糖尿病が腎臓に与える影響とは? 詳しい症状、対策法について解説

糖尿病が腎臓に与える影響とは? 詳しい症状、対策法について解説

「糖尿病にかかると、腎臓の機能まで悪化する」という話を聞いたことはありませんか? 本記事では、糖尿病が腎臓に及ぼす影響と、糖尿病の三大合併症の一つである「糖尿病性腎症」の症状と対策について解説します。

(監修者)臼井亮介 先生

株式会社レノプロテクト 代表取締役

医師、医学博士。日本内科学会や日本腎臓学会の専門医・指導医などの資格を持つ。糖尿病医として経験を積んだのち、医師7年目より腎臓専門医としてのキャリアをスタート。腎臓専門医として基幹病院で外来診療・入院診療・研究に取り組む過程で、「腎臓外来にたどり着かないようにする・たどり着くまでの時間を延ばすためのサポート」への思いが募り、医師20年目の2022年に株式会社レノプロテクトを設立、代表取締役に就任する。日本内科学会・日本腎臓学会・日本透析医学会・日本糖尿病学会に所属。

こんな人におすすめ

  • 糖尿病による腎臓への影響を知りたい人
  • 糖尿病と慢性腎臓病の関係について知りたい人
  • 糖尿病性腎症の対策をしたい人

糖尿病が腎臓に与える影響とは?

糖尿病が腎臓に与える影響とは? 詳しい症状、対策法について解説

糖尿病は、インスリンというホルモンの不足や作用の低下により、血糖値が慢性的に高まる病気です。適切な血糖値のコントロールを怠ると、さまざまな合併症を引き起こすリスクがあります*1。これらの合併症の中でも、腎臓へ影響を及ぼすものがあり、これを「糖尿病性腎症(糖尿病腎症)」と呼びます。

糖尿病が腎臓に影響を与える合併症である「糖尿病性腎症」*2について、詳しく見ていきましょう。

糖尿病性腎症とは?

糖尿病性腎症は、糖尿病の三大合併症(網膜症・腎症・神経障害)の一つです。血糖値が慢性的に高い状態が続くことで、腎臓の血管がダメージを受け、腎機能が低下します。

この症状が進行すると、腎臓が本来の働きを果たせなくなり、体に必要なタンパク質(アルブミン)が尿に漏れ出し、タンパク尿やアルブミン尿を認めるようになることがあります。

タンパク尿やアルブミン尿が少ないうちは、糖尿病の自己管理をしっかり行うことで腎機能の改善が期待できますが、管理が不十分な状態が持続すると腎機能が悪化していくことがあります。その結果、腎臓が老廃物や余分な水分を効果的に排出できず、体内に蓄積し、むくみや疲労感が引き起こされるのです。

糖尿病性腎症の初期段階では、目立った症状が現れません。そのため、自覚しにくいのが特徴です。しかし、病気が進行するとともに、むくみ・貧血・高血圧などの症状が現れ始めます。

症状がさらに悪化すると、糖尿病性腎症は腎不全や尿毒症といった深刻な病気に進行し、人工透析が必要になります。糖尿病性腎症は、人工透析の主な原因疾患としても知られており、糖尿病の患者さんは、定期的な健康診断や血糖値の管理が非常に重要です。

糖尿病性腎症合同委員会・糖尿病性腎症病期分類改訂ワーキンググループが策定した「糖尿病性腎症病期分類 2023」*3をもとに、糖尿病によって腎機能が低下する段階を示したのがこちらの表です。

病期 状態
第1期(正常アルブミン尿期) 尿検査で異常値が測定される前から、腎臓に病変が現れる
第2期(微量アルブミン尿期) 微量のアルブミンがろ過しきれず、尿に漏れ始める
第3期(顕性アルブミン尿期) 尿に漏れるアルブミンが明らかになり、腎機能の低下が見られ始める
第4期(末期腎不全期) 腎機能の悪化が進む
第5期(腎代替療法期) 透析療法中あるいは腎移植後

1期から2期の進行は遅く、10〜20年程度かかります。しかし、3期からの進行は速く、2〜5年で5期に至り*4、血糖管理による進行の抑制は難しいとされています。そのため、腎症の治療には早期診断が鍵となります。進行が遅く症状が軽い2期の段階までに血糖管理(血糖値を適切な範囲に維持すること)を行うことが重要です*5

