食事から歯磨き時間まで。ウェアラブル端末3本やアプリなどで生活習慣データを徹底的に記録している話


近ごろ、体重が増えてきた。最近、寝不足だと感じている……。そう思うことはあっても、「具体的な要因は何か」まで把握できている人は少ないのではないでしょうか。

ブロガーの骨しゃぶりさんは、睡眠、食事、運動といった生活習慣に関するあらゆるデータを計測して、その結果を記録し続けています。

30代半ばを迎えてこの先の健康に不安を感じるようになったそうですが、生活習慣のデータ計測を計測していたことで、体の「悪い流れ」が分かるようになり、不調の要因を特定して対策ができるようになったといいます。今回は生活習慣を記録するメリットや、記録を継続するための方法について寄稿いただきました。

骨しゃぶり
骨しゃぶり

書評ブロガー。ブログ『本しゃぶり』で、本と何かを結びつける記事を書いている。週刊プレイボーイで「『◯◯の文化史』ぜんぶ読む」を隔週で連載中。

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体重増加から見えた「悪い流れ」に対処するため、全ての食事を記録

俺は飲み会で料理が供されるたびにスマホを取り出し、記録を取っている。SNS中毒だからではない。何を食べたのかを記録するためだ。全ての食事を記録するようにしている

この習慣を始めたのは2年前のことである。もともと「記録好き」な性分もあって以前から体重は記録していたが、ある日、アプリで体重の推移を確認したところ、望ましくない事実に気付いた。30代に入ってから、3年にわたり体重が増加し続けていたのである。さらには体脂肪率も同時に上昇しており、脂肪も着実に蓄積されていることが分かった。

当時の月平均の体重と体脂肪率の推移

その時点ではBMIと体脂肪率は健康的な目安の範囲内であり、健康診断の結果も良好だった。だが、この「流れ」は望ましくないこのまま放置すれば、状況が悪化することはあっても改善することは考えにくい

※ BMI … [体重(kg)]÷[身長(m)の2乗]で求められる値。肥満の判定などに用いられる。BMI | e-ヘルスネット(厚生労働省)

30代半ばに突入し、仕事は多忙を極めているが、「健康」は何より優先すべきだ。予防は治療に勝るのだから、対処するのは「今」からだと考えた。その第一歩として、食事の記録を開始したのである。

この記事では、生活習慣の記録がいかに俺の健康維持に役立っているかを紹介する。さらに、俺が実践している習慣化の技術も伝授しよう。

睡眠、運動から歯磨き時間まで。俺の「生活習慣の記録」履歴と方法

まずは何を、どのように記録しているのか説明しよう。基本的にスマートフォンと連動する形でデータを記録し、最終的にAppleのヘルスケアアプリに集約している。具体的には以下の通りだ。

1. 睡眠

身に着けるだけで歩数や心拍数や消費カロリーを計測できる活動量計(アクティビティトラッカー)を手に入れたことをきっかけに、2014年11月から睡眠時間の記録を開始した。常時着用のスマートウォッチと専用アプリを使用し、就寝時刻、起床時刻、睡眠の質を確認している。自動で記録されるため、手間がかからない。アプリでは睡眠負債の蓄積量(理想的な睡眠時間にどれぐらい足りていないか)も表示され、睡眠不足を定量的に把握できる。

2. 運動

睡眠と同様に2014年11月から消費カロリーを記録している。これも主にスマートウォッチを使用しており、歩数や心拍数から消費カロリーが自動的に算出される。2019年6月に筋力トレを開始してからは、トレーニングメニューも記録している。

3. 体重・体脂肪率

2019年7月から体重・体脂肪率の記録を開始した。きっかけは筋力トレーニングを始めて、変化を観察したいと考えたからである。スマート体組成計を使用し、朝1回測定している。Wi-Fi接続により、計測後に自動でデータがクラウドにアップロードされる。自動でグラフが生成されるのが良い。

4. 食事

前述の通り、30代に入り体重が増加してきたという危機感により、2022年9月から食事の記録を開始した。こちらはスマホアプリを使っており、食事内容だけでなく、摂取カロリーや栄養バランスも把握できる。バーコード読み取りや写真解析機能によって食事内容が自動的に記録されるので便利だ。

