腎臓の働きが弱まると、さまざまな不調が発生します。そもそも腎臓は沈黙の臓器といわれており、自覚症状がないまま疾患が深刻化してしまうケースも少なくありません。
本記事では、腎臓病の一つである慢性腎不全について、どのような病気なのか、原因や急性腎不全との違いは何か、そしてその対策法を解説します。
目次
こんな人におすすめ
- 既に腎臓の状態がよくなく、これ以上悪くならないよう対策をしたい人
慢性腎不全とは?
慢性腎不全についてどのような病気かを知る前に、まずは腎臓そのものの働きについてあらためて理解しておく必要があります。
腎臓のはたらき
腎臓は体内の水分を一定に保てるよう、尿の濃さや量を調整する臓器です。例えば、体内の水分量が多いときには尿の濃度を薄くして多く外に排出し、水分量が少ないときには濃い尿を少ない量で排出します。
また、血液をアルカリ性に保つために、体内に溜まった酸性物質の老廃物や不要なホルモンも尿と一緒に体外へ出してくれます。
加えて、腎臓は血液を作るホルモンも分泌しており、血圧の調整をする働きも担っています*1。
従って、腎臓は体内環境を正常に保つために欠かせない、重要な臓器の一つだといえるでしょう。
慢性腎不全の概要
腎不全とは、腎機能が低下し、その機能が30%以下になった状態のことです*2。腎機能が低下すると、貧血の発生、骨組織の劣化、感染症や動脈硬化症といったリスクが格段に上昇します。そして慢性腎不全とは、数カ月から数年にわたって徐々に腎不全状態になっていくことを示します。
慢性腎不全になると治療での改善が難しく、腎機能の回復も見込めません。なお、腎機能が著しく低下すると末期腎不全へと進行し、透析や腎移植といった治療が必要になります。
急性腎不全との違い
腎不全には慢性腎不全の他に「急性腎不全」があります。急性腎不全は、数時間から数日といった短期間で急激に腎機能が低下してしまう病態です。腎機能低下状態が3カ月以上続く慢性腎臓病(CKD)の人や高齢者が急性腎不全になりやすいとされていますが、普段健康な人や若年者でも起きることがあります。
ただし慢性腎不全と異なり、急性腎不全では治療によって腎機能の回復が見込めるのが特徴です*3。
慢性腎不全の代表的な症状
慢性腎不全では初期症状はほとんど認められず、疾患が進行するにつれて、以下に示す尿毒症の症状を自覚するようになります。なお、症状を引き起こす尿毒症性物質の正体については、未だ解明されていません*4。
- 疲労感、だるさ、倦怠感
- 息苦しさ
- 不眠
- 頭痛
- 食欲の低下
- 吐き気
- 口臭
- 肌のかゆみ
- 夜間頻尿
- 尿量の低下
- 血圧上昇
- 骨折
- むくみ
これらの症状の中で全身のむくみがある場合は、腎不全が深刻化している可能性があり、早期の受診が求められます。
慢性腎不全の症状については、以下の記事でも解説していますのでご確認ください。
👉慢性腎不全はどんな病気? 原因・症状から診断方法、治療方法まで解説 - lala a live(ララアライブ)│フォーネスライフ
慢性腎不全の原因
慢性腎不全になる原因にはさまざまなものがあります。
日本透析医学会が2022年に公表したデータ*5によると、透析治療を始めた人の要因として糖尿病性腎症が38.7%と最も高い割合を占めています。次に多い原因は腎硬化症の18.7%、慢性糸球体腎炎が14.0%です。
ここでは、慢性腎不全の要因として特に懸念されている、これら3つについて解説します。
糖尿病性腎症
糖尿病性腎症とは、糖尿病に起因する腎臓の合併症です。糖尿病は血液中の血糖が正常な状態よりも増えることで発生します。
糖尿病では、糸球体へ血液を送る輸入細動脈と糸球体を超えた輸出細動脈の両者が拡張しますが、相対的に輸入細動脈の方が拡張するため、糸球体に流れ込む血液量が増えることで糸球体内圧が上昇します。糸球体内圧が高い状態が続くと次第に腎機能が低下してしまうのです*6。
慢性糸球体腎炎
慢性糸球体腎炎は、腎臓内にある「糸球体」と呼ばれる毛細血管の集まりに炎症が生じて、尿タンパクや血尿が1年以上の長期間にわたって続く病気のことです。
糸球体は血液をろ過し、老廃物を体外へ排出する重要な役割を担っているため、糸球体が炎症すると腎機能の低下につながります*7。
基本的に、体内に入ったウイルスや菌を撃退しようと作られるのが正しい免疫(抗体)ですが、何らかの異常で自分自身を攻撃してしまう誤った免疫が作られることがあります。
この誤った免疫が慢性糸球体腎炎の発症原因となることがあります。
なお、慢性糸球体腎炎の中でも多くの割合を占める疾患がIgA腎症です。IgA腎症以外の慢性糸球体腎炎としては、膜性腎症や膜性増殖性糸球体腎炎、微小変化型ネフローゼ症候群などが挙げられます*8。
