認知症の予防は何歳からやるべき? 発症リスクを高める要因と効果的な対策を紹介

伸びをする男性

近年、身近な病気として注目されている「認知症」。内閣府の「平成29年版高齢社会白書(概要版)」によると、2025年には65歳以上の高齢者の5人に1人が認知症にかかると推計されています。そんな認知症について、若いうちから意識した生活を送ることでリスクを下げられるといわれているのをご存じでしょうか。

本記事では認知症予防に興味がある方へ向けて、予防は何歳からすべきか、認知症になる原因、具体的な予防方法などを解説します。

(監修者)矢島隆二 先生

総合リハビリテーションセンター みどり病院 副院長 兼 認知症疾患医療センター副センター長。
脳神経内科・認知症・総合内科等専門医。新潟大学医学部卒業後、高度急性期医療から地域の総合病院まで幅広く臨床経験を積み重ね、新潟大学附属脳研究所で認知症の研究を行い、医学博士を取得。現在は認知症や神経難病を中心に、リハビリテーションにも重点を置いた神経内科の臨床現場で活動中。認知症や神経難病などの治験も行うかたわら、講演や執筆にも精力的に取り組む。

こんな人におすすめ

  • 認知症になるのを避けたいと考え、自分で対応策を調べている人
  • 予防をいつから始めるべきか知りたい人
  • 予防策として有効な手段が知りたい人
  • 認知症になりやすい人の特徴や生活習慣の傾向を知りたい人

認知症の予防は何歳から始めるべき?

相談する夫婦

現在の医学では、認知症を確実に予防することはできませんが、予防を意識するのは40代から始めても早過ぎるということはありません。40代で運動能力が低下している場合、20年後には脳が萎縮するといった研究もあります*1。また、認知症の中でも多くを占める「アルツハイマー型認知症」は、アミロイドβが原因物質といわれており、発症する15〜20年前から少しずつ脳内に蓄積すると考えられます*2。高齢で発症するイメージが強い認知症ですが、中高年層からリスクが高まっており、対策は早いに越したことはないのです。

また、認知症の有病率は年齢が上がるごとに高まっています。2013年のデータですが、「厚生労働科学研究費補助金認知症対策総合研究事業(PDF)」の調査によると65歳以上の認知症有病率は16%、80歳以上になると男性が35%、女性が44%となっています。

認知症は、持病や生活習慣病によって発症リスクが高まることが指摘されています。こうした点からも、早い段階で生活習慣の見直しや、持病の治療などに取り組む必要があるといえるでしょう。

認知症は何歳から発症する?

「この年齢からは特に注意が必要」と断定はできませんが、若年層でも認知症に罹患する可能性があるので注意は必要です。65歳未満で発症すると「若年性認知症」と呼ばれます。少数ではありますが、特に若い例では18歳から発症している方の存在も報告されています*3

若年性認知症のほとんどは40歳以降に発症しており、中でも60歳から64歳の発症者が過半数を占めています。あまりにも若い場合は、うつ病や更年期障害などの可能性も考えられますので、すぐに認知症と結びつけずに、医療機関で相談してみましょう。

発症リスクを高める要因とは?

健康診断の結果

では、認知症はどのような要因で発症リスクが高くなるのでしょうか。認知症のリスクを高める要因を「病気・けが」「生活習慣」の2つに分けてご紹介します。

発症リスクを高めるといわれている主な病気・けが

認知症の発症リスクを高めるといわれている主な病気やけがは下記の通りです。

それぞれの病気との関連を見ていきましょう。

糖尿病
「糖尿病と認知症の関連」はいくつかの研究があり、糖尿病は認知症のリスクを上げるとされています*4。糖尿病は、血管を硬くする動脈硬化や、インスリン分解酵素を過剰に消費することから認知症のリスクを高めるといわれています。血管性認知症やアルツハイマー型認知症など、さまざまな認知症に関わりが深いため、すでに糖尿病を発症している場合は、より注意が必要でしょう。

脂質異常症
脂質異常症とは、中性脂肪やコレステロールなど、脂質代謝に異常をきたした状態です。この状態が続くと余分な脂質が血管内に溜まり動脈硬化を起こします。動脈硬化とは、血管の弾力が失われた状態のことです。脳梗塞や脳出血のきっかけとなり、結果として認知症のリスクを高めます。

高血圧
血圧とは「血液が動脈を押す力」です。高血圧はこの力が一定以上かかっている状態で、動脈硬化のリスクを高めるといわれています。動脈硬化は脳梗塞や脳出血・くも膜下出血などのきっかけとなり、結果として認知症のリスクを高めます。

