脳ドックで認知症は分かる? 検査の概要と把握できる可能性について解説

脳ドックで認知症は分かる? 検査の概要と把握できる可能性について解説

「脳ドックを受けると認知症を発症しているかの可能性が分かる」という話を耳にしたことがあるかもしれません。しかし、実際には脳ドックの結果だけで認知症を発症しているかの可能性を全面的に評価するのは困難です。認知症はさまざまな原因により発症し、分類も多岐にわたります。脳ドックで発見される病気が原因となることもありますが、それだけで認知症の発症を特定できるわけではありません。

本記事では、脳ドックが認知症検査においてどのように役立つか、そしてそれ以外の認知症に関する検査方法についても詳しく解説します。

佐治直樹 先生

国立長寿医療研究センター もの忘れセンター 客員研究員
「もの忘れセンター」にて認知症の危険因子に関する研究を行うかたわら、もの忘れ外来担当医として、認知症の臨床現場でも活動中。2021年には、東北大学、久留米大学、株式会社テクノスルガ・ラボとの共同研究にて、日本食の食事パターンと腸内細菌、および認知症との関連を発見。研究結果等に関する講演活動にも、積極的に取り組んでいる。

こんな人におすすめ

  • 自身や身近な人に認知症の不安や兆しを感じており、認知症を発症している可能性を察知したいと考える人
  • 脳ドックで認知症を発症している可能性が分かるのか知りたい人

脳ドックで認知症を発症しているかどうかは分かる?

脳ドックで認知症は分かる? 検査の概要と把握できる可能性について解説

日本脳ドック学会によると、一般的な脳ドックで見つかる主な病気は、発症前の脳梗塞や微小出血、くも膜下出血の原因となる脳動脈瘤、脳腫瘍、頸頚動脈狭窄などです。これらは脳血管疾患を発症しているかの可能性を評価するための検査であり、認知症の診断を直接的に行うものではありません。

しかし、最近では、認知機能の検査をオプションで選択できる施設も増えてきており、認知症の早期発見や将来的に血管性認知症にかかる可能性の評価も対応可能となっています。一般的に実施されている脳ドックの検査内容と、オプションを含めた脳ドックの内容をそれぞれ解説します。

どのような検査なのか?

脳ドックは、脳に関わる病気を重点的に調べる人間ドックのことです。頭部のMRI(Magnetic Resonance Imaging/核磁気共鳴画像)検査や脳・頸動脈のMRA(MR Angiography/血管造影)検査、頸部超音波検査を用いて、脳の病気の診断や早期発見を目的に実施されます。

脳の病気は自覚症状が出にくい特徴があり、発症したときには命に関わる重篤な症状を引き起こすこともあります。生活習慣の改善により、将来の病気のリスクを低減できる場合もあるため、下記の条件にあてはまる方を対象としています。

脳ドックの対象となる要因
中・高齢者脳卒中・認知症の家族歴
糖尿病喫煙する
高血圧肥満気味である
脂質異常症

出典:日本脳ドック学会「脳ドックの対象となる方」

脳ドックの種類

脳ドックは大きく分けて2種類あります。一つは、頭部MRIやMRA、頸動脈エコーによる基本的な検査を行うタイプ。もう1つは、さらに検査項目を増やして全身的に評価する精密なタイプです。

各タイプの検査内容や費用の概算は下記の通りです。

【一般的な脳ドック】*1
検査内容:頭部MRI/MRAと頸動脈エコー検査が中心
目的  :脳と頸動脈の健康状態を調べる
費用  :約1.5~3万円
所要時間:検査は約35~70分、全体では1~2時間程度

【精密な脳ドック】*2
検査内容:基本的な検査に加え、頭部MRI/MRA、血液・生化学的検査、尿検査、心電図検査、血圧脈波検査(動脈硬化のスクリーニング検査)、VSRAD検査(MRI画像を用いて萎縮度を評価する検査)、簡易認知機能検査などが含まれる
目的  :脳血管疾患にかかる可能性と、身体全体の健康状態のチェック
費用  :約2.5~7万円
所要時間:約2~4時間程度

脳ドックで分かる認知症は?

脳ドックの結果を通じて発症している可能性の評価が可能なのは「血管性認知症」です*3。このタイプの認知症は、脳の血管に生じる問題が原因で発症します。脳ドックに含まれる画像検査により、脳血管の障害の程度が確認できるため、血管性認知症のリスクを把握できます。

しかし、認知症の原因は血管性のものに限られません。アミロイドβという異常タンパク質が原因となるアルツハイマー型認知症、αシヌクレインという異常タンパク質が原因となるレビー小体型認知症など、さまざまなタイプがあります。そのため、認知症を発症しているか把握するためには、一般的な脳MRI検査の結果だけでなく、認知症に特化した問診、認知機能検査、画像検査、血液検査や脳脊髄液検査などを総合的に組み合わせた判断が必要です*4

また将来認知症を発症する可能性を把握するためには、一般的な脳MRI検査の結果だけで判断することはできません。

そのほかに認知症を発症しているかを判断できる検査

脳ドックで認知症は分かる? 検査の概要と把握できる可能性について解説

一般的な脳ドックでは実施されない、認知症を発症している可能性を評価する検査について解説します。認知症の原因は多岐にわたるため、下記の検査を組み合わせて診断が行われます。

神経心理検査(認知機能検査・スクリーニング検査)

