肺がんの原因とは?適切な予防法や症状について解説

肺がんの原因とは?適切な予防法や症状について解説

長年にわたって日本人の死因第1位に挙げられるがんの中でも、肺がんの罹患数及び死亡数は年々増加しています。高い罹患率に加え死亡者数も多く、早期発見が難しい治療が困難ながんの一つといえます。肺がんを患ってしまう原因を知り、生活の中で予防をしていくことがとても大切です。

肺がんについて知る

肺がんは高齢になるにつれ増加する傾向にあります。まずは肺の機能や肺がんについて理解しましょう。

肺の働きと、がんができる部位

肺は呼吸によって空気中の酸素を取り入れ、いらなくなった二酸化炭素を体の外に排出する役割を担う、生命の維持にとって非常に大切な器官です。取り入れた酸素は、気管、気管支を通って、左右2つの肺に分かれ、さらに細い気管支で肺の末梢部分にまで到達し、最終的にはブドウの房のような微細な構造である肺胞という袋に運ばれます。ここで毛細血管を通して酸素と二酸化炭素のガス交換が行われ、二酸化炭素を多く含んだ血液も酸素を多く含む血液に置換された上で、心臓から全身へと送られていきます。

肺がんは、こうした働きを行う肺の気管支や肺胞の表面を覆う細胞が何らかの原因でがん化したものです。肺がんができる部位は大きく2つに分けられます。肺に気管支が入る入口にあたる肺門部(はいもんぶ)と、細い気管支や肺胞など肺の奥、肺野部(はいやぶ)です。肺門部にできた場合は、痰の検査でがん細胞が見つかることもありますが、肺野部にできると症状が出にくく、胸部エックス線やCTなどの画像診断により発見される場合が多くなります。

特に高齢男性は要注意

肺の機能は加齢とともに徐々に低下し、肺がんのリスクも高くなります。国立がん研究センターの統計よると、罹患率は40代頃から増加しはじめ、その後急激に高くなっていきます。

2018年に肺がんと診断された数を男女別に見ると、男性82,046例、女性40,777例。2020年の肺がんによる死亡数は男性53,247人、女性22,338人と、罹患者・死亡数ともに男性は女性の約2倍です。高齢の男性ほど注意したい病気といえます。

出典:国立研究開発法人国立がん研究センター
https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/cancer/12_lung.html#anchor2

肺がんの症状は発生部位や進行具合によってさまざま


肺がんは初期段階では症状からは判別しにくく、転移してから見つかることも少なくありません。風邪とは違い、肺がんによる咳や痰はなかなか改善しないことが特徴です。咳や痰が長引くときや血痰が出たときは病院を受診しましょう。

症状について

肺がんの症状として特有のものがあるわけではありません。咳、血痰、発熱、息苦しさ、胸の痛み、動悸といった呼吸器に関係する症状のほか、倦怠感、食欲の低下、体重減少などが見られることもあります。咳や痰は、風邪や気管支炎でも見られるため、すぐに肺がんを疑うような特徴的な症状ではありません。ただし、風邪は治ったのに咳や痰が改善されない、血痰が出るようであれば、医療機関を受診した方が良いでしょう。

また、肺がんができる場所によって症状があらわれる時期も異なります。肺門部の場合は、比較的早い段階で咳や痰、血痰といった症状があります。しかし、肺野部にできた場合は、初期では症状が出にくいため、ある程度進行や転移をした後に初めて症状として現れる場合も少なくありません。転移の場合は、声のかすれ、むくみ、頭痛、背中の痛みなど、肺がんとは一見関係ないと思われる症状の場合もあるようです。

肺がんの原因とは


肺がんは気管支や肺胞などの表面を覆う肺細胞の遺伝子が傷つき、異常な細胞が増えることから発生するのが要因のひとつです。どのようなことがきっかけで肺細胞が傷つくのか、見てみましょう。

たばこは肺がんの大敵

最大の要因として挙げられるのは、一般的にも広く知られている「喫煙」です。たばこには約200種類の有害物質が含まれており、そのうち約70種類は遺伝子に傷をつけるなどの発がん作用を示す物質であることがわかっています。さらに遺伝子を傷つけないものの、発がんに関わる物質も含まれています。喫煙者は肺がんになるリスクは約4倍になるとの調査結果もあり、多くが肺門部にできやすいタイプのがんです。

たばこを自らは吸わない人も、周囲に漂うたばこの煙を吸う受動喫煙によって肺がんのリスクが高まることも知られています。国立研究開発法人国立がん研究センターによると、受動喫煙のある人はない人に比べて肺がんになるリスクが約1.3倍になると発表されています。

近年では加熱式たばこを吸う人も増えています。紙巻きたばこほど多くはないものの、加熱式たばこの主流煙にも有害物質が含まれていることがわかっています。販売から年月が経っていないこともあり、長期の使用で健康にどのような影響があるかは不明ですが、リスクは否定できません。

