腎臓は血液をきれいにしたり、身体の水分量を調整したりする、大切な臓器です。腎臓の機能が低下すると、慢性腎臓病や腎不全などを発症するリスクが高まります。腎臓の機能が低下し始めてすぐは自覚症状がほとんどないため、注意しなければなりません。
本記事では腎臓の機能が低下する要因や、機能低下を判断するための指標、疾患のリスクや対策、治療法を詳しく紹介します。
目次
こんな人におすすめ
- 普段からアルコールをよく摂取するなど腎臓への負担が気になる人
- 健康診断などで指摘され、腎臓病や腎不全になるリスクが不安な人
- 将来的に腎機能が低下するリスクも考えて、今から生活習慣を正しておきたい人
腎臓の働きとは

腎臓の働きには、以下のものがあります。
- 血液中の老廃物をろ過する機能
- 身体の水分量を調節する機能
- 血液の酸性アルカリ性を調節する機能
- ビタミンDやエリスロポエチン、レニンなどの分泌
腎臓は、そら豆型のへこみ部分から尿管や動脈、静脈が出入りしており、大動脈から流れ込んだ血液は、糸球体と呼ばれるろ過装置にたどり着きます。
腎臓の機能が低下すると、腎臓病や腎不全のリスクがあります。腎臓病や腎不全は初期症状がほとんどないため、気づくと重篤な症状になっていたということも少なくありません。
健康診断の際に見るべき項目を知り、自分の腎臓の変化に気付けるようにすることが大切です*1。
腎機能が低下する原因

腎機能が低下する原因として一番多いのが、糖尿病です。ほかにもアルコールの取り過ぎや食べ過ぎ、ストレス、喫煙などの生活習慣が原因となることもあります*2。
- 糖尿病
- 高血圧
- 糸球体腎炎
- 薬やサプリメントによるもの
腎機能が低下する原因を上記の4つに分け、それぞれの原因について詳しく見ていきましょう。
糖尿病
腎機能が低下する原因として、糖尿病があります。糖尿病とは血糖を一定の範囲に抑えるインスリンというホルモンが十分に働かないために、血液中を流れる血糖が増えてしまう疾患です。
糖尿病は、腎臓病の原因のうち4割程度を占めています。糖尿病が原因で1年間に約1万6千人もの人が、透析治療を開始しています(注:厚生労働省の調査による2018年のデータ)。糖尿病で高血糖の状態が続くと、タンパク質と血液中のブドウ糖が結合した物質が増え、腎臓内にある糸球体という細い血管の塊が傷つきます。糸球体は腎臓内で老廃物をろ過する役割をもっているため、糸球体が傷つくと腎臓の機能は低下してしまうのです。
また、糖尿病は腎臓の機能低下の原因以外にも、脳卒中や心臓病の原因にもなるため注意が必要です。
特に以下のような発生危険因子がある方は、糖尿病を発症するリスクが高いといえます。
- 加齢
- 家族歴
- 肥満
- 運動不足
- 喫煙
- 高血圧
- 高脂血症 など
発生危険因子が、血縁者に糖尿病患者がいる家族歴の場合、予防は難しいといえますが、肥満や喫煙などは生活習慣を改めることでリスクが減らせます。リスクを減らすとともに、定期的な健康診断を受け、糖尿病の早期発見に努めましょう*3。
高血圧
高血圧も、腎機能が低下する要因です。高血圧は血液が血管を通る際に血管の壁に与える圧力が、正常よりも高い状態を指します。私たちの血圧は、緊張したり寒さを感じたりする場合も一時的に上昇します。しかし一時的ではなく、慢性的に血管壁に負担がかかっている状態が高血圧です。
高血圧になると腎臓内にある糸球体に圧力がかかり、糸球体を構成する血管が狭くなります。その結果糸球体が硬化し、腎臓の機能が低下してしまうのです。
また、高血圧は腎臓の機能が低下するだけではなく、動脈硬化を起こす確率も上がります。
高血圧は放置していると怖い疾患ですが、自分で見つけることもできます。家庭で血圧測定を行い、早期発見を目指すとよいでしょう。
糸球体腎炎
糸球体腎炎は、腎臓の中のろ過装置である糸球体に炎症を生じる疾患の総称です。糸球体腎炎の原因の中で最も多い「IgA腎症」や尿タンパクが多く出る病気の一つである「膜性腎症」、紫斑や腹痛、関節症状を伴って腎臓の炎症が起きる「IgA血管炎(旧病名:紫斑病性腎炎)」も、糸球体腎炎に含まれます。糸球体腎炎は、糸球体の炎症によって血尿や尿タンパクが1年以上続く状態です。尿タンパクが多いほど、腎不全になりやすいといわれています。
糸球体腎炎は積極的な治療が必要だと考えられますが、進行し過ぎている場合、治療をしても腎機能の回復はあまり期待できません。進行していたらなるべく悪化させないよう対処する必要があるため、できるだけ早期の発見が重要な疾患です。軽度な尿検査異常出会っても自己判断で様子見にせず、専門医に相談しましょう*4。
その他(薬、サプリメントなど)
薬やサプリメントが原因で腎臓の機能が低下している状態を、薬剤性腎障害といいます。主な病態には、中毒性腎障害や過敏性腎障害、腎血流障害があります。過敏性腎障害の場合には皮膚症状、関節症状や微熱など自覚症状を伴うこともありますが、ほとんどの薬剤性腎障害は自覚症状がありません。薬(処方薬)やサプリを継続する場合には定期的に適切な検査を受け安全性を確認することが大切です。いずれの病態においても、治療は原因となる薬剤を早期に中止、または薬剤の量を減らすことが重要です。
低下による症状

