本メディアの運営会社フォーネスライフのCTOであり、東北大学で客員教授も務める和賀巌がタンパク質測定技術SomaScan®を活用した世界の論文を紹介します。
睡眠不足は、私たちの体にさまざまな影響を与えます。タンパク質は、私たちの体の構造や機能に重要な役割を果たす分子ですので、タンパク質の変化は、私たちの健康や病気のリスクに関係していると考えられています。しかし、睡眠不足が血液や脳のタンパク質にどのような影響を与えるのか、詳しくはわかっていませんでした。
そこで、アメリカのワシントン大学医学部のVaquer-Alicea博士らは、睡眠不足が人間の血液と脳のタンパク質に与える影響を調べる研究を行いました。今回試みられた研究方法は、睡眠不足のメカニズムやバイオマーカー(生体の状態を示すタンパク質など)の発見に役立つかもしれません。
この研究に参加したのは健康な成人です。参加者は2回の実験に参加しました。1回目は通常通りに睡眠をとり、2回目は24時間連続で起きていました。実験の前後に、5名の参加者の血液と脳脊髄液(脳と脊髄を包む液体)を採取し、血液と脳脊髄液に含まれる約1,300種類のタンパク質の量を、SomaScan®という高性能なタンパク質分析法で測定しました。SomaScan®は、タンパク質に特異的に結合する人工のDNA分子(アプタマー)を使って、タンパク質の量を高感度で検出できる方法です。
研究の結果、睡眠不足は、血液と脳脊髄液のタンパク質に逆の効果をもたらしました。睡眠不足は、血液のタンパク質の量や種類を減らしましたが、脳脊髄液のタンパク質の量や種類を増やしたのです。
また、睡眠不足によって変化したタンパク質の中には、免疫反応や炎症、リン酸化(タンパク質の活性を調節する化学反応)、細胞間のシグナル伝達や接着、細胞外マトリックス(細胞の周りにある支持構造)などに関係するタンパク質が多く含まれていました。
例えば、通常の睡眠では、血液中の免疫システムに関連するタンパク質群(R-HSA-1280215:Cytokine Signaling in Immune system)や、リン酸化に関連するタンパク質群(GO:0001934:Positive regulation of protein phosphorylation)が誘導されますが、睡眠不足の状態では、それらが誘導されなくなります。
また、睡眠不足に陥ると、血液中のECM関連タンパク質群(M5885:NABA MATRISOME ASSOCIATE)や急性期反に関係するタンパク質(GO: acute-phase response) の量が減る傾向が観察されました。
研究者たちは実験規模が小さいながらも、この研究で、睡眠不足が血液と脳脊髄液のタンパク質に大きな影響を与えることを示しました。これらの血中タンパク質の変化は、睡眠不足が人間の健康に及ぼす悪影響の一因となっている可能性もあります。
この研究は、まだまだ仮説を立てるための探索的な研究であり、タンパク質の変化が因果関係を持つかどうかはまだわかりません。しかし、この研究の結果は、睡眠不足のメカニズムやバイオマーカーの探索に役立つかもしれません。また、睡眠不足に関連する疾患の予防や治療のための新しいターゲットを見つけるのにも役立つかもしれません。
論文情報:Plasma and cerebrospinal fluid proteomic signatures of acutely sleep-deprived humans: an exploratory study. Vaquer-Alicea A, et al. Sleep Adv. 2023. PMID: 38046221 Free PMC article.
今回は睡眠によるタンパク質の変化に関する研究についてご紹介しました。
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構成:和賀巌
編集:lala a live編集部