ストレスが認知症に与える影響とは? 生活習慣の見直しが認知症予防のカギに

ストレスが認知症に与える影響とは? 生活習慣の見直しが認知症予防のカギに

「ストレスの多い生活をしていると認知症になりやすい」「ストレスと認知症は関係している」そんな話を聞いたことはないでしょうか?

本記事では、ストレスによって認知症の発症リスクが高まる可能性があるのか・認知症の症状が悪化することはあるのか、影響がある場合、どのような対策を取れば良いのかについて解説します。

(監修者)佐治直樹 先生

国立長寿医療研究センター もの忘れセンター 客員研究員
「もの忘れセンター」にて認知症の危険因子に関する研究を行うかたわら、もの忘れ外来担当医として、認知症の臨床現場でも活動中。2021年には、東北大学、久留米大学、株式会社テクノスルガ・ラボとの共同研究にて、日本食の食事パターンと腸内細菌、および認知症との関連を発見。研究結果等に関する講演活動にも、積極的に取り組んでいる。

こんな人におすすめ

  • 自身や身近な人に認知症の不安や兆しを感じている人
  • ストレスと認知症の関連性について知りたい人
  • ストレスによる認知症への影響を知って、対策を講じたい人

ストレスと認知症に因果関係はある?

ストレスが認知症に与える影響とは? 生活習慣の見直しが認知症予防のカギに

結論からいうと、ストレスは認知症の発症リスクを高める可能性があり、特に「アルツハイマー型認知症」とも関係があるといわれています。また、ストレスは認知症以外の病気の発症にも関連しており、できるだけ軽減することが望ましいといえます。

認知症を引き起こす直接的原因になりうる

ストレスが認知症を引き起こす直接的な要因に、「ストレスホルモンによる脳の機能低下」があります。

過度なストレスはコルチゾールという「ストレスホルモン」の分泌を促します。ストレス下にあったマウスの実験では、アミロイドβという異常たんぱく質がより多く脳内に蓄積していました。また、ストレスホルモンは記憶を司る海馬を萎縮させてしまいます。結果として認知症を引き起こす可能性があるため注意が必要です。*1

認知症を引き起こす間接的原因にもなる

間接的な要因として挙げられるのが「生活習慣病」です。生活習慣病とは、生活習慣が原因で起こる疾患の総称*2で、具体的には「高血圧」「糖尿病」などが挙げられます。

【生活習慣病の一例】*3
・高血圧
・糖尿病
・心筋梗塞
・脳卒中
・肝硬変
・腎不全
・脂質異常症

日本老年医学会雑誌(50巻6号)で発表された「生活習慣病と認知症 [PDF]」では、アルツハイマー型認知症の原因となる「アルツハイマー病」に罹患した患者の半数以上が、3つ以上の身体疾患を合併しており、認知症が重度になるにつれて合併症の数が多くなったと報告されています。特に「高血圧」「脂質異常症」「糖尿病」を併発している割合が多く、これらの疾患は血管を詰まらせたり、脳の血流が悪くなったりする要因となるため注意が必要です。

また、ストレスは飲酒、喫煙、暴飲暴食などの生活習慣が乱れるきっかけとなり、さらに生活習慣病のリスクが上がるという悪循環に陥ります。生活習慣病を治療しないと、認知症の進行が促進されるという報告*4もあるため注意しましょう。

認知症以外の病気を引き起こす原因にもなる

ストレスは、認知症以外にもうつ病や高血圧*5など、さまざまな病気を引き起こすといわれています。

例えばうつ病は、過度なストレスも原因の一つで、それらにより神経伝達物質のセロトニンなどが減少するとうつ状態や無気力などが起こり、うつ病が発症するといわれています。「親しい人との死別」「人間関係のトラブル」など環境的要因と、「慢性的な疲労」「脳・神経疾患」などの身体的要因がきっかけで引き起こされます。

うつ病と認知症は関連が指摘されており、「認知症予防」という面からもうつ病への注意が必要です。*6

ストレスによって認知症が悪化することはある?

