ほとんどの認知症は根本治療の方法が見つかっていないため、一度発症してしまうと症状を抑えるのが困難です。そこで重要なのが、発症前にできるだけ予防すること。近年、認知症予防には食事が深く関わっていることが分かってきました。
本記事では、認知症の予防に有効とされる食事方法やおすすめの食べ物、避けたい食材などをご紹介します。
目次
こんな人におすすめ
- 自身や身近な人に認知症の不安を感じている人
- 認知症を予防したいと考え、自分で対応策を調べている人
- 認知症の予防につながる生活習慣(特に食生活)を知りたい人
食生活の改善が認知症予防につながる?
認知症の発症リスクを高める原因の1つに、偏った食生活があります。
脳は、総エネルギー摂取量の20〜25%のブドウ糖を消費すると言われ、さらにビタミンB群や葉酸、カルシウム、亜鉛など、さまざまな栄養素が脳の代謝や情報伝達に関わっています。偏った食事によって必要な栄養素が不足すれば、それだけ脳の機能に影響を及ぼすといえるでしょう。
また、認知症の発症リスクを高める疾患として高血圧や糖尿病などの生活習慣病が挙げられます。加えて、肥満も認知症発症の危険因子として知られており、体の健康とともに脳の健康を保つためには、食生活を含めた生活習慣の改善が必要なのです。
近年、DHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)などの不飽和脂肪酸、ポリフェノールなどの抗酸化物質が認知症予防に有効だという研究もあります*1。食生活を見直して生活習慣病や肥満を防ぎ、認知症予防に効果的な食材を積極的にとることを意識しましょう。
予防に効果的な食事とは
では、具体的にどのようなことに気をつければよいのでしょうか。認知症予防に効果があると言われる食事のポイントを見ていきましょう。
バランスのよい食生活
認知症予防には、主食・主菜・副菜の揃ったバランスのよい食事をとることが大切です。実際に、日々の食事でいろいろな食品を摂取している人は、そうでない人に比べて認知機能低下のリスクが減少するという報告もあります*2。炭水化物、タンパク質、脂質、ビタミン・ミネラルといった栄養素がバランスよく含まれた食事を、規則正しく食べることがおすすめです。
適正な摂取カロリー・食事量
肥満は、認知症の発症リスクを高める高血圧や、糖尿病の原因にもなりますので注意しましょう。特に中年期(40〜64歳)では、肥満が認知症の発症リスクを高めることが分かっています。
肥満を防ぐために、摂取カロリーや食事量を適切に保つことが不可欠です。1日に必要な摂取カロリーは年齢や体格、性別、身体活動レベルによって異なりますので、日本医師会の「推定エネルギー必要量」を参考に、自分や家族に必要なエネルギー量に応じて食事の内容や量を検討しましょう。
ただし、高齢になると食が細くなりがちで、肥満よりも痩せや筋肉量低下のリスクが高まる傾向にあります。65歳を過ぎたら、太ることだけでなく、痩せ過ぎないことにも注意しておきましょう。
塩分をとり過ぎない
塩分のとり過ぎは高血圧の原因になります。高血圧が脳梗塞を引き起こすと、それが脳血管性認知症の引き金になることがあるため、注意が必要です。また、高血圧はアルツハイマー型認知症の発症も促進させることが知られています。
1日の食塩摂取量の目安は、男性7.5グラム未満、女性6.5グラム未満。高血圧の予防・治療のためには6グラム未満とされています。さらに、認知機能低下を予防する観点からは、5グラム未満であることが理想的です*3。
たとえば一般的なラーメンなら、塩分含有量は約8.7グラム(スープを残せば約3.7グラム)。カレーライスには約3.7グラム、肉じゃがには約3.0グラムの塩分が含まれています*4。減塩タイプの調味料を選ぶ、レモンや酢、スパイスなど、塩分以外で味付けするといった工夫を取り入れ、塩分をとり過ぎないように気をつけましょう。
糖質をとり過ぎない
糖尿病が認知症発症の引き金になることは先述したとおりですが、高齢の糖尿病患者では、食後の血糖値が高いほど認知症になりやすいという報告があります*5。適切な糖尿病治療によって血糖値を改善すると一部の認知機能も改善することが分かっており、認知症と血糖値の関連性が示唆されています。
