スクワットにはどんな効果があるかご存じですか? 膝関節の屈伸運動を繰り返す運動として筋トレの定番メニューでもあり、初心者でも取り組みやすいのが特徴です。自宅で運動不足を解消できるため「時間と場所が限られている」といった悩みがある方でも気軽に始められます。
シンプルな動作ではあるものの、体力作りから健康維持まで、全身にうれしい効果をもたらしてくれます。
本記事では習慣化したい方に向けて、正しいやり方や基本フォーム、安全に取り組むポイントを紹介します。1日5回程度からでも、気軽に始めてみましょう。
目次
スクワットが注目される3つの理由
スクワットが注目される背景には、現代ならではのライフスタイルが関係しています。
デスクワークの増加や移動手段の多様化、家事の自動化などにより、私たちの身体活動量は以前よりも低下したと考えられます。意識的に身体を動かす機会が減るなか、誰でも手軽に始められ、かつ高い効果を期待できるメニューとして「スクワット」が注目されています。
ここでは3つの観点から、スクワットが注目される理由を紹介します。
身体活動量の減少と健康リスクの高まり
一つ目の理由は、現代社会に潜む健康リスクの高まりです。
現代人は便利な生活スタイルと引き換えに「歩く」「走る」などの身体活動量が大幅に減りました。特に座りっぱなしの時間が長くなり、運動不足が進行すると次のような健康リスクが高まります*1*2。
- 体力の低下
- 基礎代謝の低下
- 生活習慣病の発症(メタボリックシンドローム、糖尿病、心血管疾患)
体力の低下は、日常的な動作での息切れや疲労感につながります。また、体型維持(痩せやすさ)に関わる基礎代謝の低下や、深刻な合併症を引き起こす生活習慣病も注意すべきリスクでしょう。
これらのリスクを抑制する手段として、近年では「日常生活に無理せず運動を取り入れること」が重視されています*3。実際にはさまざまな方法が考えられますが、自宅でも取り組めるスクワットは一つの選択肢になるでしょう。
手軽で効果的なセルフケア運動
さまざまな効果を期待できるスクワットは、以下の点からも「最も手軽で効果的なセルフケア運動」として注目されています。
- 大きな筋肉を効率よく鍛えられる
- 代謝を上げつつ、血糖値のコントロールにも役立つ
- 成長ホルモンの分泌を促進する
正しいフォームでスクワットを行うと、下半身の大きな筋肉群を一度に鍛えられます。お尻(大臀筋)や太ももの前側(大腿四頭筋)、太ももの裏側(ハムストリングス)などの強化は、身体全体の筋トレ(筋力トレーニング)を始める際にも役立つでしょう。
また、筋トレで分泌される成長ホルモンには脂肪燃焼を促す作用があり*4、アンチエイジングの効果もあるといわれています。
日常に取り入れやすい手軽さ
「いつでも・どこでも・誰でも」始められる手軽さは、スクワットの大きな魅力です。特別なウェアに着替えたり、ジムに通う時間を確保したりする必要がありません。
以下のように、さまざまな場面で日常生活に取り入れることができます。
- 起床したとき
- 仕事や家事の合間
- 身体を動かして気分転換をしたいとき
- 歯磨きをしているとき
- テレビを見ているとき(CM中など)
スクワットは「ながら運動」が可能なので、日常のちょっとしたスキマ時間を活用できます。まずは1日5回程度から始めて、未来の健康への第一歩を踏み出しましょう。
日常で感じる3つの効果
スクワットを続けると、具体的にどのような効果を得られるでしょうか。
スクワットで主に鍛えられる下半身の筋力は、日ごろの暮らしやすさに直結します。意識的に鍛えないと衰えやすい筋肉でもあることから、スクワットは「将来の自立した生活」につながる運動といえます。
ここからは将来の不安に触れながら、スクワットを継続した場合の効果を解説します。
年齢とともに落ちる筋肉を維持する
筋肉量のピークは20代とされており、なにもしなければ加齢とともに自然減少します。「つまずきやすくなった」「椅子から立ち上がるのが億劫」といった身体の変化を感じたら、筋肉量が減り始めたサインかもしれません*5。
筋肉量が減少すると、以下のように日常生活でさまざまな悪影響が生じます。
- 「ふらつきやすさ」や「つまずきやすさ」が増加する
- 階段の上り下りがつらく感じる
