難聴になると認知症のリスクが上がる? 関連性と対策について分かりやすく解説

難聴になると認知症のリスクが上がる? 関連性と対策について分かりやすく解説

「耳が聞こえにくいと認知症になりやすい」という話を聞いたことがありますか? 実は難聴は認知症発症リスクを上げる要因の1つだといわれています*1

この記事では、難聴になると認知症を発症しやすくなる理由や、難聴や認知症になるのを防ぐための方法について紹介します。

(監修者)矢島隆二 先生

総合リハビリテーションセンター みどり病院 副院長 認知症疾患医療センター 副センター長

脳神経内科・認知症・総合内科等専門医。新潟大学医学部卒業後、高度急性期医療から地域の総合病院まで幅広く臨床経験を積み重ね、新潟大学附属脳研究所で認知症の研究を行い、医学博士号を取得。現在は認知症や神経難病を中心に、リハビリテーションにも重点を置いた神経内科の臨床現場で活動中。認知症や神経難病などの治験も行うかたわら、講演や執筆にも精力的に取り組む。

こんな人におすすめ

  • 認知症と難聴の関係を知りたい人
  • 難聴など、認知症を発症しやすいリスク因子を調べている人

難聴ってどんな状態のこと?

高齢になると、「耳が聞こえにくい」「話し声が聞き取りにくい」といった症状が出ることがあります。これは「難聴」といわれる状態なのでしょうか。まずは難聴について解説していきましょう。

難聴=聞こえにくい状態のこと

何らかの原因で音が聞こえにくくなっている状態を「難聴」と呼びます*2。人間の耳は、音を集めて鼓膜まで伝える「外耳(がいじ)」(普段見ることができる、いわゆる耳の部分)、集めた音の振動を増幅する「中耳(ちゅうじ)」、音の振動を電気信号に変え、脳に伝える「内耳(ないじ)」から成り立っています。この3つの働きにより、音が聞こえるのです。いずれかの働きが悪くなっている場合に、聞こえにくくなることがあります。

伝音難聴と感音難聴

難聴には、外耳、中耳に原因のある「伝音難聴」、内耳、蝸牛(かぎゅう)神経(内耳からの電気信号を伝える神経)、脳に原因のある「感音難聴」、伝音難聴と感音難聴の2つが合併した「混合性難聴」があります*3

伝音難聴は外耳・内耳に障害があることで起こり、薬物投与や手術で改善する場合があります。また、治療が難しい場合でも、補聴器をつけることで聞こえるようになることも少なくありません。

一方の感音難聴には、音にさらされ続けることで発症する「騒音性難聴」や「音響性難聴」、ウイルス感染で発症する流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)に伴って生じる「ムンプス難聴」、加齢に伴って起こる「加齢性難聴」などがあります。

高齢者に知っておいてほしい加齢性難聴

加齢によって聞こえにくくなるのは、内耳の細胞がダメージを受け、減っていくためだといわれています。ほかにも、加齢性難聴には神経のダメージや脳の認知機能の低下なども影響するといわれています*4

加齢による難聴の場合、まず高音から聞こえにくくなります。高音域が聞こえにくくなると、カ行、サ行、タ行、ハ行が聞き取りにくくなり、聞き間違いが多くなるそう。そしてさらに難聴が進行すると、中音から低音域まで聞こえにくくなってきます。小さな音が聞き取れない、逆に声が大き過ぎると言葉の意味が理解しにくい、早口の言葉が聞こえにくいなどの症状が生じます。

難聴が認知症発症リスクを高めることがある?

難聴になると認知症のリスクが上がる? 関連性と対策について分かりやすく解説

特に高齢期に現れる加齢性難聴は、その人の社会生活に大きな影響を及ぼします。注意したいのは、それぞれの影響は別々に起こるのではなく、日常生活で絡み合いながら生じ、進行していくということ。加齢性難聴によって生じる影響やリスクについて紹介します。

コミュニケーションが取りにくくなる

相手の話していることがよく聞こえないと、頻繁に聞き返したり、聞き間違ったりすることが多くなります。そうなると次第に会話がうまく成り立たなくなり、コミュニケーションが取りにくくなる傾向があります。話を中断させてしまうことに遠慮して会話に入らなくなる、会話が楽しめないので集まりに参加しにくくなる――など、聞こえないことで、さらにコミュニケーションの機会が失われてしまうのです。

社会的孤立からうつ状態を引き起こす

前述した理由から周囲とのコミュニケーションが取りにくくなると、社会参加が億劫(おっくう)になり、家に閉じこもりがちになることも。外出が減って人との交流がなくなることなどが要因で、うつ状態になることも考えられます*5

