認知症の検査にはどんなものがある? 種類や流れについて解説

認知症の検査にはどんなものがある? 種類や流れについて解説

「物覚えが悪くなった」「言葉が出てこなくなった」などの兆候が見え、親族や自分自身に対して「認知症ではないか」と不安に思う方も多いかもしれません。

認知症は、年齢を重ねるほど発症リスクが高くなるのは事実*1です。さらに、厚生労働省の「認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)の概要 [PDF]」によると、2025年には高齢者の5人に1人が認知症になる可能性があるとされています。

これを踏まえ、まず覚えておきたいのは、「認知症は自分一人では罹患しているどうかの判断がつかない」ということ。例えば、記憶力が落ちてきたなと思った時、加齢で説明できる範囲なのか、病的な状態なのかは、医療機関を訪れ、適切な検査を受けた上で医師の診断を受けないと、判別がつかないのです。

そこでこの記事では、具体的な検査の流れや、その詳細について解説します。検査についてあらかじめ理解を深め、いざというときに臆せず医療機関に行けるようにしておきましょう。

(監修者)矢島隆二 先生

総合リハビリテーションセンター みどり病院 副院長 兼 認知症疾患医療センター副センター長

脳神経内科・認知症・総合内科等専門医。新潟大学医学部卒業後、高度急性期医療から地域の総合病院まで幅広く臨床経験を積み重ね、新潟大学附属脳研究所で認知症の研究を行い、医学博士を取得。現在は認知症や神経難病を中心に、リハビリテーションにも重点を置いた神経内科の臨床現場で活動中。認知症や神経難病などの治験も行うかたわら、講演や執筆にも精力的に取り組む。

こんな人におすすめ

  • 自身や身近な人に認知症の不安や兆しを感じており、発症しているかどうか認知症か否かを判断したいと考えている人
  • 上記をよりしっかりと判断するために、検査を受けたいと考えている人
  • 検査では何をするのか、そしてどこで受診できるのかを知りたい人

検査によって、早期発見につながることも

認知症は、早期発見で進行を遅らせることのできる可能性がある疾患です*2。認知症の前段階であるMCI(軽度認知障害)のうちに発見できると、1年で約16~41%の方が健常な状態になるという説があります。

そのため、自身や親族の認知症を疑った段階で、医療機関を受診し検査を受けることが大切だといえます。

「認知症ではない疾患」の可能性もある

「もしかして認知症かも?」という兆候を感じたら、まずは「本当に認知症なのか」を確かめるのが望ましいでしょう。実際に認知症だったとして、根治が難しい原因であったとしても、症状の進行を遅らせる方法を医師に相談することにつなげられます。また、場合によっては、「治療可能な認知症」と言って、根治も期待できる認知症である可能性もある*3ためです。治療可能な認知症とは、例えば以下のような疾患です。

  • 正常圧水頭症
  • 慢性硬膜下血腫
  • 甲状腺機能低下症
  • ビタミンB1欠乏症・ビタミンB12欠乏症
  • 自己免疫性疾患
  • 内科的疾患(呼吸器・肝臓・腎臓疾患、神経感染症など)

これらの治療可能な認知症であった場合は、その疾患に合った治療を受ける必要があります。現在心配している症状が、認知症なのか否か、認知症であったとしてどのような原因なのかを正確に把握するためにも、病院での検査を受けることが重要です。

検査を受けられる医療機関は?

認知症の検査を受けたい場合は、まずはかかりつけ医に相談してください。かかりつけ医から必要に応じて、病歴や現在の症状などを専門医に連携してくれる場合があります。もし、かかりつけ医がいない場合は、脳神経外科、脳神経内科、精神科、心療内科を受診しましょう。

ただし、これらの診療科において、認知症に注力しているかは医療機関によって異なります。認知症に注力していなければ、専門的な検査を受けられない恐れがあります。まずは一度、問い合わせてみるのがよいでしょう。

検査にかかる費用の目安は?

認知症の検査にかかる費用は、おおむね数千円~3万円程度です。特殊な検査が追加された場合は、さらに高額になるケースもあるので、まずは相談してみるとよいでしょう。

なお、認知症の検査のほとんどは医療保険が適用されていますので、通常の診療において、自己負担額を過度に心配する必要はありません。認知症診療で費用が高額になると想定されるケースは、2023年12月に保険適用となった、「アミロイドPET」という画像検査*4を行う場合が挙げられます。その検査費用は15万円程度で、個々人の保険に応じた自己負担金額を支払うことになります。

認知症の検査の流れは?

