

また、認知症を患っていて、なおかつ糖尿病などでインスリン注射を打っている方の場合も、看護師さんが夜間帯も常駐している施設でないと体調管理が難しいため、入居の選択肢に入ってくる施設が自ずと高額になってしまうケースが多いと思います。

認知症の人が介護施設への入居を検討する場合は、認知症ではない人と比べて月に5~10万円ほど上乗せした金額を見積もっておいた方がいい、というのがリアルなところです。

※認知症の初期症状やトラブル事例はこちらで詳しく解説しています
👉認知症の初期症状とは? 兆候を見極めるポイントを紹介 - lala a live(ララアライブ)│フォーネスライフ
👉一人暮らしの親が認知症を発症したら? 考えられるトラブルと家族ができる対処法を紹介 - lala a live(ララアライブ)│フォーネスライフ

認知症の親に付く「後見人」への報酬が毎月必要に

──親が認知症になるとお金が下ろせなくなる、と聞いたことがあります。そういった場合はどうすればいいのでしょうか?

畠中:認知症になると、不動産や預貯金などの管理や介護・福祉サービスの利用契約などは当人には難しくなってしまうため、本人に代わって契約などを行う成年後見制度*6の後見人が必要になります。

後見人には家庭裁判所によって選ばれる「法定後見人」と、あらかじめ本人自らが選ぶ「任意後見人」の2種類があるのですが、すでに認知症になっている方の場合は、家庭裁判所に申立てをして後見人を選任してもらう「法定後見人」一択となります。

──法定後見人には費用がかかるのでしょうか。

畠中申立てをする際、一般的には司法書士や弁護士に代行を依頼すると思うので、その費用がおよそ10~20万円かかります。またその後、後見人への基本報酬を毎月払う必要があります。財産額によって異なりますが、月々2~5万円ほどのケースが多いようです。法定後見人は基本的に、一度申立てたら取り下げることができないため(後見人の変更は可能)、ご本人が亡くなるまで費用がかかることに注意が必要です。

後見人は親族のほか、社会福祉士・司法書士・弁護士などの福祉や法律の専門家、専門的な研修を受けた「市民後見人」などが家庭裁判所によって決定されます。

近年では親族が後見人に選任されることも増えてきているのですが、その場合は後見人を監督する立場である「後見監督人」が付くケースもあるんです。そのときは後見人に払う金額よりも少ない金額にはなるものの、毎月監督人に報酬を支払わなければなりません。

ですから、家族が認知症になって後見人を立てる場合は、専門家が選任された場合も親族が選任された場合も、基本的に後見費用がかかり続けると考えた方がいいでしょう。

【試算】5年間の認知症介護で総額は700万円以上

調査にもとづく平均額と畠中さんのお話をベースに、親が認知症になった場合にかかる総費用を編集部で算出してみました。

  • 介護費用の平均額:月額で8万3000円、年額にすると99万6000円
  • 介護で一時的にかかる費用の平均額:74万円

生命保険文化センターの調査結果*7では「介護期間は平均5年1カ月」とあるので、一時的な費用を除いた年額99.6万円は5年間かかることになります。

また、「後見費用」も高額になるとのことでした。先の調査では後見費用は含まれていないと仮定して、1年目に認知症になっている親の「法定後見人」の申立て費用に15万円かかり、月額3万円の報酬を5年間支払う場合はどうなるでしょうか。

  • 法定後見人の選任にかかる費用:15万円
  • 法定後見人への報酬支払い:月額で3万円、年額にすると36万円

これらをまとめると、以下のようになります。

<図3>親が認知症になった場合にかかる5年間の費用
<図3>親が認知症になった場合にかかる5年間の費用

1年目の費用は220万円を超え、2~5年目は毎年135万円かかるイメージです。今回の試算では5年間の総額は767万円にも上ります。住宅リフォームの時期や法定後見人の選出タイミングで多少のズレはあると思いますが、高額であることに変わりはないでしょう。

認知症に備えて、親の資産額を把握しておく

──ここまでお話をお聞きして、親が認知症になった場合、通常の介護にプラスでかかる費用がとても多いことに驚いています。親の認知症に備えて、子どもがあらかじめしておける対策はありますか?

