新たな国民病とも呼ばれている「慢性腎臓病(CKD)*1」を知っていますか? 国内の患者数は近年増加傾向にあり、推計で約1480万人。しかし、腎臓は“沈黙の臓器”とも呼ばれるように「自覚症状が出にくい」臓器であるために、自身が発症していることに気づいていない人も多くいると考えられています。あなたの腎臓も、知らないうちに助けを求めているかもしれません。
今回は、腎機能が低下するとどういったリスクがあるのか、どんな症状が出るのか、回復の見込みはあるのかといったことや、慢性腎臓病をはじめとする腎臓病の具体的な対策方法について、腎臓専門医であり、腎臓の検査パッケージ「腎ドック」を提供する株式会社レノプロテクト代表の臼井亮介先生に聞きました。
フォーネスライフが提供する疾病リスク予測サービス「フォーネスビジュアス」では、4年以内の慢性腎不全発症など重大な疾病の発症リスクを予測することができ、結果に応じて保健師の資格を持つコンシェルジュが、ご自身に合った生活習慣の改善方法を提案します。
目次
腎臓病の初期症状はほとんど自覚できず、発症したら回復しない
──まず、腎臓専門医としての臼井先生のご経歴について教えてください。
臼井亮介先生(取材はオンラインで実施しました)
臼井先生(以下、臼井):2002年に医師になり、そこからまず大学病院に勤務し、臨床と教育、研究という“3本の柱”に従事しました。15年くらい勤めたところで将来のビジョンを考えた時、3本の柱に加えて「大学病院の外で社会貢献がしたい」と思い、そのような活動ができる環境を探しました。
当時はちょうど、日本でも腎臓病が注目され始めた時期でした。全国で各自治体が中心となって地域ごとに慢性腎臓病の重症化予防をしたり、慢性腎臓病患者さんを支えていったりする大きなプロジェクトが進んでいたんです。そんな中、千葉県にある医療機関に勤務していた時に、その地域のプロジェクトの腎臓専門医のポストにつかせていただくチャンスがありました。
その経験を経て、今度は「病院内にとどまらず慢性腎臓病の患者さんを支えたい」という思いが強くなり、株式会社レノプロテクトを創業しました。現在は腎臓に特化した検査パッケージの提供のほか、腎臓病に関する情報発信などにも取り組んでいます。
──病院で患者さんを診察するのと、現在のように病院外で活動されるのとでは、腎臓病との向き合い方に違いがあるのでしょうか。
臼井:大学病院の外来に来られる慢性腎臓病の患者さんは多くの場合、紹介状を持っているものの、ご自身ではそんなに腎臓が悪いなんて思っていないんですね。これは腎臓病ならではの特性だと思います。
紹介状を持っているということは、かかりつけ医に一度診てもらっているわけです。他の病気の場合であれば、どこが良くないのか分かった状態でいらっしゃいますよね。ところが腎臓の場合は、あまり危機感を持たれていないことが多いんです。
──たしかに、言われてみれば、普段生活をしていて「腎臓が悪いかも」と自覚する機会ってあまりなさそうです。かかりつけ医に指摘されても、ピンとこないかもしれませんね。
臼井:そうなんです。腎臓は“沈黙の臓器”といわれていて、腎臓病の早い段階では、なかなか症状を自覚できません。そのため、受診するころにはもう透析しかないという状況になっていることも少なくないんです。
大学病院にいた頃はそのように症状が進んだ患者さんを診ることが圧倒的に多くて「腎臓病を予防する」という考え方が伝わっていないことを痛感しました。本当はそうなる前に予防するべきなんです。
──だからこそ、慢性腎臓病の予防を啓発するためにも起業されたわけですね。
臼井:そうですね。微力ながら専門医として働いてきた人間として、情報を発信しています。
腎臓病に関するポイントをおさらい
- 腎臓病の初期症状はほとんど自覚できない。受診する頃には、選択できる方法が透析治療のみというケースも
- 早い段階から「腎臓病を予防する」という考え方が大事
腎機能は20代がピークで、以降は劣化していくのみ
──慢性腎臓病は昨今「新たな国民病」ともいわれていますが、多くの方にとって身近な病気なのでしょうか?
