認知症はトレーニングで予防。今日から始める運動習慣で認知症のリスクを軽減しよう

認知症はトレーニングで予防。今日から始める運動習慣で認知症のリスクを軽減しよう

認知症はこれまで、「予防できない病気、治らない病気」といわれてきました*1。しかし近年、少しずつ研究が進み、運動やトレーニングを適切に行えば認知機能の低下を予防できる可能性があることが分かりつつあります。本記事では認知症の予防に有効とされる運動の情報を中心に「認知症を予防するためのトレーニング」を紹介します。

(監修者)矢島隆二 先生

総合リハビリテーションセンター みどり病院 副院長 兼 認知症疾患医療センター副センター長

脳神経内科・認知症・総合内科等専門医。新潟大学医学部卒業後、高度急性期医療から地域の総合病院まで幅広く臨床経験を積み重ね、新潟大学附属脳研究所で認知症の研究を行い、医学博士を取得。現在は認知症や神経難病を中心に、リハビリテーションにも重点を置いた神経内科の臨床現場で活動中。認知症や神経難病などの治験も行うかたわら、講演や執筆にも精力的に取り組む。

こんな人におすすめ

  • 認知症に対する不安を抱え、どうすれば予防できるのか知りたい人
  • 自身や身近な人に認知症の兆しを感じ、症状の進行を緩やかにしたいと考えている人

運動は認知症の発症予防に有効

認知症の発症リスクを高めたり、症状の進行を早めたりする原因の一つに「運動不足」が挙げられます。認知症ではない人が5年後に認知症を発症する原因を調べた調査では、定期的な運動(週3回・週2時間以上)をしていた人は、そうでない人に比べて認知症のリスクが約3割低くなるという結果が示されています*2

さらにWHOのガイドライン*3でも、65歳以上の人が定期的な運動を行うことで、認知症のリスクが下がることを示唆しており、積極的に体を動かすことが発症・進行の予防につながると考えられます。

また、体を動かすトレーニングだけではなく、頭を使ったトレーニングも認知症の予防に有効だとされています。パズルやボードゲームなどのいわゆる「脳トレ」に1日1時間以上・週6時間以上取り組むと、発症リスクが減る可能性が指摘されています*4

予防に効果的な運動とは

認知症はトレーニングで予防。今日から始める運動習慣で認知症のリスクを軽減しよう

運動が認知症予防に効果的なのは、体を動かすことで全身の血流が増え、脳の血流量が増加することが関係しています。加えて運動には、認知機能の低下に影響を与える「うつ症状」を減らしたり、「睡眠」を良好にしたりする効果もあります*5。こうしたさまざまな効果が影響して認知機能の向上につながり、予防効果を得られると考えられているのです。

数ある運動の中でも、特におすすめなのが有酸素運動です。必要に応じて筋力低下を防ぐための軽い筋トレを加えると、さらに効果が期待できるでしょう。

有酸素運動

有酸素運動とは、ウォーキングやジョギング、ダンスのように、全身を用いて一定時間、継続的に行う運動のことをいいます。有酸素運動と認知機能の関係を検討した研究の多くでは、全般的認知機能、実行機能、言語に対して改善効果が認められています*6

認知症予防のためには、有酸素運動を1回あたり10分以上、週に合計150分以上行うことが推奨されています*7。150分=2.5時間と聞くと身構えてしまうかもしれませんが、1週間(7日間)で考えると、1日あたり約20分です。毎日お買い物がてら歩いたり、階段を積極的に使ったりするだけで達成できる程度の運動量なので、気負わずに実践してみましょう。

筋トレ

筋肉に負担をかけて行う運動(筋トレ)にも、認知機能全般や注意力、言語力に対する改善効果が認められています*8。高齢者の場合、日常生活での活動量が減少し、筋力が低下する傾向があるため、意識して筋トレを行い、筋力の低下を防ぐことも大切です。

高齢者の筋トレは、筋肉が大きく鍛えやすい下半身のトレーニングを中心に行うのがよいでしょう。壁やテーブルなどにつかまり、30秒を目標に片足立ちをするトレーニングや、イスに座ったり立ち上がったりをゆっくり5~6回繰り返すスクワットのようなトレーニングなどは「ロコモ体操」と呼ばれ、自宅でも簡単に行えるので取り組みやすい方法です。

また、有酸素運動と筋トレを組み合わせて行うのもおすすめです。その場合、まずは有酸素運動を行って体を温めてから筋トレをすると、運動効果を得やすく、ケガの予防にもつながります。

