テレビの裏側で輝く「テレビマン」たちの情熱と葛藤に光を当てる連載「テレビマンは眠らない」。初回は、映像ディレクターとして『有吉反省会』や『ニューヨーク恋愛市場』で独自のセンスを発揮し、独立後はYouTube「渡部ロケハン」で新たな地平を切り開くソマシュンスケさんに焦点を当てる。18歳で芸人の夢を追い、挫折を乗り越えて映像の世界に飛び込んだ彼の人生で、最も心に刻まれた「眠らない夜」とは何か。バラエティーへの深い愛と、過酷な業界で生き抜くための睡眠へのこだわりを軸に、彼のテレビマン人生を紐解いていく。

ソマシュンスケ (映像ディレクター/プロデューサー)
1984年8月29日福岡県早良区出身 https://barisan-inc.com/
18歳で芸人を志し大阪のNSCへ。映像専門学校を卒業後に制作会社でADとして下積み。『劇的ビフォーアフター』(ABC・テレビ朝日系)や『行列のできる法律相談所』(日本テレビ系)などを経て、番組ディレクターになる。『人生が変わる1分間の深イイ話』(日本テレビ系)、『有吉反省会』(日本テレビ系)を担当。2023年に株式会社バリサンを創立。現在はYouTubeチャンネル「渡部ロケハン」で演出・プロデュースを担当。TV番組『大悟の芸人領収書』(日本テレビ系)ザキヤマがウチのご飯を食べにくる〜(NHK)で演出を担当。
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芸人への憧れと映像への転身
ソマさんの物語は、18歳の時に大阪・吉本興業の養成所NSCに入学し、芸人を目指したことから始まる。
「高校卒業後、芸人になるって決めて飛び込んだんです。NSC同期にはかまいたちさんや和牛さん、バイク川崎バイクさんがいました」
しかし、芸人になる夢を諦めてフリーター生活を送りながら悶々とした日々を過ごした。転機は映像専門学校への進学で、24歳で制作会社に入社したこと。『劇的ビフォーアフター』や『行列のできる法律相談所』でADとして下積みを積み、ディレクターへと駆け上がった。テレビマンとして数々の映像を手掛けてきた彼の原点は少年時代にさかのぼる。
「高校生の頃からテレビのバラエティー番組に救われてきました。芸人にはなれませんでしたが、ずっとテレビが好きなんですよ。だから映像の世界に飛び込みました」
ソマさんが足を踏み入れた当時のテレビ業界は、制作スタッフの長時間労働と不規則な勤務が多い過酷な現場。それが原因で睡眠不足になり、身体的・精神的な健康を損なうケースも多かった。それでも「僕が入った頃は最後のテレビ戦士たちがバリバリ活躍するキツい時代でした。徹夜が当たり前の現場で、作業の精度が落ちるのが怖かった」と睡眠を確保する工夫を重ねた。
美術倉庫で光を遮断し仮眠を取ったり、椅子をT字に並べて「腕を逃がせる」独特の寝方を編み出したり。「1時間のマッサージは4時間分の睡眠に匹敵するのかなと思いながら身体をケアしています。血流を良くして体をリセットする」と、過酷な環境でも体調管理を徹底した。こうした創意工夫は、若手時代のソマさんが業界の荒波を乗り越えるための武器となった。
転機となった番組とクリエイティブの喜び
ソマさんにとって、ディレクターとしての自信を築いたのは日本テレビ系で放送されていた人気番組『有吉反省会』(2013年〜2021年)。ゲストが反省したい事を告白し、検証VTR後に司会の有吉弘行さんが内容を更に掘り下げるトーク番組。
「失敗や生きづらさを抱える人たちをVTRで描き、有吉さんとトークで掘り下げるんですけど、収録前日まで打ち合わせや編集を重ね、ギリギリまで完成度を高める作業をしてました」
無名のアイドルやユニークな人物の話をテレビ番組として昇華させる過程で、ソマさんの企画力と演出力が磨かれていった。
「あの番組は自分の中で大きなターニングポイント。どうやったら視聴者を引き込めるか、めっちゃ考えました」と、クリエイティブの喜びを振り返る。