臼井:実は慢性腎臓病は近年増加傾向にあり、生活習慣病の中で糖尿病よりも患者数が多いと考えられている病気なんです。日本腎臓学会のデータ*2によると、慢性腎臓病患者は約1480万人(2015年推計)。一方、厚生労働省のデータ*3によると、糖尿病有病者(糖尿病が強く疑われる者)の数は約1000万人(2016年推計)です。
──それは意外です。糖尿病の方が圧倒的に見聞きする機会が多いのに、実際は慢性腎臓病患者の方が多いとされているんですね。なぜそれほど慢性腎臓病患者が増えているのでしょうか。
臼井:一番の理由は、日本人の平均寿命が伸びているからです。実は臓器というのは、必ずしも人間が生きている間ずっと正常に働くとは限らないんですよ。人間自体に寿命があるように、臓器にも寿命があります。人の寿命が長くなったため、先に腎臓が悪化することが増えて、それが慢性腎臓病患者の増加という形で表れているんです。
──そういうことだったのですね。でも一度腎臓が弱ってしまったとしても、治療などで回復しないのでしょうか?
臼井:いえ、腎機能は20代がピークで、そこから後は経年劣化していくだけなんです。だからこそ早い段階で食い止めないと、手遅れになる可能性があるんです。
砂時計を想像してください。砂は時間とともに止まることなく落ち続け、一度落ちたら戻ることはありません。また砂を増やすこともできませんよね。腎機能とは、この砂のようなものなんです。
──ということは、加齢とともに腎機能が低下することは避けられない、と。
臼井:はい。そして腎機能が6割を切った段階から先が、慢性腎臓病となります。腎機能は回復しないわけですから、一度慢性腎臓病を発症したら元の状態に戻すことはできません。
私たち医師にできるのは、腎臓の機能の低下速度を抑えて、できるだけ長く腎臓の機能を保つことだけなんです。
──腎臓は症状が出にくいとのことでしたが、症状が表れるタイミングはどのあたりからなのでしょうか?
臼井:腎機能が残り3割を下回ったあたりから、症状が出始めます。
──症状が出る頃には、もうかなり腎機能が低下しているんですね。具体的には、体にどのような影響が現れるのでしょうか?
臼井:一般的に腎臓の状態が良くない人は、そうでない人に比べて実際の年齢よりも5歳から10歳ほど年を取って見えることが多いです。腎機能の低下によって、見た目の老化が早まるような形ですね。
具体的な症状として有名なのが「むくみ*4」です。むくみによって皮膚が腫れぼったくなると疲れた印象になり、実際の年齢よりも老けて見えやすくなります。
また、腎臓は貧血を防ぐ臓器でもあるので、機能が低下すると貧血になりやすいです。他にも筋力が落ちて体力が低下したり、体の老廃物がたまって皮膚がかゆくなったり、肌の色がくすんだりします。
さらに私が注目している症状は「口腔内環境の悪化」です。実は腎臓病の患者さんで歯を健康な状態で保てている人はほぼいません。腎臓病になると骨が劣化しやすくなりますが、歯を支えている骨である顎(あご)の状態が悪くなると、歯がぐらついたり抜けやすくなったりします。また、唾液が減少したり口腔内の免疫が落ちたりすることで、歯周病や虫歯にかかりやすくなります。
──聞けば聞くほどおそろしいですね……。
臼井:ただ、過剰に怖がるのもよくないと思っています。というのも腎臓は非常に強靭な臓器でもあるんです。機能はたしかに低下していきますが、そのスピードはゆっくりです。
なので、しっかり予防を意識することで、一定の対処ができるのです。
腎臓病に関するポイントをおさらい
- 慢性腎臓病は近年増加傾向にあり、生活習慣病の中で糖尿病よりも患者数が多いと考えられている(慢性腎臓病患者数は推計約1480万人、糖尿病有病者数は推計約1000万人)
- 腎機能は20代がピークで、後は経年劣化していくのみ。症状が出る頃にはかなり腎機能が低下している状態
- 腎機能の低下によって、むくみ、口腔内環境の悪化などが起こり、見た目の老化が早まる
- ただし腎臓は非常に強靭な臓器であり、機能の低下スピードはゆっくり。だからこそ予防を意識することで一定の対処が可能
「生活習慣」の見直しで対策ができる。特に肥満には注意
──それを聞いて安心しました。具体的に腎臓病の対策をするには、何をすればいいのでしょうか。
臼井:重要なのは生活習慣の改善です。腎臓病の2大要因とされるのが糖尿病と高血圧なので、こうした生活習慣病にならないよう、日頃の生活を管理することが大切ですね。
