多忙で睡眠を削り、生活を犠牲にしてしまった──33歳で脳梗塞を発症したあやめゴン太さんの後悔


33歳という若さで突然、脳梗塞に襲われた漫画家のあやめゴン太さん。当時は会社員としてハードに働きながら、夜は漫画家を目指して創作活動をしており、不規則な生活を続けていたといいます。

発症当日は朝から体の異変を感じつつも、仕事を優先して病院に行くのが遅れ、かえってその後の治療が長引く事態に。ご自身の作品『33歳漫画家志望が脳梗塞になった話』(集英社)でも、診断当日の様子や入院、リハビリ生活などが描かれています。

「もっと自分の体調に目を向けて、病気のサインを受け取っていれば」「脳梗塞のリスクや症状を知っていれば」と語るあやめさんに、あらためて当時の状況を振り返りながら、忙しい中でも自分の体と向き合うことの大切さについて語っていただきました。

フォーネスライフが提供する疾病リスク予測サービス「フォーネスビジュアス」では、脳卒中など各種疾病の発症リスクを予測することができ、結果に応じてコンシェルジュ(保健師)が、ご自身に合った生活習慣改善方法をご提案します。

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あやめゴン太さん
あやめゴン太さん

漫画家、漫画原案者。会社員として勤めながら漫画を描いていた33歳のとき、突然脳梗塞を発症。そのいきさつを描いた漫画がSNSで大ヒットし、『33歳漫画家志望が脳梗塞になった話』(集英社)で商業出版を果たす。

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睡眠時間を削った不規則な生活。脳梗塞の“サイン”も気にせず

──あやめさんが脳梗塞を発症されたのは、まだ若い33歳のとき。会社員をしながら夜は漫画を描く日々だったそうですが、具体的にどのような生活を送っていましたか?

あやめゴン太(以下、あやめ):当時は会社でシステムエンジニアとして働いていました。

忙しいなりに自炊をしたり、毎日6、7時間は眠るようにしたりしていたのですが、病気になる1、2年前から夜間のシフト勤務が増えて……。そこからほとんど自炊ができなくなり、不規則な勤務をしながらも空いた時間に漫画を描いていたため、生活がどんどん乱れてしまいました

特に良くなかったと思うのは、睡眠時間をきちんと取らなかったことです。シフトの関係で朝勤務(7時~15時)、夜勤務(15時~23時)が続いたりすると、リズムが乱れて、普通に寝るだけでも難しい*1。それなのに、どうしても漫画を描く時間をひねり出したくて、1日3時間くらいしか寝ない日もざらでした。

ひどい場合だと、仕事から帰ってきて漫画を描き、床で倒れ込むように仮眠をして、起きたらすぐに出勤……といった日も。そんな生活だと疲れがたまっていく一方ですよね。漫画を描くために生活を犠牲にしてしまったことは、とても反省しています。

──年齢が若いうちは、多少の無理をしても大丈夫だと思ってしまいがちだと思います。ちなみに当時は健康診断などは受けていましたか? 病気の兆候はあったのでしょうか?

あやめ:年に1回、会社の定期健診は受けていました。それ以前にも、大学生くらいから「ちょっと血圧が高め」と診断されることは多かったですね。でも、それこそ若かったので、私もほとんど気にしていませんでした。

ただ、両親が「脳梗塞につながることもあるから、少し高血圧*2を気にした方がいいよ」と言ってくれて、20代後半からは血圧を下げる薬を飲んでいました。

確かに、高血圧は脳梗塞のリスク因子*3なんです。でも、脳梗塞はもっと年を取ってからかかる病気というイメージがあったので、あまり自分事としてリアルに考えていませんでした

──発症前の数週間~数カ月間には何か予兆はあったのですか?

あやめ:腕枕をしたあとみたいに、ときどき左腕がじーんとしびれることがありました。でも1時間もすれば元に戻るので、あまり気にしていなかったんです。

実は脳梗塞を発症する人って、大きな発作の前に何度か小さな脳梗塞を起こしていることがあるらしくて……。今振り返れば、あのしびれはそれだったのかなと思います。

発症した日も仕事を優先、症状を知らず病院に行くのが遅れた

──脳梗塞を起こした当日のことを教えてください。その日は、どんな異変を感じていたのでしょうか。

あやめ:朝起きて着替えているときに、左腕がガクンと下がってしまったんです。筋肉痛みたいにだるくて、力が抜けてしまうような感覚。でも頑張れば動かせるし、着替えもできたから「いつものしびれかな?」なんて軽く捉えていました。

