健康のためのランニングは、がんばるより楽しむのが大事。三津家貴也さんに聞く、初心者が挫折しないコツ

三津家貴也さん

これからも健康でい続けるために「運動習慣をつけたい」と感じている人は多いでしょう。どんな運動を始めようか考えたときに、特別な用具を用意する必要がない「ランニング」や「ジョギング」に目をつける方も少なくないはず。でも、いざ始めてみるとやっぱりキツイ! さらには天候や暑さなどで心が折れて、挫折してしまいやすいのもまた事実。

そこで今回は、ランニングアドバイザー・三津家(みつか)貴也さんに「運動習慣がない人でも楽しくランニングを始め、継続するためのヒント」を伺いました。

高校時代に取り組んでいた陸上競技から研究の道に進み、スポーツトレーナーを経て現在はランニングアドバイザーやインフルエンサーとして活動する三津家さんは、ランニングの極意を「がんばらない」ことだと考えているのだそう。

競技者だった頃はトレーニングで自分を追い込んでいた三津家さんが、「がんばらない」ことの大切さに気づいたきっかけはどのようなところだったのか。また、挫折せず楽しみながらランニングに取り組むための心の持ちようについて伺いました。

三津家貴也
三津家貴也さん

熊本県出身。高校で陸上競技(中距離)を始め、インターハイでは6位に入賞。筑波大学(体育専門学群)、大学院(人間総合化学研究科 体育学専攻)でランニングについて研究。現在はランニングアドバイザーやインフルエンサー、モデル、大学の非常勤講師などとして活動中。SNS総フォロワー数は80万人を超える。著書に『がんばらないランニング』(KADOKAWA)がある。

自分を追い込むトレーニングは逆効果になることも

──「走る」ことは誰にでもできるので、運動習慣をつけたいと思ったときに始めやすいイメージがありますよね。一方で、始めたものの「続かない」という人も多いように思います。

三津家貴也さん(以下、三津家):皆さん、やっぱり「がんばり過ぎている」のが原因かなと思います。日々いろいろな方にアドバイスをする中でも、ランニングというイメージがもう、「キツイ」とか「自分を追い込む」とか、自分との闘いみたいになってしまっているように感じます。

例えば、健康のために運動したいから走ろう、と考えていきなり「1時間で10km走る!」なんてメニューを組む人も結構見かけるんですが、僕らからしたら「無理し過ぎ!」なんです。その結果、過負荷になってしまい、1回走るまでのハードルが高くなり過ぎて、挫折してしまう。

──まさに著書(『がんばらないランニング』)のタイトルにも通じるところですね。三津家さんはずっとこのスタイルだったのでしょうか。

三津家:僕自身は高校から陸上競技(中距離)を本格的に始めました。部活ではやはりタイムを極めることが一番の目的になるので、速く走ることが全て。そのために自分を追い込むようなキツめのトレーニングもしていましたし、短い距離をたくさん走るような練習をしていました。

大学でも同じように競技を続けていたのですが、当時、自己ベストは一度も更新できなくて。そこで一度競技から離れて、研究の道に進みました。

そこで出合ったのは「今までの練習が間違っていた」という衝撃的な事実でした。いろいろな論文にも触れる中で、「速い人のフォーム」の特徴が分かって、自分でも実践してみたら自己ベストをどんどん更新したんです。きちんとしたフォームで上手に筋肉を使って走ることで、つらくないのに速く走れることが分かったんですね。

三津家貴也さん

──具体的には、研究をされる前と後ではどう変化したんですか?

三津家:追い込む練習をしていたときには、600mをほぼ全力に近いペースで何本も走っていましたが、もう少し時間をかけて走るスタイルに変えました。1,600~2,000mを3~4本走り、トータルで6~7km走るようになって。その結果持久力がつきましたし、とにかくキツいことが練習になるわけではないと、体で感じることができました。

走る、というと、学校の持久走なんかでも「がんばれ!」「走れ!」「気合入れろ!」みたいに、キツい中で自分を追い込んで、自分に勝つみたいな世界になりがちで。僕も学生時代からそういった環境にいたので、それが当たり前だと思っていたんです。

でも、研究を経てその思い込みがなくなったことで「最小限の努力で最大限の成果を」という考え方へシフトしていきました。

最初は「歩くようにゆっくり」でOK。三津家流「がんばらない走り方」

──三津家さんが考える「がんばらない」ということについて、もう少し詳しくお聞きしたいです。

三津家:まず、目的を「がんばる」に置かないことです。例えばランニングを始めようと思った時って、きっと「痩せよう」とか「健康をキープしよう」といった何かしらの目的があったはずなんですが、それがいつのまにか「がんばって何キロ走る」にすり替わってしまう人が多いんです。