腎機能が低下した場合、初期であれば自覚症状はほとんどありません。進行してから現れる症状には、以下のものがあります。
- 夜間尿が増える
- 立ちくらみや貧血を起こす
- 手足がむくむ
- 疲労感がある
- 少し動いただけで息切れをする
ここからは、健康診断などで確認しておきたい腎臓の数値について解説します。
低下を表す指標

腎機能の低下を表す指標は、以下の2つです。
- クレアチニン
- eGFR
健康診断を受けた際には、腎機能の低下を表す指標を自分で確認し、腎機能が低下していないか見ることが大切です。それぞれの指標について、順番に解説します*5。
クレアチニン
腎機能の低下を表す指標として、クレアチニン(Cr)は最も多く利用されます。クレアチニンとは、エネルギー源物質が代謝された後にできる筋肉由来の老廃物のことです。クレアチニンの濃度が上昇していれば、腎機能が低下していることを示唆します。しかし筋肉量が多ければクレアチニンの数値は高くなる傾向にあるため、症状や尿などから、総合的な評価が必要です。
クレアチニンの基準値は、以下のように男女別に異なります。
- 男性:0.61~1.04mg/dL以下
- 女性:0.47~0.79mg/dL以下
eGFR
腎臓の内部には多くの毛細血管が球状に密集した糸球体と呼ばれる構造物があり、この部分で血液をろ過して尿を作っています。このろ過機能のことを糸球体ろ過量(GFR)と呼び、これがいわゆる腎機能として定義されています。
しかし、GFRを実際に測定する検査は時間と手間がかかるため、行われることはほとんどありません。
そこで、クレアチニン値と年齢や性別から簡易的にGFR推定値を計算して腎機能評価しています。この腎機能推定値を推算糸球体ろ過量(eGFR)と言います。
eGFRの正常値は約100mL/min/1.73㎡で、30歳頃から加齢に伴い徐々に低下していきます。eGFR値が60を下回ると慢性腎臓病と診断されます。
低下に対する対策

健診の結果、腎機能の低下が見られると判断された場合、生活習慣の改善を心がけることが大切です。ここでは生活習慣を改善するためには、どのようなものがあるのか解説します。
生活習慣の改善
腎臓の働きが低下した慢性腎臓病(CKD)の状態では、生活習慣の改善や食事療法が重要です。一般療法としては、以下のものが挙げられます。
- 生活習慣病やメタボリックシンドロームの是正
- 禁煙
- 運動 など
食事療法の具体例は、以下のとおりです。
- 減塩
- タンパク質の摂取制限
- カリウム制限
- カロリー、栄養素の適正量摂取 など
初期の段階で生活習慣や食事を見直すことで、腎不全へ進行することへの対策となります。
腎臓病や腎不全のリスクについて

