僕は悪い見本なんです─透析を受けつつ寄席に出るグレート義太夫さんが語る病気との付き合い方

人工透析のグレート義太夫さんが語る糖尿病との付き合い方

「糖尿病が恐ろしいのは自覚症状がないことだ」。お笑い芸人であり「たけし軍団」のメンバーとしても知られるグレート義太夫さんは30代で糖尿病を発症しましたが、忙しさもあって通院や食事改善が滞りがちになり、50歳目前で糖尿病性腎症*1による慢性腎不全に。以来、16年にわたって透析治療を続けています。

食生活が乱れたり運動不足が続いたりしていても「まだこのくらいは大丈夫だろう」と、なかなか意識が生活習慣の改善に向かない方も多いでしょう。「もう少し早くお医者さんの言うことを聞いていれば」と語るグレート義太夫さんに、闘病経験を通じて実感したという生活習慣を見直すことの大切さについてお話しいただきました。

グレート義太夫さん 近影
グレート義太夫

芸人・ミュージシャン。1958年東京生まれ。ビートたけしのバックバンドを経て「たけし軍団」に加入。多くのテレビ出演のほか、楽曲制作なども手掛ける。1995年に糖尿病と診断され、2007年から糖尿病性腎症による腎不全のため透析治療を続ける。現在はボーイズ・バラエティー協会にも所属し、浅草フランス座演芸場東洋館に定期出演中。レギュラー番組に『グレート義太夫の音とい来やがれ‼~一席おつきあい願います』(狛江ラジオ、毎週金曜日)。著書に『糖尿だよ、おっ母さん!』(2009年、幻冬舎)

週3回、5時間の透析治療の負担は大きい

── グレート義太夫さんは現在、週3回の人工透析を受けられていると伺っています。今日も透析治療を受けてからいらっしゃったんですよね。

グレート義太夫さん(以下、義太夫) はい。いまは1回あたり5時間ぐらい透析を受けているので、今日も朝から昼過ぎまで病院に行っていました。始めは週2回、1時間半ずつだったんですが、食事が管理しきれなくて体重が増えちゃって、あっという間に3時間になり、気付いたら5時間の透析を週3回受けるようになっていた。

5時間というのは、いまの病院で受けられる透析の最長の時間なんです。透析治療を受けている人の中にもいい患者さんと僕みたいな不良患者がいるんですけど(笑)、もう少しお医者さんの言うことを聞いて食生活に注意していれば、もう少し短い時間で済んだかもしれないなと思いますよ。

※ 人工透析 … うまく機能しなくなった腎臓に代わり、血液を体外に取り出し、血液中の余分な水分や塩分、老廃物を人工的に取り除いて血液をきれいにする治療法。義太夫さんが受けているのは機器(ダイアライザー)を使用する血液透析。

── 治療に5時間もかかるとなると、そのあとのお仕事にも影響が出そうです。

義太夫 やっぱり透析の日はあんまり仕事を入れないですね。一度、透析の当日にナレーションの仕事をしたことがあるんですけど、笛みたいなか細い声になっちゃって、別日に録り直しになりました。透析治療を受けたあとって体力がぐっとなくなるんです。強制的に血液をきれいにする治療なので、いろんな臓器がついていけなくなっちゃうんですよ。体調が元通りになるまではいつも2時間ぐらいかかります。

僕の受けている血液透析は、腕の血管に針を刺して、ポンプを使って体から出した血液を血液透析器に通すというやり方なので、透析の最中は常に片方の腕が使えない状態。はじめは左腕にシャント(血液を取り出しやすくするために、皮下で静脈と動脈をつなぎ合わせて作る太い血管)を作ったんですが、それが使えなくなっちゃったので右腕にシャントを作り直したんです。だからいまは、透析中はスマホもなかなか見られなくて不便です。

このシャントが使えなくなったらいずれは人工血管を使うしかなくなるので、いまのシャントを大事にしてほしいとお医者さんからは言われています。

取材時のグレート義太夫さんの写真

── いまは透析治療のほかには、病気のためにどのようなことをしているのでしょうか?