糖質のとり過ぎは急激な血糖値上昇を招き、糖尿病をはじめとした生活習慣病や肥満の原因となって認知症の発症リスクを高めることにつながります。ただし、糖質は脳にとっても体にとっても不可欠な栄養素。健康な人の場合、総エネルギーの5〜6割程度を糖質(炭水化物)でとることが推奨されています。過剰摂取に気をつけながら、適度に糖質をとるようにしましょう。
【特にとり過ぎに気をつけたい食品類】
- ケーキやチョコレートなど、砂糖が多く含まれたお菓子類
- 菓子パンや加工食品
- 甘味料が加えられた清涼飲料水、ジュース
予防に効果的な食べ物
次に、認知症の発症リスクを抑えると言われている食べ物をご紹介します。
サンマ・イワシなどの青魚
青魚には、不飽和脂肪酸であるDHAやEPAが多く含まれます。脳を構成する成分であるDHAは、記憶力・判断力向上に効果があり、特にアルツハイマー型認知症の予防に効果があるとも言われます*6。また、EPAは血管を拡張して血行を促進する作用があり、生活習慣病の予防につながります。
緑黄色野菜
にんじんやほうれん草など、緑黄色野菜に含まれるビタミンE、ビタミンC、βカロテンが持つ抗酸化作用が認知症の発症を抑制するほか、認知症の危険因子となる生活習慣病を予防すると考えられています。また、緑黄色野菜に含まれる葉酸やカリウムにも、認知症の危険因子となる生活習慣病を予防する働きがあります。
果物
ビタミン類が豊富な果物には、認知症の危険因子となる生活習慣病を予防する働きがあります。果物に含まれるビタミンE、ビタミンCが持つ抗酸化作用も認知症予防に有効です。
果物は糖質が豊富ではありますが、加工されていない生の状態を適度に食べるくらいであれば、そこまで摂取量を意識しなくてもよいでしょう。気になる方は、キウイ、りんご、なし、いちごなど血糖値が上がりづらい果物を選んでみてはいかがでしょうか。
ぶどう、パイナップル、マンゴー、バナナ、みかんといった血糖値が上がりやすい果物については食後に食べるか、血糖値上昇を抑える成分が含まれたヨーグルトなどと一緒に食べるとよいでしょう。
オリーブオイル・ナッツ
WHO(世界保健機関)のガイドラインでは、野菜、果物、魚、オリーブオイル、豆類、穀物を中心として、飽和脂肪酸を多く含む肉類や乳製品を控える地中海食(イタリア料理・スペイン料理など地中海沿岸諸国の食事・食習慣)が認知症予防になるという説を取り上げています*7。とりわけ、地中海食に欠かせない食材である、オリーブオイルやナッツが、認知機能障害のリスクを低下させるという報告があります。
オリーブオイルやナッツには、不飽和脂肪酸であるオレイン酸が多く含まれています。オレイン酸には、血中コレステロールや中性脂肪をコントロールする働きがあり、動脈硬化や脳梗塞のリスクを低減することが報告されています*8。ただし、オリーブオイルやナッツはカロリーが高い食品です。オリーブオイルは1日大さじ2杯程度、ナッツは1日約25gを目安に摂取しましょう。ただし、オリーブオイルは脂質にあたるので、過剰摂取には気をつけてください。
カレー
カレーを食べる頻度が高い高齢者は、認知機能が良好に保たれているという報告があります*9。カレー粉に含まれるターメリック(ウコン)には、免疫細胞を活性化するクルクミンという成分が含まれており、認知症の予防に役立つとされています*10。
また、ターメリックのほか、クミンやコリアンダーなどカレーに使用されるスパイスには抗酸化作用があるものが多く*11、認知機能低下を防止する作用が期待できるうえ、認知症発症の要因となりうる生活習慣病の予防にも貢献します。
大豆・大豆製品
大豆製品と認知症の直接的な関連についてはまだ研究途上ですが、大豆に含まれるイソフラボンや納豆に含まれるナットウキナーゼなどに、認知機能の低下を抑える可能性があるという報告もあります*12。
チーズ
