寝てばかりなのは認知症のサイン? 日中の眠気の原因と対策を分かりやすく解説

寝てばかりなのは認知症のサイン? 日中の眠気の原因と対策を分かりやすく解説

高齢の親やパートナーに対して、「以前よりも日中に寝てばかりいるような気がする……」と気になったことはありませんか? もしかすると、その眠気は認知症の初期症状かもしれません。しかし、日中に寝てばかりいることが必ずしも認知症の症状を意味するわけではなく、年齢によるものやそのほかの病気によるものである場合もあります。

本記事では、日中に寝てばかりいることが認知症とどのように関連しているのか、そして認知症を要因とする眠気と他の疾患を要因とする眠気について解説します。最後には、認知症予防につながる生活習慣についてもアドバイスしていますので、ぜひ参考にしてみてください。

(監修者)矢島隆二 先生

総合リハビリテーションセンター みどり病院 副院長 兼 認知症疾患医療センター 副センター長

脳神経内科・認知症・総合内科等専門医。新潟大学医学部卒業後、高度急性期医療から地域の総合病院まで幅広く臨床経験を積み重ね、新潟大学附属脳研究所で認知症の研究を行い、医学博士号を取得。現在は認知症や神経難病を中心に、リハビリテーションにも重点を置いた神経内科の臨床現場で活動中。認知症や神経難病などの治験も行うかたわら、講演や執筆にも精力的に取り組む。

こんな人におすすめ

  • 認知症と睡眠の関連について知りたい人
  • 認知症を予防したいと考え、対策を調べている人

「寝てばかり」なのは認知症のサイン?

寝てばかりなのは認知症のサイン? 日中の眠気の原因と対策を分かりやすく解説

加齢に伴い、睡眠パターンは変化します。高齢になるほど就寝時間が早まり、起床時間も早くなる傾向があります。また、深い睡眠の時間が減り、浅い睡眠の時間が増えるのが特徴です。そのため、高齢の方から「夜によく眠れない」という悩みを聞くことが多いかもしれません。

だからといって、「日中寝てばかりいる」という状態も要注意なんです。認知症の初期症状の一つに「睡眠障害」があります。認知症によって夜間の睡眠が妨げられると睡眠不足になり、日中の強い眠気が引き起こされることがあります。その結果、「日中寝てばかり」になる高齢者もいます。

ただし、「日中寝てばかりいる=認知症」と断定することはできません。認知症以外にも、日中の眠気を引き起こす要因はさまざまあるからです。

「認知症の初期症状と考えられる睡眠障害」や「睡眠不足が認知機能障害の進行に与える影響」について、こちらの記事で詳しく解説しています。
👉認知症と睡眠について。発症や症状への影響と改善方法を解説 - lala a live(ララアライブ)│フォーネスライフ

日中の眠気を引き起こす要因は?

寝てばかりなのは認知症のサイン? 日中の眠気の原因と対策を分かりやすく解説

日中の眠気を引き起こす要因として、「認知症」と「その他の疾患」に分けて解説します。

認知症を要因とする眠気

認知症による眠気や睡眠障害は、日常生活に大きな影響を及ぼす可能性があります*1。ここでは、認知症が引き起こす眠気の主な要因とそれぞれの特徴について解説します。

昼夜逆転

認知症を発症すると、昼夜逆転の睡眠パターンを示すことも*2。これは、体内時計の乱れにより、夜間に目が覚めてしまうため、日中に過度の睡眠を取る傾向があることを意味します。この逆転したリズムは、本人だけでなく介護者にとっても大きな負担となります。

レム期睡眠行動異常症

レム期睡眠行動異常症*3は、レム期睡眠中に本来抑制されるはずの身体の動きが出現する状態です。認知症の中でも特にレビー小体型認知症の方に見られることがあります。この障害により、激しい夢を見て身体を動かしたり、叫んだりすることがあり、質の良い睡眠を妨げます。

不安・うつに伴う不眠

認知症を患っている方は、不安やうつ病を併発することが多々あります*4。これらの精神的な症状は睡眠の質を低下させ、夜間に頻繁に目覚める原因となり、結果として日中の眠気につながってしまうのです。

認知症の初期症状「無気力」

認知症の初期段階で現れる無気力*5も、過度な眠気の一因となることがあります。無気力は興味や意欲が低下し、何もやる気が起きない状態です。そのため、じっとしていることが多くなりがちで、結果的に寝てばかりいるように見えることもあります。

認知症によるこれらの睡眠障害や眠気の要因を理解することは、対処方法を見つけ、認知症患者本人だけでなく、その家族や介護者の生活の質を改善するためにも役立ちます。

その他の疾患を要因とする眠気

日中寝てばかりいるからといって、認知症だと結論づけるのは注意が必要です。認知症以外にも、多くの健康問題が過度な眠気を引き起こす可能性があり、それらを見逃してしまう恐れがあるためです。ここでは、認知症以外の健康問題から引き起こされる日中の眠気の要因*6をいくつか取り上げて解説します。

不眠症(認知症以外の要因によるもの)

不眠症は、入眠困難・睡眠維持の困難・早朝覚醒などの睡眠問題により日中の倦怠感や意欲低下、集中力の低下などの不調を引き起こす病気です*7。多くの場合、不眠は一時的で自然に改善しますが、慢性化すると適切な治療が必要になります。

原因はストレス、心身の疾患、薬の副作用など多岐にわたり、原因に応じた対処が重要です。不眠が続くと不眠恐怖に陥り、さらに不眠を悪化させる恐れがあります。

睡眠時無呼吸症候群

睡眠時無呼吸症候群は、睡眠中に呼吸が一時的に停止し、酸欠状態に陥ることで睡眠が中断される病気です*8。この繰り返しにより、患者は深い睡眠を取ることができず、結果として慢性的な睡眠不足と昼間の過度な眠気を引き起こします。