義太夫 やっぱり適度な運動は心がけています。僕は散歩がてらウォーキングをしていて、5kmを1時間強かけて歩くことが多いですね。前に一度、ダンカンさんも誘ったことがあるんです。どうも散歩の最中に僕が倒れるところが見たいらしくて(笑)。でも、二人だと同じ道を通っていてもいろんな発見があるし、バカ話をしてゲラゲラ笑いながら歩けるので楽しいですよ。

それから、病気になってからは食事制限があるので、できるだけ外食せずに自炊するようにしています。つらいのが、薬との食べ合わせで食べられないものがあること。僕は納豆がめちゃくちゃ好きなんですが、血液をサラサラにする薬を飲むようになってからは食べられなくなりました。先生に「この世に納豆はないものと思ってください」って言われて、ショックでしたね。いまは野菜が中心の食生活になりました。

── 病気がきっかけで制限されてしまうことや、できなくなってしまったことがあるのは残念ですね……。

義太夫 本当にね。一番悲しかったのは、前まで出演させてもらっていた蜷川幸雄さんの舞台に出られなくなったことです。やっぱり週3で透析を受けていると稽古に行けないので、長いスパンの仕事は受けるのが難しくなりました。蜷川さんは「治ったら早く帰ってこいよ」と言ってくれたんですが、帰れないですっていう話をするのは僕もつらかったですね。

※ グレート義太夫さんは蜷川幸雄さんの舞台に2001年から出演。2006年の「タイタス・アンドロニカス」イギリス公演では事前に糖尿病の検査入院をして体調管理に備えたが、そのあとで悪化して翌年に慢性腎不全と診察される。

はじめは完全に糖尿病をなめていた

── あらためてですが、義太夫さんが糖尿病だと診断されるまでの経緯もお聞きできますか。37歳のときに発症されたんですよね。

義太夫 そうです。糖尿病の怖いところは、どこかが「痛い」みたいなはっきりした症状がないところなんですよね。無性にのどが渇いたり、何もしていないのに痩せるといった症状がまず出始めたんですけど、当時はまさか糖尿病だとは思いもしなかった。その後、家で倒れて病院に運ばれたことで糖尿病だと分かったんですが、その時も自分では「夏バテだろうなあ」としか思っていなかったので、本当にびっくりしました。

でもよくよく考えれば、当時の芸能界ほど糖尿病になるのに適した世界はないですよ。夜中に仕事が終わって、そこから焼肉とか食べに行ったりするわけですから。お店の人に「サービスで大盛りにしておきました」なんて言われちゃうと断れないし(笑)。夜に食事をしながら打ち合わせをすることも多いですからね。

一度、これはよくないと思って打ち合わせを午前中に変えてもらったことがあるんです。サラダバーがあるようなところでヘルシーにやろうと思って。でも、まったくいい企画が出なくて、やっぱり夜に戻しましょうってなりました(笑)

── 当時は運動の習慣などもなかったのでしょうか?

義太夫 『風雲!たけし城』なんかに出ていたので、仕事が運動みたいなものではあったんですよね。でも体力的には本当に大変でした。まあ、もちろん好きでやってた仕事なんですけどね。

※ 風雲!たけし城 … TBS系列で1980年代後半に放送されていた視聴者参加型の人気ゲームバラエティー番組。グレート義太夫さんのほかたけし軍団のみなさんは主に体を使う守備軍として出演した。参照:TBSチャンネル「風雲!たけし城

取材時のグレート義太夫さんの写真

── では義太夫さんが糖尿病になったことで、たけし軍団のみなさんも心配されたのでは?