具体的には、肥満には特に気をつけていただきたいです。バランスの取れた食事や運動習慣を意識することや、不規則な生活を改善するのも重要です。
──地道な改善が必要で、近道はないということですね。
臼井:そうですね。日々の生活習慣が臓器に影響を与え、それが積もり積もって腎臓にダメージを与えると考えてください。
あと、気付きづらいリスクとして「薬」があります。保険が効いて安く手に入ることもあって日本人は薬に頼りがちですが、実は薬の種類によっては、腎臓を痛めることがあるんです。
もちろん、少し薬を使ったくらいですぐに腎臓が悪くなることはありませんが、薬を服用するのが習慣になると、影響が出る可能性があります。特に腎臓を痛める代表格なのが、鎮痛薬や抗菌薬、抗生剤です。薬の量に関しては、医師とも十分に相談していただきたいです。
──薬は盲点かもしれませんね。もちろん必要な場面もありますが、量や頻度には気をつけたいです。
臼井:あとは先ほどお話ししたように、口腔内の状態はとても大事です。定期的に歯医者さんに通うなどして、しっかりとケアしていただきたいです。
──お聞きしていると、私たちが一般的に思う「健康に良い生活」をすることが、そのまま腎臓病の対策にもつながるのだと感じました。
臼井:そうなんです。私も日頃から、生活習慣の見直しと改善、その積み重ねが大切だとお伝えしています。
腎臓病に関するポイントをおさらい
- 腎臓病の2大要因とされるのが糖尿病と高血圧であり、それらを防ぐために生活習慣の改善が重要。特に肥満には気を付ける
- 薬を服用するのが習慣になっている場合、薬の種類によっては腎臓に影響が出る可能性がある。薬の量については医師と相談を
- 定期的に歯医者に通うなどして、口腔ケアをすることも大切
腎臓の状態を知るために、健康診断や人間ドックでチェックすべき項目は?
──現在の腎臓の状態を知りたい場合は、何を確認すればいいのでしょうか?
臼井:健康診断や人間ドックであれば、血液検査の「クレアチニン」の値から計算して導き出される「eGFR*5」という数字が参考になります。
クレアチニンは血液中の老廃物の一つで、腎機能が低下すると適切に排出されないために、血中での濃度が上昇します。そのため血液検査でクレアチニンが基準値をこえた場合は腎機能が低下している可能性があります。ただし、クレアチニンの測定値自体は腎臓とはまったく関係がありません。
そこで、より正確に腎機能の状態を知るための値がeGFRです。eGFRが90以上であれば正常または高値、60を切っていると慢性腎臓病の疑いがあります。
実際は、eGFRが60を切るまで腎機能の低下に気付かない人が圧倒的に多いです。私は、これは健康診断や人間ドックの課題だと考えています。本当は60を切る前に年齢に合わせたアラートを出すべきなのに、現状それができていません。
──たしかに、腎臓のように一度低下したら回復することのない臓器の異常は、もっと早い段階からアラートを出してほしいですね。
臼井:そうですね。なので現在のところは、皆さん一人ひとりが自分の数値を毎回チェックしてほしいです。1年や2年では大きく変わらないと思いますが、5年10年というスパンでチェックすると、数値の変化が見えてきます。
大事なのは今の数値に一喜一憂するのではなく、「どれくらいの期間でどれくらい変化したのか」を確認することです。
──健康診断の結果を毎年チェックして、グラフ化しておくとよさそうですね。
臼井:そこまでできればベストですね! 最近はいろいろと記録用のアプリなんかもありますから、活用されるといいのではないでしょうか。医師に相談する際にも、そういうデータがあるととても役立つと思います。
腎臓病に関するポイントをおさらい
- 健康診断や人間ドックを受診した場合、結果に記載されている「eGFR」の数値で腎機能の状態をチェックできる。90以上であれば正常または高値、60を切っていると慢性腎臓病の疑いがある
- 結果は毎年チェックして、「どれくらいの期間でどれくらい変化したのか」を確認しておく
過度に怖がらず、正しい知識で早めの対策を
──一度低下した腎機能は回復しないわけですから、特に将来を予測して備えることが重要ですね。
臼井:そうですね。それは大事だと思います。腎臓病に限らず、将来の自分の体について知ることができれば、早いうちから対策を取れますから。
──最後に、腎臓病の発症リスクに不安を感じている方々に向けて、あらためて先生からのメッセージやアドバイスをお願いします。
臼井:繰り返しになりますが、腎臓はとても強い臓器ですから、過度に怖がる必要はありません。
