2026年協会けんぽ補助拡大で、健診センターはどう変わるべきか

2026年4月、協会けんぽの人間ドック補助が25,000円に拡大されます。健診センターにとって追い風に捉えられがちですが、「一部の健診センターでは売上減少につながる可能性があります」と語るのは、健診センターへの経営コンサルティングを手掛ける株式会社HRシンフォニー代表取締役社長の立石隆さんです。この制度変更を機会に、健診センターが進めるべき経営改革について聞きました。

 

立石 隆さん立石 隆さん

株式会社HRシンフォニー 代表取締役社長 大学卒業後、大手国内経営コンサルティング会社に入社。
社内人事部の実務経験後に人事コンサルタントとして6年間従事。
その後医療法人に人事セクションの責任者として転職。採用や院内教育の実務を預かりつつ、名古屋駅前に新設した600坪の健診センターの本部長職も担当する。
2008年に独立。医療業界の人事と健診領域のコンサルティング会社である、株式会社HRシンフォニーの代表として活動を続けている。
HRシンフォニー

協会けんぽの補助増額を「手放しで喜べない」ワケとは?

──2026年4月から、協会けんぽで健康診断を受ける際の補助額が、大きく拡大されます。これは、健診センターの経営にどんな影響を与えますか?

立石隆さん(以下、立石):今回の制度変更は健診センター側、そして健診を受ける方々双方に、大きな変化をもたらします。従来、協会けんぽの生活習慣病予防健診では、約19,000円かかる検査を、加入者(被保険者)の働く企業が約5,000円負担し、協会けんぽから補助として約14,000円が支給されていました。※

そのため加入者は、大きな負担がなく、生活習慣病予防健診を受けられていたのです。これが2026年4月から、生活習慣病予防健診だけでなく人間ドックを受診すると、25,000円の補助が出るようになります。

※生活習慣病予防健診の検査内容・費用および自己負担額は、年度や健診機関、契約内容によって異なります。本記事では、一般的な目安としての金額を記載しています。

それにより、これまで費用面で人間ドックを受けなかった人の行動が変わる可能性が高くなります。例えば40,000円の人間ドックを受けると、25,000円の補助が出るので、企業と本人を合わせた自己負担が、15,000円で済むことになります。これは協会けんぽが、人間ドックの受診者を増やすことで、予防医療につなげたいという思いの表れです。その背景には、病気が重症化してから受診する前に、早期発見・早期予防することで医療費を削減するという政府の狙いがあります。しかし話は単純ではなく、手放しには喜べません。

 

 

──人間ドック受診者が増えることは、健診センターにとって経営的な追い風に見えますが、立石さんが「手放しに喜べない」とおっしゃる理由は何でしょうか?

立石:最大の理由は「内視鏡検査を担当できる医師の確保」が困難になると予想されることです。人間ドックでは胃カメラによる検査が主流ですが、その実施には内視鏡を扱える医師が必須です。その人材を確保できないセンターでは、受診者の多くが「ドックに変えたい」と言っても、断らざるを得ません。

すると今まで、協会けんぽの健診にプラスアルファの診療をつけて、高い単価を払ってくれていた「優良顧客」の会社や受診者が、「それならば内視鏡検査が受けられる、隣の健診センターに行こう」と乗り換える可能性が高まります。補助金の増額によって、売上増どころか、受診者が減ってしまいかねないのです。これが人材面における最大のボトルネックです。

 

──協会けんぽの補助拡大は、補助を受ける企業側にとってはどのような影響がありますか?

立石:実は2025年12月時点で、協会けんぽの加入企業に対して、2026年4月からの制度変更についての公式な案内がまだありません。当社も協会けんぽに加入していますが、何の通知も来ていません。私は仕事柄知っていましたが、他業種の経営者仲間に話すと皆驚きます。そして「今さら言われても、来年度の予算は取れない」と口を揃えます。40,000円のドックを受けたら25,000円の補助が出るわけですが、残りの15,000円を会社がいくら負担して、従業員がいくら自己負担するのか、自社における福利厚生制度の見直しができている企業は10社のうち1社もないと思います。

ある鉄道会社は、社員の従業員満足度を向上させることも考え、「35歳以上の社員がドックを受けるならば15,000円以上の負担も全部会社が持つ」と決定しました。しかし多くの企業は、元々5,000円程度しか負担していなかったので、予算が確保できないまま、残り4カ月で新制度がスタートしようとしているんです。

健診センターが共通して抱える経営面の課題

──制度変更だけが先行しているこの状況で、健診センターはどう動くべきですか?