IgA腎症
IgA腎症は、慢性糸球体腎炎の主な疾患として知られているものの、自覚症状がほとんどなく、検査をして初めて発見されることが多い疾患です。
IgA腎症は20代での発症が最も多いものの、年齢を問わず幅広い世代で症例が認められています*9。
腎硬化症
腎硬化症は、高血圧によって腎臓内の血管が動脈硬化状態になることです。動脈硬化が引き起こされると、腎臓の血管が狭くなり、腎臓へ送り込まれる血液量が減少します。その結果、腎機能が低下し、腎不全へと進行します*10。
腎硬化症で慢性腎不全になる人は、腎臓以外の動脈硬化も進行していることが疑われ、心筋梗塞や脳卒中といった深刻な病気にかかっている可能性も否定できません。
また腎硬化症は高齢者のみならず、30代からの症例も見られています*11。
慢性腎不全・慢性腎臓病(CKD)・急性腎不全の違い
慢性腎不全とよく比較される病気として、急性腎不全や慢性腎臓病(CKD)が挙げられます。
慢性腎不全との違いについて見ていきましょう*12。
慢性腎臓病(CKD)とは
慢性腎臓病(CKD)は「Chronic Kidney Disease」の頭文字から付けられている腎疾患の包括的な概念で、慢性的に腎機能が低下している状態にあることを示します*13。慢性腎不全と診断するより早く腎機能障害に対処するため、この定義が導入されました。そのため、自覚症状が全く見られない早期の状態でもCKDと診断でき、腎機能の治療に早くから取り組めるようになりました。
CKDの主な原因には、糖尿病や高血圧、肥満といった生活習慣病が挙げられますが、加齢や運動不足・喫煙・ストレスなども大きく関わっているといわれています。国内では1300万人以上のCKD患者がいるとされており、決して珍しい病気ではありません*14。
CKDについて詳しくは、以下の記事をご確認ください。
👉慢性腎不全と慢性腎臓病の違いは? 症状・原因・治療方法について解説 - lala a live(ララアライブ)│フォーネスライフ
急性腎不全とは
急性腎不全は、数時間〜数日程度で急激に腎機能が低下する病気です。慢性腎不全では、腎機能の回復が難しいとされていますが、急性腎不全では原因を取り除く治療(多くが入院治療)によって改善が見込める可能性があります。また急性腎不全は、腎不全の要因がどこで発生しているかによって「腎前性」「腎性」「腎後性」の3つに分類されます*15。
腎前性
腎前性は、腎臓へ送り込まれる血液量が減少することに起因する腎不全です。血液を循環させる心臓のポンプ作用が低下したり、非ステロイド系消炎鎮痛薬などの薬物を使用したりすることで発生します。心臓のポンプ作用の低下には、心筋梗塞や心筋炎といった別の病気が関わっているケースもよく見られます。
また、出血や発汗、嘔吐(おうと)、食事量の減少などによる体内循環血液量の減少も要因として挙げられるでしょう*16。
腎性
腎性は、腎臓自体の障害が要因で起こる腎不全です。主に、糸球体腎炎や薬剤・感染症による急性間質性腎炎、急性尿細管壊死、慢性腎盂腎炎などが挙げられます。
また、腎臓へ送り込まれる腎動脈の流れが血栓などで急激に詰まる血流障害が発生することでも、急性腎不全を引き起こす場合があります*17。
腎後性
腎後性は、腎臓より下の尿管や膀胱、尿道に原因が見られる腎不全です。後腹膜線維症や後腹膜への悪性腫瘍、前立腺肥大や前立腺がんなどが原因として挙げられます*18。
他にも、両側尿管の閉塞や膀胱・尿道の閉塞、骨盤内腫瘍などが原因であるケースもあります*19。
腎臓機能の低下は心血管系の疾患を引き起こすことも
腎機能が低下すると、心臓や血管にも大きな負担がかかるといわれています。
腎不全になっている人は体内の血液量が増えるため、血圧が上昇し高血圧になりやすい状態です。また、不要な老廃物が体外へ排出されず体内に留まり続けることで、全身のむくみといった症状の発生にもつながります。
これらの症状を放置して腎不全が進行すると、末期腎不全となり、脳卒中や心筋梗塞といった生命を脅かすほどの重病を引き起こしやすくなります*20。
慢性腎不全の診断方法
慢性腎不全かどうかを判断する方法として、以下の検査手法が挙げられます*21。
尿検査
尿検査では、尿内にタンパク質や血液が混ざり込んでいないかを確認します。ほかにも糖・比重・pH・白血球・細菌などの有無もチェックすることが可能です。ただし、発熱や運動のあとにも異常値が出る場合があるため、検査で異常が認められた際には念のため複数回検査することが一般的です。
尿検査の手法としては、検出用テープや試薬での検査のほか、遠心分離機器を用いた尿中の固形物を調べる検査(尿沈渣)があります。