ストレスは認知症を引き起こす原因になるだけでなく、発症後もさらにストレスがかかり続けることによって認知症を悪化させる可能性もあります。というのも、認知症の「周辺症状」は周囲の環境や本人のストレスによって助長されるケースがあるためです。

認知症の症状は大きく「中核症状」と「周辺症状」の2つに分類されます。

中核症状とは認知機能が低下して起こる「記憶障害」「見当識障害(場所・名前などが分からなくなる)」などの症状です。これらは、脳の機能低下が原因で、認知症では多くの場合に何かしらの中核症状が出現します。

一方で周辺症状は「行動・心理症状(BPSD)」と呼ばれ、中核症状や周辺の環境、その人の心理状況などを反映して出現します。具体的な症状は「抑うつ」「妄想」などです。*7

  • 【周辺症状の一例】
    • 不安やうつ状態
    • 焦燥性興奮(苛立ち焦って不平を言ったりする)
    • 不穏
    • 徘徊などの異常行動
    • 幻覚・妄想
    • 暴言・暴力
    • 易怒性(過剰に怒りやすい)

周辺症状は、周囲の環境に依存する部分があり、ストレスは周辺症状を助長させるきっかけとなります。例えば、「記憶障害によって何度も同じことを聞く高齢者を強く叱ったり非難したりすることで、ストレスとなり不穏や暴力につながる」などです。周囲の対応によっても症状が悪化するケースがあるので注意しましょう。

ストレスフリーな生活を送ることで認知症予防に

ストレスが認知症に与える影響とは? 生活習慣の見直しが認知症予防のカギに

前述した通り、周辺症状は周囲の対応や環境づくりによって左右されます。そのため、すでに認知症を発症している場合でも、ストレスを軽減するような生活を送ることで症状を緩和できる可能性があります。

また、前述した脳への影響や生活習慣病との関係から、ストレス軽減は認知症予防につながることが期待されます。ここからは、認知症予防のためのストレス発散方法や、ストレスを溜め込まないための方法を紹介します。

おすすめの発散方法

おすすめのストレス発散方法は、以下のようなものがあります。

一人で悩みを抱え込まず、誰かに話す
好きなことに打ち込む
マインドフルネス(瞑想)
ポジティブ思考をする
適度に運動する
しっかり睡眠をとる
バランスの良い食事をとる

それぞれ見ていきましょう。

一人で悩みを抱え込まず、誰かに話す
まず大切なのが、一人で悩みを抱え込まないということです。人に話すことは「ストレス発散になる」「自分の悩みを整理できる」といったメリットがあります。人に話すのが難しければ、紙に書き出して自分の考えを整理する時間を取っても良いでしょう。*8

好きなことに打ち込む
趣味など好きなことに打ち込むのもおすすめです。運動、旅行、ガーデニングなど、1週間に1時間程度でも好きなことに打ち込むことで、日々のストレスから意識をそらすことができます。*9

マインドフルネス(瞑想)
マインドフルネス(瞑想)は、「今この瞬間」に注意を払い、周囲の雑念に気を取られず、リラックスした状態を作り出すこと。脳と心のデトックスともいわれています。寝る前に部屋の照明を落として、鼻から息を吸って吐くことを繰り返す方法がおすすめです。

ポジティブ思考をする
ストレスを軽減するためには、思考を変えることも大切です。ネガティブな感情は自律神経を刺激して心身へ悪影響を及ぼすといわれています*10。一方、ポジティブな感情には、ネガティブ感情によって高められた嫌な気分や心拍率、血圧などの自律神経系の亢進(こうしん)を元に戻す「元通り効果」があるとされています。結果として健康になる可能性があるでしょう。

適度に運動する
運動には、ネガティブな気持ちを発散させて心と体をリラックスさせる効果があります。特におすすめなのが有酸素運動です。有酸素運動とは、ウォーキング、ランニング、サイクリングなど、酸素をしっかり取り込みながら行う運動のこと。1日20分を目安に、少し汗ばんでリフレッシュできるぐらいの運動を続けましょう。*11