立石:今、我々が支援している健診センターでは、受診者に健診結果を送る際に、「2026年から制度がこう変わります。25,000円の補助を使って、人間ドックを受けてください」と呼びかけるチラシを送付しています。

さらに企業の代表や人事部に対しても制度変更をお伝えし、従業員のウェルビーイングのための予算確保を提案しています。せっかく今までより安く人間ドックが受けられるのですから、負担の按分率をはっきりさせておくだけでも、社員のためになります。健診センター側から積極的な啓蒙活動を行うところと、受け身で制度変更の流れに流されるだけのセンターでは、大きな差が出るでしょう。

 

──制度変更に備えて、入念な準備が求められるわけですね。立石さんはこれまでに多くの健診センターをご覧になってきたと思いますが、センターが共通して抱える経営面での課題は何でしょうか?

立石:何と言っても「業務の効率性が低いこと」です。我々に最も多く寄せられる相談も、「どうすれば業務の効率性を上げられるか」という内容が非常に多いです。その背景には、健診センターの「適切な業務量」について、確固たる指針が存在しないことがあります。例えば午前中に平均して50人の受診者がいるセンターで、臨床検査技師が「現在の2人体制では無理があるので、3人にしてください」と要望したとします。

しかし大抵の場合、センターの事務長も、技師の側も、その判断が正しいか間違っているか、判断できるエビデンスを持っていません。50人の受診者のうち35人が腹部エコーを受けるとして、2人体制で対応するのが適正なのか、1人あたり何分で対応すべきなのか──こうした基準がほとんどの健診センターで確立されていないのが実情です。

特に問題となるのが、母体の病院から健診センターに応援スタッフが来るときです。病院の技師は、治療を目的とした臨床のやり方で健診をします。腹部エコー検査は臨床だと15分かけることも珍しくありませんが、健診では1人8分前後で回すのが一つの目安になっています。応援スタッフは何も悪気なく15分で丁寧に検査を実施した結果、効率が低下し、人件費が膨れ上がってしまうセンターを数多く見てきました。

 

──顧客(受診者)にとっても待ち時間はできるだけ短く、健診がスピーディに終わるほうがいいですよね。効率化に関して、他業種では進んでいるDX(業務のデジタル化)の状況はいかがでしょうか?

立石:健診センターのDX化は、全体的に遅れているのが正直なところです。いまだにFAXを使っている健診センターもたくさんあります。その最大の理由は、顧客である企業側が「去年もFAXだったから今年も」と、前年踏襲で予約申し込みをしてくるからです。本来であれば健診センター側から「デジタル化した方が御社の業務も楽になりますよ」と、企業側のメリットを丁寧に提案できればよいのですが。

 

──健診センターのキャパシティの都合で、1日あたりの受診枠を増やせない場合でも、収益を上げる方法はありますか?

立石:受診枠を増やすのは簡単ではありませんが、工夫によって枠を増やすことで成功する健診センターは数多くあります。コンサルティングで訪問した際も「当センターでは1日60人が限界です!」と言われることもありますが、色々と改善することで10%〜20%ほどの受診枠を増やせるケースがあります。

 

──具体的にどうすれば、受診枠を増やせるのでしょうか?

