何が加藤茶の心を動かしたのか。妻・綾菜さんの「健康意識を高める秘策」とは

加藤綾菜さん

パートナーとして長い人生をともにする二人。「お互いに元気で長生きしようね」と誓い合ったはずが、気付けば相手の健康診断の結果に黄信号が……。でも、本人はさほど気にしていない様子。生活改善を提案してみるも、なかなか実行に移してもらえない。そんな、パートナーとの健康意識のギャップに悩んでいる人は、少なくないかと思います。

2011年に、ザ・ドリフターズのメンバーである加藤茶さんと結婚した加藤綾菜さんもその一人。健康に無頓着な茶さんに降りかかるさまざまな病をともに経験しながら、介護福祉士実務者研修や食にまつわる資格を取得し、茶さんの健康な生活をサポートしています。

健康面を意識した料理レシピなどを紹介する夫婦のYouTubeチャンネル「加藤家の日常」や、二人の出会いから結婚、現在までをつづった夫婦エッセイ『加トちゃんといっしょ』(双葉社)などを通じて、茶さんとの生活について積極的に発信する綾菜さん。

今回はそんな綾菜さんに、茶さんの健康を見直すことになったきっかけから、具体的な改善方法、さらにそこから起こった茶さんの変化まで、パートナーとの健康意識の差を縮めるためのコミュニケーション方法について伺いました。

加藤綾菜さん

加藤綾菜さん

2011年に加藤茶さんと結婚。年齢差45歳の年の差婚という事情から、結婚当初は「お金目当てでは」などとバッシングを受け続けたが、昨今では茶さんの健康をサポートする姿が注目を集めるように。年の差婚ならではの料理の秘訣やコミュニケーションの取り方などを発信し続けている。
Twitter:@katoayana0412 YouTube:加藤家の日常 - YouTube

70代半ばを迎えた夫に「減塩」の指示。食生活の改善が大きな課題に

加藤綾菜さん

──YouTubeチャンネル「加藤家の日常」でもよく紹介されているのが、減塩をはじめとしたヘルシーなレシピです。茶さんの健康を意識したものだと思いますが、食生活を見直すことになったきっかけについて教えてください。

加藤綾菜さん(以下、加藤):出会ったころの加トちゃんは、健康にまったく頓着しない人でした。食べるものはラーメンやトンカツ、焼肉……とにかく魚と野菜を食べなくて、唯一食べるのはトマトくらい(笑)。そんな生活を60年以上続けてきていたんです。

私はそんな加トちゃんの健康を気遣いたくて、最初は野菜や魚を使った料理を出してみたんですが、全く手をつけてくれなくて。「とにかく食べてもらわねば」という一心で、それからしばらくは加トちゃんが食べられるお肉を使った揚げ物をよく作っていました。

でも、結婚から2年ほど経ったころに、加トちゃんが病気で倒れてしまったんです。70代に入るまでの不摂生が一気に影響し始めたのかもしれません。さらに、私が加トちゃんに作っていた料理をブログなどに載せていたところ、「高齢の加トちゃんにこんなものばかり食べさせるなんて」と厳しいコメントが寄せられることがありました。これらが重なったことで「好きなものだけを作っていてはいけないんだ」とすごく反省しました。

──食生活は、どのように変えていったのでしょうか。

加藤:野菜嫌いな子ども向けのメニューを参考にしたり、料理教室に通ったりしました。加トちゃんが倒れてから5年くらいの間は、とにかく野菜を食べてもらうことを目標にして、ペースト状にしたり、ドレッシングやスープに使ったりと野菜の存在感を消していました。そうするうちに、ハンバーグに練り込まれていればOK、生野菜も少しならOK……と許容範囲が広がってきて、魚も少しずつ食べてくれるようになったんです。

── 一気にではなく、徐々に変えていく作戦ですね。

加藤:そうですね。ただ、しばらくはそれでよかったのですが、75歳を迎える頃に腎機能の低下を指摘されました。毎年夫婦で受診している人間ドックで、加トちゃんに「減塩」の指示がおりたんです。

さっそく、加トちゃんの食事を減塩に切り替えました。腎機能が低下している場合の塩分摂取の目安は1日6グラム*1とされているので、塩分計を用意して塩分を減らした食事を用意しましたが、加トちゃんにとっては毎食が減塩食で「物足りない、おいしくない」……。また食事の量が減ってしまい、すごくやせてしまったんです。

「だし」を制する者は減塩を制す!?

加藤綾菜さん

──減塩生活のつらさはよく耳にします。茶さんの場合も食の喜びが得にくくなり、食事量が減ってしまったんですね。

加藤:はい。私はとにかく塩分を減らすことだけを考えていたのですが、これではいけないと思い、減塩食でも味を感じられる、おいしい食事の作り方を習うことにしました。

──具体的なテクニックを聞いてみたいです!