週3回以上のトレーニングがおすすめ

認知症はトレーニングで予防。今日から始める運動習慣で認知症のリスクを軽減しよう

トレーニングを行う頻度と認知機能との関係を調査した研究によると、認知機能全般を向上させる効果は、運動を週3回以上行った場合に有意に現れることが分かっています*9。まずは、自分に合った運動を週3日以上、週に合計で150分以上続けることを目指し、定期的にトレーニングをしてみましょう。その際、以下のようなポイントに気をつけてみてください。

半年以上は継続して運動しよう

いくつかの調査では、長期(24週間以上)にわたって運動を続けた場合には全般的認知機能、実行機能への効果が認められたものの、運動を続けた期間が24週間未満の場合には認知機能の改善が認められないという結果が出ています*10。24週間は、分かりやすく言うと約半年間です。したがって、認知症予防のためには週3回以上の運動を半年以上継続することを心がけましょう。

日常生活の中でできる運動を取り入れる

半年以上にわたり週3回以上の運動を続けるには、自分が継続しやすい運動を選択することが大切です。継続できるか心配な人は、できれば日常生活の延長で行える運動を取り入れていきましょう。

先ほども紹介した、買い物ついでの散歩のほか、テレビを見ながら足踏みをしたり、家の中を大きく動きながら掃除したりするのもおすすめです。また、ラジオ体操をしっかり行うこともよい運動になります。朝起きたとき、昼の休憩のときなど、時間を決めて取り組みやすいのもラジオ体操のメリット。毎日決まった時間に運動することで、生活リズムも整えやすくなるでしょう。

慣れたら、少し負荷をかけた運動にもトライ

身体活動の強さを示すとき、安静時の何倍に相当するかで表す単位として「メッツ」が用いられます。座って安静にしている状態が1メッツ、普通歩行が3メッツに相当します。

認知機能への改善効果は、運動強度が中強度以上の場合に高まることが分かっています。中強度というと、運動強度を表す単位=メッツで3.0~6.0未満の活動です。まずは3メッツ以上の運動ができることを目標に取り組みましょう。

■3メッツ以上の生活活動の例
3.0メッツ:普通歩行(平地、67m/分、犬を連れて)、電動アシスト付き自転車に乗る、家財道具の片付け、子どもの世話(立位)、台所の手伝い、大工仕事、梱包、ギター演奏(立位)

3.3メッツ:カーペット掃き、フロア掃き、掃除機、電気関係の仕事:配線工事、身体の動きを伴うスポーツ観戦

3.5メッツ:歩行(平地、75~85m/分、ほどほどの速さ、散歩など)、楽に自転車に乗る(8.9km/時)、階段を下りる、軽い荷物運び、車の荷物の積み下ろし、荷づくり、モップがけ、床磨き、風呂掃除、庭の草むしり、子どもと遊ぶ(歩く/走る、中強度)、車椅子を押す、釣り(全般)、スクーター(原付)・オートバイの運転

4.0メッツ:自転車に乗る(≒16km/時未満、通勤)、階段を上る(ゆっくり)、動物と遊ぶ(歩く/走る、中強度)、高齢者や障がい者の介護(身支度、風呂、ベッドの乗り降り)、屋根の雪下ろし

出典:厚生労働省「生活活動のメッツ表」[PDF]

慣れてきたら、可能な範囲で少し負荷をかけた運動にもチャレンジしてみてはいかがでしょうか。同じ運動でも回数を増やしたり、行う時間を長くしたりすると、負荷を大きくすることができます。そうすれば、認知症予防の効果がより期待できるでしょう。

ただし、くれぐれも無理は禁物。認知症予防効果を得ようとするあまり、ケガをしてしまっては本末転倒です。かかりつけ医と相談し、体への負担が大きくなり過ぎない範囲で行うことを心がけましょう。

脳トレも認知症予防に効果的?

認知症はトレーニングで予防。今日から始める運動習慣で認知症のリスクを軽減しよう

脳トレやゲームなどで脳を刺激するトレーニングにも、認知機能の低下を予防・改善する効果があると考えられています。思考をめぐらせて脳を働かせるゲームだけでなく、ボードゲームのように会話を楽しみながらできるゲームも推奨されています*11

ボードゲーム

麻雀や囲碁、将棋などに代表されるボードゲームは、「相手の仕掛けてくる手を想像して先を読む」という脳の働きに加えて、小さな牌や碁石、駒を扱うという手先の細やかさも求められるため、認知機能を維持・改善する効果が期待できるといわれています*12