糖尿病性腎症の治療

糖尿病性腎症を発症した場合、次のような治療が行われます*6。これらの治療を適切に組み合わせることで、糖尿病性腎症の進行を抑え、生活の質を向上させることができます。

・十分な血糖コントロール
糖尿病性腎症の進行を遅らせるため、血糖値の管理が必要です。栄養不足による身体能力・臓器能力の低下を避けるための適正カロリーの摂取と、定期的な運動療法が推奨されます。これらの対策により、血糖値が安定して腎臓への負担が軽減します。

・薬物療法
糖尿病の治療薬の服用やインスリン注射により、血糖値を適正にコントロールします。さらに、腎臓への影響を最小限に抑えるために降圧薬も用いて血圧を管理することで、腎臓の機能低下を防ぎます。

・食事療法
腎臓への負担を軽減するため、タンパク質の過剰摂取を控えたほうが良い場合があります。しかし、タンパク質の適正な摂取量は個人によって異なるため注意が必要です。自己判断で偏った食事内容に変更すると、身体能力の低下や臓器機能の悪化といった逆効果を招く懸念もあるため、必ず医師に相談するようにしてください。

・透析治療
病状が進行し、腎機能が大幅に低下した場合、透析治療が必要になることがあります。透析は腎臓が機能しない際に、体内に溜まった老廃物や余分な水分を体外に排出し、体内の環境を整える治療法です。透析治療については、下記の記事もご覧ください。

👉人工透析のグレート義太夫さんが語る糖尿病との付き合い方 - lala a live(ララアライブ)│フォーネスライフ

糖尿病性腎症の対策をするには?

糖尿病が腎臓に与える影響とは? 詳しい症状、対策法について解説

糖尿病性腎症の対策のために、下記の2つのポイントを押さえましょう。

バランスの良い食生活

糖尿病の悪化を防ぎ、血糖値をコントロールするためには、炭水化物・タンパク質・脂質・ビタミン・ミネラルなどの栄養バランスの良い食生活が不可欠です。

また、糖尿病性腎症への対策と同時に、他の生活習慣病も意識しましょう。高血圧の対策のためには、塩分を控えめ(1日6g未満*7)にし、脂質異常症の対策のためには、脂身の多い肉や高コレステロール食品の摂取を控えることが推奨されています。また、野菜・きのこ・海藻など食物繊維が豊富な食品を多く取り入れ、毎日20〜25gの摂取を目指すと良いでしょう*8

適度な運動

血糖コントロールやインスリン抵抗性の改善、脂質代謝の促進を図るために、適度な運動が推奨されています。

ウォーキングや軽いジョギングなどの有酸素運動を、週に合計150分以上、週3回以上、1回あたり20分以上を目標に実施しましょう*9。これを日常生活に取り入れることで、適正体重の維持にもつながります。

1週間に150分以上と聞くと大変そうに感じますが、7日間で考えると1日あたり約20分超で達成できます。階段を積極的に使ったり、買い物時に歩いたりなど、少し意識するだけで達成できる運動量です。

これらの生活習慣の改善が、糖尿病性腎症の対策につながります。食事と運動を組み合わせて、健康的な体重と生活を維持することが大切です。

対策のためには、生活習慣の改善と定期検査を

糖尿病とその合併症を防ぐためには、生活習慣の改善が欠かせません。バランスの良い食生活や適度な運動、そして適正体重の維持が健康な体を保つ鍵です。

糖尿病性腎症を含む糖尿病の合併症は、早期発見と早期治療によって進行を防げる可能性があります。糖尿病や糖尿病性腎症が心配な方は、医療機関での定期的な血液検査や尿検査を通じて、自分の健康状態をきちんと把握し、必要な対策をしましょう。

編集:はてな編集部
編集協力:株式会社エクスライト


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*1:参考:厚生労働省 e-ヘルスネット「糖尿病

*2:参考:厚生労働省 e-ヘルスネット「糖尿病性腎症

*3:参考:日本腎臓学会「糖尿病性腎症病期分類 2023 の策定」[PDF]

*4:参考:東京女子医科大学病院 腎臓病総合医療センター 腎臓内科「糖尿病と腎障害

*5:参考:全国腎臓病協議会「4.糖尿病性腎症

*6:参考:全国腎臓病協議会「4.糖尿病性腎症

*7:参考:「日本高血圧学会

*8:参考:厚生労働省 e-ヘルスネット「糖尿病の食事

*9:参考:厚生労働省 e-ヘルスネット「糖尿病を改善するための運動