一人暮らしの親が認知症を発症したら? 考えられるトラブルと家族ができる対処法を紹介

一人暮らしの親が認知症を発症したら? 考えられるトラブルと家族ができる対処法を紹介

もし、一人暮らしをしている親が認知症を発症したら、どのようなリスクが生じるのでしょうか。

超高齢社会の日本では、一人暮らしをする高齢者が増加傾向にあります。一人暮らしで感じることの多い「孤独」。長期間、孤独・孤立の状態が続くことで認知症のリスクが高まるという研究もあり、親が一人暮らしをしている場合は特に注意が必要と言えそうです。

そのため起こりうるトラブルと対処法を事前に押さえておき、もしもの事態に備えましょう。

(監修者)佐治直樹 先生

国立長寿医療研究センター もの忘れセンター 客員研究員
「もの忘れセンター」にて認知症の危険因子に関する研究を行うかたわら、もの忘れ外来担当医として、認知症の臨床現場でも活動中。2021年には、東北大学、久留米大学、株式会社テクノスルガ・ラボとの共同研究にて、日本食の食事パターンと腸内細菌、および認知症との関連を発見。研究結果等に関する講演活動にも、積極的に取り組んでいる。

こんな人におすすめ

  • 一人暮らしする親が認知症になったら、どうすればよいか知りたい人
  • 身近な人に認知症の不安や兆しを感じており、認知症か否かを判断したいと考えている人

一人暮らしの高齢者数は増加傾向

超高齢社会の日本では、高齢者が一人暮らしをするケースが多いもの。さらに、核家族化が進んだ今、「結婚後は親と同居」というのは常識ではなくなりました。

厚生労働省の「2022(令和4)年 国民生活基礎調査 [PDF]」によると、令和4年の時点で65歳以上の方がいる世帯は、全世帯の50.6%と半数を超えています。そのうちの31.8%が、一人暮らし世帯です。もはや、一人暮らしの親の身を案じることは、身近な悩みの一つだと言えるでしょう。

また、人との会話や交流は認知症の発症や進行予防に重要とされています。ですが、一人暮らしかつ、近隣住民との交流や何らかの社会活動に参加していないと、人とのつながりも少なくなり、孤独・孤立感を抱きやすくなるため注意が必要です。

この状況を踏まえると、一人暮らしの高齢者が認知症を発症するケースというのは、今後増えていく可能性があります。厚生労働省の「認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)の概要 [PDF]」に、2025年には高齢者の5人に1人が認知症を発症している可能性がある、と示すデータもまとめられていることから、一人暮らしの親が認知症となった場合のリスクや対処法をしっかりと押さえておく必要があると言えるでしょう。

認知症を発症した親が一人暮らしをしていると、何が起こる?

処方された飲み薬の画像

では実際に、一人暮らしの親が認知症を発症した場合、どのようなリスクが生まれるのかを、トピック別に見ていきましょう。起こり得るトラブルは、主に7つ挙げられます。

食生活の乱れ

適切な栄養管理の方法を忘れてしまうことで、食生活が乱れることがあります。例えば、簡単に済ませられるものや、好物ばかりを食べてしまう……といったケースが多いです。栄養素が偏るため、生活習慣病を招いてしまうこともあるでしょう。

さらに、冷蔵すべき食材を誤って常温で保存してしまうこともありえます。食品の衛生管理ができずに鮮度の低いものを口にすることもあるかもしれません。調理工程を正しく認識できず、加熱調理が不十分といった場合も。体調不良に直結してしまうので、注意が必要です。

排泄トラブル

排泄コントロールが難しくなり、トラブルが発生する可能性があります。具体的には、尿意や便意がわからず失禁したり、排泄後の処理を失敗したりすることもあります。トイレ以外の場所で用を足してしまったり、便秘が長引いて腸閉塞を発症したり、といったことも挙げられます。

服薬管理の失敗

持病の薬を飲み忘れたり、過剰に服用したりするトラブルも起こり得ます。

厚生労働省の「患者調査 [PDF]」によると、年齢が上がるにつれて入院率や病院を受診する外来率は増加するとのこと。75歳以上になると、約11%が通院し、約3.5%は入院している、というのが現状のようです。これを踏まえると、高齢者は病気やケガなどの理由により、服薬の機会が増えると考えられます。

しかし認知症になると、食事の管理すらままならなくなるケースが多いため、ましてや服薬ともなると、さらに管理が難しくなってしまうことでしょう。睡眠導入剤や糖尿病の薬などを過剰に服用すると危険です。適切に服薬ができなくなると命に関わることもあるため、注意が必要です。

ひとり歩き(徘徊)

認知症の方は、自宅をふらりと出て徘徊してしまう場合も。以前は「徘徊」という言葉が使われていましたが、最近では「ひとり歩き」という言葉を用いる地方自治体も出てきました。これは認知症の症状の一つである「見当識障害 [PDF]」や「地誌的失見当」が関係しています。これは、時間や場所が正しく認識できなかったり、自分がどこにいるのか把握できなくなって道に迷ったりする障害です。