遺伝・生活習慣など複合的な要因も

家族に肺がんになった人がいると「自分も肺がんになるのでは?」と不安になる方もいると思います。肺がんそのものが遺伝するのかどうか、はっきりとは解明されていません。ただし、肺がんのなりやすさという生まれつきの遺伝的な要因に加えて、生活習慣も共有しているといった複合的な理由により、結果的に同一家族内で肺がんにかかりやすくなる場合も多いのではないかと考えられています。

大気汚染や女性ホルモン

大気汚染も肺がんの原因のひとつです。とくにPM2.5と呼ばれる微小な浮遊粒子には、有害で発がん性を示す化学物質が多く含まれています。粒子がとても小さく肺の奥深くまで入りやすいのが特徴で、実はたばこの煙も典型的なPM2.5です。また過去に建築資材として多用されたアスベストも肺がんの原因になることが知られており、建設のお仕事をされている方は注意が必要です。

また、男性よりも喫煙率が大幅に低い女性も肺がんを発症していますが、この中には喫煙との関連がそこまで高くないタイプのがんが多く含まれています。原因は未解明ですが、女性ホルモンのひとつであるエストロゲンが肺のがん細胞を増加させたり、肺がんの発生に関係したりしている可能性もあり、現在研究が活発に進められています。

肺がんを予防するには

肺がんを予防するために、今すぐにできる代表的な対策をみていきます。このほかにも、節度ある飲酒や栄養バランスの良い食事、適度な運動など、がんを含めさまざまな病気の予防になる健康的な生活習慣も意識しましょう。

禁煙と受動喫煙の防止

最も効果的な肺がんの予防策は、なんといっても禁煙です。たばこを吸っている人は、自分自身はもちろん身近にいる大切な人のためにも禁煙を検討しましょう。喫煙者は、生涯たばこを吸わない人より10年程度余命が短くなるという報告もあります。ただし、35歳より前に禁煙すれば、たばこによる死亡リスクの増加を回避できることも報告されています。長年喫煙していたとしても、たばこをやめるのに遅いということはありません。禁煙を10年続けると、喫煙者と比べて肺がんのリスクが約半分になることもわかっています。肺がんに限らず、禁煙することで他のがんや脳卒中、心筋梗塞、認知症などのリスクも減らすことができます。

吸っていない方は喫煙し始めないことはもちろん、ほかの人のたばこの煙を避けるように心がけましょう。たばこを吸うからといって必ず肺がんになるわけではありませんが、たばこと距離を置くことが最善の予防策であることは間違いありません。

PM2.5対策

原因のひとつに挙げたPM2.5をなるべく吸い込まないように気をつけましょう。濃度が高い日や場所では、マスクで予防、帰宅後はうがいや手洗い、着替えるといった対策がおすすめです。PM2.5に関する予測値や注意喚起については、環境省や各都道府県のホームページで確認できます。

参考:微小粒子状物質(PM2.5)に関する情報(環境省webサイト)
http://www.env.go.jp/air/osen/pm/info.html

定期的に検診を受ける

早期に肺がんを発見して適切な治療を受ければ、死亡リスクを減らすことができます。40歳以上の方は1年に1回、肺がん検診を受けましょう。対象年齢や頻度は、厚生労働省の「がん予防重点健康教育およびがん検診実施のための指針」で科学的な根拠に基づいて定められています。

検査内容は、問診と胸部エックス線検査が基本です。50歳以上で、「1日の喫煙本数」×「喫煙年数」が600以上の方には、採取した痰を調べる喀痰(かくたん)細胞診が追加されます。

また最近では低線量胸部CTが注目されています。CT検診による肺がん発見率は、胸部エックス線検診に比べて10倍程度高く、発見された肺がんは早期の比率が高いため、死亡率を下げるという報告も出てきており1)2)、喫煙者の方は是非ご検討ください。

1) The National Lung Screening Trial Research Team. Reduced lung-cancer mortality with low-dose computed tomographic screening. New Eng J Med 2011;365:395-409
2) de Koning HJ, et al. Reduced lung-cancer mortality with volume CT screening in a randomized trial. New Eng J Med 2020;382:503-513

まとめ

罹患率が高く、死亡者数も多い肺がんは、初期症状もわかりにくく非常に難しい疾病です。禁煙はもちろん、受動喫煙を避ける、定期検診をおろそかにしないなど、自分でできる対策を行いましょう。

また、通常の定期検診に加えて、将来の疾病リスクを予測し、生活習慣改善に役立てる新しい検査もあります。フォーネスビジュアス検査では、少量の採血から約7000種類ものタンパク質を解析して、肺がんをはじめとする「将来の疾病リスク」や、心肺持久力、内臓脂肪など生活習慣病のリスク指標にもなる「現在の体の状態」を明らかにすることができます。

肺がん対策におけるひとつの選択肢として、ぜひ検討してみてください。

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監修者
千葉県がんセンター 研究所長
筆宝 義隆