畠中:「子どもはいくら用意しておけば安心ですか?」とよく聞かれるのですが、そうではなく、親が持っているお金で何ができるかを考える方が現実的だと思うんですよね。

私がおすすめしているのは、親への質問とその答えをまとめた「聞き取りノート」を作ることです。必ず聞いておくべきなのは、年金の収入額や貯金額といった資産額。見栄を張らずに正直に書いてもらうことが大切なので、「本当かな?」と少しでも思ったら、ぜひ通帳を見せてもらってください。

具体案がない親御さんほど「なんとかなるから」と言うと思いますが、実際になんとかなるのはお金がたくさんある方だけです。お金で何でも解決できる方は少数派なので、体が動くうちに施設見学なども積極的に行い、持っているお金の範囲内で何ができるかを本人にもよく考えてもらって、調整していくことがとても重要です。

──中には、親の介護で自分の生活が厳しくなってしまうケースもあると聞きます。

畠中:「親の面倒を自分が見なくては」と思い詰めるあまりお金がないのに無理をしてしまい、結果的に破産した相談者の方を、私もこれまで何人も見ています。

親御さんにお金がないと、子どもの自分が助けなくてはと思う方も多いと思いますが、そういう場合は親御さんに生活保護を受けてもらうことなども視野に入れてください。持ち家がある場合は生活保護を受けられないと思っている方も多いのですが、実際にはそれぞれの自治体の基準額以下の家に住んでいる場合は売却を求められず、家に住み続けたまま生活保護を受給できるケースも少なくありません。

その場合、住宅扶助(家賃相当額)を受けることができないものの、医療費や介護費は無料になりますから、「お金がないから病院に行けない」と検査などをためらっていた方も病気を早期発見できる可能性が高まります。ですから、「認知症のことを元気なうちから考えるなんて」「親に生活保護を受けさせるなんて……」などと思わずに、ぜひさまざまな選択肢を検討してみてください。

──お話を聞いて「認知症にならないですむならそうしたい」と思いました。最後に伺いたいのですが、やはり病気になってから治療を受けるのではなく、病気にかからないよう日頃から対策をしておく方が、トータルでの費用は抑えられるものでしょうか?

畠中:そう思います。例えば、人間ドックを定期的に受けていたおかげでがんが初期のうちに見つかる方もいますが、中には検診を受けておらず、見つかった時点でがんのステージが進んでしまっていたという方もいますよね。そういった場合、保険診療の抗がん剤治療などが終わった後は自由診療に移ることもあるため、高額な医療費がかかるケースも少なくありません。

私自身、数年前に脳ドックを受けた際、オプションの血液検査で重度の糖尿病が見つかったため、現在も薬を飲み続けているんです。幸い平常値に戻っていますが、生活習慣病も継続してお金がかかるんだなと身をもって実感しているところです。そういった経験からも、病気になる前の検査や対策は必須だと思いますね。

取材・構成:生湯葉シホ
図:caco
編集:はてな編集部

フォーネスビジュアスで親の認知症対策をしませんか

畠中さんのお話から「認知症のお金」について考える上では、親が持っているお金を把握しておくことが重要だと分かりました。そして同時に、まずは認知症にかからないように、本人が生活習慣を見直したり定期的に検査を受けたりすることも大切です。

親の介護費用が不安になった方は一つの手段として、認知症をはじめとした将来の疾病リスクを予測し、さらには対策のための生活習慣改善に向けたアドバイスも受けられる「フォーネスビジュアス」を親御さんに受けていただくことを検討してみてはどうでしょうか。認知症対策をして認知症を発症しなければ、高額の費用を抑えられるかもしれません

また、畠中さんのお話ではお金の面を考えても「病気になる前の対策は必須」とのことでした。特に認知症は年齢が上がるごとに有病率が高まるため、対策・準備は早いに越したことはありません

※「認知症の対策は何歳から始めるべきか」はこちらで詳しく解説しています
👉認知症の予防は何歳からやるべき? 発症リスクを高める要因と効果的な対策を紹介 - lala a live(ララアライブ)│フォーネスライフ

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※ライター・地主恵亮さんのお父さんが、70歳を目前に「ペア割」でフォーネスビジュアスを受けた記事はこちら
👉認知症が気になる高齢の父がフォーネスビジュアスを受診。親子で未来の健康を可視化した - lala a live(ララアライブ)│フォーネスライフ

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*1:参考:公益財団法人 生命保険文化センター「介護にはどれくらいの費用・期間がかかる?

*2:参考:公益財団法人 長寿科学振興財団 健康長寿ネット「介護保険の介護度とは

*3:参考:ニッセイ基礎研究所「認知症介護の実態(3)-家族介護者の介護(関連)費用の負担状況

*4:参考:公益財団法人 長寿科学振興財団 健康長寿ネット「介護保険の高額介護合算療養費制度とは

*5:参考:厚生労働省「介護保険施設における負担限度額が変わります」[PDF]

*6:参考:厚生労働省「成年後見制度についてよくわかるパンフレット 」[PDF]

*7:参考:公益財団法人 生命保険文化センター「介護にはどれくらいの費用・期間がかかる?