病院経営改善の手引書|赤字解消のための必須ポイントを解説。

※本記事はあくまで一般的な公開情報をもとに作成しております。何か判断をされる場合は専門家の指示を仰ぐ必要性があります。

病院は、地域住民の健康を守る重要な役割を担う一方で、その経営は複雑かつ困難を伴います。財務管理の適切な実施、人員配置の最適化、サービス品質の向上など、各側面を見直すことが、持続可能な運営に繋がります。

本記事では、病院経営の基本的な仕組みを解説し、赤字の主な原因を探るとともに、経営改善のための具体的なアプローチを紹介します。

この記事を読むことで、病院経営の現状を正しく把握し、課題を解決するためのヒントを見つけていただけたら幸いです。

▼この記事でわかる内容

  • 病院経営の基本的な仕組み
  • 病院経営における赤字の原因
  • 経営を改善させる5つのポイント
  • 経営改善のための4つのステップ
  • 持続可能な経営を実現するためのヒント

病院経営の仕組み

病院は、医療サービスの提供という社会的使命を果たすと同時に、一つの事業体として収益を上げ、持続可能な運営を実現することが求められます。そのため、医療の質を維持・向上させながら、効率的な経営を行う必要があります。

病院の収入の大部分は、診療報酬、つまり医療サービスの対価として得られる収益です。一方の支出には、人件費、医薬品や医療機器の購入費、施設の維持管理費などが含まれます。これらの収支のバランスを適切に管理することが、健全な病院経営の基盤となります。また、病院経営においては、財務管理、人員配置、サービスの質向上が重要な要素となります。

財務管理では、収入と支出を把握し、予算を管理することが求められます。人員配置では、医師、看護師、その他のスタッフを採用、適切に配置し、効率的に業務を遂行できる体制を整える必要があります。さらに、サービスの質向上は、患者満足度を高め、病院の信頼性を向上させるために不可欠です。

病院経営の全体像を把握するためには、それぞれの要素を総合的に理解することが重要です。

なぜ病院経営で赤字が起こるのか?

病院経営における赤字は、様々な要因が絡み合って発生します。ここでは、特に大きな影響を与える「人件費の増加」と「病床利用率の低下」という2つの問題点について掘り下げて解説します。

人件費の増加

医療従事者の給与や福利厚生の充実は、質の高い医療サービスを提供するために不可欠です。しかし、人件費の増加は病院の財務状況に大きな影響を及ぼします。一般病院の人件費比率は平均5割以上*1とされており、一般病院・公立における人件費の割合は、他の経営主体と比べて大きくなっています。  

対応策として、人員配置の最適化や業務効率化が大切です。具体的には、業務プロセスの見直しやタスクの再分配、適切な労働時間管理などが挙げられます。

例えば、改善方法の一つとして、入院患者の受け入れプロセスを再検討し、医師、看護師、事務スタッフの役割分担を見直すことで、患者の待ち時間を短縮することが考えられます。 また、電子カルテシステムの導入により、書類作成や情報共有にかかる時間を削減し、看護師が患者ケアに集中できる時間を増やすという改善方法も考えられます。

さらに、労働時間管理においては、フレックスタイム制度の導入により、職員のワークライフバランスを改善し、離職率の低下に繋げるという方法も考えられます。

これらのように、具体的な業務プロセスの見直しやITツールの導入、柔軟な労働時間管理などは、人員配置の最適化や業務効率化に貢献し、結果として医療サービスの質の向上に繋がる可能性があります。

病床利用率の低下

病床利用率とは、病院が保有する病床のうち、実際に患者が使用している病床の割合を示す指標です。病床利用率が低いということは、空きベッドが多い状態を意味し、病院の収益に大きな影響を与えます。例えば、100床の病床を持つ病院で、病床利用率が50%の場合、50床分の収益しか得られないことになります。病床利用率が低下する原因としては、患者数の減少、平均在院日数の短縮、地域の医療ニーズの変化などが考えられます。

病床利用率の低下は、病院経営に大きな影響を与えるため、早急な対策が必要です。改善策として、地域の医療ニーズに応じた診療科目の拡充や、専門性の高い医療サービスの提供などが考えられます。

これらは、地域住民や広域からの患者流入を促進し、入院患者数の増加に繋がると考えられます。また、地域の医療機関との連携を強化し、患者の紹介体制を整えることも効果的です。

これにより、地域全体で患者を効率的に管理し、自院の病床利用率を高めることが期待できます。

他にも、在宅医療やリハビリテーションなど、入院以外のサービスを拡充することで、入院期間の短縮化や、入院を必要としない患者への対応が可能となり、病床の回転率向上や収益の多様化に繋がり、病床利用率の向上を目指すことも考えられます。