腎機能が低下すると、腎臓病や腎不全へと進行するリスクがあります。ここからは慢性腎臓病と慢性腎不全、急性腎不全についてそれぞれの概要を見ていきましょう。
慢性腎臓病(CKD)
慢性腎臓病(CKD:Chronic Kidney Disease)とは、慢性に経過する全ての腎臓病のことです。慢性腎臓病のステージは、以下のとおりです*6。
ステージ | 重症度 | GFR区分(ml/分/1.73㎡) |
ステージ1 | GFRが正常または高値な状態 | ≧90 |
ステージ2 | GFRに軽度の低下が見られる状態。腎臓に軽い障害があるが自覚症状はない場合が多い | 60-89 |
ステージ3 | GFRに中程度の低下が見られる状態。夜間頻尿や血圧上昇などの症状が見られる場合がある | 30-59 |
ステージ4 | GFRが高度に低下している腎不全の状態。全身にむくみなどの症状が現れる | 15-29 |
ステージ5 | 深刻な腎不全の状態 | <15 |
慢性腎臓病のステージはGFRの値によって、正常のステージ1から末期腎不全のステージ5に分けられ、ステージ4以上が腎不全と呼ばれます*7。
慢性腎不全
慢性腎不全とは、数カ月から数十年かけて腎機能が徐々に低下していき、腎臓の機能が失われていく病気です。慢性腎臓病(CKD)が進行した状態で、経過によって慢性腎不全と、後述する急性腎不全に分けられます。腎不全と診断されるのは、腎臓の働きが30%以下になったときです。一度失われた腎臓の機能は元に戻らないため、いかに進行をくい止めるかが治療のポイントとなります*8。
急性腎不全
数カ月から数十年かけて腎臓の機能が失われていく慢性腎不全と異なり、急性腎不全は数日から数週間で急激に腎臓の機能が低下する病気です。急性腎不全は、原因により、以下の3つに分けられます。
- 腎前性
- 腎性
- 腎後性
それぞれの腎不全について、詳しく見ていきましょう。
腎前性
腎前性の急性腎不全は、腎臓に十分な血液が流れていないことが原因で腎機能の低下を起こす疾患です。腎臓自体には異常がなく、以下のような循環障害が原因で起こります。- 脱水症
- 大量出血
- 過剰降圧(血圧の下がり過ぎ)
- 心不全
- 敗血症
循環障害で血圧が下がれば、腎臓に流れる血液が減るため、尿が作れなくなります。
腎性
腎性の急性腎不全は、腎臓そのものの障害によって発症する疾患です。例として、以下のような原因があります。- 糸球体腎炎
- 間質性腎炎
- 腎盂腎炎(じんうじんえん)
- 手術や抗生剤、抗がん剤などの医療行為
- 腎梗塞や腎動脈血栓など
腎臓に流れる血液が減ると、酸素が腎臓の細胞に届きにくくなり、腎臓の機能が失われます。特に尿細管の細胞はダメージを受けやすく、血流が再開しても利尿が再開するまで1週間以上を要することがあります。
腎後性
腎後性は、尿管や膀胱、尿道に原因がある場合に起こる腎不全です。腎後性急性腎不全で考えられる原因は、以下のものがあります。
- 前立腺肥大
- 尿路結石
- 膀胱がん など
腎後性は、尿の通り道に障害が起こるため、尿が身体の中に溜まってしまいます。急性腎不全は慢性腎不全と異なり、適切な治療を受ければ腎機能が回復する可能性のある病気なので早期に発見し、治療を受けましょう。
腎臓病になってしまった場合の治療法

慢性腎不全によって腎臓の機能が失われてしまった場合、以下の治療法が必要になることがあります。
- 人工透析
- 腎移植
それぞれの治療法についての概要を、詳しく見ていきましょう。
人工透析
人工透析とは透析療法とも呼ばれ、重度に損なわれた腎機能の代わりに、血液中の老廃物や余分な水分を取り除く処置です。
人工透析には「血液透析(HD)」と「腹膜透析(PD)」の2種類があります。どちらも腎臓の代わりに老廃物や水分を取り除くという同じ目的はありますが、方法や特徴が異なります。
血液透析は、人工腎臓という装置を利用して、老廃物や水分を排出する方法です。身体への負担が大きく通常、医療機関に通院して行います。透析効率が高い点が特徴です。
腹膜透析は、カテーテルを腹腔内に留置し、シャントと呼ばれる透析液を出し入れする方法です。腹膜透析は自宅で行えるため、通院時間がいらないことや、都合に合わせられるメリットがありますが、毎日行う必要があります。また、5年程度しか継続できません。
以下の記事では、糖尿病が原因で慢性腎不全になったグレート義太夫さんのインタビューを掲載しています。人工透析について詳しく述べられていますので、ぜひ参考にしてください。
👉人工透析のグレート義太夫さんが語る糖尿病との付き合い方 - lala a live(ララアライブ)│フォーネスライフ
腎移植
腎移植は、生きている人または死亡した直後の人から腎臓を摘出し、腎不全の患者に移植する方法です。腎移植は時間的制約の大きい人工透析に代わる救命法として、多く採用されています。
ただし移植により、以下のようなさまざまな合併症が生じる可能性もあります。
- 拒絶反応
- がん など
移植が成功すれば、活動的な通常の生活を送ることも可能です。ただし重度の心疾患やがんといった特定の病気がある場合、腎移植は行えません*9。
腎機能低下を防ぐために生活習慣の改善を

腎機能が低下しても、初期ではほとんど自覚症状がありません。そのため、健診の指標を見ることが大切です。
腎機能低下が進み、腎不全へと進行してしまえば、人工透析や腎移植が必要になります。治療にかかる時間や身体の負担は大きいため、腎機能を低下させないように生活習慣の改善をはかり、対策を行いましょう。
編集:はてな編集部
編集協力:株式会社イングクラウド
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慢性腎不全のリスク、調べてみませんか?
*1:参考:公益財団法人長寿科学振興財団「腎不全とCKDについて」
*2:参考:一般社団法人 日本腎臓学会「4.急性腎障害と慢性腎臓病」
*3:参考:一般社団法人 日本透析医学会「わが国の慢性透析療法の現況(2022年12月31日現在)」[PDF]
*4:参考:東京大学医学部附属病院 腎臓・内分泌内科「慢性糸球体腎炎」
*5:参考:一般社団法人 日本腎臓学会「2.腎臓健診でわかること」
*6:参考:東京都「ほっとけないぞ!CKD慢性腎臓病」
*7:参考:公益財団法人長寿科学振興財団「腎不全とCKDについて」
*8:参考:公益財団法人長寿科学振興財団「腎不全とCKDについて」