認知症の検査にはどんなものがある? 種類や流れについて解説

ここからは、検査の流れについて詳しく解説していきます。

診察

まずは医師が、患者さんやそのご家族からこれまでの経過を聞き取ります。患者さんご自身では、認知症の症状により正確に経緯を話せない場合があります。そのため、家族がしっかりと客観的な情報を提供することが大切です。

身体検査

血液や心電図、CT検査、レントゲン検査など、一般的な検査も実施します。ここまで説明してきた通り、治療可能な認知症の可能性もあるためです。また、ご家族の方は、なるべく患者さんの日頃の健康状態に関する情報を病院に提供するようにしましょう。例えば、以下のような情報です。

  • 既往歴
  • 生活習慣(飲酒、喫煙習慣など)
  • 現在服用している内服薬

こういった情報を医師に提供すると、認知症の診断に役立てられるため、受診前にまとめておくと良いでしょう。

神経心理学検査

神経心理学検査とは、認知症か否かを判断するために、患者さんが質問に答えたり、作業したりする検査のことです。それぞれの検査で、一定の基準以下になると、認知症の疑いが強まります。

ただし、患者さんは緊張したり、不安を感じたりする場合があり、精神的な負担によっては正しく結果が出ないケースもあります。

画像検査

画像検査は大きく分けて、脳の萎縮具合などの形態を見るものと、脳の働き方を見るものの2種類があります。病院によっては、原則として撮像可能であれば全ての患者さんに対して画像検査の一つである「MRI検査」を実施しているところもあります*5

通常は頭部の画像によって、脳萎縮の程度や血流低下の有無などを判断しますが、レビー小体型認知症を疑った場合は、心臓の画像で評価をするケースもあります。

代表的な検査について、詳しく解説

認知症の検査にはどんなものがある? 種類や流れについて解説

患者さんへの質問等を通じて実施する「神経心理学検査」と、身体の状態を画像で診断する「画像検査」ついて、それぞれ詳しく解説していきます。

なお前提として、いずれの検査も、それだけで認知症の診断や重症度を確定させることはできません。専門医による診察をふまえた上で、適切な検査を組み合わせることで、総合的に認知症の診断や重症度が判断されるもの、と心得ておきましょう。

神経心理学検査

ここからは、認知症の検査でよく使用される、代表的な7つの神経心理学検査について、それぞれ紹介します。

改訂 長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)*6

HDS-Rは、記憶を中心とした認知機能障害について調べる検査。所要時間は5~10分程度です。

日付や場所などの記憶を思い出したり、簡単な計算をしたりします。9つの質問から構成され、それぞれ1~6点で配点されています。30点満点の検査で、20点以下になると認知症である可能性が高いと判断されます。

ミニメンタルステート検査(MMSE)*7

MMSEは、HDS-Rと同じく簡単な計算や単純作業を行う検査です。

MMSEは、HDS-Rに比べ質問数が多く、回答方法が異なります。口頭以外に文章の記述や図形の描写などが求められます。質問項目は11個あり、30点満点中23点以下で認知症の疑いがあるとされます。

時計描画テスト(CDT)

アナログ時計の形式で時刻を正確に描けるか調べる検査です。内容は「時計を描くだけ」で時間がかからないため、患者さんにとってのハードルが低いことが特徴です。

認知症の場合は、時計の形が小さかったり、数字の配置が間違っていたりなどの症状が見られます。

ABC認知症スケール(ABC-DS)*8

患者さん本人ではなく、介護者から日常生活の動作や行動、心理症状などの最近の様子を聴取し、9段階で評価する検査です。117点満点で、100点以下で軽度の認知症が疑われます。

Mini-Cog*9

患者さんに3つの単語を覚えてもらったり、時計を描いてもらったりする検査です。5点満点の検査で、2点以下で認知症の疑いであるとされます。

MoCA(Montreal Cognitive Assessment)*10

10分程度の面接方式で行われる検査です。軽度の認知機能低下をチェックするのが主な目的です。図形模写や時計模写などの8項目からなり、30点満点で採点します。26点以上が健常な範囲とされます。