相手と会話しながら行うことも認知機能の向上に役立つと考えられており、実際、軽度~中等度の認知機能障害を有する高齢者を対象とした研究では、チェスに取り組んだことで全般的認知機能が向上したという報告もあります*13

脳トレゲーム

最近では、「簡単な足し算をする」「バラバラになった文字を並べ替えて単語を作る」「クロスワードをする」といった脳トレーニングゲームが多く市販されています。認知機能の低下が見られる高齢者が脳トレーニングゲームを実施すると、わずかですが認知機能の改善に効果を示したという報告があります*14

最近ではスマートフォンで手軽に始められるアプリも多く登場し、高齢者もさまざまなゲームに取り組みやすくなっています。長期的な認知症予防につながるかどうかの検証はこれからですが、こうした脳トレを楽しみながら行える人は、ぜひ続けていきましょう。

認知トレーニング

「記憶」「言語理解」「注意」「知覚」「推論・判断」という認知機能を鍛えるためのトレーニングを「認知トレーニング(認知機能トレーニング)」といいます。医療機関をはじめとした専門施設で受けることができ、トレーニングを継続すると、認知機能の種類によって差はあるものの、予防に一定の効果があるとされています。

認知トレーニングを受けたい場合は、必要に応じてかかりつけ医や専門の施設などに相談してみるとよいでしょう。

頭と体を同時に使う「コグニサイズ」も

コグニサイズ(cognicise)とは、認知(cognition)と運動(exercise)の課題を組み合わせて行う、認知症予防を目的とした取り組みの総称です。例えば、「踏み台昇降をしながら、しりとりをする」「床に座って、足首の曲げ伸ばしをしながら数を数え、3の倍数の時に足を上げる」といったように、運動課題と認知課題を同時に行う=頭と体を同時に使うことで、心身の機能を向上させる効果が期待できます。

コグニサイズの詳しいやり方は、国立長寿医療研究センターのホームページで紹介されていますので、参考にしてください。

自分に合ったトレーニングを取り入れよう

運動が認知症の発症リスクを低下させることは多くの研究で指摘されています。認知症を予防したいと思ったら、適度な運動を生活に取り入れて、健康的な暮らしを維持することが重要です。自分に合った強度・内容の運動やトレーニングを習慣化し、楽しく体と頭を動かして、認知機能の維持に努めていきましょう。

編集:はてな編集部
編集協力:株式会社エクスライト


フォーネスライフが提供する疾病リスク予測サービス「フォーネスビジュアス」では、20年・5年以内(※5年以内は65歳以上が対象)の認知症をはじめとした各種疾病のリスクを予測できます。さらに、結果に応じてコンシェルジュ(保健師)がご自身に合った生活習慣改善方法を提案します。検査によって認知症の発症リスクを把握した上で、どのような運動を生活に取り入れていったらよいか、コンシェルジュと相談しながら対策することも可能。もしも自分に合った対策方法が分からないという場合は、ぜひ検討してみてはいかがでしょうか。

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認知症になる可能性は、
発症前に予測できる時代に

*1:「認知症予防の重要性と日本認知症予防学会が目指すもの」(2015)[PDF]

*2:「あたまとからだを元気にするMCIハンドブック」[PDF](国立研究開発法人国立長寿医療研究センター)

*3:Risk reduction of cognitive decline and dementia: WHO guidelines

*4:「あたまとからだを元気にするMCIハンドブック」[PDF](国立研究開発法人国立長寿医療研究センター)

*5:「あたまとからだを元気にするMCIハンドブック」[PDF](国立研究開発法人国立長寿医療研究センター)

*6:「あたまとからだを元気にするMCIハンドブック」[PDF](国立研究開発法人国立長寿医療研究センター)

*7:Risk reduction of cognitive decline and dementia: WHO guidelines

*8:「あたまとからだを元気にするMCIハンドブック」[PDF](国立研究開発法人国立長寿医療研究センター)

*9:Risk reduction of cognitive decline and dementia: WHO guidelines

*10:Risk reduction of cognitive decline and dementia: WHO guidelines

*11:「あたまとからだを元気にするMCIハンドブック」[PDF](国立研究開発法人国立長寿医療研究センター)

*12:「あたまとからだを元気にするMCIハンドブック」[PDF](国立研究開発法人国立長寿医療研究センター)

*13:「あたまとからだを元気にするMCIハンドブック」[PDF](国立研究開発法人国立長寿医療研究センター)

*14:「あたまとからだを元気にするMCIハンドブック」[PDF](国立研究開発法人国立長寿医療研究センター)