病院経営を改善させる5つのポイント

ここでは、病院経営を改善するためのポイントを5つ解説します。参考にしていただき、経営の安定化と収益力向上を目指しましょう。

▼病院経営を改善させるポイント

  • 経営理念を明確にし組織全体に浸透させる
  • 患者からの信頼を得る
  • 見込み患者を増やす
  • 職員の生産性を見直す
  • 医療業務をデジタル化して作業の効率化を図る

経営理念を明確にし組織全体に浸透させる

経営理念は、病院の運営方針や価値観を示す指針であり、組織全体の統一感を生み出す上で重要です。経営理念を明確化することで、職員一人ひとりが目指すべき方向性を理解でき、日々の業務における判断基準が定まります。その結果、組織全体のモチベーション向上や一体感の醸成につながります。

経営理念の浸透には、院長や経営層が自らの言葉で理念を語る場を設けることが効果的です。例えば、定期的な全体会議や朝礼、院内報などで理念の重要性や具体的な行動指針を共有することができます。

また、理念に基づく行動を評価・表彰する制度を導入することで、職員の意識向上を促すことも効果的です。さらに、理念を日常業務に組み込むためのワークショップや研修を実施し、職員が自らの業務と理念を結びつけて考える機会を提供することも有効です。

患者からの信頼を得る

患者からの信頼は、病院経営の基盤となる要素です。患者から信頼を得るための具体的な施策としては、医療スタッフの接遇スキルの向上や先進的な医療サービスの提供、清潔で快適な院内環境の整備などが挙げられます。

特に、患者とのコミュニケーションを重視し、丁寧な説明や相談しやすい雰囲気づくりを心掛けることで、病院への安心感と信頼感を高めることにつながります。

また、患者の声を積極的に取り入れる仕組みを構築し、フィードバックを基にサービスを改善することも重要です。

例えば、退院患者向けオンラインアンケートで「入院中の説明不足」が課題と判明した場合、説明用動画の作成や資料見直しで、患者満足度向上が期待できます。これらの取り組みは、病院の評判向上と患者数増加、経営安定に寄与するでしょう。

見込み顧客を増やす

病院経営を改善させるには、戦略的な集客施策を策定し、新規患者を獲得する必要があります。具体的には、地域の健康イベントやセミナーを開催し、病院の専門性やサービスをアピールすることが効果的です。

また、病院のウェブサイトやSNSを活用し、健康情報の発信や医師の紹介、診療科目の特徴などを積極的に伝えることで、潜在的な患者にアプローチできます。他にも、地域の医療機関や介護施設との連携を強化し、相互に患者を紹介し合う体制を構築するのもよいでしょう。

マーケティング戦略を策定する際には、ターゲットとする患者層のニーズに応じたサービスや情報提供を行うことで、見込み患者の増加が期待できます。

職員の生産性を見直す

職員の生産性は、病院経営の効率性とサービスの品質に影響します。組織全体の生産性を向上させるには、業務プロセスの見直しを進め、無駄や重複を取り除くことが重要です。

まずは、業務フローの分析を行ってボトルネックとなっている工程を特定し、改善策を講じましょう。また、職員のスキルアップを図るための教育研修プログラムを充実させることで、業務の質と効率の向上が期待できます。

例えば、接遇研修や専門技術の習得を支援する研修を定期的に実施することで、職員の能力向上とモチベーションの向上につながります。さらに、チーム医療の推進や多職種連携を強化し、職員間のコミュニケーションを円滑にすることも効果的です。

業務をデジタル化

近年、医療業界ではデジタル化が進み、病院経営に大きなメリットをもたらしています。特に電子カルテと、Web診療予約システムの導入は効果的です。

電子カルテは診療記録の作成・管理を効率化し、情報共有をスムーズにします。

Web診療予約システムは、患者の利便性を向上させるとともに、受付業務の負担を軽減します。実際に、デジタルツールを導入したことで、診療時間の短縮や患者満足度の向上、予約増加やキャンセル率低下を実現した病院もあります。さらに、蓄積されたデータを活用することで、患者の傾向把握やニーズに沿った新サービスの開発も可能となります。

病院経営の改善4つのポイント

ここでは、病院経営を改善するためのフローを解説します。これらのステップを段階的に実行することで、経営の課題を明確化し、効果的な改善策を実行できるでしょう。

▼病院経営の改善4つのポイント

  • 病院経営の悪化原因を分析する
  • 患者数が減っている原因を特定する
  • 固定費の過剰支出要因を特定し削減する
  • 変動費の過剰支出要因を特定し削減する

