健康診断で腎臓がひっかかる原因とは? 疑われる結果と対応について解説

健康診断で腎臓がひっかかる原因とは? 疑われる結果と対応について解説

腎臓は“沈黙の臓器”の一つといわれています。腎臓病になると、初期には症状を感じないケースがほとんどです。そのため、腎臓病は健康診断などでの早期発見が重要視されています。本記事では、健康診断や人間ドックで腎臓の数値がひっかかる際に確認しておきたい項目と原因、対策について紹介します。

(監修者)臼井亮介 先生

株式会社レノプロテクト 代表取締役

医師、医学博士。日本内科学会や日本腎臓学会の専門医・指導医などの資格を持つ。糖尿病医として経験を積んだのち、医師7年目より腎臓専門医としてのキャリアをスタート。腎臓専門医として基幹病院で外来診療・入院診療・研究に取り組む過程で、「腎臓外来にたどり着かないようにする・たどり着くまでの時間を延ばすためのサポート」への思いが募り、医師20年目の2022年に株式会社レノプロテクトを設立、代表取締役に就任する。日本内科学会・日本腎臓学会・日本透析医学会・日本糖尿病学会に所属。

こんな人におすすめ

  • 健康診断の腎臓の項目でひっかかってしまう人
  • 腎臓に異常が見られた際に原因を知りたくなった人

腎臓は沈黙の臓器

1.腎臓は沈黙の臓器

腎臓は異常があっても自覚症状が現れにくく、気付いたときには病気が進行している場合もあることから、“沈黙の臓器”と呼ばれています。

腎臓の働きは以下のとおりです。

  • 血液をろ過する
  • 体内の水分量を調節する
  • 体内の老廃物を尿として排出する
  • ナトリウムや酸、アルカリのバランスを保つ

腎臓病になっても、初期に症状を感じるケースはほとんどありません。しかし慢性腎臓病になると腎不全を引き起こす可能性があるだけではなく、心筋梗塞や脳卒中などの発症リスクや、死亡の危険性も高くなります。

そのため健康診断や人間ドックなどを受け、数値から腎臓の異常を早期に発見することが重要視されています*1

健康診断での腎臓機能の検査方法

2.健康診断での腎臓機能の検査方法

健康診断での腎臓機能の検査方法には、尿検査と血液検査があります。

尿検査で確認するのは、尿タンパクと血尿の有無です。尿検査でタンパク質が検出されれば腎臓の異常が考えられますが、タンパク質は健康な人でも出ることがあるため、原因を探っていく必要があります。

尿検査は、目で見て血尿だと分かるものと、そうではないものに分けられます。血液の細胞が出ており、血尿だと判断されれば、尿路の異常サインです。

血液検査では、クレアチニンと尿素窒素の値を確認します。またクレアチニン値から推計するeGFRが、腎臓の状態を測る指標です。

クレアチニン値と尿素窒素値は、尿検査と同じく健康診断を受ければ分かるものです。しかしクレアチニン値が正常とされる上限値は、慢性腎臓病の診断基準であるeGFR60程度と概ね一致しますので、正常範囲より高い数値を示した場合は腎機能は半分程度未満に深刻化している可能性があります*2

腎臓病の検査方法については、以下の記事で詳しく紹介しています。
👉腎臓病の検査方法とは? 基準値・検査結果から分かることや診断後にすべきことを解説 - lala a live(ララアライブ)│フォーネスライフ

尿検査で腎臓機能の低下が疑われる結果

3.尿検査で腎臓機能の低下が疑われる結果

尿検査で腎臓機能の低下が疑われる検査結果には、「尿タンパク」と「尿潜血」があります。

尿タンパク

タンパク質は通常、尿にほとんど排出されないため、尿タンパクが出た場合、腎臓に病気が隠れている可能性があります。尿タンパクは、運動後や発熱後であれば、健康な人でも排出されることがあります。

このようなケースでは治療の必要はないため、タンパク質が出た原因を突き止め、病的な尿タンパクなのかを判断しなければなりません。

良性か悪性かは、採尿時の状況に注意しつつ、別の日に再検査をして判断します。このとき試験紙法だけでなく、尿タンパクと尿クレアチニン比も求め、より正確に判断することが大切です*3

尿潜血

尿に血が混じっている状態を指す尿潜血は、目で見て血が混ざっていると分かる「肉眼的血尿」と、尿の色は変化ないものの、顕微鏡で確認したら血液細胞が混ざっている「顕微鏡的血尿」に分けられます。血尿の原因は大きく分けて、以下の2つです。

