
2026年4月、全国健康保険協会の生活習慣病予防健診制度が大幅に見直されます。人間ドックの費用補助が導入されることで受診者の行動変容が予想されるなか、健診機関は他機関との差別化がいっそう求められるようになるでしょう。
その差別化の一つとなるのが、NECソリューションイノベータと倉敷中央病院付属予防医療プラザが共同で開発した「NEC 健診結果予測シミュレーション」。定期健診データをAIで分析し、そこから導き出した健診結果予測モデルによって将来の健康状態を可視化できるサービスです。
制度改定で健診市場が揺れるなか、「受診者に選ばれる機関」になるために健診機関は何を備えるべきなのでしょうか。今回は、倉敷中央病院付属予防医療プラザ 所長・菊辻徹さん、事務部門部長・山下伸治さんへのインタビューを通じて、「NEC 健診結果予測シミュレーション」の開発背景とその価値に迫ります。ナビゲートするのは、健診センター経営を専門に支援する、株式会社HRシンフォニー代表取締役社長・立石隆さん。専門家の視点で、現場運用と経営効果を読み解きます。
2026年4月の制度見直しで、健診機関にはさらなる差別化が求められます。
株式会社HRシンフォニー代表取締役社長・立石隆氏の専門家視点を交え、「NEC 健診結果予測シミュレーション」の開発背景とその価値を読み解きます。
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目次

病気のリスクを「自分ごと化」するために始まった共同開発
──「NEC 健診結果予測シミュレーション」を開発することになった経緯について、教えてください。
菊辻:背景として、倉敷中央病院の健診・検査データはNECが管理しています。そこには、約30年分のデータが蓄積されているものの、手つかずのままとなっている状況がありました。転機となったのは、2019年の「予防医療プラザ」の設立。これまで蓄積したデータを何らかの形で有効活用できないかという話が持ち上がったのです。
健康診断を受診する方の多くは、結果が届いた際に「数値の上がり下がり」だけを確認する傾向が強くあります。病院としても、結果をじっくり見直す機会の大切さを十分に伝えることができていないなと反省がありました。
──数値が悪くても「来年までは大丈夫だろう」と放置してしまう方も少なくないと聞きます。
菊辻:私たちは以前から、健診・検査データをもとに「病気になりやすいリスク」を予測することができないか、と考えていました。単なる数値の増減だけでは危機感を持ちにくい方もいると思いますが、「病気になりやすいリスク」として示されると、自分の身に起こりうることとして捉えられるようになるからです。
幸い、倉敷中央病院では健診のデータと病院のカルテIDが連携していました。つまり、「病気になった人の以前の数値がどうだったか」をたどることができたのです。NECのみなさまと議論をする中で、「これを活用しない手はない」という話になり、NEC 健診結果予測シミュレーションの開発がスタートしたという経緯になります。
膨大な症例データと将来予測で、「行動変容」にまでつなげられる
──受診者に“自分ごと”として捉えてもらい、行動変容につなげる。その目的を実現するうえで、NEC 健診結果予測シミュレーションにはどのような強みがあるのでしょうか。
菊辻:一つは、症例データ数の多さです。健診データとカルテIDがつながっている医療機関は、全国的に見てもなかなかありません。これは倉敷中央病院ならではの強みだと考えています。
もう一つは、血液検査の数値や血圧、体重などが今後どうなっていくかをAIで予測し、検査結果から将来の数値や病気のリスクを予測できることです。
NEC 健診結果予測シミュレーションでは、主に生活習慣病を中心に18の疾患に対するリスクをAIで予測することができます。病気につながる検査数値の変化を受診者に見てもらえるようになり、病気になってしまう前に健康上のリスクを感じてもらえるようになりました。

──なるほど。例えば、「あなたの血液のスコアは3年後にここまで上がる見込みです。すると、将来的にこのような形で急性心筋梗塞のリスクがあります」と、数値の推移とあわせて事実ベースでお伝えすると、受診者の方にも刺さりやすいのですね。
山下:受診者の方は診断結果がまとまった結果票を重視しているので、これまでも見やすくなるよう改善を続けてきました。しかし、数値と過去の受診履歴があれば、過去との「差分」が分かるものの、未来の具体的な姿は可視化できていませんでした。NEC 健診結果予測シミュレーションを導入したことで、AIによって未来の結果を予測できるようになり、受診者の行動変容にもつながりやすくなるのではと期待しています。

