
年に一度の健康診断。その結果を十分に活用できている人はどれくらいいるのでしょうか。数値を見て一喜一憂するものの、具体的な生活習慣の改善行動にはつながらない――そんなケースも少なくありません。
NECソリューションイノベータ株式会社が開発した「NEC 健診結果予測シミュレーション」は、健診結果より、未来の検査値や疾病リスクを可視化するサービスです。ビッグデータをAIにより解析し導き出したモデル式により、3年後までの検査値推移や4年以内の疾病発症リスクを予測、さらに生活習慣を見直した場合の変化までシミュレーションすることができます。
健診結果を“通知表”で終わらせず、“未来を変えるツール”へ。本サービスの開発背景や技術的挑戦、そして目指す未来について、開発担当者に話を聞きました。
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田中博典 |
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桑原英子 |
“なんとなく悪い”を可視化する
桑原:NEC健診結果予測シミュレーションは、年に一度受ける健康診断の結果を活用した新しいサービスだと聞いています。具体的にはどのようなサービスなのでしょうか。
田中:健康診断の結果から、将来の健康診断で測定された検査値がどのように変化していくかを予測するとともに、疾病リスクの傾向を示すサービスです。健康診断の結果を受けて、今のままの生活を続けたらどうなるのか、あるいは仮に生活を見直した場合どう変わるのかといった予測情報を提供することができます。健康診断の結果というのは、たとえ多少悪かったとしても「すぐに生活習慣を見直そう」と行動に移せる方ってそう多くはないですよね。
桑原:わかります。私もお酒がとても好きなのですが、結果が多少よくなかったとしても飲酒の習慣を変えるのって難しいので……。
田中:生活習慣病というのは、あまり自覚症状がなく徐々に進行していくんです。少しずつ数値が悪化したり、症状が現れにくいまま進行したりするため、気づいたときには改善が難しいところまで進んでしまうことも多々あります。このサービスでは、ビッグデータをAIにより解析し導き出したモデル式により、健康診断で測定された検査値がその後どのように変化していくかを予測します。これにより、健康状態の具体的な将来像をご覧いただくことができます。

桑原:なるほど。健康診断の結果って、たとえば「A」だったら何も気にしないですし、「B」だったとしても具体的に将来どんな病気に結びつくかってわかりにくいと思うんです。NEC 健診結果予測シミュレーションでは、将来的に関連が示唆される疾病リスクについても参考情報として提示されると伺いました。
田中:そうですね。3年後までの検査値の予測に加えて、疾病の発症リスク予測も可視化できることがサービスの大きな特徴です。この紐付けというのは本来、容易なものではありませんでした。というのも、一つの検査値が様々な疾病につながる可能性があるので、健康診断の結果だけでは一概に「この病気になる可能性があります」とはダイレクトに表現することが難しいためです。
ですがこのサービスでは、疾病を発症された方のデータも学習しながら、様々な因子が関わることで、それぞれどのような疾病リスクが高まるかまで予測することができるんです。
桑原:なるほど、とても画期的なサービスなのですね。
過去5年間、6万人分のデータが支える予測モデル式
桑原:開発するうえで大変だったことについてお聞かせください。
田中:システムの理論としては、長年にわたり蓄積された膨大な健診・疾病データをAIが学習し、その傾向を読み解いて、予測する“モデル式”を出力します。この予測モデル式を導き出すまでに1年ほどかかりました。予測の精度・解釈性を上げるために改善を何度も重ねてきた開発プロセスまで含めると、6〜7年ほどかかっています。その過程には難しさもありましたが、それをユーザーにわかりやすい形で可視化していく点にも苦労しましたね。
また、AIから導かれた統計予測と医学的根拠の整合性をとっていくのにも難しさがありました。医師の方にも入っていただき、AIが学習した内容を医学的知見の観点から検証しました。その結果、医学的知見に照らしても妥当であることが確認できています。
桑原:開発スケールの大きさが伺えます。ちなみにこのサービスを開発した背景には、これまで健康診断を受けた方が、その結果をうまく活用されていないという課題感があったのでしょうか。