腎臓の糸球体(多くの血管が糸球状に密集した部分)由来の出血
尿の通り道である腎盂や尿管、膀胱、尿道由来の出血

血尿に加えて尿にタンパク質が混ざっている場合、糸球体腎炎が疑われ、腎生検が必要になることもあります。また尿の通り道からの出血が疑われる場合、尿に悪性細胞が混ざっていないか調べることが必要です。

尿潜血が顕微鏡的血尿の場合、早めに専門医を受診して判断してもらうことが大切です*4

血液検査で腎臓機能の異常が疑われる結果

4.血液検査で腎臓機能の異常が疑われる結果

血液検査で腎臓機能の異常の有無は以下の数値で判断されます。

  • 血清クレアチニン
  • eGFR
  • 尿素窒素

それぞれの項目について解説します。

血清クレアチニン

血清クレアチニンは、クレアチンリン酸と呼ばれる重要なエネルギー源物質が代謝された後にできる老廃物です。血清クレアチニンは腎機能の評価としてよく利用される検査の一つで、血中のクレアチニンの濃度が上昇していれば、腎臓の機能が低下していることを意味します。

クレアチニンの基準値を男女別に見ると、以下の通りです。

  • 男性0.61〜1.04mg/dL
  • 女性0.47~0.79mg/dL

ただし若齢者は高齢者よりも筋肉量が多いため、クレアチニンの数値が高くなる傾向にあります。症状や尿の状態などから、総合的な評価が必要です。

また、クレアチニンの値が上昇するのは、腎臓の機能が50%以下になってからといわれています。そのため腎機能低下の指標として、後述するeGFR(推算糸球体ろ過量)が用いられることが増えてきました。

クレアチニンについては以下の記事でも詳しく解説しています。
👉腎臓病の血液検査でクレアチニンが高いとどうなる? 疾患と原因・対処法を解説 - lala a live(ララアライブ)│フォーネスライフ

eGFR

eGFRとは、腎臓の機能が今どのくらいの数値であるかを示す腎臓のスコアです。腎臓は、糸球体で血液をろ過して尿を作り出しており、この糸球体ろ過量(GFR)が腎臓の機能を評価する判断材料です。

しかしGFRの測定には、多くの時間と手間がかかります。その欠点をカバーするために血清クレアチニン値と、年齢や性別から簡易的に推定値を算出したもの値がeGFRです。

eGFRの基準値は60.0mL/min/1.73㎡で、これより低ければ慢性腎臓病の状態にあることが疑われます*5

年齢別のeGFRの計算
年齢別のeGFRの計算式は、以下のとおりです。

eGFR(ml/min/1.73㎡)=194×Cr(クレアチニン)(mg/dl)-1.094×年齢-0.287(女性はさらに×0.739)

eGFRは正常であれば、90〜100mL/min程度の値です。しかし正常な腎臓でも加齢に伴い働きが低下することを考えると、20代のeGFR値が60mL/minである場合と80代のeGFRが60mL/minである場合では判断が異なります。

そのため、自身の腎機能やeGFR値に疑問がある場合は、医師への相談が適切です。

尿素窒素

尿素窒素は、タンパク質の代謝によって生じる老廃物です。通常腎臓から尿に排出されますが、腎機能が低下すると血液中に溜まり、高い数値を示します。

尿素窒素の基準値は安静空腹時の場合、8〜20mg/dLです。しかし高タンパク摂取時や運動後、発熱時には高値を示す場合もあります。

腎臓機能の低下によって引き起こされる可能性のある病気

5.腎臓機能の低下によって引き起こされる可能性のある病気

腎臓機能が低下すれば、以下のような病気が引き起こされる可能性があります。

  • 慢性腎臓病(CKD)
  • 慢性腎不全
  • 急性腎不全

それぞれの病気について、順番に見ていきましょう。

慢性腎臓病(CKD)

慢性腎臓病(CKD)とは、長期的かつ慢性的な腎臓病の総称です。

腎機能障害をより早く発見するため、2002年に米国腎臓財団から、慢性腎臓病という概念が提唱されました。慢性腎臓病の定義により、慢性腎不全よりも軽度で早期の腎機能障害も、慢性腎臓病と判断されるようになりました。

慢性腎不全

慢性腎不全は、数年〜10年以上といった長期間で、少しずつ腎臓病が進行し、腎機能が低下していく病気です。腎機能は一度失われると回復は見込めず、今の状態を悪化させない対処を行います。

正常時と比較して腎臓の働きが30%以下になったときを慢性腎不全と呼びます。10%未満まで腎臓の働きが低下した場合、血液のろ過が十分行えず、水分や老廃物のコントロールができなくなってしまいます。その場合は透析や腎移植を検討することが必要です*6

急性腎不全

急性腎不全は、何らかの原因により、腎臓の機能が急激に低下して体液の量を一定に維持できなくなった状態です。数年の時をかけて腎臓の機能が低下する慢性腎不全と異なり、数時間から数日の間で急速に症状が悪化します。

急性腎不全の原因は腎臓が原因となるものの他にも、尿路感染症や尿路結石が原因で起きたり、脱水や出血などにより腎臓への血流が低下することで発症したりするケースもあります。

急性腎不全は慢性腎不全と異なり、早期に適切な治療を受ければ、腎臓の機能が回復できる可能性があります*7

健康診断の腎臓の数値でひっかかったらどうする?

