認知症は遺伝と関係がある? 発症の可能性や検査について解説

認知症は遺伝と関係がある? 発症の可能性や検査について解説

親族に認知症を発症した人がいる場合、もし遺伝する可能性があるならいずれ自分も発症するのでは……と心配になりますよね。実際、認知症には遺伝性のものもありますが、必ずしも認知症を発症するとは限りません。過度な心配は不要ですが、自分自身や家族の健康を守るためにも、遺伝性の認知症について知っておきましょう。

(監修者)大渕修一 先生

地方独立行政法人 東京都健康長寿医療センター研究所 高齢者健康増進事業支援室 研究部長。国立療養所東京病院附属リハビリテーション学院理学療法学科卒業。アメリカ・ジョージア州立大学大学院保健学研究科修了。北里大学医学系研究科にて医学博士号取得。介護予防の第一人者として、全国の自治体で講演や指導を行うほか、民間企業との共同研究にも積極的に取り組んでいる。著書に『認知症にならないための歩き方』など。

こんな人におすすめ

  • 認知症が遺伝するのかを知りたい人
  • 認知症とその要因について知りたい人

認知症は遺伝する?

認知症は遺伝と関係がある? 発症の可能性や検査について解説

認知症には遺伝性を有するタイプの存在が認められています。しかし、多くの認知症は遺伝ではなく、生活習慣、環境的要因、加齢など他の要因によって引き起こされます。

認知症の発症メカニズムは、完全には解明されていません。親族に認知症を患っている人がいる場合でも、必ずしも自身が発症するとは限らないのです。遺伝的な要因は発症を決定づけるものではなく、あくまでリスクの一要素にすぎないことを理解しておきましょう。

遺伝的な要因が関与している認知症の種類は?

認知症の中で、遺伝的な要因が関与しているものは「家族性認知症」と呼ばれます。

代表的なものに、アルツハイマー型認知症の一種である「家族性アルツハイマー型認知症」があります。

家族性アルツハイマー型認知症の原因は?

家族性アルツハイマー型認知症は、特定の遺伝子の変異が原因で発症します。発症の直接的な原因となる遺伝子(原因遺伝子)は、アミロイド前駆体タンパク質(APP)、プレセニリン1遺伝子(PSEN1)、プレセニリン2遺伝子(PSEN2)などがあり、これらに病的変異が見つかった場合、アルツハイマー型認知症の症状を引き起こします。

また、原因遺伝子ほどではないものの、発症を引き起こす一つの因子となる遺伝子(感受性遺伝子)として、「APOEε4多型」が知られています。しかしこの遺伝子を持っていても認知症を発症するとは限らないため、主要な診断の指標としては用いられていません。

認知症は一般的に高齢者に多く見られる病気ですが、家族性アルツハイマー型認知症は、より若い年齢、特に40〜50歳代で発症する傾向にあります。特定の遺伝子の変異が原因で発症するものの、実際に遺伝子の変異が直接的に認知症を引き起こすケースは非常に稀です。

このように、家族性アルツハイマー型認知症は遺伝的な要因に依存するものの、発症リスクは遺伝子の種類や個々の生活習慣、環境要因にも影響されることが示唆されています。また、遺伝子検査を通じて発症リスクを一定程度評価することは可能であるものの、遺伝のリスクが高いからといって必ずしも発症するわけではないことを理解することが重要です。

遺伝的な要因を調べる検査は?

認知症の発症に関連する遺伝的な要因は、主に血液検査で調べます。遺伝子の変異を持つ全ての人が認知症を発症するわけではありませんが、検査の結果を認知症発症のリスク指標としてある程度利用することは可能です。心理的な負担が大きくなりかねないので、検査を受ける前には必ず医師やカウンセラーと十分に相談しましょう。

遺伝的な要因を持っていても認知症を発症するとは限らない

遺伝的な要因を持つ人全員が認知症になるわけではありません。繰り返しになりますが、認知症の発症は生活習慣や環境などの後天的な要素にも大きく左右されます。遺伝的リスクがあっても、健康的な生活習慣を実践することで、そのリスクを軽減できる可能性があるのです。

遺伝性の場合、予防できる?