義太夫 最初はまだみんな笑ってくれたんです。悪いお兄さんたちなので、わざといろいろおいしそうなものを食べさせようとしたりして(笑)。でも、当時は30代後半ですから、みんな徐々に健康に気を付けるようにはなってきていた頃でしたね。楽屋にいても病気や健康に関する話が多くなったし、とくにダンカンさんとはよくそういう話をしてましたし。

軍団の人たちがめちゃくちゃ厳しいことを言うようになったのは、僕が透析を受けるようになってからです。番組の打ち上げのパーティーがあっても、僕が肉に近づくだけでものすごく怒られました。「お前は葉っぱ食ってろ!」って。

── みなさんきっと、義太夫さんの体調を気遣われていたんですね。

義太夫 そうでしょうね。でも僕、始めは完全に糖尿病をなめてたんです。さっきもお話ししたように、糖尿病って自覚症状があまりないので、ちょっと調子がいいと自己判断で通院をやめてしまう人が多いらしいんですが、僕も完全にそうでした。糖尿病になりたての頃は目がかすんでテレビの字幕が見えなかったりしたんですけど、ある程度薬を飲んだりしてそういう症状が出なくなってくると、なんの根拠もないのに「治ってきたかな」とか思ってしまうんです。その間にどんどん進行して、気が付くと合併症が出てくる。

僕もその後、糖尿病から糖尿病性腎症になって、合併症が出てきて、発症から12年後の2007年には透析を受けなきゃいけなくなってしまいました。いまでも覚えているのは、透析を受けることが決まった時、お医者さんから「もっと生活習慣に注意していれば、透析になるのをもう少し遅らせることができたかもしれませんよ」と言われたこと。本当にその通りだなと反省しましたね。

── 糖尿病になってからも、いずれ透析が必要になるかも……という危機感はあまり感じられなかったですか?

義太夫 危機感は全然なかったですね。本当は食べるものを細かく測って、1日に食べてもいい単位までしか食べちゃいけないんですが、当時はそれもあまり守らなかったし。そもそも、糖尿病という病気についてもう少し自分なりに知っておけばよかったって後悔はありますよ。糖尿病になる前の段階、いわゆる「糖尿病予備軍」のうちは、生活習慣を見直せばまだ回復できる可能性がある*2って聞きますしね。

取材時のグレート義太夫さんの写真

定期的に血糖値や血圧を測って、異変があればすぐに病院に行くくらいがちょうどいい

── 自分自身もつい甘いものを食べ過ぎたりと食生活が乱れがちなのですが、まだ若いから糖尿病のような生活習慣病にはならないはず、と思い込んでいる人は少なくないのではないかと思います。

義太夫 ああ、それは……素質は十分にあると思いますよ(笑)。やっぱり定期的に検診に行ったりして、自分の体の状態を知るようにした方がいいと思います。血糖値測定器や血圧計は薬局でも買えますし、もし家になければ買った方がいいですよ。ときどきでもいいから測る習慣を付けてみて、ちょっとでも値が高い状態が続いたら、病気を疑って病院に行くくらいがちょうどいいと思います。

僕も糖尿病になった頃は血圧がコンスタントに180くらいあったんです。ダンカンさんもけっこう高くて、二人まとめて「中野のハイプレッシャーコンビ」って呼ばれてましたから(笑)。でもやっぱり数値として目に見えると、多少なりとも生活に気を付けようと思いますからね。

※ 一般に最高血圧が140mmHg以上あると高血圧とされる。

── そうした検診や検査という観点で、フォーネスライフが提供している「フォーネスビジュアス」というサービスがあります。早期発見よりさらに早い段階で、将来的に慢性腎不全になるリスクを発症前に予測でき、検査時点での現在の体の状態として耐糖能も検査できます。さらに、専門家から生活習慣改善に向けたアドバイスを受けることもできます。生活習慣の改善を目的にこういったサービスを受診することについては、どのように感じますか?