地域包括ケアシステムにおける認知症アセスメントシート(DASC-21)*11

認知機能と生活機能の障害を把握するための、21個の質問をする検査です。記憶や見当識(自分がいる場所や日時などを把握する能力)、問題解決能力、日常生活動作(ADL)などの質問項目があり、各1~4点で評価します。合計が31点以上になると認知症の可能性があると判断されます。

画像検査

続いて、認知症の画像検査について解説します。

CT検査

X線を使って脳の断層を撮影する方法です。脳内部を画像化でき、輪切りのような画像を撮影することで、脳血管障害や脳萎縮の有無などを確認できます。

認知症と疑われた際に、最初に行われることの多い検査です*12

MRI検査

磁気の力を使って脳の状態を調べる検査です。これにより、脳血管障害や脳の萎縮の有無が分かります。CT検査と同様、早期に行われることが多い検査ですが、MRI検査を行う際の撮像法が複数あるため、より多くの情報が得られます。

さらに、VSRAD(ブイエスラド)という画像処理・統計解析ソフトを使って、内側側頭部の萎縮程度を健常者のものと比較することで、アルツハイマー型認知症の診断の精度を高めることも可能です。

ただし、アルツハイマー型認知症以外にも脳が萎縮する病気はいくつもあるため、VSRADのみでアルツハイマー型認知症かどうかを診断するわけではありません*13

SPECT(スペクト、単一光子放射断層撮影)

微量の放射線物質を含む検査薬を用い、その体内での動き方を検証する検査です。脳の血流状態を把握するための検査で、CT、MRI検査では捉えることが難しい、早期の脳血流障害を見つけられる可能性があります*14

検査を受ける際の注意点は?

認知症の検査にはどんなものがある? 種類や流れについて解説

検査項目について理解できたところで、受診の際に不安を抱くことのないよう、心がけておくとよいポイントをピックアップして紹介します。

「認知症は恥ずかしい疾患ではない」と意識しよう

「認知症と診断されることが恥ずかしい」と考える方は少なくないかもしれません。しかし、この抵抗感を取り払っておかない限り、検査を前向きに受診することは難しくなってくることでしょう。

医師をはじめとする医療従事者は、症状の進行を遅らせたり、できるだけ改善したりできるように努めています。まずは検査や治療に対し、前向きに取り組めるよう心がけましょう。

家族を信頼しよう

検査には、ご家族の方の勧めで訪れる方も多くいます。しかし、中には「家族に受診を勧められたけれど、自分としては受診を望んでいない」といったケースも。

ここまでご紹介してきた通り、検査項目の中には、ご家族の方による情報提供が必要な場面もあります。「家族は善意で検査を勧めてくれているのだ」と意識し、診断結果を聞く際にも、できるだけ同行してもらうとよいでしょう。

医師を信頼しよう

認知症は、診断の難しい疾患です。とはいえ先述の通り、医師をはじめ、医療従事者は患者さんの不安をなるべく取り除き、症状進行を遅らせたり、改善したりできるよう、尽力しています。まずは医師を信頼して、検査に臨んでみるのがよいでしょう。

それでも、診断結果に納得できない場合や、質問に答えてもらえない場合などは、セカンドオピニオンとして、別の医療機関を受診するのも一つの方法です。

早期発見するために検査を活用しよう

「認知症かもしれない」という懸念が出てきたら、早い段階で医療機関を受診し、検査を受けましょう。医療機関での検査を活用すると、より正確に、自身の症状を把握したり、適切な治療法を講じたりできます。

診断結果を聞くのは不安が大きいかもしれませんが、家族や医師はきっと味方でいてくれます。周囲の協力も仰ぎながら、向き合っていくことが大切です。

編集:はてな編集部
編集協力:株式会社エクスライト


先々の認知症の疾病リスクに備えたいなら「フォーネスビジュアス」を利用してみるのも1つの手段です。

フォーネスビジュアスでは、将来認知症などの疾病にかかるリスクを予測し、結果に応じて発症前に対策をすることができます。将来発症するリスクに備える場合にはフォーネスビジュアスを、認知症の早期発見には医療機関で検査を、といった具合に、うまく使い分けてみるのがよいでしょう。

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