血液検査
血液検査は、定期健診などを通じて実施される一般的な検査で、腎不全の進行度をチェックできます。血液検査で主に見られる数値は、血中尿素窒素(BUN)、血清クレアチニン(Cr)の2つです。BUNは、血中の窒素量を測定するもので、腎機能が低下している人ほど値が高くなります。
Crは、筋肉中に含まれるタンパク質の老廃物を示すものです。通常であれば、腎臓でろ過され尿として排出されますが、腎機能が低下すると血中にクレアチニンが溜まるため、Crの数値も高くなります。
超音波・レントゲンなど
超音波検査やレントゲン、腹部CT検査では、腎臓の大きさや形、腫瘍や閉塞の有無、合併症の有無を調べられます。瘢痕(はんこん)と呼ばれる傷跡によって腎臓の萎縮が認められた場合は、腎機能の低下が慢性的に起こっている可能性があり、慢性腎臓病(CKD)と診断されるケースも多いでしょう。
他にも、腎臓組織の一部を採取して観察する腎生検という検査方法もありますが、超音波検査などで瘢痕が認められた際にはこの検査は行われません*22。
慢性腎不全の検査については、下記の記事もあわせてお読みください。
👉腎臓病の検査方法とは? 基準値・検査結果から分かることや診断後にすべきことを解説 - lala a live(ララアライブ)│フォーネスライフ
慢性腎臓病・慢性腎不全の対策
慢性腎臓病(CKD)や慢性腎不全の対策としては、原因となる疾患の治療を行うことが必要です。
CKDの原因である疾患には、糖尿病や高血圧といった生活習慣病が挙げられます。そのため、日々の生活習慣を改善することから始めましょう。
例えば、肥満にならないよう食事量を調整したり、減塩を意識したり、適度に運動したりして体重を管理します。喫煙しているのであれば、禁煙も必要です。
また、日々の血圧測定や尿検査も予防に役立ちます。家庭血圧計を使えば、自宅で手軽に測定が可能です。尿検査は、定期的に健康診断を受ければ測定できます*23。
体重や日々の血圧、そして尿タンパクをこまめに確認することがCKDの早期発見や対策につながることをあらためて理解しておきましょう*24。
対策法については、以下の記事で詳しく解説しています。
👉腎臓病の予防方法とは? 腎臓の悪化に気付くためのチェックポイントも紹介 - lala a live(ララアライブ)│フォーネスライフ
日々の健康管理やこまめな検査が大切
慢性腎不全になると、治療による腎機能の回復は難しく、進行すると透析や腎移植での対処となる可能性も高いでしょう。
慢性腎不全を防ぐには、その前段階である慢性腎臓病(CKD)の時点で治療を開始することが大切です。
また、日々の健康管理やこまめな検査・医療機関の受診も効果的なため、自身の生活習慣を見直したり、定期的に健康診断を受けたりしましょう。
編集:はてな編集部
編集協力:株式会社イングクラウド
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自分に合った対策方法が分からない場合は、ぜひ検討してみてはいかがでしょうか。
※フォーネスビジュアス検査は、医療機関の医師を通じて提供します。
慢性腎不全のリスク、調べてみませんか?
*1:参考:国立研究開発法人国立循環器病研究センター「腎不全」
*2:参考:公益財団法人長寿科学振興財団「腎不全とCKDについて」
*3:参考:一般社団法人日本腎臓学会「4.急性腎障害と慢性腎臓病」
*4:参考:国立研究開発法人国立循環器病研究センター「腎不全」
*5:参考:日本透析医学会「第3章 2022年透析導入患者の動態」[PDF]
*8:参考:一般社団法人全国腎臓病協議会「2.慢性糸球体腎炎」
*9:参考:東京女子医科大学病院腎臓病総合医療センター腎臓内科「腎硬化症」
*11:参考:東京女子医科大学病院腎臓病総合医療センター腎臓内科「腎硬化症」
*13:参考:公益財団法人長寿科学振興財団「腎不全とCKDについて」
*14:参考:兵庫医科大学病院「慢性腎臓病(CKD)」
*16:参考:日本腎臓学会日腎会誌2002年44号(2)「急性腎不全」
*17:参考:東京女子医科大学病院腎臓病総合医療センター腎臓内科「急性腎障害」
*18:参考:日本腎臓学会日腎会誌2002年44号(2)「急性腎不全」
*19:参考:東京女子医科大学病院腎臓病総合医療センター腎臓内科「急性腎障害」
*20:参考:東京都「④心臓・脳血管障害の原因に!」
*21:参考:一般社団法人全国腎臓病協議会「検査方法について」
*23:参考:NPO法人日本腎臓病協会「CKDの予防と治療」
*24:参考:福岡市「慢性腎臓病(CKD)予防」