腎臓は、体内の水分や血液の濃度を調整するなど重要な働きをしている臓器の一つです。しかし腎臓の機能が低下するとこの調整がうまくいかず、慢性腎臓病(CKD)や慢性腎不全といった病気にかかるリスクが高まります。
本記事では、慢性腎臓病と慢性腎不全の違いやそれぞれの症状、原因、治療方法について解説します。
目次
こんな人におすすめ
- 定期健康診断などで腎機能の低下が指摘され、慢性腎臓病や慢性腎不全のリスクが不安な人
- 将来的に腎機能が低下するリスクも考えて、今から生活習慣を改善しておきたい人
- 早期の腎機能障害と診断され、慢性腎不全にならないように対策したい人
腎臓のはたらき
腎臓は、腰の背中側に左右一つずつ計2個ある臓器で、一つの大きさは握りこぶしくらいです。
腎臓には体内の血液が運ばれ、老廃物をろ過してくれています。そして、血液をきれいな状態に戻して、また体内に循環するのが主な働きです。
また、血液の酸性・アルカリ性の調整や、体内の水分量の調整をする役割も果たしてくれています。ほかにも、血圧調整ホルモンや赤血球を生成するホルモン、骨を強化するビタミンDも腎臓から分泌されています*1。
慢性腎臓病(CKD)と慢性腎不全の違い
腎機能の低下は、慢性腎臓病(CKD)や慢性腎不全の発症につながります*2。
ここでは、それぞれの特徴や双方の関係について解説します。
なお、CKDは進行具合に応じてステージが定められており、これによって慢性腎不全よりも軽度な状態でも腎機能障害があると診断されるようになりました。
腎機能低下によるリスクについては以下の記事でも紹介しています。
👉腎機能が低下する原因は? 進行による病気のリスクや対策を紹介 - lala a live(ララアライブ)│フォーネスライフ
慢性腎臓病(CKD)とは
慢性腎臓病(CKD)とは「Chronic Kidney Disease」の頭文字を取ったもので、2002年に米国で提唱された新しい概念です。CKDが定められたことで、自覚症状のない軽度障害の状態でもCKDであると診断されるようになり、疾患の早期発見・早期治療が可能となりました。
CKDには次の表のように5つのステージがあり*3、高度の低下となるステージ4より低下すると腎不全だと診断されます。GFRは腎機能を示す指標で、腎機能が正常に近いほどステージが軽く評価されます。
ステージ | 重症度 | GFR区分(ml/分/1.73㎡) |
ステージ1 | GFRが正常または高値な状態 | ≧90 |
ステージ2 | GFRに軽度の低下が見られる状態。腎臓に軽い障害があるが自覚症状はない場合が多い | 60-89 |
ステージ3 | GFRに中程度の低下が見られる状態。夜間頻尿や血圧上昇などの症状が見られる場合がある | 30-59 |
ステージ4 | GFRが高度に低下している腎不全の状態。全身にむくみなどの症状が現れる | 15-29 |
ステージ5 | 深刻な腎不全の状態 | <15 |
CKDの定義
CKDに当てはまるかは、以下の状態のうちいずれか、もしくは両方が3カ月以上続いているかどうかで判断します。
- 尿検査、画像診断、血液検査、病理などで腎障害の存在が明らかで、特に0.15g/gCr以上のタンパク尿(30mg/gCr以上のアルブミン尿)がある
- 糸球体ろ過量(GFR)が60(ml/分/1.73m²)未満に低下している
GFRは腎臓でろ過される血液量を表したもので、1分間にどのくらい、ろ過量があるかを調べることが可能です。ただし、GFRを測定するのは難しいため、実際の検査ではeGFRと呼ばれる推算のろ過量で代用しています。
慢性腎不全とは
腎不全は、腎機能が低下し、通常時と比べてその機能が30%以下になった状態をいいます。そして慢性腎不全とは、数年以上と時間をかけて徐々に腎不全になることです。
CKDが進行していくと慢性腎不全となり、治療をしても腎機能の回復が難しいとされています*4。
慢性腎臓病(CKD)の症状
CKDは、初期段階では自覚症状がほぼなく、疾患に気づかないケースも多いでしょう。また、自覚症状がないことが、患者を増大させる要因の一つにもなっています。
しかし、CKDが進行してくると以下のような症状が発生し、これらの症状が見られると重度の腎不全だと診断される可能性も高まります。
- 夜間尿
- 貧血
- 立ちくらみ
- 疲労感
- 息切れ
- 手足のむくみ
- 高血圧
- 骨がもろくなる
慢性腎臓病(CKD)の原因
CKDの原因として特に多く挙げられるのが、糖尿病や高血圧といった生活習慣病です*5。
例えば糖尿病になると、血液中の糖分が増えます。長期間高血糖状態が続くと、腎臓の中の毛細血管(特に糸球体)がダメージを受け、腎機能が低下するのです。この状態を、糖尿病性腎症といいます。糖尿病性腎症は、慢性腎不全の原因として最も多いとされています。
