コロナ重症化する人としない人とのタンパク質の違い


本メディアの運営会社フォーネスライフのCTOであり、東北大学で客員教授も務める和賀巌がタンパク質測定技術SomaScan®を活用した世界の論文を紹介します。

和賀巌さん 近影
和賀 巌(わが・いわお)

フォーネスライフ株式会社CTO、NECソリューションイノベータ株式会社シニアフェロー。東北大学産学連携機構客員教授。東北大学医学研究科客員教授。東京大学医学部細胞情報学にて医学博士を取得。

1985年よりJT日本たばこ中央研究所で医薬事業部門の立ち上げに関わる。2003年には米国バイオスタートアップの事業開発部長としてIPOにも貢献。2004年よりNECグループで新規事業やスタートアップ出資、海外ヘルスケア事業構築に従事。米国で研究が進んでいたアプタマー技術への研究投資と、同技術を活用した疾病リスク予測ビジネス立ち上げに参画。2020年のフォーネスライフ設立より現職。2021年より科学技術振興機構未来社会創造事業運営統括業務も兼任。国立科学博物館でも展示された「光る花」の開発にも参加。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、世界中で大きな問題となりました。COVID-19に感染すると、ほとんどの人は軽い症状で済みますが、一部の人は重症化して、呼吸器系の障害や多臓器不全などの合併症を起こします。重症化する人としない人の違いは何でしょうか?また、重症化する人の治療法はどうすればよいでしょうか?

これらの疑問に答えるために、オランダのユトレヒト大学医学部のエリック・ドゥイベラール博士が立ち上がりました。研究者たちは、COVID-19の重症患者の血液中に含まれるタンパク質の変化を調べました。タンパク質は、生命活動に必要な分子の一種で、細胞の構造や機能を決めたり、他の分子と反応したりします。血液中のタンパク質は、体の状態や病気の進行を反映するバイオマーカーとして利用できます。

今回は、重篤な新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関与する生物学的プロセスを調査し、イマチニブ治療の効果を評価するために、318人の入院患者の入院時と退院時の2回にわたって、6,385個の血漿タンパク質の縦断的プロファイリングを実施しました。

その結果、重症患者の血液中には、軽症患者に比べて、肺の細胞と血管の間の壁(肺胞毛細血管障壁)の破壊を示すタンパク質が多く見られました。肺胞毛細血管障壁は、酸素と二酸化炭素の交換を行う場所で、この壁が破壊されると、肺の機能が低下し、呼吸困難や低酸素血症などの重篤な症状が起こります。

研究者たちは、重症患者の血液中に見つかったタンパク質のうち、肺胞毛細血管障壁の破壊と関係が深いと考えられ、重篤な疾患発症のリスクと最も強く関連する4種類のタンパク質を報告しています。
正の相関のあるものは、CXCL10とAGERでした。また、カドヘリン 3 と、デルタ様タンパク質 3 (DLL3) は最も負の相関がありました。

これらのタンパク質は、COVID-19の重症化の予測や診断に役立つ可能性があります。また、これらのタンパク質の働きを抑えるか増強することで、重症化を防ぐか改善することができるかもしれません。この研究は、Nature Communicationという雑誌に発表されました。この研究は、COVID-19の重症化のメカニズムを解明し、新しい治療法の開発に貢献すると期待されます。

論文情報:
Longitudinal plasma proteomics reveals biomarkers of alveolar-capillary barrier disruption in critically ill COVID-19 patients
Erik Duijvelaar, Jack Gisby, James E. Peters, Harm Jan Bogaard, Jurjan Aman
Nat Commun. 2024; 15: 744. Published online 2024 Jan 25. doi: 10.1038/s41467-024-44986-w
PMCID: PMC10811341




今回は新型コロナウイルス感染症に関するタンパク質の研究についてご紹介しました。

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構成:和賀巌
編集:lala a live編集部