チーズの摂取が認知機能改善に効果的だという研究結果があり、とりわけカマンベールチーズの効果を示した報告が散見されています。加齢により低減する血中BDNF※濃度がカマンベールチーズ摂取により増加すること、カマンベールチーズに含まれるβラクトペプチドがアルツハイマー病を予防する効果があること、記憶力や注意集中力を改善する効果があることが報告されています*13。ただし、チーズには飽和脂肪酸が含まれているので、食べ過ぎには注意しましょう。
※BDNF:神経細胞の発生・成長・維持・再生を促進させる神経栄養因子で、認知機能との関連が指摘されている
コーヒー・緑茶
コーヒーに含まれるポリフェノールの一種であるクロロゲン酸には抗酸化作用があり*14、認知機能低下を予防する効果があると言われています。また、緑茶に含まれるカテキンには抗酸化作用や抗炎症作用があり、アミロイドβの蓄積を抑制するという報告も*15。さらに、コーヒーや緑茶に多く含まれるカフェインの認知症予防効果も期待されています*16。
赤ワイン
赤ワインには、アントシアニンやレスベラトロールといったポリフェノールが豊富に含まれており、高い抗酸化作用が期待できます。一日250~500ml程度のワインは、認知症の発症を抑えるという報告もあります*17。
発症リスクを高める食べ物
一方、認知症の発症リスクを高めるとされている食べ物もあります。どんな食べ物を控えるべきなのかをご紹介しましょう。
肉の脂身などの動物性脂肪
肉の脂身、ラードなどに含まれる飽和脂肪酸のとり過ぎは、認知症発症にかかわる生活習慣病の要因となります。
トランス脂肪酸を多く含む食品
トランス脂肪酸は、加工食品、ファストフード、スナック食品、揚げ物、冷凍ピザ、パイ、クッキー、ビスケット、ウエハース、マーガリン、スプレッドなどに含まれており、とくに工業的に生産されたこれらのトランス脂肪酸は、健康食の成分にはならないと、WHOのガイドラインで勧告されています。このトランス脂肪酸のとり過ぎが、認知症の発症リスクを上昇させる可能性があると報告されています*18。WHOは、1日当たりのトランス脂肪酸の平均摂取量を、最大でもエネルギー摂取量の1%未満に抑えるよう勧告しており、できるだけ控えたい食品です。ただし、近年では食品中のトランス脂肪酸含有量は減少傾向にあるとされています。
認知症予防におすすめの料理ジャンルは?
認知症を予防するために取り入れたい料理のジャンルをご紹介します。
DASH食
DASH食とは、主に高血圧の予防・改善を目的とした療養食のことをいいます。「Dietary Approaches to Stop Hypertension(高血圧を防ぐ食事方法)」の略で、不足しがちなカリウム、カルシウム、マグネシウム、食物繊維、タンパク質を増やし、飽和脂肪酸とコレステロールを減らすよう、食材の組み合わせを改善するという食事方法です。
DASH食で推奨される食材は、ビタミンや食物繊維が豊富な「野菜、果物」、ミネラルが豊富な「海藻類」、不飽和脂肪酸が豊富な「青魚」、タンパク質と食物繊維が豊富な「豆類」、カルシウムが豊富な「乳製品」、ミネラルやカリウム、マグネシウムが豊富な「ナッツ類」です。これらの食材を組み合わせ、栄養バランスのとれた食事をとります。和食にも多く取り入れられる食材なので、日本人には比較的実践しやすい方法です。
和食
米飯を主食とし、汁物、魚や肉などの主菜、野菜を主体とした副菜を添える和食は、世界でも珍しい食事様式です。
メリットは主食・主菜・副菜がバランスよく整っており食品摂取の多様性が高いこと。豆類・大豆製品、野菜・海藻類、乳類・乳製品、魚類、きのこ、漬物、緑茶を摂取できる日本型の食事は、それぞれ認知症発症抑制因子であることも報告されています。また、比較的カロリーを抑えやすい点もメリットとなるでしょう。
ただし、和食はみそ汁や醤油などで塩分が高くなりがちです。醤油はかけるのではなくつける、出汁の味わいを生かすなどの工夫をしましょう。また、白米を中心に献立を考えると糖質のとり過ぎにもつながるので、摂取量やカロリーに気をつけて食べるようにしてください。
地中海食
前述したとおり、野菜や魚、オリーブオイル、豆類、穀物を中心に、肉類や乳製品を少量摂取する地中海食は認知症予防になるという報告があります。不飽和脂肪酸を多く含むオリーブオイルや魚をよく食べ、飽和脂肪酸を含む肉類を控える、食物繊維の多い野菜や未精製の穀物を多く摂取するなどの食生活が、認知症予防に効果があると言われています*19。