走ること自体を目的にするのも、もちろんランニングの楽しみ方の一つです。趣味でランニングをされている方なんかは、マラソンを走り切るとか、大会で入賞するとか、そういった目標を掲げて取り組んでいる人が多いので、それもまたランニングの魅力でもありますよ。

でも、健康のために始めたのなら、最初の目的はずっとブレさせずに持っていてほしいなと思います。

もう一つは「楽しむこと」。ランニングだと「キツイ」「苦しい」というイメージがつきまといますが、楽しむことでもっと続けられるようになると思っています。

──走ることを楽しむ……。なかなか、素人には難しい気もします(笑)。

三津家:かもしれないですね(笑)。僕は、ランニング初心者の方には最初に「笑顔でしゃべりながら続けられるペースで」と伝えています。最初から何km走る! という無茶な目標を作ってしまうと、達成できないし苦しいしで、挫折につながりやすくて。最初は「こんなの、歩いてるようなペースだよ」と思ってしまうような、ゆっくりした速さで全然大丈夫なんです。

まずはゆっくりと10分。それを続けるだけでも心肺機能の向上につながりますし、「10分」「20分」と少しずつ時間を延ばしていくうちに、自然と走れるようになっていくはずです。

『がんばらないランニング』
三津家さんの著書『がんばらないランニング』(KADOKAWA)

膝が痛くならない走り方とは? 初心者にありがちな「つらい走り方」を改善する

──ランニングアドバイザーとしての活動について教えてください。どのような活動をされているのでしょうか。

三津家:運動場や競技場を借りてランニング教室を主催したり、ゲスト講師として呼んでいただいて、参加者の方にアドバイスをすることが多いです。

参加者の方は僕のYouTubeなどを見てくれている中高生と、あとは40~50代の市民ランナーさんが多いですね。でも、下は6歳から上は70代まで、本当に幅広い方が参加してくださっていて、ランニングって本当に誰にでもできる運動なんだなと感じますね。

三津家貴也さん

──40~50代に向けたアドバイスをされることもあるかと思いますが、多いのはどのような悩みですか。

三津家多いのはやっぱり膝や前ももの痛みですね。それを解決するのは「お尻の筋肉を使うこと」。初心者の方は特に、脚の筋肉だけで走っている傾向が強いです。足首やふくらはぎに頼ってしまうことで、膝やももに負担がかかります。

脚の筋肉は細かく複雑な動きをするため、使い過ぎると疲れやすくなり、ケガのリスクも高まってしまいます。一方、お尻の筋肉はとても大きな筋肉で、これをうまく使えばケガをしにくく、力が出やすいといったメリットがあります。お尻の筋肉を使うことで、関節などの痛みも軽減できるはずです。

僕が教えるときにはこの「お尻の筋肉の使い方」を意識し、普段の走りにも生かしてもらえるように指導しています。ある程度走ったところでお尻の疲れを感じられれば、うまく使えているといえるでしょう。教室の翌日には「筋肉痛がきました!」とSNSでDMがくることもあります。これも、普段使えていない筋肉が目覚めた証拠ですね(笑)。

フォームのチェックは自分だけでは難しいので、家族や友達、ランニング仲間などにお願いしてスマホで動画を撮影してもらうのがオススメです。

お尻の使い方を意識したフォームの作り方については、僕のYouTubeでも紹介しています。



──40~50代で、仕事や育児でなかなか自分の時間がとれないという人がランニングを始めるなら、どのような頻度で取り入れるとよいでしょうか。

三津家:「忙しい」ことを理由に走るのをやめてしまう人もいますよね。でもそれは単に「時間がない」だけではなく、他にやりたいことがあって走ることに時間を割けない・割きたくないという気持ちの表れでもあると思います。例えば、空いた時間があるなら録画してあるドラマを観たいとか、ゆっくりお風呂に浸かりたいとか……。

そんなときは、走ることとセットで自分への“ご褒美”を作ってみるのもおすすめです。週に1回走ろう、その先にあるコンビニでアイスを買って食べようとか、友達を誘って一緒に走って、ご飯を食べに行くとか。自分が楽しいと思える仕組みを作ってしまうことで、単に「走る」だけよりも、もっと無理なく続けられると思います。

ダイエットを目的にしている人はよく「せっかく走ったのに、食べたら消費カロリーがムダになる!」と言いますが、カロリーはプラスマイナスゼロになっても、鍛えられた心肺機能や代謝はムダになりません。

最初は週に1回走るだけで十分。それが物足りなくなったら2回、3回……と回数を増やしてみてください。走ることが習慣になったら、もう立派なランナーです!