5. 体温

新型コロナウイルス感染症の流行をきっかけに、体温の記録を開始した。Bluetooth接続の体温計を使用し、朝1回測定している。測定後にアプリを立ち上げると数秒で記録される。ワクチンの副反応で発熱したときは、心拍数と合わせてプロットしていた。

6. 歯磨き

知り合いから電動歯ブラシを推奨されたことをきっかけに、歯磨き時間の記録を開始。Bluetooth接続の歯ブラシをスマホと接続することで、歯磨きの時間がアプリに記録される。当初「歯磨きの時間が記録できることに何の意味が……?」と思ったが、計測を始めてからアプリが指定する適切な時間で磨くことができるようになった。

生活習慣を記録することで得られる3つの利点

そろそろ「これだけ記録してどれだけの効果があるんだ……?」と思う人が出てくるころだろう。しかし俺が目的としているのは、今すぐに劇的な変化を得ることではなく、「予防」に取り組むことである。未来という目の前にポッカリ開いた「落とし穴」を見つけ、落ちないよう回避することだ。そうすれば「健康」のままでいられるはずだ。

この「落とし穴」を回避するためには、自身の状態を常に把握し、変化を察知する必要がある。定期的に自身の状態を計測し、その結果を記録することで、初めて健康状態の微妙な変化に気付く。そうすれば、将来の予測にもつながるだろう。

では、具体的にどのような利点があったのか。生活習慣の記録から得られる3つの利点について、以下に述べていこう。

1. トレンドを発見できる

日々の記録を積み重ねることで、自身の健康状態や生活習慣の長期的な傾向、すなわちトレンドを発見できる。これは単なる過去の分析にとどまらず、将来を予測し、より良い選択をするための重要な指標となる。問題が深刻化する前に適切な対策を講じることができるのだ。

これはまさに、冒頭で紹介した俺の体重・体脂肪率の話が事例として分かりやすい。記録を取っていたからこそ、長期的なトレンドとして増加傾向にあることに気付いたのである。

さらにこのあと、アプリの指示に従って食生活の見直しを行ったところ、今度は必要以上に体重が減少してしまった。そこでスマートウォッチのデータから基礎代謝の設定を見直し、健康的な体重の維持に努めているのである。

設定見直し時の体重と体脂肪率の推移
設定見直し時の体重と体脂肪率の推移

その時々で計測するだけでは傾向を知るのは難しい。だが記録することで点が集まりつながれば「線」になる。一つ上の次元で健康管理ができるわけだ。

2. モチベーションを維持できる

健康維持の取り組みは、成果を感じるのが難しい。効果は一朝一夕に出るものではないし、特に予防のための取り組みとなれば、変化がないから余計に成果を感じない。

そこで記録が役に立つ。数値化によって、すぐにフィードバックを得られるからだ。

これは食事が分かりやすい。食事内容が適切かどうか、健康状態で判断するには時間がかかる。だが、体重なら1カ月もすれば結果が出る。さらに摂取カロリーや栄養バランスならば、記録したその場で良し悪しが判定可能だ。こうやって短いサイクルで達成感を得られると、モチベーションを維持できる

ただし、俺は「数値」だけを求めてはいない。「数値」だけを求めていると、人は近道をしたがるため、本来の目的につながらない選択をしてしまうことがある。それに良い数値を出せないと、やる気も次第に失せていく。

大切なのは「健康を目指そうとする意志」だと思っている。この意志を持続させるために見るべきは「数値」ではなく、積み重ねてきた「記録」そのもの。これは単なる数字の羅列ではなく、健康への旅路そのものだ。日々の記録を振り返ることで、自分の努力の軌跡が可視化され、それがモチベーション維持の源となる。

3. ファクター分析できる

何か問題が生じたとき、記録をつけていれば過去にさかのぼって要因を特定しやすい要因を特定できれば、根本から効果的な対策を打つことができる

例えば、睡眠記録がある。2022年1月、俺は睡眠不足に悩まされていた。記録を分析すると、以前よりも就寝時刻が遅くなっていることが確認できた。散発的に早く就寝できた日もあるが、早寝は継続しない。