- 立ち座りや立ち上がりなどの日常動作が困難になる
- 身体の回復が遅れて、疲れやすくなる
生活の質(QOL)を向上させるには、スクワットなどの筋トレで下半身の筋肉を維持することが重要です*6。
「動ける体」を支える
スクワットで下半身の筋肉を鍛えると、身体を支える土台が安定します*7。お尻や太ももなどの大きな筋肉群が強化されるため、結果として次のような効果が見込めます。
- 歩行能力の維持・向上
- 立ち座り動作の改善
- 階段昇降の負担軽減
これらの効果は、高齢者のトレーニングに係わる研究結果からも裏付けられています*8。日常の基本動作が楽になると活動範囲が広がるため、よりアクティブな暮らしを実現しやすくなるでしょう。
基礎代謝を底上げして「疲れにくい体」へ
下半身には大きな筋肉が多いため、スクワットによって効率よく筋肉量を増やし、基礎代謝も底上げすることができます。
基礎代謝とは、生命の維持に最低限必要なエネルギーのことです。安静時にも消費されるエネルギーなので、筋肉量が増えて基礎代謝が向上するほど「太りにくく痩せやすい体質」や「エネルギー効率のいい、軽やかに動ける身体」に近づけます。
「以前より疲れが取れにくい」「食べる量は変わらないのに太りやすくなった」といった場合も、筋肉量や基礎代謝が関係しているかもしれません。このような悩みを抱えている方は、スクワットでの健康作りを始めてみましょう。
正しく安全に! 初心者向けガイド
スクワットは手軽に始められる運動ですが、正しいやり方と安全性に配慮することが大切です*9。効果を最大化するためにも、まずは基本を身に付けることから始めましょう。
ここでは、初心者でも安心して始められる基本フォームと、実施する上での注意点を解説します。
基本フォームを身に付けよう
スクワットの基本フォームを覚えると、ケガのリスクを避けつつ効果を高めることができます。以下ではスクワットの基本手順と、正しいフォームを作るポイントをまとめました。
【スクワットの基本手順】
1.まっすぐ立ち、脚を肩幅程度に開く
30度を目安に、つま先を少しだけ外側に向けてください。
2.手は胸の前で組むか、前に伸ばす
肩の力を抜いて、上半身のリラックスを意識します。
3.背筋を伸ばしたまま、お尻を後ろに引くように膝を曲げる
目線を「真っ直ぐ前」または「やや斜め上」に向けると、背筋が伸びやすくなります。膝はつま先と同じ向きにして、前方に出し過ぎないように注意してください。
4.太ももが地面と平行になる程度まで腰を落とす
最初は無理をせず、できる範囲の深さで構いません。
5.元の姿勢に戻る
かかとを意識しながら立ち上がり、背中が丸まらないように注意しましょう。
正しい姿勢を意識すると、ターゲットとなる筋肉にきちんと負荷をかけられます。膝や腰への不要な負担が減るため、基本フォームの習得はケガの予防にもつながります。
安全に続けるポイント
間違ったフォームでスクワットを行うと、股関節や腰を痛める恐れがあります。初心者にありがちなフォームの乱れは、以下の通りです。
- 背中が丸まってしまう(猫背になる)
- 膝が内側に入ってしまう(ニーインの体勢になる)
- 深くしゃがみすぎて、腰が丸まってしまう
- かかとが浮いてしまう
無理なく安全にスクワットを続けるために、トレーニング中には次のポイントを意識しましょう。
【スクワット中に意識するポイント】
① 膝をつま先より前に出さない
お尻を後ろに引く意識を持ちましょう。
② 背中を丸めない
腹筋にも軽く力を入れて、体幹を安定させましょう。
③ お尻をしっかりと後ろに引く
最初は椅子を置いて、座るように動作を確認する方法もおすすめです。
④ 呼吸を止めない(動作に合わせて自然に呼吸する)
しゃがむときに息を吸い、立ち上がるときに息を吐くことを意識してください。
⑤ 痛みを感じたらすぐに中止する
膝や腰などに少しでも痛みや違和感があったら、すぐに運動を中断しましょう。
身体の声に耳を傾けながら、安全で効果的なスクワット習慣を身に付けてください。
体力や年齢に合わせた無理のないメニュー
スクワットには複数のバリエーションがあり、体力レベルや目的に合わせてメニューを調整できます。特に健康面の不安を感じている方は、身体の状態に応じて強度や方法を調整することが大切です。