──受診者の行動変容につながるとなると、受診を促す側である企業の人事や健康保険組合の方にも喜ばれそうですね。
山下:個人で人間ドックを受けに来られる方は、どちらかというとヘルスリテラシーが高く、現状の結果票だけでも改善につなげられる方が多い印象です。一方で、企業などに促されて受診する方は、義務感で受けているケースもあり、自分の意思で受けている方に比べるとモチベーションが低い、という保健師からの指摘もあります。そういった方にこそ、この予測結果は有用だと考えています。
──受診者への指導は保健師の役割ですが、NEC 健診結果予測シミュレーションを導入することで、受診者への関わり方も変わりそうですね。
山下:保健師の方からは、シミュレーション結果をもとに指導を標準化できるようになったという声が上がっています。これまでは指導内容が保健師一人ひとりのスキルや経験に依存していて、話す内容にもばらつきがありました。NEC 健診結果予測シミュレーション導入後は、保健師が独自に判断するのではなく、データに基づいて客観的に指導できるようになったことで、指導内容のばらつきが小さくなっていると思います。
実際、これまでは受診者に「ここを気をつけてください」と口酸っぱく言っても、なかなか行動変容につながらないことがよくありました。受診の前後だけは頑張るものの、時間が経つと元に戻ってしまうケースも多かったのです。しかし、NEC 健診結果予測シミュレーションによって未来の数値を具体的に示せるようになり、受診者の意識変容の後押しができるようになりました。
汎用性の高いAIで、受診者の健康に伴走する
──NEC 健診結果予測シミュレーションによって、健診機関や受診者に多くのメリットがあることがわかりました。サービスを活用する際に必要となるデータには、どのようなものがあるのでしょうか。
菊辻:NEC 健診結果予測シミュレーションに必要なのは、生活習慣病健診の問診結果と、一般的な血液検査や身体計測の健診結果という2つの情報だけです。非常に導入ハードルの低いサービスだと思っています。
──多くの健診機関が受診者から預かっている標準的なデータであれば、予測シミュレーションの精度向上も見込めますし、広く使われていくイメージが湧きます。
山下:シミュレーションの最大の目的は、受診者の動機付けをして行動変容してもらうことだと考えています。単に「年に一回健診を受けて終わり」ではなく、1年を通して受診者の方に伴走していくようなビジネスモデルにしていく必要があると思っています。今後は、シミュレーション結果に対して日々の行動を記録できるような機能も開発していきたいと考えています。
──他の健診センターでも、C判定が出た際に「3か月後に再受診」「6か月後に再受診」といった形で、年1回以上の接点をつくる取り組みをしているところがあります。行動変容の途中でマイルストーンを設けて、受診者に伴走することで、行動変容の好循環をつくっていくようなイメージでしょうか。
山下:そうですね。加えて予防医療プラザでは、年間を通して運動に関するオプション検査を提供しています。「ここの数値が少し気になる」という部分について専門家が指導することで、行動変容をさらに加速させることも可能です。数値の改善を受診者の努力だけに任せるのではなく、私たち健診施設側も一緒にサポートしていく。この両者の関わり合いを、これからいっそう促進できればと考えています。
制度変更で市場が動く。「選ばれる健診機関」へ
2026年4月以降、全国健康保険協会の生活習慣病予防健診制度が大きく変わります。35歳以上の被保険者を対象に、人間ドックの費用が最大2万5千円補助されるように。これに伴い高価格帯の受診者が「より良い健診を受けたい」と市場の中で動くことが予想される中で、「受診者に選んでもらう健診機関になるためには、高価格帯の受診者とのつながりをどう維持・強化していくか重要になる」と立石さんは話します。ポイントは次の3つです。
一つ目は、予約によってつながりを維持すること。
「『1年後の次回予約をその場で取る』『胃カメラなどの検査枠をあらかじめ確保しておく』といった工夫が大切です」
二つ目は、豊富なコースやオプションの用意。
「『人間ドックを受けるのであればレディースドックを受けたい』『がんドックを受けたい』と考える受診者は少なくありません。新しい商品や先進的なオプションを扱っている健診機関へ、受診者が移っていくことが予想されます。選ばれる理由になる商品・オプションを開発していく必要があります」
三つ目は、他の健診機関にはない独自サービスの提供。
「『NEC 健診結果予測シミュレーション』も、その一つです。『人間ドックを受けるとき、NEC 健診結果予測シミュレーションを使える施設の方がプラスになる』と受診者が感じれば、他の検査機関で受けていた方が移ってくるきっかけにもなりますし、今すでに通っている受診者とのつながりも一層強化されます」
他の健診機関との差別化につながる商品・サービスは、早く取り入れた施設ほど受診者とのつながりが強化できることが予想されます。
受診者が求める情報を提供し、健康に関心がある受診者とのつながりを強化したい健診機関の方は、導入を検討してみてはいかがでしょうか。
文:岩田悠里
編集:早川大輝(プレスラボ)