認知症は遺伝と関係がある? 発症の可能性や検査について解説

遺伝子を操作することは倫理的に認められていないため、遺伝性の認知症を直接的に予防することはできません。そこで、生活習慣や環境の面で実践できる間接的な予防方法を解説します。

生活習慣の改善は認知症予防につながる

遺伝性の認知症だけでなく、全ての認知症の予防に効果的なのが生活習慣の改善です。

健康的な食事

認知機能を保つのに重要な栄養素を含む食事を心がけましょう。認知症予防に適した食生活のポイントを下記に紹介します。

DHAの摂取
青魚に多く含まれるDHAは、脳の細胞膜に多く存在し、脳機能の維持に重要。血中DHA濃度が高い人は認知機能が下がりにくいとされています。

牛乳、乳製品の摂取
牛乳や乳製品は栄養価が高く、特に60歳以上の女性で認知機能低下リスクの低減が見られています。米やパンなどの主食だけでなく、牛乳・乳製品を含む食生活が有効です。

豆類の摂取
豆類、特に大豆製品は、女性において認知機能低下リスクを低減します。豆料理はさまざまな料理に取り入れやすいので、毎日の食事に少しずつプラスすることから始めてみましょう。

これらのポイントを踏まえることが、認知機能の維持につながると考えられます。ただし、個々の体質や好みに応じて、バランスの良い食生活を心がけることが重要です。

適度な運動習慣

適度な運動は血流を良くし、脳の健康を保つのに役立ちます。下記に認知症予防に適した運動習慣の例を紹介します。

定期的な運動
週2〜3回、30分以上の運動(特に歩行)は、認知機能の低下および認知症発症リスクの減少に効果的です。

運動の組み合わせ
認知課題を含む運動(コグニケア:二重課題運動※)や、筋力強化と有酸素運動の組み合わせが認知機能の改善に有効です。

※(例)手をたたきながら3の倍数を数える、しりとりしながら運動するなど

社会的・知的活動の組み合わせ
読書や楽器演奏などの知的活動や、ダンスなどの身体活動は認知症の発症リスクを下げることに効果的です。趣味を持つこと、料理をすること、社会で何らかの役割を持つことも認知症予防に寄与します。

これらの活動を日常生活に取り入れることで、高齢者の認知症予防に効果があると考えられます。身体活動と知的活動のバランスを意識しながら、個々の健康状態や好みに合わせて活動内容を選びましょう。

良質な睡眠

質の良い睡眠は、脳の修復に必要です。睡眠不足は認知機能の低下につながるので、下記のポイントを参考に睡眠の取り方を改善してみましょう。

適切な睡眠時間
良質な睡眠は、アルツハイマー型認知症の原因となるアミロイドβの減少を促し、認知症予防に寄与します。一般的には約5〜7時間の睡眠が推奨されていますが、個人差があります。

睡眠薬の長期使用の回避
認知症患者の中には睡眠障害を抱える方も多いですが、睡眠薬の長期使用は避けるべきです。日中の刺激を増やし、規則正しい生活リズムを維持することが重要です。

睡眠環境の整備
部屋の温度や明るさを調整したり、適度に日光を浴びたり、規則正しい起床・就寝のサイクルを回したりすることが重要です。同時に、昼寝を減らし、アルコールやカフェイン、ニコチンの摂取を控えることも推奨されています。

睡眠は認知症予防において重要な役割を果たします。個々の状況に合わせた睡眠時間の確保と質の向上、適切な睡眠環境の整備が、認知機能の維持に貢献します。

これらの生活習慣の改善は、認知症の予防だけでなく、総合的な健康の向上にも有効です。一般的に、「生活習慣を整える=規則正しい生活」と認識されていますが、「規則正しい生活=単調な生活」とならないように注意が必要です。食事のバリエーションや外出先などにも変化をつけることを意識しましょう。メリハリのある生活リズムが脳に刺激を与え、結果として認知症予防につながります。

遺伝にとらわれ過ぎず、健康な毎日を送ることで発症リスクを遠ざけられる

認知症を発症した親族がいる場合、自身も遺伝的なリスクがあると感じるかもしれませんが、実際に認知症が遺伝するケースは稀です。大半の認知症は、遺伝以外の要因、例えば生活習慣や環境などの影響で発症します。そのため、健康的な生活習慣や、定期的な健康診断を通じて、心身ともに健康を保つことが重要です。

編集:はてな編集部
編集協力:株式会社エクスライト


フォーネスライフが提供する疾病リスク予測サービス「フォーネスビジュアス」は、20年・5年以内(※5年以内は65歳以上が対象)の認知症をはじめとした各種疾病のリスクを発症前に予測します。

さらに、結果に応じてコンシェルジュ(保健師)がご自身に合った生活習慣改善のアドバイスも行っていますので、この機会に検討してみてはいかがでしょうか。

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