脳卒中
脳卒中は、脳の血管が詰まったり、破れたりする病気です。前述した脳梗塞や脳出血・くも膜下出血を指し、脳に損傷を受けるとその部分の機能が低下します。脳卒中による認知症は、新規の脳卒中を繰り返すことで段階的に症状が進むケースがあるため、再発防止に向けた対策が重要であり、罹患後の経過にも注意が必要です。

脳挫傷
脳挫傷による認知症の症状は、頭部への衝撃により脳自体が損傷を受けることで起こります。脳が損傷すると機能低下が起こり、物事を覚えられない記憶障害や「集中できない、気を付けられない」といった注意障害などの症状が見られるケースがあります。

慢性腎不全
腎臓は、血液をろ過して老廃物を体外に尿として排出し、必要なものは体内に再吸収する臓器です。慢性腎不全は、腎臓の機能が正常に働かなくなった状態で、毒素を体外に排出できず、重症度によっては生命に危険を及ぼします。

透析患者を対象にした研究から、慢性腎不全となった場合も脳の萎縮から認知症を発症するリスクが高いといわれています。その要因として、透析患者の脳への血流が一般の方よりも緩やかである点や、貧血を合併している場合は脳の循環や酸素代謝に関する障害がある点などが報告されています*5

聴力の低下
聴力の低下も認知機能低下に関連があるといわれています。聴力は触覚や視覚と同様に大切な感覚の一つ。機能低下によって脳への刺激が減ることになります。また、難聴によって社会や他者との交流が面倒になり、そういった機会が減少するのも問題です。

発症リスクを高めるといわれている生活習慣

ここまでに紹介した「高血圧」「糖尿病」「脳卒中」などは、生活習慣病ともいわれ、文字通り「日々の生活習慣の乱れ」が深く関わっています。具体的には下記の通りです。

  • 栄養バランスが偏った食事
  • 過度な飲酒・喫煙
  • 運動不足
  • 睡眠不足

こうした生活習慣の乱れは病気のリスクを高めることにつながり、認知症のきっかけとなりかねません。健康的な生活を維持するためには、日ごろから規則正しい生活習慣を意識しましょう。

予防に効果的な対策とは?

認知症予防に際してまず注意したいのが、持病があるケースです。生活習慣病を含めて何らかの疾患を持っている場合は、セルフケアで対応せず、必ず治療を優先しましょう。

では、具体的にはどのように取り組めば良いのでしょうか。生活習慣に関連する「食事」「運動」「睡眠」「頭を使う活動」それぞれの観点から詳しく解説します。

食事

食卓のイメージ

まず大切なのが「食事」です。関連する栄養素とそれを多く含む食材の例を見てみましょう。

栄養素 多く含む食材
DHA、EPA*6 青魚(サバ、サンマ、マグロなど)*7
ビタミンC*8 アセロラ、ゆず、キウイフルーツ、ピーマン*9
ビタミンE*10 ナッツ類、ほうれん草、ブロッコリー*11
βカロチン(ビタミンA)*12 乳製品、魚、肉(特にレバー)*13
ポリフェノール*14 赤ワイン、緑茶、コーヒー*15

DHA、EPAは脳に多くある成分で、認知機能低下の低減を期待できます。血栓予防や降圧作用などもあり、生活習慣病全般へのアプローチも期待できるでしょう。

また、ビタミンC、ビタミンE、βカロチンは「活性酸素」を除去する抗酸化作用があるといわれています。活性酸素は動脈硬化などの原因になるといわれており、除去することで生活習慣病の予防につながります。

ポリフェノールも上記同様に抗酸化作用や、認知症の原因となるアミロイドβの蓄積を抑える作用が報告されています。

ただし、これらの栄養素だけを摂取すればいいというわけではありません。サプリメントではなく、食事を通して栄養をバランスよく摂ることを心がけましょう。

食事のポイントについて、詳しくは下記の記事もあわせてご覧ください。

👉[h認知症予防に効果的な食べ物は? OK・NGな食材を紹介 - lala a live(ララアライブ)│フォーネスライフ]

運動

運動する夫婦

脳の血流上昇、活性化のために重要とされるのが「身体活動」です。認知症予防の運動は有酸素運動が望ましいとわれており、国立長寿医療研究センター「運動による認知症予防へ向けた取り組み(PDF)」では、週3回以上の運動習慣を持っていた高齢者は認知症になるリスクが低くなる、と発表されています。ウォーキングや軽いランニングなどを無理せず継続すると良いでしょう。