加藤:まずは「だし」を重視すること。おみそ汁などでは特に、みその量を減らすかわりにだしを濃いめにして味わいを持たせます。それから、ニンニクやしょうが、ネギ、パクチー、山椒といった香りの強いものを使うと、口に入れた瞬間に香りが広がるので、しっかりとした味わいに感じられるんですよ。こうした香辛料は食欲を増す力も期待できるので、私もよく使っています。



「牛肉とレタスのオイスターソース炒め」の作り方。
肉に下味をつけておく、ニンニクで風味を付けるなど、減塩でも満足感が得られるよう工夫されている。


それからわが家では、加トちゃんの好物のチャーシューも減塩仕様になっているんです。タレにはニンニクとしょうがで風味を増すだけでなく、はちみつや甘酒を使ったり、醤油のかわりにみそを少し加えたりして減塩しておき、煮込むのではなくグリルで焼いていきます。味が付いているのはお肉の表面だけですが、口に入れた瞬間のインパクトが結構あって、満足感があるんです。

──聞いているだけでもすごくおいしそうです。

加藤:煮物やおみそ汁のときは、具材を大きめにカットするのも意識していますね。加トちゃんももう80歳なので、ついつい「小さめがいいかな?」と思ってしまうのですが、具が小さいと口に入れたときに味を感じにくく、大きく切ってある方が味をしっかり感じられて満足感につながりやすいと聞いたことがあって。具材を大きめにして汁の量を減らすようにしています。

減塩に取り組み始めてからは約5年。一時は心配な状態だった加トちゃんの腎臓も状態をキープできていますし、血圧も200近かった数値が130前後まで下がり、しっかりと結果が出せていてほっとしています。

──綾菜さんは、茶さんとの将来を見越して介護や食事にまつわる資格も取得されていますよね。

加藤:最初に取ったのは介護職員初任者研修で、そこから発展して介護福祉士実務者研修を修了しました。結婚して2年で加トちゃんが倒れたときに、自分には何もできなかったのがずっと心に引っかかっていたんです。

加トちゃんがパーキンソン症候群*2を発症したり、周囲でもお友達が介護状態になったり亡くなったりといった出来事が増えたのも、資格取得のきっかけになっていますね。いざというときに昔のようにオドオドしているのではなく、自分も覚悟をもって加トちゃんのそばにいたいと思うようになり、介護について本格的に学び始めました。

結婚した当初、45歳という年の差もあっていろいろな方から批判されることもありました。そのときに加トちゃんが守ってくれたのを覚えているし、私も加トちゃんを守れるようになりたい。綾菜がいれば安心だと思ってもらえる存在になりたいんですよ。

ただ実際には資格を取ったことよりも、日々加トちゃんと向き合う中で実践してきたことの数々が、何よりも自分を成長させてくれたと思います。

サポート疲れしないためには、自身の休息と「頑張り過ぎない」ことも大切

加藤綾菜さん

──茶さんは綾菜さんのサポートで健康的な生活にシフトしつつあるように感じます。パートナーが自分の健康に関心が薄い場合はどう働きかけるのが効果的だと思いますか。

加藤:加トちゃんも、私が「検査結果が心配だから一度病院で受診しよう」「改善しよう」と声をかけても「こんなの、ちょっと大げさに言っているだけだから」と取り合ってくれないことはありました。そんなときに私がとっていたのは「私のために」と伝える作戦です。

「加トちゃんと一緒に長生きしたいから、私のために病院に行ってほしい」「私のために、一緒に改善してほしい」と伝えると「しょうがないな……」と動いてくれることが多いんです。

減塩や運動といった改善の指示も、私だけではなかなか響きにくいことがあります。でも、専門家であるお医者さんの言葉はよく響くんですよね(笑)。だから私は加トちゃんをみてくれる先生と仲良くなって、加トちゃんが行動に移してくれるよう声かけをお願いしています。「舞台に立ち続けたいなら、腎臓の数値を改善しないと。減塩しましょうね」という言葉は、舞台のお仕事が大好きな加トちゃんには刺さったようで、頑張らなきゃな……と心動かされたようでした。

──過去に茶さんの健康をサポートする上で経験した失敗などはありますか?

加藤:私はすごく“マネージャー気質”で、なんでもやってあげたくなるタイプなんです。それこそ、靴下もはかせてあげるし、脱いだ服もハンガーにかけておいてあげるし……。車を呼ぶにしても加トちゃんが最低限の移動ですむよう、家の真ん前に停めてもらうなど、以前はとにかく加トちゃんの負担を減らせるように気を張っていました。

ところが、ある時病院で先生に「足の筋力が落ちている」と指摘されて。私がよかれと思ってやってきたことが裏目に出ていたんだ……とショックでした。

それからは「どうしたら加トちゃんが元気でいられるか」を一番に考えるようになったんです。車に乗る時も駐車場までは歩いて移動、徒歩3分のところにある行きつけの美容院にも、一緒に歩いて行くようにしました。そうするうちに、初めは疲れていた加トちゃんも往復の道のりを歩けるようになり、今では一緒にピラティスにも通っています。加トちゃんが「行きたいけど一人はイヤ」というので、私が付き添っています(笑)。

──食をはじめとしたあらゆる面から茶さんの健康をサポートする中で、自分自身の“疲れ”を感じることはありませんか?