またインターネットTV・ABEMAの『指原莉乃&ブラマヨの恋するサイテー男総選挙』(2017年〜2020年)もソマさんのキャリアを語るうえで欠かせない。
2016〜2018年頃のABEMAは、お色気番組や『亀田興毅に勝ったら1000万円』、元SMAPの香取慎吾さん、草彅剛さん、稲垣五郎さんによる『72時間ホンネテレビ』など地上波ではなかなか見れない自由度が高く、攻めたコンテンツを次々と配信していた時代だった。ソマさんは開局当初のABEMAでの経験が番組制作における足腰が鍛えられたという。
「ホストや遊び人といった、ちょっとクセのある人たちをトークやロケで描く番組で、生配信で放送時間が少し過ぎてもOKというゆるさもあった。自由な内容だからこそディレクターとしての企画力と構成力を向上させてくれたんですよ」
ソマさんにとって忘れられない「眠らない夜」
ソマさんにとって最も印象深い「眠らない夜」は、7〜8年前の『24時間テレビ』で『有吉反省会』のコーナーを担当した夜だ。
「ダチョウ倶楽部さんが生放送で有吉さんを熱湯風呂で落とす企画は、少年時代に憧れたバラエティーの世界そのものでした」と、当時の興奮を語る。
深夜3時に24時間テレビ内の『有吉反省会』パートが終わり、スタッフ全員で新橋の磯丸水産へ繰り出し、朝8時まで飲み明かした。大きな仕事をやり終えたという充実感に溢れていた。
「達成感とみんなのテンションで、アドレナリンが全開でした。仕事終わりですが、寝るなんて考えられなかったです」
ソマさんにはもうひとつの忘れられない「眠らない夜」がある。
「今年、僕が故郷の福岡に帰省した時に、演出として担当している『大悟の芸人領収書』(日本テレビ系)を見たんです。思えば高校生の頃、友達がいなくて孤独を埋めてくれたのが部屋のテレビから流れる『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!』(日本テレビ系)でした。あれから20年以上経って、自分の部屋で自分が制作した番組を見ているなんて…。エモすぎて胸が熱くなりました」
かつてブラウン管テレビでダウンタウンの番組をVHSに録画して何度も見続けていたソマ少年と、プロとして番組を届ける自分が重なる。
「1人でハイボール片手に思い出に浸って、眠れなかった。テレビって見る側だけじゃなくて、作る側の人生に変化を与えるものなんだなと再確認した夜でした」
睡眠へのこだわりと健康への投資
現在、ソマさんは1日5〜6時間の睡眠を確保し、「5分で寝られる」と自負する。クイーンサイズのベッド、シルクのシーツ、20万円のコアラマットレス、ブレインスリープの枕、メグリズムのアイマスクを愛用している。またしっかり休みたいときは「休足時間」を使うという。
「睡眠は脳のリセット。編集や企画の精度を保つには、質の高い睡眠が不可欠です」と、仕事のパフォーマンスとの深い関係を強調する。AD時代から睡眠への投資を惜しまなかった姿勢は、今もソマさんのクリエイティブを支えている。
また週2回のサウナで代謝を上げ、Alexaで12分間の自然音を流したり、落語を聞きながら寝入ったりしている。「低反発より高反発のマットレスが自分の腰にはフィットしているので、5年ごとに買い替えます。1時間でも質の高い睡眠を取れば、朝のブーストが全然違いますよ」と、こだわりは細部に及ぶ。
40歳を迎え、「徹夜すると体が動かない」と実感するソマさんは、週2にジムに通い、深酒を控えサウナで体を整えている。
「編集やスケジュール管理で精度が落ちるのが怖い。睡眠と健康は仕事の基盤。特に健康のためにはガンガンとお金を使っていきたいです」と語り、過酷な業界で長く活躍するため、睡眠と健康への投資を続ける姿勢は、持続可能なキャリアの鍵だ。
人気YouTube番組「渡部ロケハン」