ここからは、安全性と実用性を考慮したメニューを紹介します。
1. 椅子スクワット:運動の初心者や高齢者に
椅子スクワットは、椅子を置いてゆっくりと座るように腰を下ろす運動です。動作が安定しやすいため、運動に不慣れな人や高齢者、膝・腰への負担を抑えたい方に向いています。
ほどよい高さの椅子を用意したら、下記の手順で始めてみましょう。
- 安定した椅子(座面が高すぎないもの)の前に立つ
- 足を肩幅程度に開き、つま先を少し外側に向ける
- ゆっくりとお尻を後ろに引きながら、椅子に座るように腰を下ろす
- お尻が座面に軽く触れるか触れないかのところで、動きを止める
- ゆっくりと立ち上がり、同じ動作を繰り返す
以下に、椅子スクワットを効果的に行うためのポイントをまとめました。
【椅子スクワットのポイント】
- 太ももの前(大腿四頭筋)とお尻(大殿筋、中殿筋)の筋肉を意識する
- 安定した座りやすい椅子を使う
- 最初は無理のない回数で行い、慣れたらセット数を増やす
- 呼吸を止めずに、一定のリズムを意識する
- バランスが不安な場合は、机に軽く手をついても構わない
椅子スクワットでは、転倒のリスクを減らしながら重要な筋肉を安全に刺激できます。上記の手順とポイントを踏まえて、実際に取り組んでみましょう。
2. ワイドスクワット:下半身全体を引き締めたい方に
ワイドスクワットは、通常のスクワットよりも足幅を広く取り、つま先を大きく外側に向けて行います。内ももやヒップラインを重点的に刺激できるため、下半身の引き締めや姿勢改善を目指している方におすすめです。
下記の手順で始めてみましょう。
- 足を肩幅よりも広め(1.5倍〜2倍程度)に開く
- 45〜60度を目安に、つま先を自然に外側へ向ける
- 背筋を伸ばしたまま、お尻を真下に下ろすイメージでゆっくりとしゃがむ
- 太ももが床と平行になったら、ゆっくりと元の姿勢に戻る
手順3でしゃがむ際には、膝をつま先と同じ方向に曲げることを意識します。最初は無理をせずに、できる範囲の深さで構いません。
両足を大きく広げるワイドスクワットは、通常のスクワットと負荷のかけ方が異なります。股関節の柔軟性アップも期待できるため、運動初心者の方にもおすすめです。
3. ハーフスクワット・クォータースクワット:可動域を調整したい方に
ハーフスクワットとクォータースクワットは、通常よりも浅めにしゃがむスクワットです。太ももが床と並行になるまでしゃがむフルスクワットに比べると、膝や腰への負担を抑えやすい特徴があります。
下記の手順で始めてみましょう。
- まっすぐ立ち、脚を肩幅程度に開く
- 手は胸の前で組むか、前に伸ばす
- 背筋を伸ばしたまま、お尻を後ろに引くように膝を曲げる
- 膝の角度が90〜150度になったら止める(※)
- 元の姿勢に戻る
- ※ 120〜150度で止めるとクォータースクワット、90〜120度で止めるとハーフスクワットになります
ハーフスクワットとクォータースクワットは、体力に自信がない方のメニューや、リハビリ初期の運動としても有効です。まずは浅い可動域で正しいフォームを意識し、体が慣れてきたら徐々にしゃがむ深さを調整しましょう。
生活習慣にして、体の変化を実感しよう
スクワットで適度な負荷をかけても、継続できなければ効果は限られてしまいます。長期にわたって健康的な身体を維持するには、スクワットを生活の一部に取り入れて、無理なく習慣化することが大切です。
ここからは、スクワットを習慣化する具体的な方法や、効果を実感するためのヘルスチェックについて解説します。
生活の中にスクワットを取り入れよう
スクワットを習慣化するコツは、常に完璧を目指すのではなく「生活のついで」にこなす仕組みを作ることです。「毎日必ず100回」のように高い目標を掲げると、できなかったときに挫折を感じやすいため、続けることが難しくなってしまいます。
まずは以下の取り入れ方を参考にして、気軽にスクワットを始めてみましょう。
【初心者向けの取り入れ方】
・生活に取り入れる方法
- 起床時:目覚めのストレッチと一緒に、5回だけスクワットをする
- 仕事の合間:座りっぱなしを防止するために、1時間ごとに10回こなす
- 家事の合間:洗濯物をたたむ前に5回こなす
