脳力トレーニング(脳トレ)は、認知症予防の効果が期待できると言われています。運動や食生活の改善など、生活習慣を整えることも認知症予防には重要ですが、それらにプラスして計算力や判断力、注意力などを鍛えるクイズやゲーム、日記を書くといった脳トレは日常生活に新たに取り入れやすいので、ぜひ実践したいところ。
本記事では、なぜ脳トレが認知症予防につながるのかという理由と、おすすめの脳トレの紹介や実践する際のポイントについて解説します。
こんな人におすすめ
- 認知症予防に効果的とされる脳トレの方法を知りたい人
- おすすめの脳トレを知りたい人
脳トレは認知症の予防に効果がある?
脳力トレーニング、通称「脳トレ」は、認知症の予防に良い影響を与えると考えられています。
脳トレは、脳内の血流を促進させたり、神経細胞を活性化させたりといった作用があるとされており、脳の健康を保つための大事な要素です。
実際に脳トレを行うことで期待できるとされている、主な3つのメリットを紹介します。
脳が活性化される
脳トレによる脳への刺激は、脳の血流が改善し、脳の各部分への酸素供給が増え、全体的な脳の機能を向上させます。
血流の改善は、脳の神経細胞の活性化にもつながり、脳の情報伝達を担うシナプスの働きを促進。それにより神経細胞間の通信を強化し、認知機能の向上に重要な役割を果たすと言われています。
特に、新しいことへの挑戦など、さまざまな種類の活動を通じて脳を刺激することが重要です。
ストレス発散になる
新しく学んだことができるようになったとき、難しい問題や分からなかった問題が解けたとき、特別な満足感や達成感を得られます。
脳トレを通じてこのような挑戦をすることで脳に刺激が加わるだけでなく、気分的にもリフレッシュでき、ストレス発散にもつながります。
他者とコミュニケーションを取る機会になる
人との会話や交流をすることは、認知症の発症や進行予防の上で重要とされています。
誰かと一緒に脳トレに取り組むことは、ただ単に認知機能を刺激するだけではありません。このような共同の活動は、他者とのコミュニケーションの機会を生み出し、社会的なつながりを深められます。
人々との良好な関係は孤独感を軽減し、認知症の予防においても重要な役割を果たすでしょう。
認知症予防におすすめの脳トレ
年齢を重ねるにつれて、初期に衰えやすい主な脳の機能(認知機能)は次の2つです。
- 実行機能*1
- 頭の中で計画を組み立て、適切に実行する能力のこと。日常生活の中で、順序立てて物事を行うときに必要な機能です。
- 地誌的見当識*2
- 場所や地理に関する認識機能のこと。自宅の間取りを思い出す能力や、知っている道で迷わない能力が含まれます。
また、年齢を重ねるとともに「物忘れ」を経験することが多くなります。「物忘れ」には、加齢によるものと、認知症によるものがあり、それぞれ違いがあります。
加齢による場合は、出来事の一部分が思い出せませんが、認知症の症状による物忘れの場合は、「いつ、どこで、何をした」という出来事の記憶(エピソード記憶)に障害が現れ、体験した全てを忘れてしまうのが特徴です。
認知症予防には、これらの機能を刺激し、維持するための脳トレを取り入れるとよいでしょう。続いて、おすすめの脳トレを紹介します。
計算問題
単純な足し算では、脳に十分な刺激を与えることは難しいため、繰り下がりのある引き算など、より複雑な計算問題に取り組むようにしましょう。
繰り下がりの引き算では、隣の位から数を借りてきて計算を行う必要があるため、より高度な思考力が求められます。
このように複数の事柄を記憶しながら状況に合わせて適切な処理をすると、脳の実行機能に刺激が加わります。また、異なる計算問題を試したり、速さを競ったりすることで、より多様な刺激を脳に与えることが可能です。
迷路やVRのゲーム
地誌的見当識(場所や地理に関する認識能力)を鍛えるためには、迷路ゲームや地図を読む活動が効果的です。これらの活動は、自分の位置を把握し、周囲の環境に対する理解を深める能力が向上します。さらに、迷路を早くゴールするといった挑戦をするなど、新たな刺激を得る工夫をするとよいでしょう。
また、昨今の技術革新により、VR(バーチャルリアリティ:仮想現実)を用いた脳トレが注目されています。
VRは、実際には存在しない仮想の空間に没入し、リアリティのある体験ができる技術です。この仮想空間内での活動は、現実の世界とは異なる環境下での認知能力を鍛えることに役立ちます。例えば、VRを用いた迷路ゲームや、仮想の環境での方向感覚を試すゲームなどです。これらのゲームを使用した地誌的見当識を含む認知機能の維持向上を目的とした実証実験も行われています*3。
神経衰弱などのゲーム、昨日の日記を書く
日常生活や業務で脳の機能を最大限に活用するためには、記憶力を鍛えることが重要です。下記に記憶力を向上させる脳トレの例を挙げているので、ぜひチャレンジしてみてください。
- 神経衰弱などの記憶ゲーム