ソマさんが演出として特に力を入れて取り組んでいるのが2023年にスタートしたYouTube 「渡部ロケハン(アンジャッシュ渡部がいつか地上波のグルメ番組に出ることを夢見てロケハンする番組)」。そのタイトル通りアンジャッシュ渡部建さんがいつか地上波のグルメ番組に出ることを夢見てグルメロケハンを行うという趣旨で始まったYouTubeチャンネル。
初回配信は再生数が振るわず「そわそわして眠れなかった」そうだが、複数のショート動画がバズり、また地上波テレビばりの高クオリティーを誇る制作陣の構成力と編集力が話題となり、チャンネル登録者数・52.4万人(2025年11月25日現在)の人気YouTube 番組となった。

ソマさんが描く『渡部ロケハン』の世界観は熱さと人情で構成されている。全体的に視聴者が癒やされるような音楽と、居酒屋の手書きメニューのようなテロップの字体、渡部さんと登場する一般市民との心温まるやり取りを最大限に活かすハートフルな編集、時にはRPGゲームや漫画をオマージュして遊び心満載な映像作りを行うなどグラデーションが豊かである。
また『渡部ロケハン』は、視聴者がロケ地を特定し訪れる「聖地巡礼」現象を密かに生んでいる。インスタのストーリーや兄弟YouTubeチャンネル『渡部ロケハンラジオ』でロケの裏側を公開し、演者と視聴者の間でコンテンツを”楽しむ”という一種の共有関係が生まれている。
「YouTubeは視聴者がコメントを送ったり、番組の登場人物になることがあるので、テレビよりも距離感が密接なところがあると思うんです。映像からアクションを起こさせるのが、僕の目指す未来です」とソマさんは語る。
テレビへの愛と未来へのビジョン
ソマさんにとってテレビは「自分を救ってくれたびっくり箱」である。高校生時代、孤独を癒してくれた『ガキの使い』やダウンタウンの番組は、今も彼の原点である。
「コンプラが厳しくても、創意工夫で面白いものを作るのがディレクターの腕の見せどころです。あの頃のワクワクを、今度は自分が届けたいです。僕は藤井健太郎さんが大好きで、個人的には史上最強のテレビディレクターだと思っています。藤井さんの攻めた企画は尊敬していますけど、違った方向から人の絆や温かみを描いた企画で攻めていきたいです!」
ロックバンドTHE BLUE HEARTSの名曲『情熱の薔薇』にはこんな歌詞がある。
「なるべく小さな幸せとなるべく小さな不幸せなるべくいっぱい集めましょう
そんな気持ちわかるでしょう」
THE BLUE HEARTSが大好きだというソマさんは「自分もTHE BLUE HEARTSのようにストレートで心を揺さぶるバラエティー番組を作っていきたい」と語る。芸人になる目標を挫折して、小さな失敗を糧にたどり着いた映像ディレクターの世界で、彼は少年時代にテレビからもらったワクワクを視聴者に届けるために小さな成功を集めて夢を追い続けている。情熱の薔薇を人々の胸に咲かせるために…。
(編集後記)
ソマシュンスケさんのテレビマン人生は、芸人への憧れ、挫折、そしてバラエティーへの愛で紡がれてきた。『有吉反省会』の熱狂、故郷で見た『大悟の芸人領収書』の感傷、「渡部ロケハン」の挑戦——彼の「眠らない夜」は、視聴者との絆を深める瞬間だった。過酷な業界で睡眠を投資と捉え、独自の工夫で健康とクリエイティブを両立させてきたソマ氏。その情熱は、テレビとYouTubeを越え、人々の心を動かし続ける。「質の高い睡眠が、いい番組を作る力になる」と語る彼の言葉は、ヘルスケアを重視するすべての人へのメッセージであり、持続可能な未来を築くための指針である。
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取材・文 ジャスト日本
ライター、プロレス考察家。1980年福岡県出身、和歌山県在住。プロレスからビジネスジャンルまで、幅広く執筆活動を展開。現在アメブロで「ジャスト日本のプロレス考察日誌」を更新中。 著書に「俺達が愛するプロレスラー劇場 Vol.1」(ごきげんビジネス出版)「インディペンデント・ブルース」「プロレス喧嘩マッチ伝説」(いずれも彩図社)ほか多数。 |