- テレビを見ながら:CMの間だけスクワットをこなす
・おすすめのメニュー
- 1週目:まずは1日5回から始める
- 2〜3週目:1日10回に挑戦する
- 1カ月後:「10回×2セット」を目指す
最初のうちは時間帯を分けて「朝に5回・夜に5回」のような方法でも構いません。回数を分けたり、週に2〜3回しか実践できないことがあっても、長く継続すれば効果を実感できるはずです。
生活のさまざまなシーンにスクワットの機会を散りばめて「できた!」という小さな成功体験を積み重ねましょう。成功体験が増えるほどモチベーションが上がり、習慣化への原動力になります。
変化を実感できるヘルスチェックを取り入れよう
スクワットを続けると、体重などの目に見える変化のほか、身体の内部にもさまざまな変化が生じます。このような変化を自覚すると、着実な成果が出ていることを実感でき、より意欲的にスクワットを続けやすくなります。
定期的に健康診断や人間ドックなどのヘルスチェックを受けて、分かりづらい変化をデータで把握しましょう。特に注目したいデータとしては、以下の3つが挙げられます。
- 体脂肪率(筋肉量がどれくらいアップしているか)
- 筋肉量(主に下半身の筋肉量が増えているか)
- 代謝系の数値(血糖値、脂質、血圧などが改善されているか)
かかりつけ医がいるなら、スクワットの成果について相談してみることもおすすめです。
未来の自分に贈る、今日のスクワット
たった5回のスクワットでも、それが毎日、あるいは週に数回でも積み重なれば、1カ月後、半年後、そして1年後には、あなたの体と健康に確かな変化が訪れているはずです。今日できる範囲で、未来の自分のために小さな一歩を踏み出してください。
日々の小さな選択と継続が、明日の、そしてもっと先の未来の大きな健康というかけがえのない財産を作ります。より活動的で、より自信に満ちた、明るい未来の自分のために、ここからスクワットを始めてみましょう。
編集:はてな編集部
編集協力:株式会社YOSCA
イラスト:caco
運動習慣をつけることは、日々の生活習慣を見直し、健康な生活を送る上で重要なポイントです。
近年、自分の健康状態を見える化して分析できるサービスが登場しています。自身の現在の運動習慣について把握し改善をしていく上では、こうしたテクノロジーを取り入れてみるのも一つの方法です。
🔗 フォーネスビジュアス|病気になる前にわかる(NECグループ発)
フォーネスライフが提供する疾病リスク予測サービス「フォーネスビジュアス」は、体力を可視化する「心肺持久力」や食事量と運動量の手がかりになる「安静時代謝量」など、従来とは異なる形で体の状態を把握することができるサービスです。さらには将来の疾病リスクを可視化し、専門資格を持つコンシェルジュから生活習慣に関するアドバイスが受けられます。運動をはじめ、自分に合った食事や睡眠習慣などについても、専門的な視点から知ることができます。
※フォーネスビジュアス検査は、医療機関の医師を通じて提供します。
*1:参考:東京都保健医療局 とうきょう健康ステーション「座位行動を減らして、身体活動量を増やそう」
*2:参考:国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所「WHO身体活動および座位行動に関するガイドライン(日本語版)」
*3:参考:厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」
*4:参考:横浜市スポーツ医科学センター「肥満と減量(理論編)知っておきたい肥満と減量の基礎知識【理論3】減量に筋力トレーニングが必要な理由」
*5:参考:厚生労働省 e-ヘルスネット「加齢とエネルギー代謝」
*6:参考:厚生労働省 e-ヘルスネット「QOLの維持・向上に大切な筋肉は?」
*7:参考:厚生労働省 e-ヘルスネット「なぜ全身持久力が必要なのか 健康と全身持久力の関連性」
*8:参考:日本トレーニング指導学会 学会誌「トレーニング指導」第1巻第1号「高齢者の高速コンビネーション・スクワット・トレーニングの効果-移動能力およびスクワット中の下肢関節角速度に及ぼす影響-」
*9:参考:厚生労働省 e-ヘルスネット「安全かつ効果的に「足腰」を鍛える方法」