- 神経衰弱のようなカードゲームは、一致するペアを記憶して見つけ出す必要があります。これは記憶力だけでなく、注意力も同時に鍛えられる良い例です。
- 日記を書く
- 昨日の出来事を振り返りながら日記を書く活動は、過去を思い出すことで記憶力を鍛えられます。これにより、エピソード記憶(特定の出来事の記憶)が強化されます。
- パズルや頭脳ゲーム
- 数独やクロスワードパズルなどの頭脳ゲームは、脳を活性化させると同時に、集中力や思考力を高めるのに役立ちます。
これらの活動を日常的に行うことで、記憶力だけでなく、集中力や注意力、思考力の向上にも期待できるでしょう。
麻雀などのボードゲーム
高齢者を対象とした研究では、麻雀を週に2回、1回1時間、12週間行うことで、全般的な認知機能や短期記憶の維持に一定の効果が認められました。しかし、その効果がゲーム自体によるものなのか、対戦相手との交流によるものなのかは不明で、さらなる検証が必要とされています*4。
また、ボードゲームが認知機能に及ぼす効果に関する研究は短期間のものが多く、長期的な効果は明らかではありません。ただ、自然と人との交流を生みやすく楽しみながらできるので、気軽に取り組めるという点からおすすめです。
脳トレをする際のポイント
脳は非常に賢く、同時に怠け者でもあります。新しく刺激的な情報に対しては敏感に反応しますが、同じ情報が繰り返されるとすぐに飽きてしまいます。そのため、頭脳を鍛えるには新しい刺激を絶えず取り入れ続けることが重要です。
この性質を考慮すると、下記の3つが重要になります。
それぞれのポイントについて解説します。
バラエティーに富んだものを取り入れる
脳を最大限に活用し、神経系の働きを良くするためには、常に新しい刺激を取り入れることが重要です。次の点に注意するとよいでしょう。
- 多様なトレーニングを取り入れる
- 1種類の脳トレだけに偏らず、パズル、言語学習、数学問題、クリエイティブな活動など、さまざまな知的挑戦に取り組むことが推奨されています。
- 新しい経験を積極的に追求する
- 新しい趣味やスキルを学ぶ、旅行をする、新しい文化や言語に触れるなど、日常生活の中で新しい経験を積極的に求めることも脳トレの一環となります。
これらの活動を通じて、脳は常に新しい環境に適応し、思考力や想像力を継続的に向上させられます。多様な脳トレは脳の健康を保ち、認知機能の維持に重要な役割を果たします。
できないことや失敗を気にしない
脳トレは、難問を解くことが最終目的ではありません。むしろ、新たなチャレンジに取り組む過程を楽しむことが大切です。年齢を重ねるとともに、何かを新しく学ぶのが億劫(おっくう)だったり、以前はできたことを難しく感じたりするのは自然なこと。
しかし、このような変化を恐れる必要はありません。失敗やできないことを気にし過ぎず、新たにできるようになったことに目を向けましょう。
継続することが重要
脳トレは、短期間で難易度の高いトレーニングに挑戦するよりも、簡単なトレーニングを日常的に継続する方が効果的です。続けていくためにも、下記のようなアプローチを心がけましょう。
- 毎日の小さな習慣
- 短時間のトレーニングでも毎日積み重ねることで、長期的に脳の機能を強化することが期待できます。
- 社会的なつながりを利用する
- 一人で脳トレをするよりも、友人や家族と一緒に行うことでモチベーションを高められます。他者との交流はサポートと刺激を得られ、楽しく取り組むことができ、継続しやすくなります。
- 結果に焦らず取り組む
- 小さな成果を積み重ねることが大切。継続的な努力は、長い目で見たときに大きな成果となって現れるはずです。
このようなアプローチをすることで、脳トレの継続性を高められます。友人や家族の協力を得ながら、楽しく効果的に脳を鍛えましょう。
楽しみながら取り組んでメリハリのある毎日を
脳トレはすぐに始められるものも多くあります。本記事でおすすめした脳トレ方法をきっかけに、無理せず楽しみながら継続することを心がけるようにしましょう。
編集:はてな編集部
編集協力:株式会社エクスライト
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認知症のリスク、調べてみませんか?
*1:参考:国立研究開発法人国立長寿医療研究センター「あたまとからだを元気にするMCIハンドブック」 [PDF]
*2:参考:日本神経学会「自己中心的地誌的見当識障害と道順障害―新しい視空間認知機能検査card placing testによる評価―」(臨床神経, 56:837-845, 2016)
*3:参考:株式会社ジェイ・エス・ビー「VR脳トレーニングゲームを活用、海外先端企業と取り組む 認知機能の維持向上を目的とした実証事業を運営の高齢者住宅にて開始 ~「グランメゾン迎賓館京都桂川」にて、日本貿易振興機構・京都市協力~」
*4:参考:国立研究開発法人国立長寿医療研究センター「あたまとからだを元気にするMCIハンドブック」 [PDF]の「Q23 ボードゲーム」(60ページ)