病院経営の悪化原因を分析する

病院経営改善の第一歩は、経営悪化の原因を特定することです。まず、財務諸表などの経営データを詳細に分析します。過去数年分の収益、費用、患者数などの推移を確認し、問題点を洗い出しましょう。売上減少しているのであれば、患者数・診療単価の低下など、要因を明確にします。費用増加であれば、人件費、材料費など、どの項目が影響しているのか特定します。

他にも、内部要因・外部要因に関して、事業機会や事業における成功要因(KSF=Key Success Factor)を割り出すフレームワーク「SWOT分析」で自院の強み・弱みを把握し、ベンチマーキングで他院と比較分析するのもポイントです。

経営の現状分析から、多くの場合「患者数の減少」「固定費の増加」「変動費の増加」など、根本的な課題が特定されます。ここで重要なのは、データに基づいた客観的な分析を行い、具体的な改善策を導き出すことです。

下記では、分析結果から行動に移せるポイントを説明いたします。

患者数が減っている原因を特定する

患者数の減少が明らかになった場合、その原因を探っていきましょう。地域の人口動態や競合病院の状況、患者満足度調査の結果など、多角的なデータを収集・分析しましょう。

例えば、特定の診療科の患者数が減少している場合、その診療科の待ち時間や医師の対応、設備の充実度などを改善します。また、患者からのフィードバックを収集し、サービスの質や対応に関する課題を洗い出すことも重要です。分析結果を基に、診療体制の見直しやサービス向上策を実行し、患者数の回復を図りましょう。

固定費の過剰支出要因を特定し削減する

固定費が増加している場合、まず、固定費の項目を詳細に洗い出し、その内訳と金額を把握しましょう。主な固定費には、人件費、設備費、水道光熱費、通信費などがあります。各項目の支出状況を分析し、無駄や過剰な支出がないかを分析してください。

水道光熱費や通信費など、比較的コストを削減しやすい項目については、契約内容の見直しや使用状況の改善を行うことがポイントです。人件費や設備費など、安易に削減できない項目については、業務の効率化や使用頻度が減少している設備を有効活用するなど、長期的な視点での改善策を実行しましょう。

変動費の過剰支出要因を特定し削減する

変動費は、医業収益に比例して変動する費用であり、主に医薬品費や医療材料費、検査委託費などが含まれます。これらの費用が嵩んでいることが分かったら、まず、各変動費の詳細なデータを収集し、費用の発生要因を分析しましょう。

その結果、医薬品の仕入れ価格や使用量を精査し、適切な在庫管理や使用基準の設定を行ったり、医療材料費の使用頻度やコストパフォーマンスを考慮し、最適化を図ったりすることも重要です。

さらに、検査委託費などの外部委託費用についても、契約内容の見直しや競合他社との比較を行い、コスト削減余地が無いか確認しましょう。なお、変動費の削減には、現場スタッフの協力が不可欠です。現場スタッフに対して、費用削減の重要性を理解してもらい、協力を促すことも重要です。

何より、具体的な数値指標を設定することが重要です。例えば、患者数の増減、人件費率、固定費・変動費の削減額などを定期的にモニタリングし、改善の進捗を評価することで、施策の効果を客観的に把握でき、必要に応じて戦略の修正や追加の対策を策定できます。

まとめ

本記事では、病院経営改善の基本的な仕組みから、赤字経営の主な原因である人件費の増加や病床利用率の低下、そして経営改善に向けた具体的な5つのポイントと、改善を進めるための4つのステップについて解説しました。病院経営は、単に医療サービスの質の向上だけでなく、財務管理や人員配置、業務効率など、多くの側面が相互に連携して成り立っています。

経営改善に向けた取り組みは一朝一夕で成果が現れるものではありませんが、着実なデータ分析と現場からのフィードバックをもとに、各施策を実行していくことが重要です。

まずは、現状の経営状況を正確に把握し、改善すべき課題を明確化することから始め、次第に具体的なアクションプランを策定し、実行に移していきましょう。これにより、赤字経営の原因を根本的に解決し、安定した黒字経営への転換を実現するための道筋が見えてくるはずです。

黒字経営には、患者さんの細かなニーズに応えることが重要と言えるでしょう。特にその際に健康リスクの提示として最近ではAIの活用事例も見受けられます。

例えば、NEC 健診結果予測シミュレーションは、健康診断データをもとに、数年後の健康状態や生活習慣病の発症リスクを予測し、一人ひとりに最適な生活習慣の改善策を提案します。

受診者へのメリット

  • 将来の健康リスクを具体的に把握し、健康意識を高める
  • 個別化された生活習慣改善アドバイスを受け、主体的な健康管理をサポート

健診センターへのメリット

  • 競合他社との差別化による集客力向上
  • 受診者の満足度向上、リピーター獲得
  • 最新技術を活用した先進的な健診センターというブランディング

上記のようなメリットがあるので、ぜひ導入を検討してみてください。

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