神経心理検査は、認知症をすでに発症しているかどうかを判断したり、認知症の前段階である軽度認知障害の判定をしたりする検査です。

認知症や精神疾患による知能・記憶・言語などの認知機能障害を評価し、認知機能を測定する際には、簡単な計算や単語の記憶、質問に答える会話などが行われます。代表的な検査には下記のものがあります。

種類 検査内容
HDS-R
(改定長谷川式認知症スケール)
年齢、見当識、3単語の即時記銘と遅延再生、計算、数字の逆唱、物品記銘、言語流暢性の9項目からなる30点満点の認知機能検査
Mini-Cog 3語の即時再生と遅延再生と時計描画を組み合わせたスクリーニング検査
MoCA 視空間・遂行機能、命名、記憶、注意力、復唱、語想起、抽象概念、遅延再生、見当識からなり、軽度認知障害(MCI)をスクリーニングする検査
MMSE
(ミニメンタルステート検査)
時間の見当識、場所の見当識、3単語の即時再生と遅延再生、計算、物品呼称、文章復唱、3段階の口頭命令、書字命令、文章書字、図形模写の計11項目から構成される30点満点の認知機能検査

出典:日本老年医学会「認知機能の評価法と認知症の診断」

画像検査

一般的な脳ドックで行われる画像検査には、脳MRI/MRA検査や頸動脈超音波検査が含まれますが、認知症の早期発見と将来認知症になるリスクの評価には次に挙げる特化した検査が必要です。

VSRAD:脳萎縮評価支援システム

VSRADは、認知症に関連する脳領域の萎縮の程度を評価する検査です。

認知症疾患診療ガイドライン2017によると、MRI検査によって得られる脳の局所的な萎縮パターンや信号変化は、認知症の鑑別診断に有用です。日本ではVSRADが広く使用されています*5

VSRAD(Voxel-Based Specific Regional Analysis System for Atrophy Detection:ブイエスラド)は、MRIの画像から「海馬傍回付近」と「背側脳幹」部分の萎縮を検出し、アルツハイマー型認知症とレビー小体型認知症の早期発見を支援するソフトウェア*6です。54~86歳の健常な男女80名の脳のMRI画像が実装されており、海馬傍回付近や背側脳幹の萎縮の程度をコンピューター解析により評価します。ただし、萎縮の存在だけでは認知症の確定診断はできないため、症状や経過、その他の検査結果と総合的に判断する必要があります。

脳血流SPECT検査(脳の血流を調べる検査)

脳血流SPECT(single photon emission CT)検査は、放射性医薬品を用いて脳血流を測定する検査です。脳内の形態を画像化するMRI検査と異なり、脳内の血流を画像化します。認知症の早期発見や、認知症になっていた場合はアルツハイマー病型認知症やレビー小体型認知症などの区別に役立ちます*7

PET検査(脳の代謝を調べる検査)

PET(Positron Emission Tomography)検査は、将来的にアルツハイマー型認知症を発症する可能性を判断する検査です。

放射性医薬品を用いて脳の代謝状況を測定します。例えば、FDG-PET検査は放射線を出す特殊なブドウ糖(FDG)を注射し、脳の神経細胞がブドウ糖を取り込む様子を画像化する検査です。脳がブドウ糖を取り込む性質を利用して、脳の活動状態を可視化することで、認知症リスクを評価します。PET検査には、アルツハイマー型認知症の鑑別に有用な、FDGとは異なる薬剤を使用するアミロイドPET検査もあります。アミロイドPET検査は脳ドックや健診で実施されることはこれまでありませんでしたが、アルツハイマー病治療薬の開発を背景に、医療機関において条件に適合すれば保険適応で検査が可能となりました*8

血液検査

血液検査は、血液中のタンパク質や遺伝子情報を調べて認知症へ移行するリスクを評価することもできます。血液の他には、脳脊髄液を採取して認知症のリスクを評価する方法もあります*9

脳ドックを含めて、多角的な検査でリスク把握を

認知症をすでに発症しているかの可能性の評価にはさまざまな検査が存在し、脳ドックはその一つです。特に脳ドックは「血管性認知症」にかかる可能性を把握するために有用ですが、認知症を発症しているかどうかを把握するには他の検査との組み合わせが重要になります。

編集:はてな編集部
編集協力:株式会社エクスライト


今回ご紹介した検査以外に、少量の採血だけで将来認知症になるリスクを可視化できる検査サービス「フォーネスビジュアス」も登場しています。

自身のリスクを知れば、早めに対策をすることができます。定期的な健康チェックとともに、将来的な認知症の可能性を知る検査を受けることを検討してみてはいかがでしょうか。

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*1:参考:脳ドック学会認定施設に登録されている病院を全国から無作為に選んで算出。

*2:参考:脳ドック学会認定施設に登録されている病院を全国から無作為に選んで算出。

*3:参考:認知症診療ガイドライン2017 「第14章 血管性認知症」[PDF]

*4:参考:認知症診療ガイドライン2017 CQ2-7「認知症の診断と鑑別はどのように行うか」[PDF]

*5:参考:認知症診療ガイドライン2017 CQ2-8「認知症の画像検査はどのように進めるか」[PDF]

*6:参考:エーザイ「ブイエスラドの概要」

*7:参考:認知症診療ガイドライン2017 CQ2-8「認知症の画像検査はどのように進めるか」[PDF]

*8:参考:認知症診療ガイドライン2017 CQ6-6「Alzheimer型認知症の診断にアミロイドPET検査は有用か」[PDF]

*9:参考:認知症診療ガイドライン2017 CQ4B-3「軽度認知障害 mild cognitive impairment(MCI)のコンバート予測に有用なバイオマーカーは何か」[PDF]