危機察知能力が低下する

周囲の音が聞こえにくくなると、自転車や自動車などの音にも気付かないことが増え、危険を察知しにくくなります。そうなると事故などの危険性が高まりますし、1人での外出が難しくなり、おのずと行動が制限されてしまいます。

認知症の発症リスクが高まる

コミュニケーション量の低下や社会的孤立は、認知症の発症リスクを高める要因とされています*6。難聴によってこうした状態に陥ることで、認知症になりやすくなることが考えられます。

加齢による難聴と認知症の因果関係は多くの研究で指摘されていますが、明確なメカニズムは分かっていません。難聴によって感覚が衰えて外部からの刺激が減り、認知機能の低下につながるという説や、難聴から生じる脳への影響によって脳が変化したり、脳萎縮が進んだりするという説などがあります*7。さらにWHOのガイドライン*8でも、難聴が認知機能低下や認知症の発症リスク増加に関連していると指摘されています。

難聴を予防・改善するにはどうすればいい?

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認知症の発症リスクにもかかわるとされる難聴。難聴にならない、または進行しないようにするためにはどうしたらよいのでしょうか。加齢性難聴は加齢に伴う老化現象であり、完全に予防することは困難ですが、次のようなことに注意しておきましょう。

大きな音を日常的に聞き続けない

加齢による難聴は老化現象の一種なので、誰にでも起こり得ます。ただし、難聴ができるだけ進行しにくくなるよう、長時間の騒音に注意する、テレビや音楽を大音量で聞くことを避けるなど、普段から耳をいたわり、少しでも予防できるようにしましょう。

聞こえにくいと感じたらすぐに医療機関で受診する

聞こえにくいと感じたら、すぐに耳鼻咽喉科を受診しましょう。急性の場合、早く対処しないと手遅れになることも。また、慢性の難聴の場合でも、適切な治療や補聴器の使用によって症状が改善できる場合があります。

加齢性難聴はだんだん進行していくので、初期にはなかなか気付きにくいものです。また、自分の老化を認めたくないと感じ、気付かないふりをしてしまうこともあります。しかし、将来的に聴力を守るためにも、早めに医療機関に相談してください。

認知症対策には生活習慣の改善も大事

難聴になると認知症のリスクが上がる? 関連性と対策について分かりやすく解説

難聴は認知症の発症リスクを高める一因であることが分かってきましたが、そのほかにも認知症の発症リスクに関わるとされるいくつかの要因が指摘されています。

認知症対策には、規則正しい生活習慣を心がけること、積極的にコミュニケーションを取ること、基礎疾患を治療することなどが重要です*9。食生活の乱れや運動不足、コミュニケーション不足などを感じたら、できる範囲で改善していきましょう。積極的に健康診断を受けたり、診断結果からプロにアドバイスを求めたりするのも良いですね。

認知症対策のポイントについてはこちらの記事も参考にしてみてください。
👉認知症対策は何をすればいい? 日常生活でできる予防法を紹介 - lala a live(ララアライブ)│フォーネスライフ

難聴とうまく付き合い、認知症発症リスクを低減させましょう

高齢者にありがちな「聞こえにくさ」は、加齢に伴う自然な老化現象。適切に対処することで、認知機能低下を防ぐことにつながります。難聴への対処はもちろん、生活習慣改善などによる認知症対策にも積極的に取り組みましょう。

編集:はてな編集部
編集協力:株式会社エクスライト


フォーネスライフが提供する疾病リスク予測サービス「フォーネスビジュアス」では、20年・5年以内(※5年以内は65歳以上が対象)の認知症をはじめとした各種疾病の将来の発症リスクを予測。その上で、認知症の対策にもつながる生活習慣についてプロに提案してもらうことができます。オンラインで相談できるので、離れて暮らす家族へのサポートも安心です。

※フォーネスビジュアス検査は、医療機関の医師を通じて提供します。

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*1:参考:国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター「あたまとからだを元気にするMCIハンドブック」 [PDF]

*2:参考:e-ヘルスネット「難聴

*3:参考:一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会「難聴について

*4:参考:「加齢性難聴の病態と対処法」[PDF] (太田有美, 日老医誌 2020;57:397―404)

*5:参考:厚生労働省「うつ予防・支援マニュアル(改訂版)」 [PDF]

*6:参考:国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター「あたまとからだを元気にするMCIハンドブック」 [PDF]

*7:参考:「加齢性難聴の病態と対処法」[PDF] (太田有美, 日老医誌 2020;57:397―404)

*8:参考:Risk reduction of cognitive decline and dementia: WHO guidelines. Geneva: World Health Organization; 2019. License: CC BY- NC-SA 3.0 IGO.

*9:参考:国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター「あたまとからだを元気にするMCIハンドブック」 [PDF]