ただ、怖がるのではなく定期的に健康診断を受けること、それも悪くなってから受けるのではなく、健康なうちに受けることが大切です。
その上で、数値の変化をぜひ時系列で確認してみてください。何か疑問に思うことがあれば、腎臓専門医でなくとも腎臓に明るい医師はたくさんいらっしゃるので、相談してみるといいでしょう。
現在の腎臓の状態を把握しつつ「フォーネスビジュアス」で将来の疾病リスクに備える
腎臓病について、腎臓専門医の臼井亮介先生にお聞きしました。
腎機能は一度低下すると回復することはなく、さらには自覚症状が表れるころにはかなり悪化が進んでいるため「自分の腎臓は大丈夫かな」と不安に思った方もいるかもしれません。
臼井先生が代表を務めるレノプロテクトでは「腎ドック」という腎臓に特化した検査パッケージを提供しています。検体検査(採血・採尿)によって「現在の腎臓の状態」を詳しく調べることができます。
まずは健康診断や人間ドックなども活用しながら、自分の腎臓の現状を知ることが大切でしょう。
そして、その上でさらに「将来のリスク」に備えるために役立つのが「フォーネスビジュアス」です。
フォーネスビジュアスでは、4年以内の慢性腎不全発症リスクのほか、20年・5年以内(※5年以内は65歳以上が対象)の認知症発症リスク、4年以内の心筋梗塞・脳卒中発症リスク、5年以内の肺がん発症リスクなどを可視化し、さらには結果に応じて、保健師の資格を持つコンシェルジュから、生活習慣改善のためのアドバイスを受けることができます。
将来の疾病リスクを知って生活習慣を改善することが、腎臓病対策においても重要なポイントです。フォーネスビジュアスで、自身のライフスタイルを見直してみませんか。詳しくはこちらのページをご覧ください。
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- 本検査は、健康保険の対象ではありません。医療機関の自由診療として実施されます
- 本検査は、特定の年齢層の方のデータを対象として行われた分析結果に基づき判定します
- 医師の判断によることなく、本検査の結果を、疾病の判断・治療・予防等に用いることはできません
- 本検査は、その結果の正確性や、他の検査方法と同等の結果の提供を保証するものではありません
- 将来の疾病予測に関する検査結果は、生涯にわたってのリスクを予測するものではありません
- コンシェルジュによる健康相談およびアプリは、フォーネスライフからご利用者に直接ご提供するサービスです。これらは、ご利用者の生活習慣の改善、健康意識の向上をご支援するものであり、検査結果の改善や、疾病の診断、治療、予防等を目的とするものではありません
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- NEC 健診結果予測シミュレーション
- 定期健診データをAIで分析し、導き出した健診結果予測モデルから、将来の健診結果を予測します
- ※こちらは、社員の健康管理を推進したいとお考えの企業、健診受診者の健康への意識を高めたいとお考えの医療機関、住民の健康寿命を延ばしたいとお考えの自治体などに向けたサービスです
取材・構成:山田井ユウキ
編集:はてな編集部
*1:慢性腎臓病(CKD)とは「Chronic Kidney Disease」の頭文字を取ったもので、2002年に米国で提唱された新しい概念。「尿検査、画像診断、血液検査、病理などで腎障害の存在が明らかで、特に0.15g/gCr以上のタンパク尿(30mg/gCr以上のアルブミン尿)がある」「糸球体ろ過量(GFR)が60(ml/分/1.73m²)未満に低下している」の状態のうちいずれか、もしくは両方が3カ月以上続いているかどうかで判断される。詳しくはこちらの記事で解説。
*2:参考:日本腎臓学会「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023[PDF]」
*3:参考:厚生労働省「糖尿病対策の取組について[PDF]」
*4:腎臓で血液をろ過している糸球体に障害が起こると腎機能が低下し、老廃物や余分な水分が体外に排泄できずに体に溜まることでむくみが起こる。詳しくはこちらの記事で解説。
*5:「estimated Glomerular Filtration Rate」の略称で、推算糸球体ろ過値(腎臓の機能を表す値)のこと。血清クレアチニン値(または血清シスタチンC値)・年齢・性別を用いて計算する。詳しくはこちらの記事で解説。