立石:一言でいえば、1件あたりの検査スピードを短くすることです。先ほどお伝えしたように、臨床の現場では腹部エコーが15分かかっていたのを健診では8分に、同様に胃カメラも15分から8分にできれば、全体の検査時間を10分以上短くできます。このように臨床と健診の検査時間のギャップをなくすことが重要です。

もう1つは待ち時間です。検査と検査の間の待ち時間をいかに短くするか。スタッフ同士がインカムで連絡を取り合い、混んでいる健診項目と、空いているところの情報共有をリアルタイムで行うだけで、待ち時間は減らせます。受診者の待ち時間が減るということは、健診フロア内に滞留している受診者の人数を減らすことにつながります。受診スピードの向上は結果として受け入れ枠の増加に寄与するという考え方です。

そのためにはまず、自分たちの健診センターで、「どの検査に平均何分かかっているのか」その中で「最も時間がかかっている特定の検査は何か」を把握することです。当社では健診センターの当日検査の流れを「土管のようなもの」と説明することがあります。土管が細くなっているところは水の流れが悪くなるため、受診者の滞留が発生します。その細い(ボトルネック)になる検査の処理キャパシティを考慮し、そこから逆算で予約枠をくみ上げるようにします。

多くの健診センターでボトルネックになる検査は腹部エコー、胃カメラ、胃透視、内科診察と結果説明あたりが多い印象です。自施設のボトルネックを見極め、その地点のスピードアップとボトルネックを考慮した予約枠の設定により総受診者数は向上させることができます。

未来の健康リスクを低減する「オーダーメイド型健診」

──健診センターの経営改革の方向性として、受診者を増やすのと同時に、「受診単価を上げる」こともあると思います。一人あたりの受診単価を上げるには、どうすればよいでしょうか。

立石:単価を上げるカギは、受診者一人ひとりに対して、受けたほうがいい「オプションの検査」をいかに提案するかです。受診者がオプション検査を申し込むポイントは基本的に3回あります。1つ目が予約のタイミングで、受付担当者が「ご一緒に◯◯の検査もいかがですか」「貴社との契約では偶数年齢の受診時に△△検査が無料で受診できますがおつけしますか」などと提案できます。2つ目が健診申込後の、問診票や尿検査用容器などのいわゆる「事前資料送付時」です。健診は1年の中で健康に対して最も関心が高まるタイミングですから、その人の年齢や性別に応じて、「最近はこういう検査もありますよ」と紹介することができます。

最後の3つ目が健診当日です。受付で「今日のCT枠がまだありますよ」と予約を勧めるのも1つです。また、保健師や看護師が事前問診のときに、「タバコを吸われていますね。念のため、肺のCTを撮ってはいかがですか?」と聞いてみるのも有効です。

 

──健診センターのスタッフが、受診者一人ひとりに対して、その人に合った提案をすることが大切なわけですね。

立石:その通りです。これまで、健診センターは病気の早期発見をする場所だと思われてきました。しかしこれからは、病気にかかる前の「未病」の段階で受診し、将来の健康リスクを低減させるための場所になるべきです。がんをはじめ、人々の生命に関わる病気の多くは、発見の時期が早ければ早いほど、治る確率が高まります。脳梗塞や心筋梗塞なども、高血圧に気をつければ確率を下げられますし、糖尿病などの生活習慣病も意識して対策をとっていれば、人生後半のQOLは大きく向上します。

「早く病気が見つかって良かった」ではなく、「大病にかかる確率を下げる」「生活習慣病で困ったことにならない」ための自身の情報を、年に1回の健康診断で知るという意識づけをすることが大切なのです。

その観点から、現在でも多くの受診者が訪れる健診センターは、予防医療と病院での診療を連携させています。ある循環器の治療に強みを持つ病院では、動脈硬化の検査をかなり安い金額であえて提供しています。もしも検査にひっかかったら、病院にすぐつないで、治療にあたることができるからです。そのように自分たちの「将来の患者」となるかもしれない受診者と、接点を持つ。このような経営意識を持つことが、予防医療が重要となるこれからの健診センターに必要だと考えています。

 

──患者さん個々に合わせた「オーダーメイド医療」の大切さが言われるようになりましたが、健診においても「オーダーメイド型」が求められるわけですね。

立石:そのとおりです。私が20年前から目指してきたのも「オーダーメイド型人間ドック」になります。本来、病気の予兆を探す人間ドックこそ、その人の体質や既往歴、家族の病歴によって、検査項目を柔軟に変えるべきだと考えています。例えば私の家系は、多くの先祖ががんで亡くなっています。そのため私は、常にがんの発症リスクを意識しており、遺伝子検査を受けて、どんながんにかかりやすい体質かを把握した上で定期的に検査を受けるようにしています。

