
バイオマーカーは疾患の診断だけでなく疾患の進行具合、治療効果の判定にも使われており、新たなバイオマーカーの確立は疾患治療のみならず発症予防にもつながります。
新規バイオマーカーの探索に適しているのが、フォーネスライフが提供するタンパク質測定受託サービス「SomaScan®Assay」です。本記事では、タンパク質のバイオマーカー探索に求められる条件やSomaScan®Assayの実績について解説します。
目次
バイオマーカーの定義と種類
バイオマーカーという用語は、医学研究や実臨床でよく聞かれる言葉です。1998年に米国の国立衛生研究所(NIH)は「病態生理学的な裏づけのもとに測定され、通常の生物学的過程、病理学的過程もしくは治療介入による薬理学的応答を評価しうる客観的指標」をバイオマーカーと定義しました*1。2016年には米国食品医薬品局(FDA)とNIHのバイオマーカーワーキンググループによる「BEST(Biomarkers, EndpointS, and other Tools)リソース」という文書が作成され、その中ではバイオマーカーを「正常な生物学的プロセス、病原性プロセス、または治療的介入を含む曝露や介入に対する生物学的応答の指標として測定される、明確に定義された特性」と位置付けています*2。
例えば、動脈硬化のバイオマーカーにLDLコレステロールがあります。他にも大腸がんにおける治療効果や経過を調べるためにCEAやCA19-9というバイオマーカーが使われており、がんにおけるバイオマーカーは特に腫瘍マーカーと呼ばれています。
バイオマーカーは物質とは限りません。体温や心拍数、血圧、酸素飽和度も数値によって体の状態を評価できるバイオマーカーです。レントゲン画像や内視鏡画像などの医用画像もバイオマーカーとみなすことがあります。
バイオマーカーは目的によっていくつかの種類に分類できます。疾患の診断やサブタイプ同定のための診断マーカー、患者層別化のための患者層別マーカー、疾患の経過を予測する予後マーカー、疾患の治療効果を判定するためのモニタリングマーカー、治療の有効性や有害事象を評価する予測マーカーは、臨床の現場で使われるものです。
一方、研究開発段階においては、薬効動態を評価する薬力学マーカー、薬剤の安全性や毒性を評価する安全性・毒性マーカーなどのバイオマーカーが、医薬品候補化合物の薬効や安全性などを評価するために用いられます。
プロテオーム解析サービスであるSomaScan®Assayは最大約11,000種類のタンパク質を網羅的に検出できるため、タンパク質を対象にした新規バイオマーカーの探索に活用できます。
バイオマーカー探索の5つのポイントとSomaScan®Assayの優位性

バイオマーカーの探索において重要なポイントは5つあります。それは「網羅性」「感度」「ダイナミックレンジ」「特異性」「再現性」です。
網羅性
ヒトの体内には数万種類のタンパク質が存在すると考えられています。バイオマーカーの探索段階においては、仮説を立てて種類を限定するのではなく、網羅的な解析が重要になります。感度
現在のバイオマーカー探索は、これまでの技術では検出が困難だった低濃度(fM〜pM)のタンパク質を対象としているため、高感度な技術が要求されています。ダイナミックレンジ
タンパク質の濃度は種類によってさまざまです。血漿など濃度差の大きいマトリクスにおいては108以上のレンジが理想的と考えられます。特異性
タンパク質の中には構造が類似しているものも少なくありません。特に相同タンパク質を識別できるかどうかは実用化に向けて重要な課題となります。再現性
一般的な実験にも当てはまることですが、再現性の高さは信頼性に直結します。ここでは、再現性について詳しく解説します。再現性の指標として用いられる指標の一つにCV(変動係数)があります。CVは、標準偏差を平均値で割った数値をパーセントで示すもので、CVが低いほど再現性の高い測定結果であると考えます。

再現性が高い(CVが低い)のであれば、バイオマーカー候補として示されたタンパク質の変動が実際の疾患や生理的状態の変化に起因するものであると、より高い確証をもって判断できます。
一方、再現性が低い(CVが高い)と測定誤差が出やすくなり、信頼性の低い結果の原因になります。偽陽性や偽陰性のリスクが増すため、実用化が困難になります。
再現性が高いことは、バイオマーカーの候補物質の信頼性を評価する上で重要であり、研究の初期段階で効率的に候補を絞り込むのに役立ちます。
バイオマーカーの探索のポイントとして5つを挙げましたが、プロテオーム解析によるバイオマーカー探索において特に重要なのは、網羅性と再現性の2つです。
仮説を立てずに探索できるのがプロテオーム解析の強みであり、信頼できる結果を得るという点において、網羅性と再現性は特に重要視されています。
SomaScan®Assayは最大約11,000種類のタンパク質が検出可能という網羅性を備えています。
再現性の指標であるCVは、一般的な質量分析(DIA法)は約20%、抗体ベースの手法は10%程度とされているのに対して、SomaScan®Assayは約5%。このように再現性が高いということは、少ないサンプル数でも信頼できる結果が得られるという意味であり、入手できる数に限りのある臨床サンプルなどの解析において、SomaScan®Assayは特に有効な手法となります。
創薬プロセスにおけるプロテオーム解析とバイオマーカー
創薬プロセスにおけるプロテオーム解析は、臨床試験での薬剤の有効性の評価や、薬剤の作用メカニズムの詳細な解析、さらには新規バイオマーカーの探索に活用できます。
