認知症と物忘れの違いは? 症状の比較と対処法を解説

頭に手をやる男性

最近物忘れ(もの忘れ)がひどくなり、「もしかしたら認知症かも」と疑心暗鬼になったことはないでしょうか?

「認知症」と「加齢による物忘れ」は、実は症状の出方が異なります。2つの違いについて理解し、適切な対処法を取れるようにしておきましょう。

(監修者)佐治直樹 先生

国立長寿医療研究センター もの忘れセンター 客員研究員。
「もの忘れセンター」にて認知症の危険因子に関する研究を行うかたわら、もの忘れ外来担当医として、認知症の臨床現場でも活動中。2021年には、東北大学、久留米大学、株式会社テクノスルガ・ラボとの共同研究にて、日本食の食事パターンと腸内細菌、および認知症との関連を発見。研究結果等に関する講演活動にも、積極的に取り組んでいる。

こんな人におすすめ

  • 自分や周りにいる家族の物忘れが多くなり、「もしかして認知症なのでは?」と疑って不安になっている人
  • 認知症とその要因について知りたい人

物忘れが増えてきた=認知症とは判断できない

最近物忘れが増えてきた、というだけで「認知症になったかもしれない」と判断するのは、やや尚早なことと言えます。なぜなら、物忘れは老化現象の1つでもあり、歳を重ねれば誰にでも起こり得ることだからです。日常生活に支障がないのであれば、加齢によるものである可能性が高いと言えるでしょう。あるいは、認知症の前段階であるMCI(軽度認知障害)の可能性もあるので、物忘れが悪化するようであれば要注意とも言えます。

一方、認知症は、脳の病気や障害などが原因で認知機能が低下し「体験を丸ごと忘れる」ことが特徴*1です。

症状の進行に伴い、日常生活への影響が大きくなり、一人では生活できない状況となる可能性があります。このような点で、「認知症」と「加齢による物忘れ」は異なる現象である、と言えます。

「認知症」と「加齢による物忘れ」の違い

POINT

「認知症」と「加齢による物忘れ」には、それぞれどのような特徴があるのでしょうか。具体的な違いについて、詳しく解説します。

「認知症」の特徴

まずは、「認知症」の特徴を見ていきましょう。

体験を丸ごと忘れてしまう
認知症の人は、体験したことを忘れてしまいます。例えば、「朝食を食べたこと」そのものを忘れてしまうため、朝食を食べた直後に「朝食はまだ?」と発言することも。

このように自分の身に起きた出来事そのものを覚えられないので、仮にヒントが与えられたとしても全く思い出せない、というケースがあります。

「忘れている自覚」がない
用事があったこと自体を忘れてしまい、さらにその「忘れた事実」さえ認識できなくなるため、時間や約束事が守れなくなる、というケースがあります。例えば、テレビで見たり聞いたりしたことがある芸能人の名前だけでなく、存在そのものを忘れてしまう、ということがあります。

日常生活に支障をきたしている
また、時間感覚や自宅周辺の道が分からなくなることもあり、自宅を出ると帰宅できなくなる可能性があります。これまで問題なくできていたはずの家事や仕事の手順が分からなくなる場合もあり、日常生活を営むこと自体が困難になってきます。

こういった症状をともなう認知症が進行していくと、改善策を講じることが難しくなってしまいます。そのため、症状の進行を遅らせ、予防することが大切です。認知症の一つの原因である「アルツハイマー病」については、こちらの記事で詳しく解説しています。
👉アルツハイマー型認知症の原因は? 主な症状と予防法についても解説 - lala a live(ララアライブ)│フォーネスライフ

「加齢による物忘れ」の特徴

一方で、「加齢による物忘れ」にはどんな特徴があるのでしょうか。

物事や体験の「一部」を忘れる
加齢による物忘れの場合、例えば「朝食を食べたこと」は覚えているけれど、「献立は思い出せない」というケースが多いです。物事や体験の「一部」を忘れている、ということなので、どこで食べたか、朝食の種類は何かなど何らかのヒントがあれば、自力で思い出せることがほとんどです。

忘れたことを自覚している
「●●の用事を忘れてしまった!」というように、「忘れたこと自体」は自覚できているケースが多いです。例えば「あのドラマに登場していた芸能人の名前、なんだっけ?」と、忘れたこと自体にやきもきしている場合は、加齢による物忘れである可能性があります。

日常生活に支障がない
先述した通り、生活に支障をきたすほどのトラブルは発生しにくい傾向があります。加齢による物忘れの場合、時間や場所の感覚は問題なく認識できることがほとんどです。仕事や家事などに影響を及ぼすことは多くないでしょう。