また、体調によって歩けない場合は皮膚をさすったり、関節を動かしたりするだけでも脳に刺激を与えられます。

運動習慣のつけ方について、詳しくは下記の記事もあわせてご覧ください。

👉認知症予防のためのトレーニングとは? 続けやすい運動習慣や脳トレも紹介 - lala a live(ララアライブ)│フォーネスライフ

睡眠

眠る女性

睡眠は認知症予防において重要です。睡眠の質とアルツハイマー型認知症の関連を調査した研究*16では、睡眠効率が悪い場合、正常者に比べて認知症の原因となるアミロイドβの沈着リスクが高いことが分かっています。また、睡眠時に呼吸が一時的に止まってしまう「睡眠時無呼吸症候群」は、認知機能低下と関連しやすいといわれています。

これらのことから、夜間帯にしっかりと時間を確保して良質な睡眠を取る必要があるといえるでしょう。

質の良い睡眠をとるコツについて、詳しくは下記の記事もあわせてご覧ください。

👉認知症と睡眠の関連は? 発症や症状への影響と改善方法を解説 - lala a live(ララアライブ)│フォーネスライフ

頭を使う活動

読書をする男性

日常のさまざまな活動を通して「考える」「記憶する」などの頭を使う活動は、脳を刺激します。読書、楽器演奏、ボードゲームなどの余暇活動は認知症リスクを低下させるという研究があります*17

自宅にこもってしまうと刺激がなくなるので、定期的に外出して社会参加できるよう意識しましょう。また「会話すること」にも脳を刺激する効果があるといわれています。対面が難しい場合は電話でもかまいません。できるだけ人とのつながりを持てるような生活を意識しましょう。

頭を使う活動としては、脳トレがあります。詳しくは下記の記事もあわせてご覧ください。

👉認知症予防に脳トレを取り入れよう。期待できるメリットとおすすめのトレーニング方法 - lala a live(ララアライブ)│フォーネスライフ

早めの対策で、発症リスクは下げられる

ここまで解説してきた通り、認知症の対策は40代から始めることがおすすめです。早期発見して対応することも大切ですが、病気にかかる前に生活習慣や疾患など「発症に関連したリスク」を見つけて改善することも重要です。また、検査によって事前に認知症になるリスクがある程度予想できれば戦略的に対策が立てられるでしょう。

編集:はてな編集部
編集協力:株式会社エクスライト


フォーネスライフが提供する「フォーネスビジュアス」では、認知症や脳卒中、慢性腎不全などの疾病リスクを発症前に予測する検査が受けられます。検査結果に応じて、専属のコンシェルジュによる生活習慣改善のためのアドバイスも行っています。現在の生活で不安がある方は、まずはこちらからサービス内容を確認してみてはいかがでしょうか。

認知症のリスク、調べてみませんか?

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*1:参考:40歳時の運動不足が脳の萎縮につながる 認知症予防のために運動が必要 | ニュース | 保健指導リソースガイド

*2:参考:認知症診療ガイドライン2017(PDF)

*3:参考:若年性認知症の有病率・生活実態把握と多元的データ共有システム(PDF)

*4:参考:糖尿病合併症としてのアルツハイマー病(PDF)

*5:参考:慢性腎臓病における認知機能障害と脳萎縮(PDF)

*6:参考:Serum docosahexaenoic and eicosapentaenoic acid and risk of cognitive decline over 10 years among elderly Japanese - PMC

*7:参考:サバやサンマなど魚のDHAとEPAが認知機能の低下を低減 | ニュース | 保健指導リソースガイド

*8:参考:Higher Blood Vitamin C Levels are Associated with Reduction of Apolipoprotein E E4-related Risks of Cognitive Decline in Women: The Nakajima Study

*9:参考:厚生労働省eJIM | ビタミンC[サプリメント・ビタミン・ミネラル - 一般]

*10:参考:厚生労働省eJIM | ビタミンE[サプリメント・ビタミン・ミネラル - 一般]

*11:参考:厚生労働省eJIM | ビタミンE[サプリメント・ビタミン・ミネラル - 一般]

*12:参考:国立長寿医療研究センター もの忘れセンター「認知症と栄養」(PDF)

*13:参考:厚生労働省eJIM | ビタミンA[サプリメント・ビタミン・ミネラル - 医療者]

*14:参考:Green tea and coffee intake and risk of cognitive decline in older adults: the National Institute for Longevity Sciences, Longitudinal Study of Aging - PMC

*15:参考:ポリフェノールの種類と効果と摂取方法 | 健康長寿ネット

*16:参考:「第120回日本耳鼻咽喉科学会総会シンポジウム」耳鼻咽喉科としての認知症への対応 睡眠からアプローチする認知症予防(PDF)

*17:参考:高齢者の余暇活動と認知症のリスク