加藤:あります、あります!(笑)自分ではそこまで自覚はなかったんですが、加トちゃんが病気になったりすると一気に気持ちが張り詰めてしまうみたいで。加トちゃんが入院していたときにお友達の歌手・山本リンダさんがお見舞いに来てくださったのですが、そこで「よく頑張ったね」と私に声をかけていただいた瞬間に号泣してしまったことがあって。

つらくて大変なのは加トちゃんだから、自分が弱っていてはいけないと思いながらも、やっぱり人に相談したり話を聞いてもらったりするのはすごく大切だなって痛感しましたね。タレントの鈴木奈々ちゃんと個人的に仲がいいのですが、よく連絡をくれたり、会ったときにはおいしいものを食べに連れて行ってくれたりします。そんなふうに、周りの人にすごく支えてもらっているなと感じることも増えました。

2022年は逆流性食道炎になってしまったりもして、自分の体調不良が続いた年でもありました。だから、これからは加トちゃんの健康だけではなく、彼と一緒に生きていく自分自身の健康にも気を使っていきたい。加トちゃんもいつも私の健康を気にかけてくれて、毎年誕生日には人間ドックをプレゼントしてくれるんです。

──「支える側」「支えられる側」という構図ではなく、お互いに相手の健康を気遣っていきたいですよね。

加藤そうですね。だからこそ、パートナーのサポートをする際に、頑張り過ぎないことも大切だと思います。私の場合、先ほども話したように“マネージャー気質”なところがあってつい頑張り過ぎてしまいがちなんですが、最近は気を付けるようになりました。

例えば食生活については、ある程度加トちゃんの健康状態が安定してきたこともあって神経質になり過ぎるのをやめたんです。頑張り過ぎずに、週に1~2回は好きなものを食べる「チートデー」*3を作って、加トちゃんにも好きなものを楽しく食べてもらうようにしています。加トちゃんもですが、私自身も気を抜ける日があることで、楽しく減塩食を続けられていますね。

食事も運動も「一緒にやろう」の効力は絶大

加藤綾菜さん

──過去の茶さんの病気などを経て、健康改善をサポートしてきた綾菜さんの経験から、パートナーの健康管理に悩む方へアドバイスをお願いします。

加藤:とても難しいテーマですが、加藤家の場合は「一緒にやる」ことでうまくいっているように思います。私も自宅では加トちゃんと同じ減塩食を食べていますし、断酒していた期間は一緒に断酒しました。運動をすすめるときも「一緒にやろう」と声をかけて、なんでも一緒にやるようにしています。

パートナーだけに改善のための行動を望むよりも、「一緒に頑張ろう!」とアクションすることで、気持ちもやわらぐのかもしれません。

──なるほど。それもこれも、日頃から夫婦間のコミュニケーションを大切にされているからこそかもしれませんね。

加藤:本当にその通りで、パートナーから急に「健康に気を使え」とか「運動しろ」と言われても、上から目線に感じたりして、きっとやる気になれませんよね。

私も加トちゃんも、お互い元気で一緒に生きていきたいという気持ちがあり、それを共有してきたからこそ、減塩や運動といった健康改善にも前向きに取り組めているんだと思います。

──日頃からお互いに自身の健康をどのように考えているのか、歳を重ねていく中でどう過ごしていきたいのか、夫婦で価値観を共有しておくことも大事なのかもしれませんね。本日は貴重なお話、ありがとうございました。これからも加藤ご夫妻がお互いに良きパートナーであり続けられるよう願っております!

加藤綾菜さん

取材・構成:藤堂真衣
撮影:小野奈那子
編集:はてな編集部


フォーネスビジュアス

健康を、予報する。

フォーネスビジュアスは、将来の疾病リスクを可視化し、

生活習慣の改善までトータルサポートする新時代のヘルスケアサービスです。

フォーネスビジュアス検査では少量の採血だけで以下のことが分かります。

・20年以内の認知症発症リスク

・4年以内の心筋梗塞・脳卒中の発症リスク

・5年以内の肺がんの発症リスク

・耐糖能や肝臓脂肪など体の状態

くわしく見る

*1:参考:「腎臓病保存期の方 | 食事について

*2:中脳の黒質のドパミン産生細胞が減少することにより、動きが遅く少なくなる、筋肉が固くなる、ふるえ、姿勢調節障害などの症状をきたす疾患。また、パーキンソン病と同様の症状を呈しながら、別の病因に関連している疾患をまとめてパーキンソン症候群と呼ぶ。参考「パーキンソン病・パーキンソン症候群

*3:英語で「だます、ズルをする」という意味を持つ「cheat」が由来。チートデーとはダイエット中にあえてカロリーの高いものを食べて停滞期の解消やストレス解消につなげる機会を意味する