そもそも、今いる場所が自宅だということも認識できなくなり、「家に帰らなくては」と外に飛び出してしまうため、その状態で外出すれば、見知っているはずの道でも迷ったり、交通事故に巻き込まれたりするかもしれません。

他にも、徘徊は長い間歩き続ける場合もあるため、脱水症状や低体温症など、健康面でのリスクも発生します。さらに、車を使って外出した場合は、自動車事故を発生させる懸念もあります。

火事

認知症になると、軽症の段階であっても、物忘れや注意力の低下が現れます。これによって起こりうる可能性があるのが、火の不始末。コンロはもちろん、冬場は暖房器具の消し忘れにも注意が必要です。喫煙者の場合には、さらに火事のリスクは高まるでしょう。

ご近所トラブル

認知症の症状の一つとして「妄想」があります。その中でも自分が何らかの被害を受けたと思い込んでしまう「被害妄想」が出現することによってご近所トラブルが発生しやすくなることが考えられます。

認知症になると、ごみ捨てが滞ることで自宅から悪臭が発生したり、仮にできたとしてもごみの分別ができなかったりといったケースが発生しやすく、これがトラブルの発端となることもあるようです。また、被害妄想の種類の一つである、大事なものを「盗られた」と思い込んでしまう「物盗られ妄想」を起こすケースも。特に財産に関連するものを「盗まれた」と思い込んでしまうことが多く、これによって根拠もないのに周囲を責め立ててしまう場合も。

被害妄想によるご近所トラブルは、もともと関係性に不安があった、周辺住民との間で起きやすいものです。近隣住民からの単なる「注意」であっても、被害妄想による拡大解釈で「攻撃」と受け取ってしまい、溝が深まることで、さらに孤独や不安を感じやすい状況に追いやられる可能性があります。周囲の人とのコミュニケーション機会が減れば、認知症の症状の進行につながってしまうリスクも高まります。

金銭面でのトラブル

認知症によって記憶力や判断力が低下することで、お金の管理ができなくなる可能性もあります。

例えば、家賃や公共料金を滞納してしまったり、自制がきかなくなって浪費を繰り返したり、さらには詐欺被害に遭ったりすることも考えられます。また、認知症が進行し判断能力が低下・喪失すると銀行口座の凍結や賃貸借契約ができなくなるケースも起こり得ます。

認知症トラブルの予防策は?

通帳とお金の管理の画像

ここまで紹介してきたリスクを少しでも軽減するためには、どのようなことに取り組む必要があるのでしょうか。ここからは、トラブルの予防策についてポイントを紹介していきます。

生活状況を把握する

まずは、一人暮らしをしている親の様子を見に行き生活状況をあらかじめ把握しておくことが重要です。具体的な方法としては、下記のようなものが挙げられるでしょう。

  • 冷蔵庫を見て、きちんとした食生活を送れているのか確認
  • 家賃や公共料金の支払い状況をチェックし、遅延がないかチェック
  • 薬の残量をチェックして、飲み忘れがないか確認

認知症の症状が進行していると感じた場合は、まずはかかりつけの先生、あるいは被害妄想など精神症状が強いようであれば精神科の受診を勧めましょう。かかりつけの先生から認知症診療の専門施設を紹介されるかもしれません。認知症は、適切な診断・治療やケアを早いうちから受けておくと、認知症の進行をゆるやかにできる可能性がある*1ためです。とはいえ、認知症本人の意思を尊重することも忘れずに。

資産を把握する

認知症が進行すると、通帳をなくしてしまったり暗証番号を忘れたりして、認知症本人の資産状況を追いにくくなります。あらかじめ資産状況をおさえておくことで、浪費や詐欺被害を早めに察知することができるかもしれません。

状況によっては、信頼できる家族や親戚に、財産管理を委任する「家族信託」を導入するのも一つの手*2。気になる方は、最寄りの税務署に問い合わせてみるのもよいでしょう。

介護体制を決めておく

兄弟姉妹や親戚と話し合っておき、誰が中心になって介護体制を整えるか決めておくことも重要です。介護保険サービスにも通所や入所などさまざまな段階があり、往々にして家族の意見が異なる場合もあります。あらかじめキーパーソンを決めておけば、今後の治療や介護の場でも、家族間での混乱が発生しにくくなります。

ただし、キーパーソンは大事な役割となりますが、負担が一人に集中しないようにすることは重要です。何もかも委ねようとするのではなく、適切なサポート体制まで考慮しておきましょう。