ただし、食文化が欧米と大きく異なる日本では、地中海食を日常的に取り入れるのは難しいかもしれません。一方で和食は上記の通り塩分摂取量が多いことに加え、世界の中では油脂類の摂取量が少ないという特徴をもっています。
以上から、和食をベースに考えつつ、適量のオリーブオイルやナッツ類を食生活に取り入れるとよいでしょう。
誰かと一緒に、食事の時間自体を楽しむ
望んでいないのに一人で食事をすることを「孤食」といいます。高齢者の「孤食」が続くと、十分な栄養素が摂れない、他者とのコミュニケーションが減るなどの要因から、認知症の発症リスクが高まると言われています。
食事は毎日の暮らしに彩りを与えるものです。家族や友人と楽しく食卓を囲み、食事そのものを楽しむことが、脳にとってもよい刺激となるでしょう。
バランスのよい食事で認知症を予防しよう
認知症予防には、食事の改善・見直しが不可欠です。バランスのとれた食事を規則正しくとることを心がけながら、食事自体を楽しむ工夫をしましょう。さまざまな研究によって、認知症に効果的な食材や避けたい食材が指摘されているので、自分の食事には何が足りないか、何が多いかを考えながら食卓を整えてみてください。
編集:はてな編集部
編集協力:株式会社エクスライト
食生活の改善は、分かっていてもなかなか難しいもの。自分では改善方法が分からない、続けられる自信がないという人は、プロに頼ってみてもよいかもしれません。フォーネスライフが提供する疾病リスク予測サービス「フォーネスビジュアス」では、20年・5年以内(※5年以内は65歳以上が対象)の認知症をはじめとした各種疾病のリスクを予測できます。さらに、結果に応じてコンシェルジュ(保健師)が生活習慣改善方法をご提案するので、自分に合った食事内容の改善ができます。
認知症のリスク、調べてみませんか?
*1:国立研究開発法人国立長寿医療研究センター すこやかな高齢期をめざして No. 46「緑茶にする?コーヒーにする? ~認知機能との関連性~」
*2:参考:国立研究開発法人国立長寿医療研究センター「あたまとからだを元気にするMCIハンドブック [PDF]」
*3:参考:WHO guidelines「Risk reduction of cognitive decline and dementia」
*4:参考:長野県「よく食べる料理の塩分量の目安 [PDF]」
*5:参考:国立国際医療研究センター 糖尿病情報センター「認知症」
*6:参考:橋本道男「食事・運動と認知症予防 [PDF]」(2015)
*7:参考:WHO guidelines「Risk reduction of cognitive decline and dementia」
*8:参考:北里大学「脂質について知りましょう [PDF]」
*9:参考:ハウス食品グループ本社株式会社「日本人の中高齢者で、カレーの長期的かつ頻繁な摂食と 良好な認知機能との関係を確認 [PDF]」
*10:参考:新潟大学脳研究所「クルクミン誘導体によるアミロイドβ凝集体の解毒」
*11:参考:日本安全食料料理協会「スパイスの効能と効果」
*12:参考:下方浩史「認知症の要因と予防 [PDF]」(2015)
*13:参考:Suzuki T, et al: J Am Med Dir Assoc, 20 (12):1509-1514.e1502 (2019)
*14:参考:河野洋一・藤田和弘「コーヒー豆中のクロロゲン酸類と総ポリフェノールの分析 [PDF]」(2016)
*15:国立研究開発法人国立長寿医療研究センター すこやかな高齢期をめざして No. 46「緑茶にする?コーヒーにする? ~認知機能との関連性~」
*16:参考:新潟大学医学部医学科「日本人高齢者におけるコーヒー、緑茶、カフェインと認知症リスクの関連」
*17:参考:下方浩史「認知症の要因と予防 [PDF]」(2015)
*18:参考:本田隆則ほか「Serum elaidic acid concentration and risk of dementia/The Hisayama Study」(2019)