ここまで取り上げてきた加齢による物忘れは、生活習慣の改善によって、軽快していくことがあります。

「認知症」と「加齢による物忘れ」の比較表

ここまで見てきた、「認知症」と「加齢による物忘れ」の特徴について、具体的な違いを確認したい場合は、厚生労働省が公開した下記の表を参考にするのもおすすめです。

出典:厚生労働省「認知症ケア法-認知症の理解」
出典:厚生労働省「認知症ケア法-認知症の理解(PDF)

両親の物忘れが気になってきて「認知症なのでは?」と不安に思っている人や、最近「物忘れが多くなったかも」と感じる人は、ぜひ活用してください。

物忘れを改善する2つの習慣

スマートフォンを片手に、ノートに鉛筆で文字を書く様子

「認知症」と「加齢による物忘れ」の違いが理解できたところで、どちらが原因の場合も活用できる、2つの「物忘れを改善する習慣メソッド」を紹介します。とはいえ、これは確実に症状を改善できるものではありません。不安がある場合は、医療機関で適切な診断を受けることも意識しておきましょう。

「反復」を心がける

短期間ですぐに覚えたことは、どうしても忘れやすいもの。そのため「繰り返す」意識が重要です。具体的には、下記の方法を実践しましょう。

  • 何度も書く
  • 口に出して反復する
  • 頭の中で思い浮かべることを繰り返す

メモを残す

逐一メモをとることにより、物忘れした場合も、速やかに内容を振り返ることができます。メモ帳や、メモ機能を備えたスマートフォンなどをなるべく携帯しておきましょう。

また、日常生活の中で目に付きやすい位置に付箋を貼っておく、という手もあります。「忘れている状態」を短くすることができるので、物忘れを改善する効果が期待できます。

家族が認知症かも……そんな時はどうすべき?

スマートフォンを見て考えている女性

また、自分だけではなく「家族が認知症になった場合はどうすれば?」という不安を感じている人も多いでしょう。ここからは「家族が認知症ではないか」と感じたときの、本人との接し方などについて紹介します。

疑わしい場合は、速やかに医療機関を受診して

認知症は、早めの診断と治療で進行を遅らせたり、症状を改善できたりする可能性があります。その一方で、症状が進行中の当人が「自分は認知症だ」と自覚するのは難しいことなので、周りにいる家族の気づきや支援が重要になってきます。専門外来に限らず、かかりつけ医など身近な医療機関に相談するなど、まずは当人の意思を尊重しつつ、早めの受診を心がけましょう。

当人の気持ちに寄り添う

やってしまいがちなのは、いきなり「認知症じゃない?」と声をかけてしまうこと。当人は「もしかしたら認知症なのかも?」と大きな不安を感じている場合も多いので、突然の指摘によって傷つき、場合によっては建設的なコミュニケーションが取れなくなってしまう可能性があります。

特に認知症の初期は、加齢による物忘れと判断がつきにくいもの。そのため、いたずらに指摘せず、症状をそれとなく観察するところから始めましょう。

「気を逸らせる」ことを意識して語りかける

認知症の当人にとっては「忘れたこと=未経験」だと心得た方が良いでしょう。例えば、食後に「ご飯は?」と催促されたら、「テレビを見て待っていてね」などと返答し、食事に関する意識を逸らせることを意識します。

実際、この状況が繰り返されると、当人以外はついイライラしてしまうかもしれません。しかし、認知症患者にも感情は存在するため、イライラをそのままぶつけると自尊心を傷つけてしまい、信頼関係が失われてしまう可能性もあります。「ご飯は食べたでしょう」と突っぱねるのではなく、忘れたことを自覚させないという意識も、当人とのコミュニケーションにおいては重要なことなのです。

それぞれの症状の違いを理解し、冷静な対処を

「認知症」と「加齢による物忘れ」は、それぞれ症状の現れ方が異なります。まずは、当人の様子を観察し症状をチェックするところから始めましょう。

とはいえ、「物忘れのようだから、放っておいても問題ない」と判断するのは危険です。少しでも不安があれば、専門の医療機関を受診しましょう。その結果、「認知症」が疑われる場合は当人の心のケアを第一にしつつ、「加齢による物忘れ」だった場合は日々の心がけによって改善に取り組むなど、早めの対策を意識してください。

編集:はてな編集部
編集協力:株式会社エクスライト


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現在進行形で認知症の不安を抱えている場合は、まずは病院に相談してみましょう。

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