そこで寝るのが遅くなる要因を拾い上げ、スマートホームやスクリーンタイムを活用し、環境が就寝を促すように設定したのである。

21時30分に鐘の音がなり、就寝を促される

もし記録をしていなかったら、睡眠不足の原因が就寝時刻にあるのか、睡眠の質が問題なのか判断が難しかっただろう。記録があったからこそ、何をすべきか分かったのだ。

生活習慣の記録を継続するための方策

以上のように、生活習慣を記録することは健康的な生活を送る上で役に立つ。しかし、読者の中には「できるわけがない」と思う人もいるだろう

毎日計測して記録するのは面倒な行為だ。いくら役に立つと言われても、続けられる自信がない。何だって途中で終わってしまう。いつだって途中で駄目になってしまう。自分は、何事も継続する能力が低いのだ、と。

それは習慣化のやり方を知らないからだ。俺が記録を続けていられるのは、能力の高さによるものではない。俺のは「技術」だ。習慣化の技術を知り、活用したことでさまざまな記録が続いているわけだ。これは記録以外にも役立つので、知っておいて損はない。

習慣化の技術の核には「フォッグ式行動モデル」がある。これはスタンフォード大学のB. J. フォッグ教授によって考案されたもので、行動が何を起因にして起こるのかを説明した簡単なモデルだ。フォッグ教授によると、行動を起こす人には以下の3つの要因が不可欠であるという。

  • 動機(Motivation):人がその行動をとりたいと感じる程度。要するにやる気
  • 能力(Ability):その行動をとるための技能やリソースがあるかどうか。難易度が低ければ行動しやすい
  • トリガー(Trigger):行動を引き起こす何らかの刺激やシグナル。何かのきっかけで人は行動する

トリガーが発生したとき、動機×能力が「行動ライン(Action Line)」を越えていれば、人は行動するというのである。

Goodmanguy, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons, Link
Goodmanguy, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons, Link

これに照らし合わせると、習慣化に失敗し、記録に挫折するのはどんなパターンか。俺の経験からすると以下のような感じだろう。

  • 動機:当初の熱意は薄れ、効果も感じられない。気がついたらやり忘れたのでどうでもよくなった
  • 能力:いちいち記録するのが面倒で、集計はさらにやってられない
  • トリガー:記憶頼りなので、やるのを忘れる

記録に限らず、挫折するパターンはどれも似たようなものだろう。これを防ぐにはどうするか。俺がいかにしてモチベーションを高め、行動の難易度を下げ、きっかけを用意しているかを説明しよう

1. 動機

まずやる気の出し方だが、俺は読書ブロガーとしていつもやっていることをした。つまり本を読んで知識を得て、なぜやる必要があるのかを文章化したのである。食事記録の場合なら、『ダイエットの科学』(白揚社)、『科学者たちが語る食欲』(サンマーク出版)、『果糖中毒』(ダイヤモンド社)を読み、どのような食事にするべきかを学んだ。そして記録すべき理由を文章化し、ブログ記事として公開したのである。

これを読み返せばいつでも「なぜやるのか」を思い出せる。加えてネットに公開したことで、後には引けなくなった。ここまで偉そうに書いておいてすぐに挫折してしまっては、ブロガーとして信用に関わる。こうなったら続けるしかない。

さらに駄目押しで、俺は毎日食事の記録をX(旧Twitter)にポストしている。摂取カロリーや食事バランスも包み隠さずに。

これで記録の継続と同時に、良い食事を取るモチベーションも高まる。ただ、公開しているからといって、見栄のために記録を誤魔化したりはしない。駄目なときは駄目な結果を晒している。大切なのは「健康を目指そうとする意志」なのだから。

2. 能力

能力は高めようとするのではなく、難易度を下げ、今の能力でも簡単にできるようにするのがコツだ。俺はさまざまな手段で難易度を下げているが、ポイントは「削減」と「自動化」である

削減とは、選択肢を減らすこと。悪習慣を行わなければ、記録も不要となる。例えば家からカロリーの高いお菓子を追放すれば、それだけ記録するものが減るし、健康にも良い。

逆に、良い食事メニューに固定化すれば、登録は毎回同じだから楽である。ちなみに俺は毎朝朝食に「プンパーニッケル」を食べている。これはドイツ発祥の伝統的なライ麦パンで、食物繊維と鉄分が豊富。手軽に食べられるし賞味期限も半年以上あるので便利だ。