私が通う健診センターも、私の健康リスクを理解した上で、がんの早期発見に効果的なPET検査などを提案してくれます。このような個々人に合った人間ドックを、カスタマイズして提案できる健診センターこそが、これからの時代に必要となるはずです。

「NEC 健診結果予測シミュレーション」が実現する健診センターの経営改革

──こうした「オーダーメイド型健診」を実現する上で、テクノロジーの活用も今後重要なテーマになりそうです。 NECソリューションイノベータが提供する「NEC 健診結果予測シミュレーション(健診SIM)」は、個々の患者さんの健康データにもとづく将来の疾病リスクを予測できる、健診センター向けのソリューションです。このようなアプリを健診センターが導入することについて、どう思われますか?

立石:たいへん望ましいと思います。健診センターにとって最大の課題は他のセンターとの「差別化」です。これまではPET-CTや3Dマンモグラフィなど、高額な医療機器があるかどうかのハード面で差別化を図るのが主流でした。そうすると、資金の余裕がない中堅中小の健診センターは、どうしても差別化が難しかった。

しかし最近では、血液検査の技術も日進月歩で進化しており、血液のサンプル一つでこれまで評価できなかった病気のリスクを測れる検査が、次々に出てきています。これは大型の装置を導入できない健診センターにとっては大きな追い風となります。

NEC 健診結果予測シミュレーションとそうした効果的な検査を組み合わせることで、先ほど述べた「オーダーメイド型健診」を、コストをあまりかけずに導入できるはずです。そうした動きが広がれば、日本国民全体の病気予防、医療費の抑制にも必ずつながっていきます。私自身、NEC 健診結果予測シミュレーションには期待しており、さらに広がっていってほしいと感じています。

まとめ|制度変更は「健診センターの経営を問い直す契機

2026年度に予定されている協会けんぽの人間ドック補助拡大は、健診センターにとって単なる追い風とは言い切れません。人材確保や業務効率、受診枠の設計、企業への情報提供など、これまで以上に経営のあり方が問われる転換点になると考えられます。

立石氏が強調したのは、「受診者数を増やす」か「単価を上げる」といったその場しのぎの議論にとどまらず、検査のスピードや動線を見直して健診センターのキャパシティを最適化すると同時に、受診者一人ひとりの将来リスクに目を向けた“オーダーメイド型健診”へと進化できるかどうかが、今後の健診センターの成長を左右するという点です。

健診センターは、これまでの「病気を見つける場所」から、「病気になる前の情報を提供する場所」へと役割を広げていく必要があります。その変化に本気で向き合えるかどうかが、2026年度以降の経営を大きく分けることになりそうです。

健診SIM導入|オーダーメイド型健診を“仕組み”で支える選択肢

こうした健診センターの変革を支える手段の一つとして、テクノロジーの活用が挙げられます。NECソリューションイノベータが提供する「健診SIM」は、健診結果データをもとに将来の疾病リスクを可視化し、受診者一人ひとりに応じた健康の“気付き”を提供するソリューションです。

これまで経験や勘に頼りがちだった将来の疾病リスクの説明や検査提案を、データに基づいて行える点は、オーダーメイド型健診を現実的な運用に落とし込む上で、大きな意味を持つといえるでしょう。受診者にとっては、自身の将来リスクを理解し、行動につなげるきっかけとなり、健診センターにとっては、差別化と付加価値向上の両立が期待されます。

制度が変わる今だからこそ、健診センターのあり方を見直す好機といえます。
健診SIMのような仕組みをどのように活用していくかが、これからの健診センター経営を考える上で、一つのポイントになりそうです。

NEC 健診結果予測シミュレーション
NEC 健診結果予測シミュレーション

取材・文:大越裕

編集:南野義哉(プレスラボ)