ところが、そのまま出勤したらどんどん力が抜けてきて……。腕だけでなく、左足も意図しない方向に向いてしまったり。でも、これがまた、ちょっと踏ん張れば歩けちゃったんですよね。激痛で動けないような状態なら、さすがに緊急事態だと分かるんですけど、頑張ればなんとかなるくらいの不調だったのが、今思えばくせ者でした

結局そのまましばらく仕事をしてしまい、まったくキーボードを打てなくなってからようやく観念して、電車に乗って自宅近くのかかりつけ病院に向かいました。

でも、今思えば、本来はすぐ救急車を呼ぶべきだったんです。病院に着いたときには発症から7時間経過していました。

──病院に到着して、お医者さんはなんと言われましたか。

あやめ:まず「なんで歩いてきたの? こんなときは救急車を呼びなさい! ふらふら動いていたら、転んで頭を打つリスクだってあるんだよ」とすごく怒られました。

脳梗塞だと診断されてからも、私は事の重大さがいまいち分かっていなくて……。先ほど話したように倒れてもいないし普通に喋れていたし、なんとか歩けもするくらいだったから。なので「今から1回会社に戻っちゃだめですか?」と質問して、また怒られてしまいました。

(C)あやめゴン太

あやめ:脳梗塞の症状には「お箸やペンが持ちにくい」といった軽度のものから、私のような「手足の脱力、しびれ、ふらつき」、ほかにも「顔のゆがみ、よだれ」「言葉が出ない、口のもつれ」などがあり、重い場合は半身まひや意識障害が出ます*4

学生時代に両親から「高血圧は脳梗塞に結びつく」と聞いていたんだから、そういう具体的な症状や経過を知っておけば、もう少し早く判断できたかもしれません

それに、脳梗塞は発症から4時間半以内だったら血栓を溶かす薬が使えて、人によっては日帰りで退院できるくらい回復が早いらしいんです*5

だけど私は病院に行くのが遅かったため、結局リハビリを含めて1カ月半も入院しました。「まだ大丈夫」って思い込んだ代償として、先々のロスが大きくなってしまったんです。

──漫画の中でも、不調を感じながら「でも仕事に行かなくちゃ!」と言っているのが印象的でした。あやめさんと同じように、自分の体よりも仕事を優先して行動してしまう人はいると思います。

あやめ:私もそうだったから「仕事を頑張りたい」「周りに迷惑かけちゃいけない」と思う気持ちはすごくよく分かります。でも、ちょっとでも異変を感じたら、すぐ休んだり対処したりしなくちゃだめですよ。無理した分、将来大きなツケを払うことになるかもしれないんです。

私は自分の体が悲鳴を上げているのを無視してしまったから、脳梗塞という結果を引き起こしたんだと反省しています。

大きな病気だったけれど、利き腕が無事だったのは本当に不幸中の幸いでした。「左腕がだめでも漫画が描けるから大丈夫」と思えて、なんとか気持ちは元気にしていられた。これが右半身の症状だったらと思うと、ぞっとします。

症状やリスクを知って病気に備えていきたい

──脳梗塞は再発の可能性が高い病気で、それを防ぐには生活習慣の改善が大きなポイントといわれています。退院してからはどのような生活を心がけましたか?

あやめ:真っ先に始めたのは禁酒です。私、お酒が大好きだったんですよね。病気になるまでは毎日欠かさず飲んでいて、それが仕事のストレス解消方法でした。でもお医者さんから「お酒は良くない」と言われ、すっぱり辞めました。

(C)あやめゴン太

──すごい! 毎日飲んでいた習慣を、どうやって辞められたんですか?

あやめ:やっぱり意志だけではどうにもならないので、お酒の代わりになるものを探しました。私はビールのシュワシュワ感が大好きだったので、炭酸水を飲むだけでも気が紛れましたね。

──そのほかの生活習慣はいかがでしょうか?

あやめ:食事は自炊でバランスよく、高血圧予防になるといわれる納豆や柿などの食材*6、野菜を多めに取り入れています。

もともと苦手だった運動も、簡単なストレッチや買い物がてらの散歩をするようにして、1日1回は少しでも体を動かす習慣をつけました。

退院してからは昼間の仕事を辞め、リハビリと生活改善に専念したので、それも良かったと思います。つい根性論でいろんなことを「やればできる!」と考えてしまうタイプなので、無理しないよう、ストレスになることをなるべく避けるのも心掛けていますね。

そして、一番大きく変えたのは睡眠です。やっぱり睡眠時間を削ったことが本当に良くなかったと思うので、今は絶対に徹夜はしません。どれだけ漫画を描きたくても24時までには必ず寝ると決めました。

──食事、運動、睡眠、さまざまな角度から生活改善に取り組まれたんですね。どうすればいいのか迷ったり、続けられなくて困ったりしたことはありませんでしたか?