プンパーニッケルの朝食
プンパーニッケルの朝食

自動化はそのままの意味で、計測や記録の自動化である。

一番便利なのはスマートウォッチなどによる完全自動化だ。ただ装着しているだけで、勝手にデータを収集・分析してくれる。スマートウォッチ・活動量計はいろいろ試しており、現在は左手に2本、右手に1本装着している。スマートウォッチが2つ並んでいると、表示領域が倍になって健康と天候を同時に見ることができて便利だ。

 メールが来ると同時に震える
メールが来ると同時に震える

次点として、計測はセルフで行う必要があるが、記録は自動化できるタイプの機器を使用する方法もある。最初の方で紹介した通り、体組成計や体温計がそれに該当する。接続方式がWi-Fi式だとスマホが手元になくてもいいので、Bluetooth式よりも便利だ。

現在は記録のためのアプリやガジェットが豊富にある。選択肢は多くあるので、機能とコストのバランスから自分にあったものを使えばいいだろう。

3. トリガー

きっかけは、習慣行動の開始点である。これが駄目なら、どんなに動機や能力があっても無駄になる。俺は「既存の習慣」と「リマインダー」を活用している

誰でも決まった習慣を持っている。なので、新しい習慣を作るときは、既存の習慣をトリガーとすると定着しやすい。この手法を『独学大全』(ダイヤモンド社)では技法10「習慣レバレッジ」と呼んでいた。

  1. 足がかりとなる習慣を選ぶ
  2. 足がかりの習慣の直前(直後)に新しい習慣を行う
  3. 2. を繰り返し、少しずつ重い習慣に変えていく

読書猿 『独学大全』Kindle版、ダイヤモンド社、2020年、164~165ページ

例えば、俺は朝起きたらまずPCの前へ向かう習慣がある。そこでPCの前に体温計を置いておく。そうすると毎朝忘れずに体温測定ができるというわけだ。

PCの前の体温計
PCの前に体温計を置いている

とはいえ、それでも最初の頃は忘れがちだ。体温計が置いてあっても、目に入らないということはある。そこでリマインダーの出番だ。俺がPCの前に座る時刻は決まっているので、そこで体温測定のリマインダーをセットしておくのだ。するとPCの前に座ったところで、両腕のスマートウォッチに通知がきて震え出す。これで忘れることはない。リマインダーの設定は、繰り返しにするのを忘れないように。

タスクによってはスマートスピーカーをリマインダーとして使うのも良い。俺の場合、生活習慣を整えるためにスマートスピーカーを活用している。ただ通知させるだけでなく「睡眠時間を確保するため、お風呂の準備がまだならしてください」と、理由まで説明するように設定している。トリガーだけでなく動機までフォローするわけだ。

記録することで先手を打って病気に対処する

今のところ、記録のおかげで大きな健康問題は避けられている。

だが、もちろん記録にも限界はある俺が認識していない要素については把握できていない

昨年、こういうことがあった。10年ぶりに歯科医院を受診したら、親知らずに問題があることが発覚し、3本も抜くことになった。毎日歯磨きの時間を計測していてもこの問題は発見できなかった。

記録は強力な武器だが、万能ではない。だからこそ、定期的な健康診断と新しい健康情報への目配りは欠かせない

それでも、生活習慣の記録は健康維持の第一歩だ。今すぐ始めることをおすすめする。たった一つの項目からでいい。きっと健康への理解が深まり、より充実した人生を送れるだろう。受け身の「対応者」であることをやめ、先手を打って疾患の種を潰していくのだ。


今回は骨しゃぶりさんに、生活習慣の記録を継続するメリットとその方法をつづっていただきました。

習慣化するには「動機(やる気)」が必要ということでしたが、一人でモチベーションを維持するのは難しい場合もあります。もしこの記事を読んで「生活習慣を改善したい!」と思われた方に、フォーネスライフが提供する将来の疾病リスク予測サービス「フォーネスビジュアス」を紹介します。

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編集:はてな編集部