6.健康診断の腎臓の数値でひっかかったらどうする?

健康診断の腎臓の数値でひっかかった場合、早めに病院を受診することが大切です。腎臓内科や内科を受診し、再検査を受けましょう。

通常再検査で異常が見られない場合、一過性のものと判断され、経過観察になる場合がほとんどです。再検査でも異常が見られれば慢性腎臓病が疑われます。その場合、慢性腎臓病の原因を確定することが大切なため、追加での精密検査や必要に応じて腎臓の組織を採取する「腎生検」が行われることがあります。

さまざまな検査の結果腎臓機能が低下していると判断された場合、原因となる疾患の根本的治療をしたり、腎臓の機能を今以上に低下させない対処をしたりします。腎臓機能の低下を防ぐためには、生活習慣の改善や、食事療法が必要です。

慢性腎臓病や腎不全と診断された場合の治療

7.慢性腎臓病や腎不全と診断された場合の治療

慢性腎臓病や腎不全と診断された場合、治療には以下の方法が挙げられます。

  • 生活習慣の改善
  • 食事療法
  • 薬物治療

それぞれ詳しく見ていきましょう。

生活習慣の改善

慢性腎臓病や腎不全と診断された場合、生活習慣の改善が治療法の一つです。肥満や運動不足、飲酒、ストレスなどの生活習慣は、慢性腎臓病の発症に大きく関わっているためです。

慢性腎臓病や腎不全の治療の目的は回復ではなく、進行を遅らせることと、心血管疾患の予防です。生活習慣を改善することで、末期腎不全への進行を遅らせるようにします*8

食事療法:塩分制限

塩分制限の食事療法を行い、慢性腎臓病や腎不全の進行を予防することも大切です。塩分の取り過ぎは、生活習慣病の中でも特に高血圧に影響しています。

慢性腎臓病や腎不全の場合の塩分制限は、1日3〜6gが目標です。日本人の平均摂取量が11〜12gであるため半分以下にする必要があります、少しずつでも摂取量を減らしていけるよう意識しましょう*9

前述した生活習慣の改善とともに、塩分の制限は血管を守ることにつながるため、心臓や脳の病気の対策も期待できます。栄養士の先生など、専門家の意見を取り入れることも大切です。

薬物治療

生活習慣の改善や食事療法のほか、薬物治療も必要に応じて実施されます。慢性腎臓病や腎不全と診断された場合に使用する薬には、以下のものがあります。

  • 血圧調整機能を助ける薬
  • 老廃物排出を助ける薬
  • 血液を作り出す機能を助ける薬
  • 体液の量やイオンバランス調整を助ける薬
  • 強い骨を作る機能を助ける薬

上記は一例ですが、症状に応じてさまざまな薬が選択されます。

腎臓の数値で異常が出たら早めに医療機関を受診しよう

腎臓の数値で異常が出たら早めに医療機関を受診しよう

腎臓は重篤な状態となるまで自覚症状がないこともあります。慢性腎不全であれば失った腎臓の機能の回復はほとんど望めず、治療方法は症状の進行を抑えることしかありません。

本記事で紹介したように、腎臓病は血液検査や尿検査で検査ができます。定期的に健康診断を受けて、自分の腎臓の数値を知っておきましょう。

編集:はてな編集部
編集協力:株式会社イングクラウド


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*1:参考:一般社団法人全国腎臓病協議会「症状について | 腎臓病について

*2:参考:一般社団法人日本腎臓学会「腎臓検診でわかること-一般のみなさまへ

*3:参考:一般社団法人日本腎臓学会「腎臓検診でわかること-一般のみなさまへ

*4:参考:一般社団法人日本腎臓学会「腎臓検診でわかること-一般のみなさまへ

*5:参考: 一般社団法人奈良県医師会「eGFRとは

*6:参考:公益財団法人長寿科学振興財団「腎不全とCKDについて

*7:参考:一般社団法人日本腎臓学会「4.急性腎障害と慢性腎臓病-一般のみなさまへ

*8:参考:NPO法人日本腎臓病協会「CKDの予防と治療 | 慢性腎臓病(CKD)の普及・啓発

*9:参考:NPO法人日本腎臓病協会「CKDの予防と治療 | 慢性腎臓病(CKD)の普及・啓発