生活習慣病のほかには、慢性腎炎(※タンパク尿や血尿が1年以上慢性的に持続する疾患)や加齢なども原因として考えられます。
慢性腎臓病(CKD)の治療方法
CKDの治療方法として、一般療法・食事療法・高血圧治療などが挙げられます。ここでは、代表的な治療方法を解説します。
一般療法・食事療法
一般・食事療法は、日頃の生活習慣を改善する療法で、CKDの治療において最も重要だとされています。
一般療法では生活習慣病やメタボリックシンドロームを改善するための食事療法や運動、飲酒量の軽減、禁煙などが挙げられるでしょう。
このうち食事療法では、減塩や、カリウム・リンを多く含む食品の摂取を控えること、調理法を工夫することなどが求められます。腎機能の低下度合いによっては、タンパク質や水分についても摂取量が制限されるケースがあるでしょう。
食事療法はその必要性も含めて、担当医と十分な相談のうえで取り組むことが大切です。
腎機能を回復するための食事療法については、以下の記事をお読みください。
👉腎臓に良い食事・悪い食事とは? 食生活で気をつけるポイントを解説 - lala a live(ララアライブ)│フォーネスライフ
高血圧治療
CKDが進行すると高血圧が悪化し、腎機能をさらに低下させるため、この悪循環を改善するために高血圧治療を行います。高血圧治療は、アンギオテンシン変換酵素阻害薬・アンギオテンシンII受容体拮抗薬・利尿薬・カルシウム拮抗薬などの薬剤を組み合わせる投薬治療が一般的です。
1~2剤の薬剤使用で十分な血圧管理目標に到達できないことも少なくありません。服薬治療だけでなく、食事療法や運動療法なども取り入れることが大切です。
慢性腎不全の症状
慢性腎不全も、初期の頃は自覚症状がほぼありません。しかし、疾患が進行していくと以下の症状が出てきます。
- 手足・まぶたのむくみ
- 夜間尿
- 疲労感
- 頭痛
- 吐き気
- 息切れ
腎臓は体内の水分量を調整しているため、この機能が低下してしまうと、体内に水分が残ったままとなり、体のむくみや体重増加といった症状につながります*6。
また、病状がさらに悪化すると、肺にも水が溜まり、咳や息苦しさといった症状が表れることもあるでしょう。これらの重い症状が出た際には、腎機能の低下が深刻化している可能性があります。
慢性腎不全の原因
日本透析医学会の2022年度のデータによると、慢性腎不全の主な原因は糖尿病性腎症が38.7%、ついで腎硬化症が18.7%、慢性糸球体腎炎が14.0%だと公表されており*7、年間約34万人が透析治療を受けています。
ここでは、簡単にこれら3つについて解説します。
なお、慢性腎不全の原因についてさらに詳しく知りたい方は、以下の記事をお読みください。
👉慢性腎不全の原因は? 診断方法・対策方法についても紹介 - lala a live(ララアライブ)│フォーネスライフ
糖尿病性腎症
糖尿病性腎症とは、糖尿病が原因となって起こる腎臓合併症です。糖尿病になると、血糖が高くなり、腎臓に血液を送り込む輸入細動脈と血液を腎臓から泌尿器官へ運ぶ輸出細動脈が拡張します。特に輸入細動脈が大きく拡張することで、腎臓内には通常より多くの血液が流れ込みます。
腎臓に多くの血液が運ばれると、腎臓内の血圧が上昇して腎細胞が損傷するため、腎機能の低下につながるのです。
慢性糸球体腎炎
慢性糸球体腎炎は、糸球体と呼ばれる腎臓内の血液をろ過するシステムが損傷し、尿タンパクや血尿が1年以上続く疾患です。基本的に、体内に入ったウイルスや菌を撃退しようと作られるのが正しい免疫(抗体)ですが、何らかの異常で自分自身を攻撃してしまう誤った免疫が作られることがあります。この誤った免疫が慢性糸球体腎炎の発症原因となることがあります。
腎硬化症
腎硬化症は、高血圧によって腎臓の血管が動脈硬化を起こし、腎機能の低下をもたらす疾患です*8。高血圧になると、腎臓に血液を運ぶための輸入細動脈に負担がかかり、血管内の細胞がそれに対応しようと増殖し、血管を狭めてしまいます。
そうなると血流が悪くなり、腎臓内の糸球体も硬化してしまうため、ろ過システムがうまく働かず腎機能の低下につながるのです。
腎硬化症が原因で慢性腎不全になった人は、腎臓以外でも動脈硬化が進行しており、心筋梗塞や脳卒中といった危険な病気のリスクも抱えています。
慢性腎不全の治療方法
慢性腎不全の治療方法は、先に紹介したCKDの治療とは異なります。
以下に挙げる腹膜透析や血液透析、腎移植が主な方法です。
腹膜透析
腹膜透析は、腹部の臓器を包んでいる薄い膜である腹膜内に、カテーテルと呼ばれる管を入れて行う透析です。カテーテルから透析液を体内に入れ、そのまま一定の間溜めておくことで、老廃物や余分な水分が腹膜を通して透析液へと集められます。そして、老廃物が溜まった透析液を、体外につないでいる排液用のバッグにカテーテルを通して排出し、新しい透析液をまた入れるという仕組みです。