田中:そうですね。人生100年時代と言われる超高齢化社会においては、医療費の増大が大きな社会課題になっていると思います。そのなかで、寿命と健康寿命の差を埋めるためには、介護生活につながる要因となる病気を防ぐことが重要です。
なかでも生活習慣病の罹患というのは、個人のQOL(Quality of Life:生活の質)の低下に大きく影響します。この社会課題に対して、我々の強みであるAIを用いたデータ分析力でなんとかできないかと考えたのが、このプロジェクトを立ち上げたきっかけですね。
桑原:社会課題とは別に、田中さんの私生活や実体験から得た気づきやヒントも、プロジェクト立ち上げの背景にあるのでしょうか?
田中:実は、私は健康意識がそう高いほうではないんです。意識が高い方たちは常にアンテナを張って、データの少しの変動にも気を配りながら生活を見直すことが得意だと思うんですが、私自身は無頓着。だからこそ、生活習慣をなかなか変えられず、つい同じ生活を続けてしまう方たちの気持ちがわかるというか……。そんな方が、「何か変えてみなくては」と行動変容のきっかけになればいいな、という想いで開発したという側面もあります。
桑原:私も、その気持ちがよくわかります。ちなみに分析に使用するデータというのは、どこから集めてくるのですか?
田中:我々の考えに賛同いただけた健診機関や健診センターの方と共同でプロジェクトを立ち上げ、それぞれの組織が保有している健康診断のデータを活用しながら解析を進めてきました。活用したのは、過去5年間約6万人分のデータとなります。
桑原:それだけのデータを活用されたのはすごいと感じます。研究開発に、NECソリューションイノベータならではの強みが生かされていると感じられることはありますか?
田中:いまでこそ世間全体で見ても生成AIの発達は著しいですが、NECソリューションイノベータとしてはかなり早い段階からAI活用を強みに事業を行ってきました。その経験値を最大限に生かすことができています。加えて、ヘルスケアの知見に関しては、数多くの医療職の方々にご支援いただくことで、日々積み上げることができていると感じています。

生活を変えたらどうなる?生活改善シミュレーション
桑原:では実際に、NEC 健診結果予測シミュレーションでは具体的にどのような内容がどのように表示されるのか、教えていただけますか?
田中:最初に、ユーザー一人ひとりの健康診断データをもとに生成された「健診結果パーソナライズ動画」が出てきます。ここでは、直近の健康診断の結果と、特に注目してもらいたいポイント、平均値と比較してどのくらい乖離があるか、そして課題となる検査値にフォーカスしたストーリーが見られます。

桑原:一人ひとりの健診結果に応じた動画が見られるのは面白いですね。
田中:続いて、このままいくと健康状態はどうなるかを表す「リスクシミュレーション」が表示されます。ここでは、過去の蓄積された健診データから、将来の検査値を予測します。今後、どのような健康状態になるかをイメージできるように、1年前・現在の健診結果を「実測値(黒点)」、1年後・2年後・3年後の健診結果を「予測値(赤点)」としてグラフに表示しています。

桑原:予測値のデータは、何をもとに導き出されるのでしょうか?
田中:過去2年分の健診データのほか、年齢・性別、健診時の問診で回答いただいた睡眠・喫煙・飲酒などの生活習慣履歴もインプットし、予測値として導き出しています。
桑原:3年後までの検査値予測まで可視化されると、自分がどこに問題を抱えているのかが一目瞭然でとてもわかりやすいですね。背景の色が変わっているのはどういった意味があるのでしょうか。
田中:青がリスク低・黄色がリスク中・赤がリスク高という意味で、実測値と予測値がいまどのくらいのリスクの段階にあるかを表しています。たとえば、現在「リスク中」だとしても、3年後のデータを見てみると「リスク高」になっているケースでは、「今なんとなく悪いけれど、このままいくと3年後にはここまで悪化する可能性があるのか」ということがわかります。そこで初めて、生活習慣の改善を具体的に意識してくださる方が多いと思いますね。
桑原:次の項目では、「生活改善シミュレーション」でおススメの生活改善を確認することができるのですね。

田中:おススメ生活改善では、仮に生活を見直した場合どのようにデータが変わるのかを見ることができます。この例では、飲酒の量を見直すとどう変化するのかを表しています。
桑原:これだけお酒の量を減らせばここまで検査予測値が変化する、ということが、グラフで具体的に確認できると、やる気になりますね!
田中:そうですね。もし、お酒を控えるのはどうしても難しいという方であれば、運動をするというように改善策を自分で選ぶこともできます。たとえば「1回30分以上の軽く汗をかく運動を週2日以上、1年以上実施」といった改善案を見直してみると、体重の減少や検査値の変化が見込まれるシミュレーション結果が表示されます。
桑原:それが様々な生活改善項目で予測できる「生活改善シミュレーション」ですね。

田中:この項目では、運動・食事・飲酒・睡眠などの生活習慣を見直すことで、検査予測値がどのように変化するかをシミュレーションすることができます。
桑原:とてもわかりやすいですね。ちなみに、疾病リスクまでわかると先ほど伺いましたが、どのようにわかるのでしょうか。
田中:疾患発症リスク予測というのは、その病気を発症された方がどのような状態・特性・経緯だったかというビッグデータに基づいて、それに近いようであればその病気に罹患するリスクが高い、というように判断をしています。トータルで18の疾病がわかります。判断するだけにとどまらず、その病気に関連する検査の種類や、病気にかかった際の医療費の目安についても参考情報としてシミュレーション表示されます。