──ちなみに、ランニングを始めるにあたって、シューズやウエアといった専用のアイテムは用意した方がいいのでしょうか?

三津家:シューズについては、普通のスニーカーだとケガにつながる可能性もあるので、専用のものを一つ持っておくといいでしょう。ウエアについては、絶対に必要ということはないと思います。ただ「専用のウエアを着た方が気分が上がる」という側面もあるので、そういう取り入れ方はアリです!

──特に梅雨から夏の時期にかけて、雨や暑さのせいで「外で走りづらいな」と感じてしまうケースもあると思うのですが、そういう時期を乗り越える方法はありますか?

三津家:個人的には、雨の日に走るのって意外と気持ちよかったりもするので、一度やってみてほしいな、とは思っています。風邪をひかないように、水濡れ対策はしっかりとしておきましょう。夏の暑い日は、ペースを上げずに木陰を走る、といった工夫をしながら、無理なく走ってほしいです。また、天気の事情で外で走りにくい日には、ジムなどでランニングマシンを利用する方法もあります。ただしランニングマシンはつい自分を追い込んでしまいやすいので、ペースを上げ過ぎないよう注意してくださいね。

ランニングは自分を追い込むものではなく、楽しみを与えてくれるもの

──三津家さん自身、2021年には多忙のために体調を崩されたとのことですが、そこから健康に気を付けていることや心がけていることはありますか。

三津家:体調を崩していた時は、職場に行こうにも体が動かず、手の震えやしびれ、それに咳など、いろいろなところに影響が出ていました。本当に心と体のバランスがうまくかみ合っていないような感覚でつらかったです。

それでしばらく家に閉じこもっていたのですが、ランニング仲間の方から少し強引に誘われて、仕方なく代々木公園に行って一緒に走って……。

その時、競技からも離れていたのでタイムを追えるような走りではなかったのですが、それでも「楽しい」と思えたんです。気持ちがどんどんスッキリしてきて、久しぶりに「ランニングって楽しいんだ……」と感じることができました。

以前の僕にとって、走ることは「タイムを追うもの」でした。でも、いろいろな人と出会えたのも、どん底からはい上がることができたのも、ランニングがあったから。タイムを追う以外にも、ランニングの魅力や楽しむスタンスはたくさんあって、それを追い求めてもいい。

この時の経験をきっかけに、ランニングのために自分を追い込むのではなく、自分の生活にランニングが付随していて、走ることは生活の中にある一つの娯楽なんだ、という感覚になりました。それは僕の今の活動にもつながっていますね。

それからは、好きなことを好きにやるよう意識しています。例えば食べたいものや睡眠時間、遊びなどは我慢せず、できる限り自由にしています。カップラーメンも大好きで今朝も食べてきましたし、お酒も飲みます。もちろん、健康を損なわないよう限度には気を付けていますが、ランニングのために日常生活で何かを犠牲にしたり、我慢したりするのをやめました。

三津家貴也さん

──継続のコツは「無理をせず、楽しむこと」だと伺いましたが、これからランニングを始める人が、より楽しく続けていくコツはありますか。

三津家:ランニングにはコミュニティーもたくさんあるので、そういう場に参加するのも一つの手です。大きめの公園や競技場のようなところには必ずといっていいほどランナーがいますし、そこから価値観の合う人と一緒に走るのも楽しいです。今はSNSでもつながりが作れるので、そういったところで「今日の練習メニューは……」とシェアするのも楽しいですし、モチベーションにつながりやすいと思います。

もちろん「コミュニティーとかはちょっと苦手だな」という場合は、一人でコツコツ走るのもOK! 誰にでもできて、いろんな形で取り組めるのがランニングのいいところです。

「ランニング、やってみようかな」と思ったその気持ちを大切に、楽しみながら走ることを続けていってもらえたらうれしいです。

三津家貴也さん

「自分に合った運動習慣」をもっと知りたいなら

今回は三津家さんに、運動習慣としてランニングを取り入れるヒントを伺いました。無理なく継続できる仕組みを作ることで、ぜひ生活習慣の改善に役立ててください。

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下記の記事では、自らフォーネスビジュアスによって生活習慣を改善した経験について、フォーネスライフ社の社長が語っています。自分に合った生活習慣を知りたいと思った方は、ぜひこちらもご覧ください。

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取材・構成:藤堂真衣
撮影:小野奈那子
編集:はてな編集部