年齢とともに病気は身近になるけれど、自分を知れば対処できる。漫画家・山下和美さんの健康管理


1980年のデビュー以来、『天才 柳沢教授の生活』や『不思議な少年』『ランド』(いずれも講談社)といったヒット作品を世に送り出してきた漫画家の山下和美さん。現在もコミック誌「モーニング」で『ツイステッド・シスターズ』を連載しています。

そんな輝かしいキャリアの陰で、山下さんは21歳のときに発症した脳梗塞の後遺症による“視野欠損”をはじめ、不整脈、逆流性食道炎、膀胱炎……と人知れず多くの病気と闘ってきました。

健康に気を使えなかった20代、さまざまな不調に見舞われた30代を経て、40代でようやく体との付き合い方が分かるようになったそうです。現在は健康を気遣いながら、生活や仕事をコントロールしているといいます。

これまでを振り返ってもらいながら、病気との向き合い方、自分の体について知ることで病気を予防していく大切さについてお話を伺いました。

フォーネスライフが提供する疾病リスク予測サービス「フォーネスビジュアス」では、脳卒中など各種疾病の発症リスクを予測することができ、結果に応じてコンシェルジュ(保健師)が、ご自身に合った生活習慣改善方法をご提案します。

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山下和美さん
山下和美さん

漫画家。1959年生まれ。1980年に「週刊マーガレット」(集英社)からデビューし当初は少女マンガ誌を中心に活躍。「モーニング」(講談社)で『天才 柳沢教授の生活』を不定期連載して以降は主に青年誌で活躍し、『不思議な少年』『ランド』などの話題作で性別を問わず幅広い人気を得ている。

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21歳で脳梗塞を発症、視野欠損の後遺症を抱えてきた

──山下さんは漫画家デビューから間もない21歳の頃に脳梗塞を発症されたとお聞きしています。当時のことを教えていただけますか。

山下和美さん(以下、山下):当時は教育系の学部に通う大学生でした。就職という道も考えていましたが、漫画を1作だけでも世に出せたらと思って、「週刊マーガレット」に投稿してみたんです。それが編集さんの目にとまり、前後編の作品や連載……と、今思えばとんとん拍子に漫画家としての道を進み始めたときでした。

連載中は忙しさもありましたが、若かったこともあって「なんとかなってしまっている状態」でしたね。今思えば、オーバーワークだったのかもしれません。毎日、大学の後に都心の出版社へ出向き、打ち合わせをして、夜中までネーム(コマ割りや構図、セリフなど)を描いて、タクシーで帰宅して……という日々でした。

──どこか不調だったり、前兆のようなものはあったりしたのでしょうか。

山下前触れは全然ありませんでした。いつも通りに出版社でネームを描いているときに、突然頭の中で何かが“爆発”したと感じたんです。

同時に吐き気と頭痛と、足の先からビリビリと何かが這い上がってくるような感覚があり、「気持ち悪い、帰らなきゃ」と感じました。でも、いつもなら難なく見つかるはずの筆記用具をうまく見つけられなくて。思えばそのとき、すでに視野が欠けていたんですね。

──一刻を争う、緊急事態ですよね。

山下:それが編集さんの機転で救急車を呼んでもらったものの、救急外来には専門医がいなかったこともあり、その日は異常が発見されないまま帰されてしまいました。

仕方なく翌日に別の病院で検査と診断を受けたのですが、運悪くその日が週末だったこともあって、脳梗塞の診断が下るまで2日間空いてしまったのも回復が遅れる原因につながったかもしれません。脳梗塞は治療開始までのスピードが重要だそうですから*1

──2日間のロスは大きいですよね……。

山下:当時はまだ早期発見が難しかったとも聞いています。私も家族も「何か変だ」と違和感はあったものの、それが何の症状か分からなかったし、何科にかかればいいかも知らなかったんですよね。

──脳梗塞を発症した結果、後遺症が残ったとのことですが……。

山下:視野欠損(片目で見た時に、視界の中で一部見えない部分ができる状態)という後遺症が残ったのですが、退院するまでの間にある程度までは回復しました。それから現在に至るまで、視野の右側が少し欠けているような状態です。両目で見ている分には「右側の4分の1くらいが見えない」という感じでしょうか。

例えば道を歩いているとき、右斜め後ろ側にいる人のことが見えない。正常な状態なら見えるはずの角度が視認できないので、ついぶつかったり、進路妨害をしてしまったりするんですね。

若い頃はスキーが大好きでよく行っていましたが、発症後は右側から滑ってくる人とぶつかるようになってしまい、「あぁ、見えていないんだ」と気付いてからはコースの右端を滑るようになりました。普段の生活でも右側を少し気にかけながら過ごしています。