あやめ:入院していたときに、リハビリを担当してくれた技師さんたちから、具体的なアドバイスをたくさんいただいたのが役立ちました。高血圧にいい食材やおすすめの運動をまとめたプリントももらえたので、退院後にその中からできることを選んで、少しずつチャレンジしていったんです。

それから、当時一緒に暮らしていた姉にもたくさん助けてもらいましたね。私の病気にとてもショックを受けたようで、一生懸命にサポートしてくれたんだと思います。

サポートしてくれる家族や友人などがいない場合は、病院のソーシャルワーカーさんを頼るといいかもしれません。退院後の生活や病気との付き合い方について相談できるし、国から受けられるサポートや使える制度などについても説明してくれるんです。

ただ、私が生活改善を続けられたのは、ひとえに再発が怖かったからです。絶対にずっと漫画を描いていたかったので、もう病気にはなりたくないと強く思い、それがモチベーションになりました。最初は「酒好きの私が禁酒なんてできるかな」と不安はあったけれど、危機感によってクリアできたと思います。

──発症から7年がたつ今も、その気持ちと習慣は続いていますか?

あやめ:今もお酒は人に会うときにたしなむ程度しか飲まないし、お野菜多めを意識した食生活や十分な睡眠時間の確保も続いています。

ただ、正直に言うと、やっぱり時間がたってちょっと気が抜けているところはあると思います。でも、そういうときが一番危ないんですよね……。今回こうしてインタビューのお話をいただき、あらためて気を引き締めようと思いました。

──病気を経験して、体の不調への対応や健康への意識は変わりましたか? 

あやめ:年齢を重ねたこともあるし、だいぶ変わってきましたね。

今はフリーランスになったので、会社が用意してくれる定期健診はありません。だからこそ、年に1回は必ず自分で健診を受けるようにしています。血液を調べるだけでもいろんなことが分かるので、毎年6月と受診するタイミングも決めているんです。

数年に1回は人間ドックで、徹底的に体の様子を調べます。そのおかげか、ここ数年は特にリスクのある数値が出てくることもなく、健康に過ごせているようです。

それから、ちょっとでも調子が悪いなと思ったときは、できるだけ専門医に診てもらうようになりました。なぜかというと、脳梗塞を発症したときに診てもらったのは、かかりつけの病院の脳神経外科で、すぐ専門医の診察を受けられたのは不幸中の幸いだったからです。

──本メディアの運営元であるフォーネスライフでは「フォーネスビジュアス」という疾病リスクの予測サービスを提供しており、脳卒中や心筋梗塞、慢性腎不全、肺がんといった病気になる将来のリスクをあらかじめ予測することができます。脳梗塞については、4年以内の再発リスクも予測可能です。さらに、状況に応じた生活改善のアドバイスも受けられます。こういったサービスは、どのように感じられますか?

あやめ:素晴らしいと思います。私の脳梗塞がそうだったように、病気の名前は知っていても具体的な症状やリスクを知る機会って全然ないんですよね。その答えと、自分のリスクに合わせた生活習慣までアドバイスしてくれるなんて、本当に助かる。

私が生活習慣を整えられたのも、病院の技師さんたちから信頼できる情報を得られたことがとても大きかったと思うんです。自分でも学び続けながら、これからも専門家のサポートを借りつつ、さまざまな疾病リスクに備えていきたいと感じています。

──そうやってご自身の健康を守りながら、今後チャレンジしていきたいことはありますか?

あやめ:とにかく、漫画をずっと描いていたいです。自分の病気の経験を漫画で伝えていくことで、多くの方が健康を振り返るきっかけを提供できたらとも思っています。

その一つとして、自分が脳梗塞を発症した10月23日には、毎年必ずSNSで『33歳漫画家志望が脳梗塞になった話』を発信しているんです。

読んだ方から「分かりやすくて勉強になった」「事前に読んでいたから症状に気付いて、早めに救急車を呼べた」といったうれしい感想が届くこともあります。そういった声を聞くと、本当にやりがいを感じますね。


今回はあやめゴン太さんに、自分の体の異変に気付き、見過ごさない大切さについて伺いました。

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取材・構成:菅原さくら
編集:はてな編集部