しっかり睡眠をとる
睡眠には「疲労回復」「記憶の整理」などの効果があります。一方で睡眠不足は、ホルモンバランスが乱れるきっかけとなります。また、加齢により睡眠が浅くなり、中途覚醒につながって不眠症状を引き起こすといった悪循環の原因となります。体調を整えて、睡眠時間はしっかり確保してください。なお、適切な睡眠時間は個人によって異なります。成人の目安は6〜7時間といわれていますが、それにこだわらず、「熟睡感」が得られる睡眠を心がけましょう。

バランスの良い食事をとる
ストレス対策は食生活とも密接に関係しています。下記はストレスに関係する栄養素とその役割です。

栄養素 ストレスとの関連性 食材名
トリプトファン*12 幸せホルモンと呼ばれる「セロトニン」の生成に必要 マグロの赤身、カツオ、豚ロース*13
GABA 一時的なストレスの軽減に役立つ ミニトマト、ナス、ジャガイモ*14
ポリフェノール*15 ストレスの軽減に役立つ ココア、チョコレート
ビタミンB群*16 副腎に働きかけてストレスに関連するホルモン分泌を助ける 豚肉、レバー、ウナギ、アーモンド、納豆
ビタミンC*17 副腎に働きかけてストレスに関連するホルモン分泌を助ける 果実類、緑茶類、青汁

食事はバランス良くとることが重要です。暴飲暴食は体調を崩してストレスを生むきっかけとなり、さらなる悪循環につながりますので、こうした栄養素を意識しながらバランスの良い食生活を心がけましょう。

まずは生活習慣の見直しを

これまで解説してきた通り、ストレスは認知症と少なからず関係していることが分かりました。ストレスを溜めないためには、健康的な生活を送る工夫が必要です。

今後の生活管理が不安な方は、認知症や生活習慣病などのリスクを予測する検査を受けてみてはいかがでしょうか。

編集:はてな編集部
編集協力:株式会社エクスライト


フォーネスライフが提供する疾病リスク予測サービス「フォーネスビジュアス」では、無理なく続けられる生活習慣改善のアドバイスをコンシェルジュから受けられるサービスもあります。認知症を恐れるなら、まずは生活習慣の見直しから始めてみてはいかがでしょうか。

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*1:参考:東京理科大学「精神的ストレスが海馬の神経新生に与える影響の解明に成功」、「ストレスから精神疾患に迫る:海馬神経新生と精神機能」 [PDF]

*2:参考:e-ヘルスネット「生活習慣病

*3:参考:e-ヘルスネット「主な生活習慣病

*4:参考:「Midlife vascular risk factors and Alzheimer's disease in later life: longitudinal, population based study

*5:参考:一般社団法人京浜保健衛生協会「39.緊張状態による高血圧

*6:参考:「Late-Life Depression, Mild Cognitive Impairment, and Dementia」、「うつ病は認知症の危険因子か? -脳血管性うつ病と認知機能障害-」 [PDF]、「うつ病と認知症との関係性について」 [PDF]

*7:参考:一般社団法人日本神経学会「認知症診療ガイドライン2017」、「BPSDの定義、その症状と発症要因 」 [PDF]

*8:参考:厚生労働省「今の気持ちを書いてみる

*9:参考:公益社団法人日本看護協会「個人での対応(セルフケア)

*10:参考:公益社団法人日本心理学会「ポジティブ感情はなぜ必要か?

*11:参考:厚生労働省「体を動かす

*12:参考:e-ヘルスネット「セロトニン

*13:参考:山梨県厚生連健康管理センター「「トリプトファン」を摂って、しあわせホルモン「セロトニン」を増やそう!

*14:参考:日本獣医生命科学大学「第66号: 下ごしらえを工夫した野菜は、“リラックス”効果がすごい!?

*15:参考:日本チョコレート・ココア協会「チョコレート・ココアに「抗ストレス効果」はありますか?

*16:参考:分子生理化学研究所「弱点のない身体づくり-ビタミン・ミネラルの重要性-

*17:参考:分子生理化学研究所「弱点のない身体づくり-ビタミン・ミネラルの重要性-