介護サービスについてリサーチしておく

認知症は介護側(家族側)も戸惑うことの多い疾患です。早めにプロに相談ができる準備をしておくと、トラブルを防げる可能性があります。

介護サービスや公的な支援だけではなく、自分の務める勤務先の介護に関する規程を確認しておくのも大事です。

一人暮らしの親が認知症になった後の対処法


車椅子の高齢者と介護士の画像

続いて、認知症を発症してしまった後のフォロー方法についても、解説していきます。

認知症レベルを把握する

まずは認知症がどの程度進行しているのか現状を把握することが大切です。これらを踏まえ、家族のサポートで対応できるのか、プロに介護を依頼する必要があるのか判断していきましょう。

進行レベルによっては、「介護認定」を申請するのも一手です。詳しくは、後述の「地域包括支援センター」の項目をチェックしてみてください。

本人の意思を尊重しつつ、適切なサービス利用を検討する

認知症の人は「自活できていること」に自尊心を持っている場合もあります。そのため、家族はサポートを早く進めたい……という思いを、グッと堪える局面も出てきます。

まずは本人の意向を尊重しつつ、サポート体制を考えることが重要です。当人の様子を見つつ、今後の流れを模索していきましょう。

親が認知症になった場合に利用できるサービスは?


高齢者を訪問するサービスの画像

一人暮らしの親が認知症になった場合、家族との同居という方法もありますが、事情によって難しい場合や、親・家族あるいは双方が同居を望まないケースもあります。

ここまでお伝えしてきた通り、「家族だけでなんとかしよう」と抱え込む必要はありません。

認知症の程度や当人の心のケアを念頭に置きつつ、支援サービスの活用も検討しましょう。特に、一人暮らしを続ける場合には、積極的に利用するようにするのがおすすめです。ここでは、3つの代表例を紹介します。

地域包括支援センター

地域包括支援センターは、高齢者を支える相談窓口です。各自治体に設置されており、介護や医療、保険など、さまざまな相談ごとに対応しています。

連絡先が分からない場合は、親が住む地域の自治体に相談してみると、案内してくれる場合もあります。

介護保険サービスを利用するために重要な、介護の必要度合いを判定する「介護認定」についても、まずはここで相談するのがよいでしょう。

介護保険サービス

認知症が進行している場合は、頼るべきサービスの一つです。介護認定の結果に応じて、利用できるサービスの種類が決定します。介護保険サービスには、在宅で利用するものと施設に入居して利用するものがあり、下記のようなものがあります。

  • 訪問介護
  • 訪問リハビリテーション
  • 通所介護(デイサービス)
  • 短期入所生活介護(ショートステイ)

介護支援専門員(ケアマネジャー)に相談するのもよいでしょう。

見守りサービス

公共機関や郵便局、セキュリティ会社が提供する、定期的に一人暮らしの高齢者のもとを訪ね、状況を報告してくれるサービスです。

家族にとってはもちろん、認知症本人にとってもコミュニケーションをとる機会になります。サービス元によって、提供内容や料金が異なるので、詳細は都度問い合わせるのがよいでしょう。

当事者の心のケアが最優先。本人に向き合いながら対策を

一人暮らしの高齢者が認知症を発症すると、さまざまなトラブルのリスクが生まれます。

ただし、当人も自身の変化に気付いていたり、違和感を覚えたりして不安を抱いているはずです。家族はその状況を冷静に見極め、頭ごなしに通院やサービス利用を求めないように意識し、当人の気持ちに寄り添いつつ、今後の対策を模索していきましょう。当人と家族、二人三脚で対応に励むことが何より重要です。

親が認知症かもしれない?と思ったときのセルフチェック方法、正確な診断のための検査などについては、下記の記事もあわせてご覧ください。

👉簡単にできる認知症のセルフテスト&チェックリストを紹介 - lala a live(ララアライブ)│フォーネスライフ

👉認知症の初期症状とは? 兆候を見極めるポイントを紹介 - lala a live(ララアライブ)│フォーネスライフ

👉認知症を早期発見するメリットとは? 気付くためのチェック項目も紹介 - lala a live(ララアライブ)│フォーネスライフ

👉認知症の検査にはどんなものがある? 種類や流れについて解説 - lala a live(ララアライブ)│フォーネスライフ

「まだ認知症ではないようだけど、親の身が心配……」と不安に思っている方は、近年は親と同居していなくても、オンライン検査によって認知症の発症リスクを把握することもできます。

リスクが分かると早めに対策を講じられることも少なくないはず。今のうちからできることを始めていきましょう。

編集:はてな編集部
編集協力:株式会社エクスライト


フォーネスライフが提供する疾病リスク予測サービス「フォーネスビジュアス」では、20年・5年以内(※5年以内は65歳以上が対象)の認知症をはじめとした各種疾病のリスクを予測できます。さらに、結果に応じて、コンシェルジュ(保健師)から自身に合った生活習慣の改善方法の提案が受けられます。コンシェルジュとの面談はオンラインで実施するため、遠方で暮らす家族と一緒に相談できます。一人暮らしの家族の認知症リスクを知りたい方は、ぜひ一度お問い合わせください。

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