※ 耐糖能 … 血糖値を正常に保つ能力。この能力が低下または失われると耐糖能障害や糖尿病になる。

義太夫 僕はそういったものはぜひ受けてみた方がいいと思います。自分の体がいまどんな状態か、数字で分かるわけだから。病気のリスクが予測できるとなるとちょっと怖いかもしれないけど、世の中の人はもう少しそういう管理をした方がいいと思う。

病気かどうか知るのが怖いから病院には行きたくないって人は、芸能界にも多いんです。「病院に行って何か分かったらお酒飲めなくなっちゃうじゃん」って(笑)。だけど楽屋でそういう話題が出るたびに「それは違うよ、ちゃんと検査を受けて、安心してお酒が飲めた方がいいでしょう」って説得してます。軍団のメンバーだって、みんな一度はちゃんと自分の体の状態を知っておいた方がいい。病院に行かないとダメですよね。本当に、自己判断ほど怖いものはないですから。

取材時のグレート義太夫さんの写真

── 最後に、今後のご活動についてもお聞きしたいです。いまは音楽や寄席への出演などに活動の軸足を置かれているかと思いますが、これからの芸能活動で実現したいことは何かありますか?

義太夫 やっぱり仕事ができる時間が減っちゃったので、事務所にしてみればお荷物だと思うんです(笑)。だからとりあえずは、その中で自分ができる仕事をしていくしかないですよね。いまはありがたいことに、家で芝居の音楽を作ったり書きものの仕事をさせてもらったりしているんですが、外に出ていられるうちは寄席にもまだまだ出たいと思っています。

寄席に出続けてることは、殿(ビートたけしさん)もすごく褒めてくれるんです。「その歳で客前に出てネタをやってお金もらってるのは(軍団で)お前だけだ」と。それはめちゃくちゃうれしいですし、殿がずっと出ていた浅草のフランス座や、国立演芸場なんかで生のお客さんを前にしてネタができるのは、芸人冥利に尽きますよ。コロナ禍の間はお客さんが数名しかいなくて、舞台に立ってるこっちが緊張しちゃうくらいでしたけど(笑)、いまはお客さんもぼちぼち戻ってきてくれて、たくさん笑ってくれるのでやりがいがあります。

── 過去のインタビューでは、「どうせ自分は糖尿病だしって思っちゃったらそこで終わりなので、それからの生活習慣は自分次第だと思います」とも語られていました。いまもお気持ちは変わらないでしょうか。

義太夫 そうですね。やっぱり、どこかに不調を感じるから薬を飲んだり生活習慣を見直したりしようとするのが人間の自然な行動だと思うんですが、糖尿病は自覚症状がないからこそ、そういったことをついサボってしまう。症状を感じなくても自分の体と向き合い続けるにはよっぽどの精神力が必要だと思うんですけど、それでも10年後や20年後の自分のことを考えたら、絶対にがんばった方がいいじゃないですか。その気持ちは今後も変わらないと思いますね。

すでに糖尿病になってしまった方には、まだいくらでも自分の力でコントロールができますよって伝えたいですね。ここに悪い見本がいるので、あいつみたいにならないようにと思っていただければいいかなと(笑)

取材時のグレート義太夫さんの写真


「もう少しお医者さんの言うことを聞いていれば」という言葉を取材中に何度も伺いました。グレート義太夫さんが糖尿病を発症したのは著書などによると遺伝要素も大きいそうですが、自覚症状のない糖尿病に向き合い生活習慣の改善に取り組んでいれば、慢性腎不全による透析治療もかなり長く避けられたのではないかという思いを語っていただきました。

その慢性腎不全を含めた疾病リスクを予測できるフォーネスビジュアスでは、検査の結果を踏まえてコンシェルジュ(保健師)が適した生活習慣の改善方法を提案しています。詳しくはこちらの記事もあわせてお読みください。

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生活習慣の改善アドバイスも
検査とあわせて受けられます。

取材・構成:生湯葉シホ
撮影:小野奈那子
編集:はてな編集部
取材協力:喫茶カサ デ オリーバ(東京都中野区)

*1:参考:e-ヘルスネット「糖尿病性腎症

*2:参照:糖尿病情報センター「糖尿病予備群といわれたら」