腹膜透析は洗浄力が弱いため、毎日行わなくてはなりません。ただし、時間をかけてゆっくりと老廃物や不要な水分を排出できるため、人体には優しい治療法です。
なお腹膜透析にはCAPD(連続携行式腹膜透析)とAPD(自動腹膜透析)の2つがあります。
CAPDは1回30分ほどかかる透析液の交換を1日に3〜5回行う方法です。患者本人の生活リズムに合わせて、朝・昼・夜・就寝前などに分けて本人や家族が透析液を交換します。
一方APDは、夜間の寝ている時間に専用の機械が自動的に透析液の交換を行う方法です。日中の時間を自由に使えるとあって、腹膜透析を行う人の4割程度がこの方法を選択しています。
血液透析
血液透析は、血管に針を刺して血液を抜き、ダイアライザーと呼ばれる機械を通してきれいな状態にした血液をまた血管に戻す透析方法です。長期的に実施する際には、腕の動脈と静脈をつなぐ「シャント」といわれる、針を刺すための部位を作ってから行います。シャントを使用できるまでには1カ月程度かかるため、透析準備は計画的に進める必要があります。
また、血液透析は週3回、1日4時間程度通院して行うのが一般的です*9。
人工透析については、糖尿病が原因で50歳目前で慢性腎不全になり、16年にわたって透析治療を続けているグレート義太夫さんの体験を以下の記事で紹介しています。ぜひお読みください。
👉僕は悪い見本なんです─透析を受けつつ寄席に出るグレート義太夫さんが語る病気との付き合い方 - lala a live(ララアライブ)│フォーネスライフ
腎移植
腎移植は、手術によって新たに腎臓を移植する方法です。腎移植には、脳死・心停止して亡くなった人から腎臓を提供してもらう献腎移植と、健康な家族や親族から腎臓を提供してもらう生体腎移植の2つがあります。
また腎移植を検討するのは、一般的にCKDのステージが4以上となった人です。すでに腹膜透析・血液透析をしている人や、透析をしていない末期腎不全の人も対象に含まれます。
慢性腎臓病(CKD)と慢性腎不全の診断方法
CKDと慢性腎不全を検査する際に主に用いられるのは、血液検査・尿検査です。双方の検査で腎臓の働きを調べられます。
血液検査では、血中のクレアチニンを調べる血清クレアチニン値と、糸球体のろ過機能を調べるeGFRの2つを確認します。血清クレアチニンの数値が高い人ほど、そしてeGFRの数値が低いほど腎機能が低下していると判断することが可能です。
尿検査では、尿にタンパク質が含まれているかを調べます。正常であれば尿からはタンパク質はほとんど検出されません。そのため、尿にタンパク質が含まれていると、腎機能が低下している可能性があります。
慢性腎不全にならないようCKDの早い段階で治療することが大切
慢性腎臓病(CKD)と慢性腎不全の違いや、それぞれの症状と原因、治療方法について解説しました。
CKDが進行していくと慢性腎不全になるため、CKDになっている人は慢性腎不全になるリスクを抱えています。
また、一度慢性腎不全になると腎機能の回復は見込めず、透析や腎移植の選択を避けられません。そのため、CKDのなるべく早い段階で治療を開始することが大切です*10。
編集:はてな編集部
編集協力:株式会社イングクラウド
定期健康診断などの結果などで腎機能の低下が指摘されている場合は医療機関で受診してください。現在の生活から将来的に腎機能が低下するリスクが不安な方は、疾患リスクを把握して今から生活習慣を改善するように心がけるとよいかもしれません。
フォーネスライフでは、将来の疾病リスク予測サービス「フォーネスビジュアス」を提供しています。フォーネスビジュアスでは、4年以内の慢性腎不全をはじめとしたさまざまな病気の将来の発症リスクを予測することが可能。予測結果と体の状態に応じて保健師資格を持つコンシェルジュから生活習慣改善のアドバイスも受けられます。アドバイスを実践すれば、生活習慣の改善ができ、結果的に各種疾病の対策にもつながるでしょう。
※フォーネスビジュアス検査は、医療機関の医師を通じて提供します。
慢性腎不全のリスク、調べてみませんか?
*1:参考:公益財団法人長寿科学振興財団「腎不全とCKDについて」
*2:参考:公益財団法人長寿科学振興財団「腎不全とCKDについて」
*3:参考:東京都「ほっとけないぞ!CKD慢性腎臓病」
*4:参考:公益財団法人長寿科学振興財団「腎不全とCKDについて」
*6:参考:日本泌尿器科学会「末期腎不全と言われた」
*7:参考:一般社団法人日本透析医学会「わが国の慢性透析療法の現況(2022 年12 月31日現在)」[PDF]
*8:参考:東京女子医科大学病院腎臓病総合医療センター腎臓内科「腎硬化症」
*10:参考:公益財団法人長寿科学振興財団「腎不全とCKDについて」