──漫画家は目を酷使する仕事でもあるように思います。「漫画を描き続けられるかどうか」という不安とはどのように向き合われたのでしょう。

山下:入院中はやはり気持ちが落ち込んだせいか、「このまま死ぬのだろうか……」という不安で、死や霊界にまつわる本を読んだりもしました(笑)。でも、いざ原稿用紙に向かってみると、確かに自分の手はよく見えないけれども、ペン先は見えたんですね。「良かった、これなら描ける!」って。

結局、後遺症が残ったことで、かえって「漫画家以外の職業を選択しない」という理由付けになりました。大学は教育系学部だったので、そのまま教師になる進路もあったのですが、それこそ「この体では……」と前向きにあきらめられるというか、漫画家一本でやっていく気持ちが固まるきっかけになったんです。

さまざまな病気を経験して、健康状態の予測がつくようになった


──脳梗塞を経て、健康について気を使うようになるなどの変化はありましたか。

山下:20代の頃は若かったので、「何も考えていなかった」というのが正直なところです(笑)。タバコも吸っていましたしね。

生活が変化し始めたのは40歳を過ぎてからでしょうか。30代以降、不整脈や逆流性食道炎、膀胱炎、動脈硬化……と、いろいろな病気が出始めてしまい、対処するうちに意識も変わっていきましたね。

40代では、てっきり更年期障害かと思っていたら、実は心臓などの循環器系が弱いことが検査で分かった、ということもありました。

──さまざまな病気が襲ってくる中で、ご自身の不調にもどかしさを感じたりはしませんでしたか。

山下:どうでしょう。「体が思い通りにならない」と悲観したことはなく、そのときによって原因が異なるので、一つひとつ原因を探して粛々と対処していくような感じでしたね。

膀胱炎にかかったときには、医師に「尿の色が濃過ぎる! 水分を取っていないでしょう?」と怒られたのですが、毎日飲んでいた紅茶やコーヒーはカフェインによる利尿作用があるので水分摂取としては不適切だ、ということを知らなかったんです。後から知ったときには、もっときちんとアドバイスしてくれればいいのに! と少し恨み節になったりして(笑)。



山下:ただ、いくつかの病気を経験してきたことで、なんとなく自分の健康状態の予測がつくようになってきました。「これ以上は無茶だな」というストップがかけやすくなったというか。

例えば、睡眠時間はしっかり確保するようになりました。元々はあまり長く眠れない方で、1日平均5時間ほどの睡眠時間でしたが、今は6時間以上寝るようにしています。睡眠が足りていないと仕事をしていても集中力が途切れやすくなるんですよ。気がつくと全然違うキャラクターの顔を描いてしまっていることもあって(笑)。

──お仕事を続けるためにも、無理は禁物ですね。

山下:そうですね。知り合いの漫画家さんの中でも、長くお仕事を続けている方は睡眠を大切にしているような気がします。職業柄、どうしても「徹夜で原稿!」というイメージを持たれがちですが、若いうちはそれでなんとかなっても、30代になるとどこかしらに不調が出た、という話をよく耳にします。

睡眠が乱れたり、締め切りに追われたりすると、どうしても休みが不定期になったり、生活リズムが不規則になりがちですが、私は最初に脳梗塞を患ったことで「無理はできない」と悟り、意識的にゆとりのあるスケジュールを組むようになりました。

今は仕事の合間にテレビを見たり、のんびりしたりすることがリフレッシュになっているので、「毎週何曜日は休む」とまで決めなくても、休息は取れているように思います。

生活改善はゆるやかに。一番変わったのは「水分摂取」

──睡眠時間のほかに、食生活や運動習慣などで心がけていることはありますか。

山下:食事はそれほど気を使っていませんが、グルテンフリーの食事が私には合っているような気がして続けています。といっても、小麦由来のものを徹底して除去するわけではなく、パンを米粉のものに変えたり……といったゆるやかなものです。それから、脂っこいものもあまり無理して食べないようになりましたね。

一番変わったのは、水分を取るようになったこと。膀胱炎などをきっかけに、毎日何杯も飲んでいた紅茶を一杯だけにして、あとはお湯(白湯)に変えました。寝る前にも飲むようにしていて、水分摂取は意識するようにしています。10代や20代の頃はそれこそカフェインばかり取っていたし、水を飲まなきゃ! なんて思ったこともなかったので、大きな変化だと感じています。

──運動の方はいかがでしょう。

山下:毎日ランニングやウォーキングといった運動ができるタイプではないので、せめて普段の生活で体を動かせるようにと二階建ての家に引っ越しました。階段の上り下りや玄関先の掃き掃除や、必要なものを別の部屋に取りに行くときなど、強制的に少しでも体を動かすようにしています