桑原:そこまでわかるのですね、驚きました。
田中:そして最後の項目が「健康のためのアクション」です。ここまでシミュレーションを見てきたユーザーは、食事や運動など、自分にとって改善のためのテーマが決まるはずです。ただ、具体的に何をすればいいのかというアイデアが浮かびにくい。そこで、より具体的な情報を提示することによって、そのアクションに進みやすくしています。
より高度なAI解析が目指すこれからの健康管理
桑原:具体的にシミュレーションをたどってみて、より自身の健康対策に取り組むハードルが下がった気がします。このサービスは、健診機関や企業、健保組合や自治体へ向けられていると聞きました。まずは企業が導入する際のメリットはどこにありますか?
田中:健康経営の促進という側面が大きいと思います。健康診断を受けた従業員に、その結果を活用してもらうこと。健康診断を受けて終わりになってしまっているケースはかなり多いと聞いているので、本当に数値が悪い方には速やかに治療に進んでいただき、なんとなく悪いという方には、NEC 健診結果予測シミュレーションの結果も参考にしていただきながら、結果と向き合っていただき、健康の維持、改善といった行動変容のきっかけ作りとして活用いただければいいなと思っています。
桑原:健診機関にとっての導入メリットはいかがでしょうか。
田中:こちらも、まずは将来予測によって受診者の行動変容の促進につながることですね。健診結果プラスアルファの情報を得ることで、より具体的な行動に進みやすくなるはずです。2つ目は、他の健診機関との差別化ができることです。健診結果の分析ができることによって継続受診につながり、顧客の基盤が強固になることが期待できます。そして3つ目が、健診サービスの価値向上による収益アップです。このシミュレーションの結果などを参考にしていただき、健診機関の関連サービスや関連検査を利用していただくことにつながるのではないかと思っています。
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企業・健診機関での導入メリット 企業の方 健診機関の方 |
桑原:多くのメリットが得られそうですね。また、新しくリリースされたNEC 健診結果予測シミュレーションLiteというサービスもあると伺っていますが、どのようなものなのですか?

田中:NEC 健診結果予測シミュレーションLiteは、健診機関・企業様に限らず、どなたにでも無料でご利用していただけるサービスです。ウェブにアクセスして最新の健診結果を入力していただけば、少し簡易的ではありますが、18種類の病気を8つのカテゴリに分けた疾病リスクの予測シミュレーションが見られるというものです。

桑原:どなたでも無料で気軽に試せるということですね。ぜひアクセスしていただき、多くの方に使っていただきたいですね。
では最後に、田中さんがこのサービスを通してどのような未来を目指しているのかお聞かせください。
田中:現状は、年1回の健康診断のデータをもとに分析していますが、将来的にはスマートウォッチなどのウェアラブル装置から、さらに高頻度なデータを取得して活用していきたいですね。それが可能になれば、将来の疾病リスクに限らず、より多くのことが可視化されていくはずです。それを実現させるべく、AI解析技術をさらに高度なものにしていきたいと思っています。
桑原:今後の展望が私も楽しみです。貴重なお話をありがとうございました。

こちらの対談はYoutubeでもご覧いただけます。
健診結果で未来の検査値と疾病リスクがわかるサービスとは?担当者に聞く、開発の背景と活用法。
企業・健診機関向けサービス概要はこちら▼
NEC 健診結果予測シミュレーションLite/NEC 健診結果予測シミュレーションに関する注意事項
*予測は、利用者ごとの健康状態に対して医学的判断を加えて行うものではなく、入力した健診結果に似た傾向を持つ集団に基づいて算出しています。
*本システムは、倉敷中央病院付属予防医療プラザが保有する約10万人分の定期健康診断と倉敷中央病院が保有するカルテの過去10年分の匿名化したデータに、コックス比例ハザードモデルと呼ばれる統計解析手法を適用して構築された予測モデルで、将来起こりうる生活習慣病の発症リスクを算出しています。
*利用者の方の健康診断の検査値(年齢、体重、血圧、血糖値、コレステロール値等)をこの予測モデルに入力することで、利用者と同等の検査値等の方が 4年以内に心臓病、脳梗塞などの生活習慣病を発症するリスクを算出します。発症リスクは、同性、同年代の中央値と比較した発症リスクの比で表示します。
文:波多野友子
編集:岩田悠里(プレスラボ)