ここでは、C1インヒビター欠損による遺伝性血管性浮腫(HAE-C1INH)の例を取り上げます。
HAE-C1INHは、カリクレイン-キニン系(KKS)のパスウェイが過剰に活性化することで血管透過性の亢進や血管拡張が生じ、突発的な血管浮腫を呈する遺伝性疾患です。
KKSが疾患発症に関与するため、カリクレインを阻害する治療が有効と考えられており、血漿カリクレインのモノクローナル抗体であるラナデルマブが急性発作の発症抑制のために投与されています。しかし、薬剤の詳細な作用メカニズムや、治療後の血漿タンパク質の変化は十分に検証されていませんでした。
そこで、健常者とHAE-C1INH患者、そしてラナデルマブ治療を受けたHAE-C1INH患者の血漿サンプルに対してSomaScan®Assayによるプロテオーム解析が行われました(Front Immunol. 2025 May 9;15:1471168.)。
その結果、KKS活性化のバイオマーカーである切断型高分子キニノーゲンは、健常者と比較して患者群では高く、治療を受けると低下したことが分かりました。また、治療後には120種類のタンパク質の発現量について健常者との差がなくなったことも分かりました。ネットワーク解析と合わせ、HAE-C1INH患者における異常なシグナル伝達が判明したとのことです。
このように、プロテオミクスデータを用いることで治療前後のタンパク質変化を詳細に評価でき、疾患の生体内メカニズムのさらなる理解や治療の効果向上につなげることが可能になります。
バイオマーカーによる予防医療の重要性とSomaScan®Assayの貢献
プロテオーム解析は疾患の発症予測にも活用できます。
米国4地区の前向きコホート研究ARICにおいて、約30年前に凍結保存された血漿サンプル11,277人分に対してSomaScan®Assayによるプロテオーム解析を行い、20年を期間として認知症発症の有無と照合して機械学習を行い、認知症のバイオマーカーの探索が行われました。
その結果、20年後の認知症発症リスクを算出する、25種類のタンパク質によるスコアリングモデルを構築できたとのことです(Alzheimers Dement. 2025 Feb;21(2):e14549.)。25種類のタンパク質のうち8種類は他の抗体ベースアッセイには含まれておらず、網羅性というSomaScan®Assayの優位性を示す結果でもあります。
バイオマーカーによる患者と医療従事者のメリット
バイオマーカーは患者と医療従事者ともにメリットをもたらします。
一般的に、疾患を早期に発見することで早期治療が可能となり、治療期間が短く済むほか、寿命の延伸が期待できます。
自覚症状がない段階においてもバイオマーカーを用いた早期診断が可能になれば、疾患による身体的な痛みや精神的な苦痛の緩和、さらには経済的な負担の軽減につながると考えられます。
医療における課題の一つが、ある薬剤が患者に有効かどうかを事前に判断するのが困難な場合がある、ということです。この点について、バイオマーカーを用いて患者を層別化できれば、無駄な薬剤投与を予防できるでしょう。医師としては安心して薬剤を投与できることになります。また大局的に見れば、今後の医療費削減につながるかもしれません。
認知症発症リスクを算出するスコアリングモデル構築の例のように、複数のタンパク質を解析することで予後予測が可能になり、行動変容を促すことで発症予防にも貢献できると考えられています。
また、医薬品開発は承認されたら終わりではなく、承認後も追跡調査することがあり、これを製造販売後調査といいます。治験段階よりも多くの患者データを解析できるため、バイオマーカーを用いて安全性や有効性を検証するだけでなく、患者サンプルをプロテオーム解析することで医薬品や疾患の詳細な作用メカニズムの解明や、さらに新規バイオマーカーの探索を行うなど、さらなる医学研究の発展に貢献します。
SomaScan®Assayはバイオマーカー探索に優れたプロテオーム解析委託サービス
バイオマーカーは疾患治療だけでなく予防医療にも貢献し、今後ますます活用されると考えられます。こうした背景を踏まえると、プロテオーム解析による新規バイオマーカーの探索は医療の未来を変える可能性を秘めているといえるでしょう。
SomaScan®Assayはバイオマーカー探索に重要な網羅性と再現性に優れています。プロテオーム解析を外部委託する際には、ぜひSomaScan®Assayをご検討ください。
構成:島田祥輔
編集:はてな編集部
タンパク質測定受託サービス「SomaScan®Assay」は、機器導入の必要なくご利用可能で、最大約11,000種類の血中タンパク質をアプタマーにより測定します。医薬品開発・疾病研究などにご活用いただけます。
サービス詳細や資料請求・お問い合わせなど、詳しくは下記のページからどうぞ。検体の数量、研究の規模に関わらず、お気軽にお問い合わせください。
タンパク質測定サービス(SomaScan®Assay) | 約11,000種のタンパク質を測定し結果をお届けします。医薬品開発・疾病研究などにご活用いただけます。
*1:参考:NIH Intramural Research Program「Statisticians Seek Improved Biomarker Utility」
*2:参考:FDA-NIH Biomarker Working Group「BEST (Biomarkers, EndpointS, and other Tools) Resource」[PDF]