この症状は単に本人が不快なだけでなく、夜間の長時間酸欠が高血圧、動脈硬化、心筋梗塞や脳梗塞のリスクを高め、糖尿病の悪化にもつながるなど、生活習慣病の発症や進行を促進してしまうのが問題です。

薬の副作用

一部の薬剤には、副作用や相互作用*9として眠気を引き起こすものがあります。新しい薬剤を飲み始めた後に眠気を感じることがあれば、薬の影響の可能性があります。その場合は、医師と相談して代替薬や用量の調整を検討してください。

食事性低血圧

食事性低血圧は食後2時間以内に血圧が急激に低下することにより、強い眠気やだるさを感じる症状です*10。特に大量の炭水化物を含む食事を摂取した後にこの症状が現れやすいとされています。血圧低下によるめまいや失神を眠気だと誤認するケースがあるため、注意深く観察しましょう。

熱中症・脱水症

熱中症や脱水症も、体力の消耗や集中力の低下によって眠気を引き起こすことがあります。特に高温多湿の環境下での活動や、十分な水分補給を怠った場合に注意が必要です。

以上のように、さまざまな疾患や状態が日中の過度な眠気の原因となる可能性を知っておきましょう。医師への相談を中心に、適切な診断と治療、ライフスタイルの調整によって日中の眠気や健康状態を改善できます。

ただし、起きてからも眠気に襲われていたり、一日中うとうとしていたりする場合は、より病的な状態である「傾眠傾向」の可能性があります。

実は意識障害の一種。「傾眠傾向」とは

認知症による眠気と似た症状に、「傾眠傾向」というものがあります。傾眠傾向は軽度の意識障害の一種で、次のような特徴があります。

・声をかけたり肩に触れたりするなどの刺激を与えても、なかなか目を覚まさない
・いったん目覚めても、すぐにまた眠ってしまう

傾眠傾向は、一見すると認知症による睡眠障害の症状と似ているため、見分けが難しい場合があります。不安がある場合は医療機関で受診することをおすすめします。

認知症が原因の眠気を改善するには?

寝てばかりなのは認知症のサイン? 日中の眠気の原因と対策を分かりやすく解説

認知症が原因で生じる日中の眠気を改善するには、次のような方法が効果的です。

こまめに声をかける

認知症の人が日中に眠ってしまう時間を減らすには、定期的に話しかけて覚醒を促すことが大切です。

ただし、30分程度の昼寝は高齢者の健康維持に役立つことが知られています。問題となるのは、1時間以上のうたた寝が続く場合です。そのような場合は、優しく起こすようにしましょう。昼夜逆転の予防につながり、夜間の質の良い睡眠を促すことができます*11

軽い運動をする

日中の適度な運動は、夜間の睡眠の質を高めるのに効果的です。認知症の人にも、体力に合わせて散歩やストレッチなどの運動を取り入れることをおすすめします。運動することで適度な疲労を感じ、夜になったら自然と眠くなります。また、運動習慣は認知症予防にもつながることが分かっています。

認知症予防に効果的な運動については、こちらの記事を参考にしてみてください。
👉認知症はトレーニングで予防。今日から始める運動習慣で認知症のリスクを軽減しよう - lala a live(ララアライブ)│フォーネスライフ

認知症になりにくい生活習慣を知り、実践してみよう

高齢者が日中寝てばかりいる状態は、認知症の初期症状である場合もあれば、認知症以外の病気が隠れている場合もあることが分かりました。不安がある場合は早めに医療機関で受診しましょう。

一方で、睡眠をはじめとした生活習慣が認知症の原因になる可能性もあるため、生活習慣を整えることが重要です。
👉認知症対策は何をすればいい? 日常生活でできる予防法を紹介 - lala a live(ララアライブ)│フォーネスライフ

今はまだ認知症にかかっていないという場合でも、日々の生活を見直してみてください。

編集:はてな編集部
編集協力:株式会社エクスライト


フォーネスライフが提供する疾病リスク予測サービス「フォーネスビジュアス」では、20年・5年以内(※5年以内は65歳以上が対象)の認知症をはじめとした各種疾病の将来の発症リスクを予測。その上で、認知症の対策にもつながる生活習慣についてプロに提案してもらうことができます。オンラインで相談できるので、離れて暮らす家族へのサポートも安心です。

※フォーネスビジュアス検査は、医療機関の医師を通じて提供します。

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*1:参考:精神神経学雑誌オンラインジャーナル「認知症における眠気・過眠の見立てとその対応」[PDF]

*2:参考:e-ヘルスネット「高齢者の睡眠

*3:参考:e-ヘルスネット「レム睡眠行動障害

*4:参考:精神神経学雑誌オンラインジャーナル「認知症における眠気・過眠の見立てとその対応」[PDF]

*5:参考:国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター「あたまとからだを元気にするMCIハンドブック」[PDF]

*6:参考:MSDマニュアル家庭版「不眠症と日中の過度の眠気

*7:参考:e-ヘルスネット「不眠症

*8:参考:e-ヘルスネット「昼間の眠気 -睡眠時無呼吸症候群・ナルコレプシーなどの過眠症は治療が必要

*9:参考:飯塚病院 薬剤部「薬の相互作用と副作用

*10:参考:日本医師会 健康ぷらざ「めまいがしたらご注意を-高齢者の低血圧-」[PDF]

*11:参考:厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023 高齢者版(案)」[PDF]