──以前は喫煙習慣もあったそうですが……。

山下:タバコはやめたいとは思いつつもなかなかやめられませんでした。マンションの3階に住んでいた頃、1階の郵便受けにタバコを置いておき、吸いたかったら取りに行くという面倒なことをしてもやめられないほど(笑)。

でも40代になって、ある日を境にすっぱり止めることができました。2001年9月、机にタバコを置いて仕事をしていたら、タバコ越しに見えるテレビから飛行機がビルに突っ込んでいく衝撃的な映像が流れて……。9.11のアメリカの同時多発テロですね。よほどショックだったのか、以来吸わなくなってしまいました。

──ガラっと習慣を変えるほど衝撃が強かったのだとお察しします。定期的な健康診断や検査などは受けていますか。

山下:循環器系が弱いと分かったときにかかっていた内科への通院と、別のクリニックで2~3カ月おきに血液検査を受けています。定期的に状態を見ながら、食事のアドバイスやサプリメントの処方をしてもらえるのでありがたいですね。

用心して病気のリスクを知っておけば、早めに対処ができる

『不思議な少年』より ⓒ山下和美

──本メディアの運営元であるフォーネスライフでは「フォーネスビジュアス」という疾病リスクの予測サービスを提供しており、脳卒中や心筋梗塞といった病気になる将来のリスクをあらかじめ予測することができます。脳梗塞も含む脳卒中・心筋梗塞については、4年以内の再発リスクも予測可能です。さらに、状況に応じた生活改善のアドバイスも受けられます。こういったサービスは、率直にどのように感じられますか?

山下:再発はさすがに怖いなと思っているんです。というのは、父方も母方も祖父が脳梗塞で亡くなり、一番上の姉も脳出血で亡くなっていて、家系的にも自分の病歴としても決してリスクは低くないと感じていますし。

なので再発リスクも予測できるサービスには興味をそそられますね。食事や生活習慣の改善がどのくらい効果を出しているのかが測れたら、なおさら心強いんじゃないでしょうか。

──確かに、自分の普段の食事や生活習慣が正しいのかどうか、なかなか確信が持てない気がします。

山下:何年かたつと言われたことを忘れたりもするので(笑)。専門の方に継続的にアドバイスをもらえるとうれしいですね。

──さまざまな病気に見舞われながらもキャリアを途絶えさせることなくずっと執筆活動を続けられてきました。お話を伺っていても苦労や悲壮感をあまり感じさせないほどポジティブな印象を受けるのですが、何か秘訣や信条などがあるのでしょうか。

山下:21歳の脳梗塞のときは、やっぱりつらい部分もありました。将来への不安もありましたしね。ただ、一定の期間が過ぎると、痛みもないし、視野欠損で見えない部分はあるけど、「こうすれば大丈夫なんだな」と、自分の体の使い方が分かるようになってきたんです。それさえ守っていれば、今まで通りに過ごしていけるということも分かって、そのおかげで前を向けたと思います。

──前向きな病気との向き合い方ですね。とはいえ、多くの人にとって病気とはやはり「怖いもの、かかりたくないもの」だと思いますが、どう付き合っていくのが良いでしょうか。

山下:私自身に関して言うなら、20代で脳梗塞になって、30代以降もちょこちょこと病気にかかったことがむしろ今の健康につながっているような気すらします。

用心すべきだからこそ早めに対処ができたり、面倒臭がって放置をしなかったおかげで、仕事や日常生活に支障をきたすほどの大病を患わずに済んだというか。

「こんなことくらいで……」と思わずに、不調があったら受診すべきだし、理想を言えば病院の一段階手前にそういった相談できる機関があればいいな、とも思いますね。

──漫画家として、これからはどのようなスタンスで、どのような作品を残していきたいか、最後にお聞かせ願えますか。

山下:『不思議な少年』をまた描きたいなと思うことがありますね。いろんなテーマで描き続けられるタイプの作品なので、どうしても描きたいテーマが見つかればまた……と思っています。

実は『不思議な少年』を描いていたときも、手塚治虫文化賞(のマンガ大賞)をいただいた『ランド』のときも、知人からの評価や読者アンケートではあまりいい反応がありませんでした。でも結果としては、そういう作品が賞をいただいたり、最終的な評価が高かったりして(笑)。

だから、そういった声にめげずに、描きたい作品を描いていった方がいいのかなと思ったりもしています。病気と同じように、私の場合は何事も悲観的に捉え過ぎない方がいいみたいです。



今回は山下和美さんに、さまざまな病気を経験して学んだ「自分の体との向き合い方」ついて伺いました。

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次のページでは、死因や寝たきりにつながりやすい病気でもある脳卒中の発症を防ぐ対策や、そのために「フォーネスビジュアス」をどう利用すればよいかを紹介します。

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取材・構成:藤堂真衣
撮影:関口佳代
編集:はてな編集部